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再生エネルギーを調べるほど、いかに大規模実用化が困難かがわかるな
https://www.blwisdom.com/vp/print/ecotech/ecotech04.shtml
第4回 −人工光合成〜太陽光と水から水素を作り出し、エネルギー問題を解決 (2011年6月13日公開)
佐山氏が開発した「光触媒・電解ハイブリッドシステム」を模した実験用電解セル。左側の容器に酸化タングステンと鉄3価イオンを入れ光を当てると、酸化・還元を繰り返しながら酸素と水素イオンを発生し、右側の容器で電気分解を行うと水素が発生する。
水と二酸化炭素を材料に太陽光を使って酸素や水素、糖を作り出す光合成を人工的に再現できれば、エネルギー問題と二酸化炭素削減という人類の大きな課題が解決できる。この「人工光合成」はまさに夢の技術だ。産業技術総合研究所の佐山和弘氏は、その夢に一歩近づいた。
世界初の可視光による人工光合成の快挙
産業技術総合研究所エネルギー技術研究部門 太陽光エネルギー変換グループ グループ長(理学博士)佐山 和弘さん
地球上で自らエネルギーを生産しているのは植物だけである。その他の生物は植物によって生かされている。
この偉大なる植物を支える精妙な仕組みが光合成だ。二酸化炭素と水というどこにでもある材料を使い、太陽光という無尽蔵なエネルギーを利用して酸 素と水素、あるいはデンプンなどの糖を作り出す。もし、人類が「人工光合成」を実現できれば、我々を悩ませている多くの問題が解決に向かうだろう。
20年以上にわたって人工光合成の研究を続けている産業技術総合研究所の佐山和弘博士はこう語る。
「植物が何億年もかけて生み出してきた化石燃料をわれわれは勝手に掘り出して使い続け、もうなくなるのではないかとオタオタしています。子供や孫 の世代にも必要なエネルギーを自分たちの世代で使い切ろうというのはあまりに無責任です。根本的にこの問題を解決するには太陽エネルギーの利用しかありま せん。人工光合成は日本発の技術として世界に貢献できます。エネルギー問題が克服できれば、多くの問題が解決できます」
人工光合成はエネルギーを生み出すだけでなく、二酸化炭素の削減にも役立つ“救世主”となるかもしれない。
光合成は非常に複雑かつ絶妙な化学反応である。そのメカニズムは「明反応」と「暗反応」に大別できるが、前者は光を利用して水を酸化し、酸素とNADPHという物質を作り出す。次に、NADPHと二酸化炭素によって糖が作られる。これが暗反応だ。
この明反応を応用し、水を酸化し分解する過程で発生する水素を人工的に作り出すことが人工光合成の主要な目的であり、佐山氏は可視光を使って水素 を得ることに世界で初めて成功した。2001年のことだ。実は太陽光でも紫外線を使って水素を発生させる研究はすでに行われていたが、可視光ではなかなか 実現できなかった。それは可視光が紫外線よりエネルギーが低いからだ。
人工光合成の仕組みの詳細については「技術解説」に譲るが、水を光で分解するには「光触媒」という技術を用いている。光触媒とは光を吸収すると、 その周囲の物質に対して酸化(電子を奪う化学反応)や還元(電子を受け取る化学反応)などの反応を引き起こす触媒物質である。触媒作用を起こすためにはよ り高い光エネルギーの方が有利であり、これまで紫外線を中心に研究が進んできた。紫外線を使う光触媒は100種類以上も発見されている。
しかし、紫外線は太陽光の中で4%程度に過ぎず、約50%を占める可視光が使えなくては効率的に水を分解することはできない。佐山氏にとっても可視光による水分解は長年の目標だった。
1996年、ついに課題をブレークスルーするアイデアを思いついた。それは2段階に分けて、可視光を与え、エネルギーを増幅させる方法である。
実は、植物も可視光を2回に分けて使っている。植物では葉緑素(クロロフィル)が触媒の役割を果たし、光を吸収して電子を放出するが、葉緑素は波 長680ナノメートルの可視光でまず電子を出し、水を分解して酸素を作る。この電子のエネルギーが弱ってきたところで、次に700ナノメートルの可視光に 反応して電子を放出し、パワーを増幅させ、NADPHを合成する。
佐山氏はこの2段階方式を参考に、酸化タングステンとドープ型チタン酸ストロンチウムという2つの光触媒を使い、酸化還元反応を安定的に繰り返さ せる「レドックス媒体」としてヨウ素を活用することで、世界初の可視光による水の完全分解に成功した。完全分解とは水素と酸素が2対1の割合で安定的に発 生する反応を意味する。
