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清水 浩(慶應義塾大学教授)
画期的な省エネ社会が実現! voiceplus
http://voiceplus-php.jp/archive/detail.jsp?id=456
いま自動車は大きな曲がり角にある。ハイブリッドをはじめ環境対応車への動きはますます急である。どの技術がメインストリームになるか、そして新技術の爆発的普及はいつごろか、その見極めの正否によって、今後の日本経済の行方も大きく左右されることになるだろう。
私は、これから間違いなく、電気自動車の時代がくると確信している。電気自動車こそ、究極の「エコカー」であり、いまや性能も、加速性能、航続距離ともに、これまでのガソリン自動車と比べても優位に立ちつつあるからである。
先日も、あるヨーロッパの自動車メーカーの方から、「2020年ごろには自分の会社も電気自動車を大量生産しているのではないか」という予測を聞いた。それに備え、現時点でも電気自動車にかなり大量の人員を投入して開発を進めているという。だが私は、この時間感覚はむしろかなりゆっくりしているように思う。電気自動車の爆発的普及期はもっと前倒しでくるのではないか。
「iPod」にしても、世界を席巻したのはあっという間の出来事であった。もはや電気自動車は性能的には十分以上の段階にまで達しているのだから、魅力的な製品が投入され、「電気自動車でなければ」という付加価値が認められるようになれば、人びとがこぞって電気自動車を求めるようになる状況が、これから3〜4年後にきても、おかしくはないと思うのである。
日本は、ここで後手に回ってはいけない。これまで培ってきた先進的なエコカー大国の立場を明け渡すことがあってはならないはずだ。
だが、ここにきてわが国では、「これから電気自動車を推進するのは無理なのではないか」という声が上がるようになった。東日本大震災で福島第一原子力発電所が事故に見舞われ、日本の電力状況はきわめて厳しい状況に追い込まれてしまったからである。
たしかに、これだけ節電が求められる社会になれば、「電気を使う」電気自動車は、一見、使ってはいけないもののようにみえてしまう。だが、それはあくまで、イメージだけの問題である。全体を考えるならば、じつは電気自動車こそが、これから節電社会をつくりあげるために、きわめて有用で大事な乗り物であることがわかる。むしろ電気自動車こそが、世界の電力事情を救う「鍵」の一つになるのである。
第一のポイントは、電気自動車はガソリン自動車に比べて、効率が非常に高いということである。たとえば、今回われわれが開発した「SIM-LEI」というクルマは、一充電航続距離で約300km走ることができる(JC08モード)。搭載している電池の量は、約25kWh。これは、すでに市販されている電気自動車とほぼ同容量の電池であり、しかも、これまで販売されてきた電気自動車に比べて、同じ電池の量で1.5倍から2倍長く走れる。
これを普通のガソリン車と比較するとどうか。換算すると、「SIM-LEI」はリッター当たりおよそ70km走れることになる。つまり電気自動車は、いま低燃費を誇るハイブリッド車(リッター当たり30km前後)の倍以上の低燃費なのだ。
もし、バス、トラックも含めてすべての車が電気自動車になったら、電力はどのぐらい必要になるのだろうか。計算すると、年間で約1000億kWhである。これまでの日本の電力消費量は、年間でおよそ1兆kWhであったから、10%ほど電力消費量が増えることとなる。
これを多いとみるか、少ないとみるかは、人によって異なるだろう。しかし、間違いなくいえることは、このぐらいの電力消費量なら、夜間に発電された電力で充電することを前提にすれば、現時点からまったく発電所を増やすことなく、十分に賄える量だということである。
そのための燃料はどこからもってくるか。すべての自動車が電気自動車になったとすれば、これまでガソリン車やディーゼル車用に使っていた石油を発電所に回せばいい。しかも、燃費が向上する分、その必要量はいまより少なくて済む。
電気自動車がリッター70km走れるのに対し、現在のガソリン乗用車の平均燃費はおよそ15km弱(JC08モード)になるであろうことを考えれば、社会全体の自動車の燃料消費量は5分の1ほどになる。いま、日本の石油輸入のうち、およそ35%が自動車用燃料として使われているが、これが5分の1でよいことになるのだ。
単純にすべての車が電気自動車に置き換わっただけで、画期的な省エネ社会が実現するのである。
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