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アフガニスタンが唱える「明るい展望」に違和感を覚えるワケ:日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100621/215075/
アフガニスタンが唱える「明るい展望」に違和感を覚えるワケ
1兆ドル相当の鉱物資源は、「本当の富」をもたらすのか6月13日、米ニューヨーク・タイムズ(電子版)が伝えたところによると、アフガニスタンに現在の市場価値にして1兆ドル相当の豊富な未開発鉱物資源が発見されたという。
米国防総省(ペンタゴン)と米地質調査所(USGS)の調査で分かったことで、発見された鉱物資源としては鉄鉱石、銅、コバルト、金、それに、今脚光を浴びている電気自動車やハイブリット車のリチウムイオン電池を作るのに必要なリチウムということだ。
ペンタゴンの内部資料によると、アフガニスタンはこのたびのリチウムの発見で「“リチウムのサウジアラビア”になれる」と述べてあるそうだ。そして、説明を受けたハミド・カルザイ大統領も大喜び、早速ペンタゴンが支援して来年の秋までに採掘権益の国際入札を行うという。
米政府高官も、「これで近代産業に欠かせない数々の鉱物資源を保有するアフガニスタンは世界の最も重要な資源センターの1つに変身することができそうだ」と語った。
本件、日本の新聞にも載り、NHKのBS放送ではエネルギー経済研究所の人の解説で紹介していた。
フロントランナーとしての中国の存在筆者はニューヨーク・タイムズの記事やそのほかの報道に強い違和感を持つと同時に、また“資源は呪い(resource curse)”の罠にかかる国が1つ現れたと思った次第である。
まず、なぜ違和感を持ったかと言うと、当コラム「アフガンで米国は戦争、中国は銅鉱山を取得」(2009年12月17日)を読んでいただければお分かりになってもらえると思う。
アフガニスタンでは、既に資源争奪戦が行われており、2008年には、880億ドルの価値があると言われる世界最大級のアイナック(Aynak)銅鉱床の国際入札で、米国・ロシア・豪州・カナダ・インドと争って中国が採掘権益を鉄道・発電所などインフラ付きの35億ドルで落札している。中国がもう先取点を取っているのである。アフガニスタンの歴史上、最大の外国企業の直接投資ということだ。
従って、このほど鉱物資源が発見され、権益の国際入札を来秋に初めて実施することになるというような発表はおかしいのである。大規模鉄鉱石鉱床についても、既に入札実施中ということである。
そして、2009年11月19日には、中国の国有企業である中国冶金集団公司(China Metallurgical group=MMC)がアイナック銅鉱山の採掘権益を取得した際に、当時のアフガニスタン鉱山大臣ムハンマド・イブラヒム・アデル氏にドバイで3000万ドルの賄賂を渡したということをワシントン・ポストが報じている。その賄賂の効果があってか、中国はカブールの西方にある大規模鉄鉱石鉱床の開発案件の入札についても今フロントランナーであるという噂が飛んでいるのである。
なにしろ「腐敗にまみれている」と言われるカルザイ政権である。世界の腐敗防止のために活動している、国際NGO(非政府組織)の「透明性インターナショナル(Transparency International)」による、世界180カ国政府の腐敗度ランキングで、アフガニスタンはソマリアに次ぐ堂々の第2位である。ちなみに第3位はミャンマー、日本は163位になっている。
ヒラリー・クリントン米国務長官も、今年になってアフガニスタン訪問時、カルザイ大統領に腐敗防止を強く迫った。なにしろ、以前にも紹介したが、こんな笑い話があるそうだ。「ある時、政府高官がカルザイ大統領に『汚職撲滅の妙案が大統領にはおありだそうですが、その妙案を教えていただけないでしょうか』と問うたら、大統領は『教えてやるが、金をいくらくれるかと言った』」とか。それほど腐敗が激しいということか。
