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スマートメーターとは、通信機能を備えた電力メーターで、電力会社とデータをやり取りしたり、家電製品とつながってそれを制御したり、消費者に現在の電力料金や使用量を伝えたりするためのキーデバイスである。スマートメーターが備える機能を活用することで、再生可能エネルギーの大量導入やスマートグリッドの構築が格段に容易になる。つまり、このところ世界的に活発になっているエネルギーの導入やスマートグリッドの構築の前提条件になるのがスマートメーターで、それがこの買収劇の背景にある。
■2020年に向けて急速に普及
スマートメーターは、欧州、米国で普及が始まっている。最も進んでいるイタリアやスウェーデンでは、ほぼ全戸に設置が完了している。それに続き、フランスやイギリス、スペインでは2020年までに全戸導入する計画。EU指令では、2020年までに全体の80%の電力メーターをスマートメーター化することを各電力会社に要求している。欧州でのスマートメーターの導入は、盗電対策のほか、風力発電などの再生可能エネルギーによる不安定な発電に対応したスマートグリッドの構築を目的としている。
米国のスマートメーター設置台数は、2009年に1000万台を超えた。2013年には5000万台を超えて、全米の約30%に達する見通しで、2015年には50%、2020年には100%を目標に掲げている。
米国では電力会社が設備投資を抑えるために、電力需要ピークの抑制(デマンドレスポンス)を目的としたスマートグリッドに注力している。例えば、Landis+Gyr社は米Oncor社に双方向通信のAMI(Advanced Metering Infrastructure)ソリューションを提供し、2009年10月に稼働を開始した。
このAMIソリューションは、電力消費量の測定値を収集するだけでなく、電力会社から消費者に情報を流すことで消費者が自ら電力消費量を管理し、電力ピークを抑制する仕組みを備えている。Oncor社は当初30万台だったスマートメーターを2012年までに300万台、最終的には700万台まで増やす計画である。このような電力ピーク抑制の方策は米国に多い(米国の電力ピーク抑制の方策については、2011年4月に日経BPクリーンテック研究所が発行した『世界スマートハウス・ビル企業年鑑』に詳述)。
欧米だけではない。中国もスマートメーターの設置を急ピッチで進めている。2011年に5000万台を設置し、2015年までに総設置数を1億7000万台まで引き上げる。2020年には約4億台設置されている電力メーターをすべてスマートメーターに切り替える計画である。日本以上に電力不足が深刻な中国では、工場での計画停電が輪番制で回ってくるのが常態化しており、よりデマンドレスポンスを強化する狙いがある。
■日本でもスマートメーターの必要性
日本でもスマートメーターの普及を目指し、スマートメーター制度検討会で議論が進められ、2011年2月に第10回の会合を終えている。3月11日の震災後、急激な状況の変化で政府方針も定まらず、同検討会も開催されていないが、スマートメーターに対するニーズが急激に高まっているのは間違いない。
震災直後に東京電力管内で計画停電が実施されて混乱を招いたが、仮にここにスマートメーターが設置済みであれば、交通信号機や病院だけには電力を供給するといった制御ができた。今後、福島第1原子力発電所の被災を受けて、他の原子力発電所でも点検が行われ、場合によっては発電を継続できなくなる可能性もある。そうなれば、日本全体で恒常的に電力が不足する事態に陥る。太陽光など再生可能エネルギーで補うにしても限界がある。そうなるとスマートメーターの必要性は増すばかりだ。
■スマートメーターは年間2億台の大市場に
現在、電力メーターの世界設置台数は約17億台であり、2020年までには20億台を超えると見られている。スマートメーターは、寿命が約10年であるから単純に計算すると2020年には年間2億台が販売されることになる。
現在の日本のスマートメーターは数も少なく高価なつくりのため単価が3万円以上もするが、中国では既に5000円程度で販売されている。世界平均では1万円程度と見積もられる。2020年までに半分の価格の5000円と低く見積もっても、世界全体のスマートメーター市場は1兆円に達する。これはメーター単体の市場であり、実際にはスマートメーターと電力会社をつなぐネットワーク構築費もこれに加わり、スマートメーターを取り巻く市場はもっと大きい。
■節電にスマートメーターが効果的
スマートメーターがあれば、具体的にはどのような節電対策を採ることができるのだろうか。電力ピークの抑制に効果的なのは、電力の料金体系を可変にすること。そのパターンは主に3つある。TOU(Time of Use:時間帯別料金)とCPP(Critical Peak Price:緊急ピーク料金)、RTP(Real Time Pricing:リアルタイム料金)である。
TOUは、時間帯ごとに電気料金を変えてピーク電力を抑制するもの。CPPはさらにその効果を強めるためにピーク電力時の料金を極端に高くすることでピーク電力を抑制する。RTPは、電力消費量に合わせて電気料金をリアルタイムで変動させる方法で、時々刻々変化する料金を消費者に伝える必要がある。
いずれにせよ、これらの方策を実現しようとすれば、時間帯別に電力消費量や電力料金を計測するスマートメーターの設置が必須になる。特にRTPでは、リアルタイムに電気料金を伝える必要があり、スマートメーターから家の中に情報を伝達する方法が最も現実的である。パソコンや携帯電話にインターネット経由で伝える方法では、インターネットを利用していない人に届かず不十分になる。
そして、いずれはスマートメーターと家電機器などが通信でつながり制御することも可能になるだろう。その場合は、HEMS(Home Energy Management System)というシステムを家庭に導入し、家電だけでなく太陽光発電システムや電気自動車(EV)ともつながることになる。
スマートメーターから電力料金情報を取得し、現在の価格や見通しなどを分析して消費者が生活に合わせて最も効率のよいエネルギー管理をする。電力料金が高くなる前にエアコンを作動させて室内環境を調整しておいたり、EVの充電源を安い夜間電力にするか、自宅に設置した太陽光発電パネルにするかを翌日の天気に応じて選択したりといったことも可能になる。スマートメーターは、そのための電力会社からの情報の窓口として重要な役割を果たすことになる。
HEMSやEVの導入が当たり前の状況になれば、Landis+Gyr社の買収は東芝にとってインパクトが大きい。家電や蓄電池、太陽光発電システムなど既存の事業とのシナジーが見込めるからだ(図2)。米GE社やスイスABB社など欧米企業も買収に前向きだったのは、スマートメーターにとどまらず、既存事業とのシナジーで大きな事業に成長することを期待したからだろう。今後、スマートメーターを核とした企業の合従連衡がさらに進むのは間違いなさそうだ。
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