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http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1109/21/news089.html
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常温常圧、太陽光下で水と二酸化炭素から、有機物の一種であるギ酸を合成した。紫外線や外部電源などは使っておらず、太陽光だけで燃料を無限に製造できる可能性が開けたことになる。
太陽光から電気エネルギーを取り出す装置は広く普及している。太陽電池だ。では太陽光を使って物質を合成する装置は存在するだろうか。
存在する。植物だ。植物は水と二酸化炭素からブドウ糖(グルコース)を合成している。地球上のほぼ全ての生物が生存できるのは、植物が光合成の能力を備えているからだ。
住宅用の太陽電池でも、変換効率の高い製品を使うと太陽光のエネルギーの20%を電力に変換できる。それでは植物の「変換効率」はどの程度だろうか。
実は意外に低く、0.3%程度だ。この程度の効率であっても、全ての生命を支えることができる。
太陽電池が存在するにもかかわらず、人工光合成に意味があるのは、「人工光合成=太陽電池+二次電池」と見なすことができるからだ。太陽電池は発電した電力を蓄積できないが、人工光合成ならば有機物の形で蓄えることができる。例えば、ガソリンを生成できるなら、太陽電池の「欠点」を補う有用な装置となるだろう。地球温暖化の一因であるCO2を減らし、化石燃料減少にも対応できるいわば一石二鳥の取り組みといえる。
常温常圧の自然な条件で人工光合成
空気と水から有用な物質を作り上げる人工光合成は、有機化学者の夢であり、1950年にカルヴィンとベンソンが植物の光合成における二酸化炭素固定反応の秘密を解き明かして以来、長く研究が続いてきた。
現在は特殊な条件下であれば人工光合成が可能になった。太陽光よりも高いエネルギーを持つ紫外線を照射する他、装置の外部から電力を供給する、酸化還元反応を仲立ちする犠牲試薬を加えると言った手法を採れば空気と水から有機物を作り出せる。しかし、これらの方法は外部から太陽光以外のエネルギーを加えている。植物のように常温常圧で外部電力なし、自然の太陽光だけで光合成を進められないのだろうか。
トヨタグループの研究開発企業である豊田中央研究所は、2011年9月20日、人工光合成の実証に世界で初めて成功したと発表した*1)。「ずる」をせず、CO2(二酸化炭素)とH2O(水)からHCOOH(ギ酸)*2)を合成した(図1)。常温、常圧、太陽光と同じ光強度(1kW/m2)で反応が進み、水に加えた物質は無機の電解質のみだ。「実験の再現性は高いと考えており、他の実験グループによる追試の結果が楽しみだ」(豊田中央研究所で首席研究員を務める梶野勉氏)。
*1)2011年9月7日付、American Chemical Society電子版に掲載 "Selective CO2 Conversion to Formate Conjugated with H2O Oxidation Utilizing Semiconductor/Complex Hybrid Photocatalysts"
*2)アリの毒から発見されたため、「ギ」(蟻)酸と呼ばれる。医薬品の原料やゴムの凝固剤、溶剤などとして利用されている。工業的にはNaOH(水酸化ナトリウム)とCO(一酸化炭素)から合成する。年間合成量は約1万トン。
図1 人工光合成の構成 図左側で太陽光のエネルギーを利用して水を酸化してO2(酸素)とH+(プロトン)を得る。光触媒としてTiO2を用いた。図中央にはプロトンだけを通すプロトン交換膜を置く。図右側でCO2(二酸化炭素)をプロトンと結合させて還元し、HCOOH(ギ酸)を得る。水を電子ドナーとプロトンソースとして利用し、2ステップ光励起システムを作り上げたことが特長。反応式は、CO2+H2O→HCOOH+1/2O2 出典:豊田中央研究所
実験では、太陽エネルギーの変換効率は0.03〜0.04%だった。植物の光合成の1/5程度にせまっている。最初の実証実験としては高い値なのではないだろうか。今後はCH3OH(メタノール)など、より付加価値が高く、例えば燃料電池の燃料として直接利用できる物質の合成に挑戦するという。
どうやって成功させたのか
人工光合成の取り組みはこれまでも部分的には成功していた。例えば、効率は低いものの、半導体であるTiO2を使って、水から水素を生成できる。だが、豊田中央研究所の実験でも半導体だけでは、CO2からHCOOHは合成できなかった。