佐山氏が最初に可視光で水分解に成功した際に用いた触媒であるドープ型チタン酸ストロンチウム(左)と酸化タングステン(右)。
実用化に一歩近づいたハイブリッドシステム
現在、太陽エネルギーの利用は太陽電池とバイオマスエネルギーが代表的だ。太陽エネルギーからどれほどのエネルギーを取り出せるかを示す「太陽エ ネルギー変換効率」では太陽電池が12〜15%に対して、バイオマスのトウモロコシやサトウキビは1%程度。ブッシュ前大統領が推奨したスイッチグラスと いう雑草では0.2%にしか過ぎない。
しかし、単位面積当たりのコストを考えると、太陽電池よりバイオマスの方が有利だ。また、電気は貯蔵できないがバイオマスは収穫して貯めておくことができる。
佐山氏は人工光合成ならば、この両者のいいとこ取りができるという。水と光触媒を入れた大型のプールや海を利用すれば単位面積当たりのコストを安 くできるし、発生した水素もタンクに貯蔵できる。問題は効率だ。従来の人工光合成の方法では、太陽エネルギー変換効率は数値として表記できないほど低いも のだった。
また、太陽から受け取った光子のうち反応に使われた光子の割合を示す「量子収率」は太陽電池がほぼ100%なのに対して、人工光合成は2%程度だった。
光触媒の活性を評価する装置。左側の容器に水と光触媒を入れ、光を当てて発生した酸素と水素をサンプリングして分析すると、太陽エネルギーからどれほどのエネルギーを取り出せるかを示す太陽エネルギー変換効率がわかる。
効率を上げるために佐山氏が開発した方法が「光触媒・電解ハイブリッドシステム」(以下、ハイブリッドシステム)である。
従来は光触媒の作用によって水素を作り出すことが人工光合成の狙いだったが、敢えて回り道をして効率を上げようという独創的なアイデアだ。
このハイブリッドシステムでは、まず光触媒の酸化タングステンと、レドックス媒体の鉄3価イオンを用い、鉄3価イオンが鉄2価イオンに還元しながら水から酸素を作り出す。次に鉄2価イオンを鉄3価イオンに再酸化しながら、電気分解を施して水から水素を作り出す。
鉄2価イオンを使った電気分解はレドックス媒体を使わない一般的な電気分解に比べ半分の電圧しか必要としないことは知られており、消費電力も半分 ですむ。化石資源から水素を作ると1立方メートル当たり10〜20円、夜間電力を使って通常の電気分解を行って水素を作ると20数円かかる。ところが、鉄 2価イオンを使うと10円ちょっとですむ。しかも、光触媒を入れたプールで水素を発生させないため、水素を捕集するための大面積の透明フードも不要にな る。
装置模型にあるように、光触媒プールから水を引き込んで電気分解し、発生した水素をタンクに貯めておくだけでいい。電気は夜間電力を使ってもいいし、太陽電池や風力発電などのグリーンエネルギーを利用することもできる。
光触媒・電解ハイブリッドシステムの装置模型。光触媒プールで酸素と水素イオンを発生させ、電解装置で水素を作り出してガスタンクに貯蔵する。夜間電力でも太陽電池でも利用可能だ。
このハイブリッドシステムでは量子収率は19%、太陽エネルギー変換効率は0.3%に達した。太陽電池にはおよばないものの、スイッチグラスを超え、実用化に向けて大きな一歩を踏み出した。
「変換効率が3%に達したらバイオマスエネルギーと比較しても十分実用化に耐える水準になるし、すでにその目標は見えています。量子収率の高い光 触媒をさらに探索し、複数の光触媒をシート状に積層化してプールや海上に浮かべれば実現できるでしょう。効率が1%を超えたら多くの研究者がこの分野に参 入してくるので、すぐに2%台になるはずです」
日本も国家プロジェクトとして推進を
ノーベル化学賞を昨年受賞した根岸英一教授が今年1月、人工光合成プロジェクトを提唱し話題になったが、人工光合成の研究ブームの1回目は70年代に石油ショックが起き、原油価格が高騰したときにさかのぼる。
その後、価格が下がって下火になるが、佐山氏はちょうどその頃から人工光合成の研究を始めた。大学の卒業研究のテーマとして取り上げたのがきっかけだったという。
「子供時代に石油ショックが起き、石油に代わる太陽エネルギー変換の研究をやりたいと思っていました。卒業後、産業技術総合研究所に入り、以来ずっとこの研究を続けていますが、自分がやらなければという使命感はあります」
