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原発6基分の潜在力「浸透圧発電」
海水と淡水を使った実証実験に成功
2011年9月13日 火曜日
山田 久美
2011年8月9日、東京工業大学、協和機電工業、長崎大学は、濃縮海水と下水処理水を使った浸透圧発電に成功したと発表した。3年後の商用化を目指している。
水は通すが塩分は通さない「半透膜」で淡水と塩水を仕切ると、濃度の高い塩水側に淡水が移動する。浸透圧とは、この時に発生する水圧のことだ。そして、この水圧を使って水流を発生させ、タービンを回すことで発電しようというのが、浸透圧発電である。
再生可能エネルギーへの関心が高まる中、その1つとして、大きな可能性を秘めている。
東京工業大学の谷岡明彦教授
「仮に、日本中の海水と淡水が混ざり合う場所すべてにこの発電装置を設置したとすれば、原子力発電所5、6基分の電力量に相当する500万〜600万キロワットをまかなえる」
こう試算するのは、東京工業大学の谷岡明彦教授だ。
現在、谷岡教授らが、水処理プラントメーカーの協和機電工業、長崎大学と共同で取り組んでいるのが、「浸透圧発電」プロジェクトである。
「濃縮海水」と「下水処理水」で実験
水は通すが塩分は通さない「半透膜」で真水と塩水を仕切ると、濃度の高い塩水側に真水が移動する。この時に発生する水圧を「浸透圧」と言う。
そして、この水圧を使って水流を発生させ、タービンを回すことで発電しようというのが、浸透圧発電である。
浸透圧発電の実証プラント(提供:東京工業大学 谷岡明彦教授)
谷岡教授らは2011年8月9日、「濃縮海水」と「下水処理水」を使った浸透圧発電に成功したと発表した。3年後の商用化を目指している。
谷岡教授らの同プロジェクトは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によるイノベーション推進事業の助成事業の1つとして推進され、現在は、内閣府が推進する「最先端研究開発支援プログラム(FIRSTプログラム)」に引き継がれている。
谷岡教授が浸透圧発電の研究に着手したきっかけは、約10年前にさかのぼる。福岡市にある大型海水淡水化施設で、毎日大量に排出される濃縮海水の有効利用に関するアイデア募集に応募したのだ。
最大浸透圧は約60気圧
海水から淡水を作る際に発生する濃縮海水の塩分濃度は、通常の海水の約2倍もある。それをそのまま海に流してしまうと、生態系を破壊する。そのため、現在は、下水処理施設で下水を処理してできた淡水と混ぜ、海水と同じ濃度にしたうえで海に放出している。谷岡教授は、濃縮海水の有効利用というよりは、「混ぜていること」に目をつけた。
「濃縮海水と淡水を単に混ぜるだけではもったいない。この間を半透膜で仕切り、浸透圧を発生させれば、電気が取り出せると考えた」。谷岡教授はこう語る。
実は、浸透圧発電を最初に提案したのはイスラエル人で、1976年のことだった。日本でも1980年代に浸透圧発電を研究する人が現われた。発電には成功したものの、実用化には至らなかった。
以前から浸透圧発電に興味を抱いていた谷岡教授は、アイデア募集の話を聞いた時、福岡市の大型海水淡水化施設で、浸透圧発電を実現させたいと思い立った。
濃縮海水と淡水との間の最大浸透圧は約60気圧ある。この半分の30気圧で、300メートルの落差がある水力発電所に匹敵する力が得られる。しかし、当時、関係者らは研究開発に見合う成果は得られないと考えていた。
「2005年に浸透圧発電に関する研究内容を論文にまとめて発表した。しかし、あまり興味を示してもらえなかった。そんな中、NEDOの方が強い関心を示し、助成してくれたおかげで、実証プラントの構築までこぎつけることができた。さらに、福島県の原発事故が契機となって、多くの人が関心を寄せてくれるようになった」と谷岡教授は話す。
濃縮海水の圧力で試行錯誤
とはいえ、半透膜で濃縮海水と淡水を仕切るだけでは浸透圧を一定に保つことはできない。濃縮海水の水槽に流れ込んだ淡水によって濃縮海水の塩分濃度が低下し、浸透圧が下がってしまうからだ。
浸透圧を一定に保つには、水力発電所で絶えず水を流し続けるのと同じように、濃縮海水と淡水を供給し続ける必要がある。そして、その際、重要なポイントとなるのが、濃縮海水をどれくらいの圧力で供給すればよいかということだ。
実際、谷岡教授が計算してみたところ、濃縮海水側の圧力を上げるに従って発電量は増加し続け、ちょうど30気圧のところで、最大発電量となった。それ以上、圧力を上げると発電量は減少に転じ、濃縮海水が60気圧になったところで、ゼロになることが分かった。濃縮海水の圧力が浸透圧よりも高くなると、濃縮海水の槽に流れ込む淡水の量が抑制されるため、タービンを回す水量が減ってしまうからだ。
これは、濃縮海水を30気圧で供給し続けることができれば、発電量を最大化できるということを意味する。
浸透圧発電システムの仕組み
そして、谷岡教授は、NEDOの助成の下、協和機電工業、長崎大学と共同で、2009年に福岡市の大型海水淡水化施設に浸透圧発電の実証プラントを完成させ、2010年7月から実証試験を開始した。そして、今年8月、発電を確認したのである。
谷岡教授らが構築したのは、海水淡水化施設で排出されている1日3万トンの濃縮海水のうちの500トンと下水処理水500トンを使った浸透圧発電システムだ。
「現在、日本にある大型海水淡水化施設は福岡市と沖縄県の2カ所のみで、合計1日3万〜4万トンの海水が処理されている。浸透圧発電システムを商用化する場合、1日2万トン以上の濃縮海水があれば採算が合うと見ている」と谷岡教授は説明する。
