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自然エネの利用拡大にも欠かせない超電導技術が花開く
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20110629/106773/?ST=print
「古河電気工業が世界最高電圧である275kV(27万5000ボルト)に耐えられる超電導線を開発した」という記事を掲載したのは、2011年6月21日の日経新聞朝刊である。記事によれば、これまではフランスのネクサンスによる138kVが最高電圧だったが、古川電工は記録を大幅に更新した。最大電流も3000A(アンペア)であり、新しい超電導線を使えば、1回線で最高150万kWの電力(最新式の原発2基分相当)を送れるという。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託による研究成果で、研究費は3年間で2億9000万円であった。
送電ロスを大幅に減らせる
超電導は金属を絶対0度(0K)付近まで冷やすと電気抵抗がゼロになる現象で、約100年前に発見された。1986年になってセラミックスの超電導現象が発見され、87年には世界中で高温超電導ブームが起こった。なぜ高温かといえば、それまでの金属超電導材料は液体ヘリウムや液体水素の極低温まで冷やさないと電気抵抗が0にならなかったが、セラミックスは液体窒素で間に合う100K付近で超電導になるという特色があったからだ。
このブームで様々なセラミックス超電導材料が見つかった。その代表格がイットリウム、バリウム、銅、酸素からなるイットリウム系材料と、ビスマス、ストロンチウム、カルシウム、銅、酸素からなるビスマス系材料である。冒頭の古河電工が採用したのはイットリウム系の材料である。
超電導には、電気抵抗が0になる温度(臨界温度)、超電導状態が破壊される電圧(臨界電圧)、超電導が破れる電流(臨界電流)、同じく磁場(臨界磁場)といった概念がある。電線として実用するには、臨界温度が高いだけでは不十分で、臨界電流や臨界電圧が十分に大きい必要がある。日本における一般の基幹系送電線の電圧は275kVであり、古河電工の成果は電圧、電流ともに基幹系に使用できる性能と考えられる。
超電導の電気抵抗が0とはいえ、超電導線に交流を流せば、発生する磁場との関係で多少のエネルギー損失がある。その損失についても、1mあたり0.12Wとこれまでの世界記録(0.23W)を半減した。
超電導線を手がけるの主力は電線メーカーである。ここ1年間程度の間に、超電導関係で報道された電線メーカーは、古河電工のほか住友電気工業、昭和電線ホールディングスの2社で、筆者が調べた範囲ではフジクラの記事はない。
2010年8月16日の日経新聞朝刊は、東京電力と住友電工、前川製作所が送電用の新たな超電導線を開発し、東電の旭変電所(横浜市)で実証試験を行うと報じた。開発した超電導線はビスマス系の材料を使っており、直径15cmの管に3本の心線を通し、管内に液体窒素を流すことで心線を冷却する。
ケーブル自体は住友電工が製造し、冷却システムは前川製作所が担当する。長さが30mのケーブルを試作し住友電工の試験場で通電試験を終えている。2010年度中に250mの実証試験用ケーブルを製作し、旭変電所の66kV送電設備に取り付け、2011年11月から1年程度をかけて性能を確かめるという。
冒頭の古河電工に関する記事は、世界の超電導線メーカーの開発状況を表にまとめており、それによれば住友電工のケーブルの送電能力は66kV、5000Aで57万kWとなっている。
政策も重点的に支援
さらに2010年11月25日の日経新聞朝刊は、住友電工と昭和電線ホールディングスがそれぞれ、2011年から超電導線の量産を開始すると伝えた。住友電工は大阪製作所のビスマス系超電導線生産能力を年間1000kmまで上げるという。同社は中国向けに40km分のケーブルを納入しているし、2006年に米国ニューヨーク州で行われた商用送電網の実験にもケーブルを提供した実績がある。現状では超電導線の生産コストは銅電線の2倍程度だが、今後の量産で30%ほどコストを引き下げることができるとしている。
一方、昭和電線は相模原事業所内に量産設備を稼働させ、高出力モーター用のイットリウム系超電導線を製造するという。昭和電線の投資額は約10億円だという。
2011年6月2日の日経新聞朝刊は、電力の安定供給に向けた産業構造審議会の企業向け支援策について報じた。支援をする分野として、「太陽光発電システムの効率を3倍にする技術」「軽量プロペラや浮体式構造を使う洋上風力発電技術」などとならんで、「超電導技術を応用して送電時の電力損失を現行の10%程度まで引き下げる技術」が支援の候補として挙がっている。政府のお墨付きを待つまでもなく、超電導は省エネルギーを進める上で大きな期待を背負う技術である。
2006年における日本の総発電量は1兆1611億kW時である。送電の距離によってロスの大きさも異なるが、日本全体では発電量の5%程度が送電時に失われているといわれる。送電ロスは約580億kW時と計算できる。100万kWの原子力発電所の発電量はフル稼働と考えて87億6000万kW時であり、580億kW時はその6.6倍である。つまり、原発の稼働率も考えると、送電ロスは10基分に近い。送電網に超電導を導入する意味は極めて大きい。
さらに、超電導線を送電施設だけでなく、モーターや発電機に応用すれば、無駄な発熱を極めて低く抑えることができ効率は大いに向上するだろう。今後普及すると見られる電気自動車のモーターなどを超電導化すれば効果も大きい。
多少古い話になるが2009年6月6日の日経新聞夕刊は、IHIが住友電工と協力して超電導を利用した舶用モーターを開発したと報じた。記事によれば普通のディーゼルエンジンに比較し、燃料消費もCO2排出量も25%削減できるそうだ。
自然エネルギーを利用していく上でも超電導技術に対する期待は大きい。太陽光発電を考えると、夜や曇りの日には発電できないし、電池に当たる日差しがかげれば瞬時に発電量は低下する。風力にしてもいつも強い風が吹いているわけではなく変動する。この変動を吸収して安定した電力を得るには、もちろん電池などを使う手もあるが、広域にネットワークを組み地域による変動を全体として平均化するという方法が考えられる。ただでさえ効率の悪い自然エネルギーである。送電ロスがあったのでは広域のネットワークもロスが目立つようになる。広域ネットワークによる安定化を考えると超電導は欠かせない。
1986年に始まった高温超電導の開発だが、ここにきてようやく本格的な応用の時代に入ろうとしている。福島原発の事故による電力不足や原子力発電に対する人々の不安が日本の電力システムに大きな影響を与えることは間違いない。そんなときに、超電導技術が花を開こうとしている状況は、明るい話題の一つになるはずである。
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