2000年代に入り、再び原油価格が上がり始め、異常な高騰を起こす。そこから人工光合成の第2次ブームが始まり、現在、アメリカやヨーロッパ、 韓国などでもプロジェクトが立ち上がっている。海外では日本のように粉末状の光触媒ではなく、光触媒をコーティングした電極を用いる「光電極」による研究 が進んでいる。
そもそも、酸化チタン光電極による水の光分解は日本人が1969年に発見したもので、「本多・藤嶋効果」と呼ばれており、光触媒の研究は日本が世界の最先端を行く。
「政府も光触媒による水素製造の重要性は認めているのですが、その技術開発ロードマップでは2040年頃を実用化の目安にしているので、まだ遠い 話として本気になっていません。アメリカでは5年間で1億ドル以上を投じて国家プロジェクトを進めていますが、日本も研究資金と人材を投入して優れた光触 媒材料の探索を進めるべきでしょう。それができれば、6〜7年後にはパイロットプラントを建設できるのではないかと思っています」
佐山氏はさまざまな材料と濃度を変えて性能を調べる自動装置を考案し、有望な光触媒の探索を行っている。エネルギー資源を持たない日本は国家プロジェクトとしてこうした装置をもっと製造し、お家芸ともいえる光触媒をさらに進化させる必要があるのではないだろうか。
実験用電解セルをセッティングする佐山氏。大学の卒業研究で人工光合成に取り組んで以来、20年以上にわたって研究し続けている。人類のエネルギー問題を解決する人工光合成を成功させることに使命感を感じているという。
優れた光触媒の探索が急務
人工光合成の根幹的な技術である光触媒は、光を受けた触媒の物質内で電子の移動が起きることで触媒作用を得る。電子にはエネルギーが最も低い価電 子帯と、最も高いエネルギーを持つ(励起された)伝導帯という状態があり、エネルギーを受けると、禁制帯と呼ばれる空白域を飛び越えて、価電子帯から伝導 帯に移動する。光触媒では通常、電子の大半が価電子帯にあるが、光を受けると伝導帯に移る(つまり電流が流れる)。
電子が移動するためにはより高いエネルギーの方が有利であるのは当然で、これまで太陽光の中でもエネルギーの高い紫外線でしか、触媒効果を得られなかったわけだ。
マイナスの電子が移動することで価電子帯は正の電荷を持ち、逆に伝導帯は負の電荷を持つ。その結果、価電子帯では正電荷により、高い酸化力を生じ、伝導帯では負電荷により、還元力を生じる。
現在、有害物質の分解で一般的に利用されている光触媒は酸化チタンだが、これは紫外線しか吸収しない。そこで、佐山氏は可視光で利用できる 光触媒系を探索し続けてきた。2001年に可視光で水を完全分解する世界初の快挙を成し遂げた一つの理由もこうした光触媒系の発見にあった。
2010年3月には酸化タングステンをセシウムで表面処理する手法を開発し、光触媒の性能を大幅に引き上げることに成功した。セシウムと酸 化タングステンの可視光量子収率は波長420ナノメートルで19%に達し、従来の酸化タングステンの48倍にも相当する。この開発で、光触媒・電解ハイブ リッドシステムも実現した。
表面処理した酸化タングステンを強酸性水などで洗浄し、表面からセシウムを除去したり、硫酸鉄水溶液で洗浄するとさらに性能が向上することもわかった。
こうした高性能の光触媒の材料探索や加工・処理方法をブラッシュアップすることで、480ナノメートルの波長の光をすべて利用できるように なると、理論的には太陽エネルギー変換効率は2.4%に達する。さらに600ナノメートルまで利用できると7.5%となり、実用化には十分な効率を得るこ とができる。
そのための切り札が佐山氏の開発した「自動合成スクリーニング装置」である。これはロボットアームを使ってさまざまな光触媒材料のサンプルを作り、性能評価まで自動化した装置だ。
「この装置によって探索のスピードはだいぶ上がりましたが、どの材料を選び何を混ぜるか、混ぜるときの組成率など、その組み合わせは膨大で、まだ鉄系材料の半分くらいが終わったに過ぎません」
現在、優れた光触媒の探索は全世界で行われている。ヨーロッパではスイスを中心に7ヵ国が集まってユーロプロジェクトが2年前にスタートし、材料を分担して研究を進めている。
アメリカでは半年前にオバマ政権の肝煎りで「ソーラーエナジー・イノベーションハブ」プロジェクトが始まり、5年間で1億2200万ドルの資金を投じる。
さらに韓国でもプロジェクトが立ち上がるなど、国家間の競争が強まっている。
■光触媒の原理