図1の右側にある反応をいかに進めるかが、カギだった。答えは金属錯体*3)ポリマーと半導体を組み合わせることにあった*4)(図2)。
*3)金属錯体は、分子の中心に金属や金属イオンが位置し、金属を取り囲むように配位子と呼ばれる原子の集団が取り囲んだ物質。配位子の数は2〜6のものが多い。
*4)「2010年夏ごろから、半導体と金属錯体を組み合わせて使い、有機物を合成したという他の研究者の報告があったが、実験の際に微量の脂肪が混入(コンタミネーション)して分解したと考えられている。そのため、今回の実験では炭素13を使って、HCOOHのCがCO2に由来することを確認した」(梶野氏)。
図2 CO2還元光触媒の機能 半導体(図中左の灰色)内部で電子e−の光励起が起こり、金属錯体(図中紫色の板)上で、CO2と、H+が集まって還元反応が起こり、電子を受け取って、HCOOHが生成する。出典:豊田中央研究所
金属錯体はCO2の光触媒として機能し、反応の量子効率や電流効率が高い他、狙った物質だけを合成する選択性が高かった。しかし、水から電子を抜き出してCO2を還元できるものが見つかっていない。このため従来は(CH2OHCH2)3N(トリエタノールアミン)のような犠牲試薬を使っていた。
半導体材料は水から電子を抜き出せる。CO2を還元できるわけだ。しかし、効率が低い上に、実際には水素合成が優先されてしまい、有機物が生成しない。
豊田中央研究所は、この2つを組み合わせた。「Zn(亜鉛)でドープしたInP(インジウムリン)半導体基板上にRu(ルテニウム)金属錯体*5)を垂らして乾燥させるドロップコート法で反応面を作成した」(梶野氏)。
*5)[Ru{4,4’-ジ(1H-ピロリル-3-プロピルカーボネート)-2,2’-ビピリジン}(CO)2]n などを用いた。
効率を高めるためにはどうすればよいのか
植物並の変換効率を実現するにはどうすればよいだろうか。2つ手法があるという。半導体の選択と、アンカー配位子を含めた金属錯体の選択だ。
どのような半導体が人工光合成に必要なのだろうか。「2つ条件がある。CO2を還元する能力が要求されるため、伝導帯の最小エネルギー(ポテンシャルエネルギー)が高い半導体でなくてはならない。次に、電子を放出しやすい必要があるため、p型特性が高くなくてはならない」。そこで、N(窒素)ドーブしたTa2O5(酸化タンタル)と、GaP(ガリウムリン)、InP(インジウムリン)という3種類の半導体を実験対象として選んだ。
実験を進めると、Ta2O5よりも、InPの方がCO2の生成率が高いことが分かった。これはInPの方がポテンシャルエネルギーが高いことで説明できる。ところが、GaPはInPよりもポテンシャルエネルギーが高いのにもかかわらず、生成率はInPの方が高い。「半導体の格子欠陥など、ポテンシャルエネルギー以外の特性が影響している可能性があり、今後の研究目標の1つだ」(梶野氏)。
実験では4種類の金属錯体とその組み合わせを試した。このうち、最適な組みあわせが見つかったことで変換効率が高くなった。今後は、アンカー配位子について研究を進める必要があるという。半導体と金属配位子はドロップコート法で物理的に結合しているだけであり、界面でも物質同士は別々だ。これでは金属錯体が半導体からはがれやすくなる。そこで半導体と強い化学結合を起こす配位子を金属錯体に入れ込んだ。これがアンカー(錨)配位子だ。「アンカー配位子の役割はもう1つあるようだ。アンカー配位子を加えることで還元反応が劇的に増強されたからだ。アンカー配位子が半導体から金属錯体への電子移動を助けている可能性がある。今後はフェムト秒オーダーの高速分光分析を進めて、アンカー配位子の機能を探る」(梶野氏)。
さらに複雑な有機物を作るには
HCOOHよりもCH3OHの方がさまざまな用途が開けていく。狙った有機物を作り上げるにはどうしたらよいのだろうか。
「今回の実験では、Ru錯体の表面上に反応場が出来上がり、CO2が吸着されて、2電子を受け取り、H+と結合してHCOOHが生成している。つまり金属錯体の設計によって生成物を制御できるはずだ。次の大きな目標はC(炭素)を2つ含む有機物の合成だ。常温常圧下で金属錯体触媒を使ってC-C結合を作り上げたという報告はない。これが実現すれば、作り出せる物質の種類が飛躍的に増えるだろう」
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