しかも、この浸透圧発電システム、発電できるのは、濃縮海水と淡水との間だけに限らない。発電量は半減するものの、濃縮海水と海水との間や、海水と淡水との間でも発電が可能だ。要するに、浸透圧が発生するところであれば、どこででも発電できるのである。
その点で、周囲を海に囲まれ、海水と淡水が混ざり合う場所が全国至るところにある日本は、浸透圧発電に適した条件を備えていると言えるだろう。
ちなみに、濃縮海水と海水の間、もしくは海水と淡水の間の浸透圧はいずれも30気圧なので、その半分の15気圧で、濃縮海水や海水を送り込めば良いという計算になる。
そうやって谷岡教授が試算した結果が、「原子力発電所5、6基分の電力量をまかなえる」というものだったのだ。
しかも、浸透圧発電であれば、火力発電や原子力発電のような燃焼の工程が全くないため、大都市近郊でも設置がしやすく、CO2排出量も少ない。また、太陽光発電や風力発電のように天候などに左右されることもない。
谷岡教授の見積もりによれば、発電コストは、濃縮海水と淡水との間では、1キロワットアワー14円、海水と淡水との間では1キロワットアワー18円程度になるとのことだ。「これは、太陽光発電よりも約40円安く、風力発電と同程度の金額だ」と谷岡教授は語る。
半透膜の開発で日本は優位に
実は、海外でも浸透圧発電システムの研究開発が進み始めている。特に、日本の1歩先を行っているのが、北海油田の枯渇に強い危機感を抱いているノルウェーだ。2009年、世界で初めて浸透圧発電システムの稼働を開始した。ほかにも、最近では、米国やシンガポール、韓国、中国などが研究開発を始めている。
「いずれも基本的な仕組みは同じだ。その中で、日本の優位性はやはり半透膜にある。日本には、東レや東洋紡など半透膜に関する高い技術力を持つメーカーが揃っており、ノルウェーなどは半透膜をわざわざ日本から調達しているくらいだ」と谷岡教授は説明する。
そして今後、発電量を向上させるための課題もまた半透膜にあるという。
今回、谷岡教授らが確認した浸透圧発電システムの発電量は3.7キロ〜5.6キロワットで、機器の使用電力を差し引いた正味発電量は1〜2キロワットにとどまっている。谷岡教授が同システムで計画している発電量は7.7キロワットで、そのためには、浸透圧が低下しにくく、しかも、より安価な半透膜の開発が避けられないと考えている。
現在、浸透圧発電システム専用の半透膜というものは世の中には存在していない。そのため、同プロジェクトでは、東レや東洋紡が開発した「逆浸透膜」を利用している。これは、地球規模の水不足や水質汚染の解消を目的に、不純水に圧力をかけて真水を取り出すために開発された半透膜だ。
浸透圧発電の場合、水は淡水槽から濃縮海水槽へと移動する。しかし、逆浸透膜は、不純水槽に圧力をかけ、濃度が高い水槽から低い水槽へ移動するように設計されている。つまり、水が移動する方向が逆なのである。そのため、逆浸透膜を浸透圧発電に利用すると、コスト高になってしまう。
不純物対応がポイント
また、現在、同発電システムでは、淡水に下水処理水を利用している。そのため、下水処理水に含まれる細かいゴミやプランクトン、バクテリア、藻類などが半透膜に付着してしまい、それが浸透圧低下の原因になっている。とはいえ、下水処理水から不純物を取り除くには電力を要する。それでは本末転倒になりかねない。
そのため、谷岡教授は商用化に向け、今後、下水処理水など多少不純物を含む淡水でも浸透圧が低下しないような半透膜を開発していく計画だ。
「半透膜の穴の大きさや塩分を通さない度合い、膜の強度などを抜本的に見直すことで、浸透圧発電システムに特化した半透膜を開発し、国際競争力を強化する」と谷岡教授は語る。
加えて、現在、転用している水力発電用のタービンに関しても、浸透圧発電システム専用のタービンを開発していく予定だ。
「再生可能エネルギーへの関心が高まる中、1日も早い商用化に向け、研究開発を加速させたい」と語る谷岡教授。今後、大型の海水淡水化施設の多い海外での展開も視野に入れている。
このコラムについて
日本キラピカ大作戦
日本はCO2排出量の削減や高齢化、需要不足など、大きな課題に直面している。そのため、日本全体に閉塞感が漂い、希望ある未来社会が描きづらくなっている。しかし、これらの課題はいずれ世界のすべての国が直面するものでもあり、今の日本を「課題先進国」と位置づけることもできる。
「これは日本にとって千載一遇のチャンスである」と言う東京大学総長室顧問で三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏のインタビューを皮切りに、日本が世界をリードできる技術の最先端や“産声”を追う。エコ、スマート、シルバー…。日本にはサステナブルな社会を実現するためのピカイチ技術がたくさんある。これを存分に生かして、キラキラと輝く未来を創り出そう。
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著者プロフィール
山田 久美(やまだ・くみ)
フリーライター。都市銀行システム開発部を経てフリーに転身。月刊誌やウェブサイトでハードウエア、ソフトウエアのレビュー、IT関連の記事を多数執筆。2005年3月に技術経営(MOT)修士取得。現在はサイエンス&テクノロジー関連、技術経営関連の記事を中心に、執筆活動を行っている。研究者の研究内容を聞くのが最もワクワクする時間。希望ある未来社会を実現するためのサイエンス&テクノロジーの追求をライフワークにしている。Twitterアカウントはこちら。
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