光触媒は光を受けた触媒の物質内で電子の移動が起きることで触媒作用を得る。電子にはエネルギーが最も低い価電子帯と、最も高いエネルギーを持つ (励起された)伝導帯という状態があり、エネルギーを受けると、禁制帯と呼ばれる空白域(バンドギャップ)を飛び越えて、価電子帯から伝導帯に移動する。 マイナスの電子が移動するために価電子帯は正の電荷を持ち、逆に伝導帯は負の電荷を持つ。その結果、価電子帯では高い酸化力(電子を奪う化学反応)を生 じ、伝導帯では還元力(電子を受け取る化学反応)を生じる。
■さまざまな太陽エネルギー変換利用の技術マップ
化石燃料を代替するエネルギーとして太陽光エネルギーの利用は人類の課題だ。現在、太陽電池、太陽熱、バイオマスなどの技術が実用化しているが、 それぞれに一長一短がある。人工光合成はそれを補完する技術として有望である。上記の図のように、コストとシステムは低価格・簡単なものから高価格・複雑 なものまで幅広く、必要に応じたシステムを柔軟に設計することができる。佐山氏の開発した光触媒・電解ハイブリッドシステムによって実用化の目途が見えて きた。光電極は海外において研究が進んでいる。
暗反応よりも明反応のシステム化が重要
光合成は明反応と暗反応で成り立っている。水素を発生させる人工光合成は明反応をモデルに研究されているが、暗反応の再現は可能なのだろうか。
「植物は自らの栄養素として糖を作っていますが、人間にとっては他の物質でもいいかもしれません。例えば一番単純なエネルギーであるギ酸はすでに 水素と二酸化炭素から作る研究は進んでいます。ギ酸にしろアルコールにしろ、水素と二酸化炭素から有機物を作る技術はそれほど難しくありません。それより も太陽エネルギーをどう変換するかの方が重要で、水素を作る技術が確立すれば、後の工程は心配しなくても大丈夫です」
佐山氏は人工光合成と同時に1993年から色素増感太陽電池の研究も行っているが、両者の技術には深い関係がある。色素増感太陽電池とはシリコン 太陽電池に代わる次世代太陽電池と言われているが、光触媒にも使われる酸化チタン表面に色素を吸着することで紫外線だけでなく、可視光にも感度を持つよう にしたものだ。
この色素増感太陽電池にヨウ素を含む電解液を使ったことから、可視光による水の2段階完全分解のレドックス媒体としてヨウ素を使うことを思いついたのだという。
「有機物(色素)の分解を抑える方法が見つかっていない」(佐山氏)ことから、すぐに光触媒の高効率化に色素を利用できるわけではないが、将来的には色素増感が人工光合成実用化のカギを握る可能性もある。
太古の海で、シアノバクテリアという藻類が水と光で光合成を行う機能を獲得するまでに4億年かかったという。
「シアノバクテリアが量子収率を100%にできたからこそ、水と太陽さえあればどこでも生きられるようになり、大繁殖できた。ただし、われわれ人類には4億年もかけている余裕はありません」
人類に与えられた化石燃料は有限だが、太陽光と海水だけは無尽蔵にある。人工光合成は海水でも可能だ。後の世代につけを回さないためにも、植物を見習って、人類も自らエネルギーを生産する時代がやってきた。
■植物の光合成メカニズムを模倣した研究
左図のように植物の光合成における明反応は2段階で太陽光からエネルギーを受け取り電子を放出して必要な物質を合成する。電子は様々な物質を通し て移動し、水を分解して酸素を作る。エネルギーが弱まった段階で再度光を受け取り、電子を放出してエネルギーを増幅、また様々な物質を経由してNADPH を合成する。その動きを図式化するとZ状に見えるため、この一連の反応を「Z-スキーム」と呼ぶ。このZ-スキームを模して佐山氏が2001年に完成させ た手法が右図の「2段階光励起反応」である。電子を受け渡す役割を果たす物質をレドックス媒体と呼び、ヨウ素を利用した。
■光触媒・電解ハイブリッドシステムの考案
光触媒による水の完全分解では酸素と水素が1対2の割合で同時に発生するが、そうなると水素を逃がさずに集めるカバーが必要であり、安全に管理す ることも難しくなる。水素は無色無臭で軽く、とても燃えやすいからだ。そのため、佐山氏は水素と酸素を分離発生させる「光触媒・電解ハイブリッドシステ ム」を考案した。最初に酸素だけ発生させ、次に電気分解によって水素を作るので捕集と管理が容易になった。レドックス媒体に鉄イオンを使うことで、電解の 電圧が半分になり、消費電力も半分になった。太陽エネルギー変換効率も0.3%と雑草を使ったバイオマスより効率が高くなった。
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