「日本に開発の権益を与える」と言うが・・・要は、今回の豊富な鉱物資源発見の報道はあまりに唐突であるばかりでなく、政治的意図を感じるのである。アフガンに資源があることはずっと以前から分かっていた。そして、なぜいまさらペンタゴンの発表か。それは、アフガンで米軍はじめ多国籍軍の兵隊たちが反政府勢力タリバンやアルカイーダと命をかけて戦っているところで、中国に資源を横取りさせるとは何事かという米国の怒りの結果であろう。
カルザイ政権の腐敗ぶりに業を煮やした米国が、クリントン長官を派遣してカルザイ大統領に対して汚職蔓延を叱責し、早急な改善を要求していることが新聞に報道されたのも、資源の権益をめぐる中国との不透明な取引が関係していると言えよう。
資源の権益をめぐっては、透明性ある取引によって鉱物資源を適正かつ公正に開発して、発展途上国の順調な経済発展を目指さなければならない。
このほど訪日したカルザイ大統領は、6月18日、リチウムなど鉱物資源の開発について「これまで多大な支援をしてくれた日本に開発の権益を優先的に与えるので投資を期待する」と語ったという。これから、米国の監視の下に透明性をもって国債入札を公正に行うということか。
それにしても、タリバンの勢力は衰えず、アルカイーダがいまだに跋扈し、世界第2位の腐敗度と言われるアフガニスタンへ、命をかけて進出する日本人が果たしているのか。今も、邦人ジャーナリストが行方不明である。かつて「人の命は地球より重い」と発言した首相がいたが、「1000万人死んでもたいしたことはない」と言った国家元首がいた国と対抗できるのか。
米政府高官がこのほど確認された豊富な鉱物資源はアフガニスタンの経済を根底から変えるに十分なものと発言し、リチウムが豊富にあることを日本で強調したカルザイ大統領は「アフガニスタンの展望は明るい」「治安向上に向け警察能力を強化する」と語った。汚職を撲滅するとは言わなかったが。
資源収入に伴う深刻な副作用さて問題は、たとえその資源が実際に採掘されることになるとしても、アフリカ、アジアそして南米の多くの資源産出国が経験しているように、まんまと“資源は呪い”の餌食になる恐れがあるからだ。単純に「展望は明るい」と言えないのが、この世界である。
ここで6月15日、ニューヨーク・タイムズの記事について論評したクリスチャン・サイエンス・モニター(The Christian Science Monitor: Donald Marron 2010-June 15、電子版)を要約して紹介しておこう。
「貧しい国は、貧しい人々が宝くじに当たることを夢見ると同じように石油が発見されることを夢見る。しかし、その夢はしばしば悪夢に変わる。それは、彼らが見つけた宝物の新規輸出国として得るもの以上の災いをもたらすと言うことを悟ることになるからだ」
ベネズエラの元石油相であるホアン・パブロ・ペレス・アルフォンソ氏は石油のことを“悪魔の排泄物”に例えた。サウジアラビアの元石油相であるアーメド・ヤマニ氏は「『我々は石油ではなく水を発見していたら良かったのに』と語った」と言われている。今は引退した彼らは、天然資源に依存することは1国の経済的・政治的システムを毒する道を辿るという苦い経験を回顧しての発言だ。
この資源収入に伴う経済的・政治的・社会的な負の現象は、“オランダ病”でも知られている。“オランダ病”とは、1960年代に発見された北海の天然ガスで潤ったオランダが、1970年代になって見舞われた深刻な副作用のことを指す。
すなわち資源の輸出によるハード・カレンシーの流入が物価を押し上げ、非オイルビジネスの競争力を損ない資本不足に陥る。結果として、製造業の生産性向上の芽を摘んでしまい、失業者が増加、若者の教育レベルが低下し、セーフティネットのための社会保障費が大幅に増えることになる。そして、資源を担当する政府関係当局者たちは利権漁りのために、民主的な手続きを避け、汚職が蔓延する。そして資源利潤を無駄に遣ってしまい、ブームが去ってみると国の債務は資源発見前より増えている始末。
これが“資源は呪い”だ。これらの現象は、エネルギー資源でも鉱物資源でも全く同じである。
資源が貧困を助長する今、世界の資源豊富な発展途上国においては、腐敗の問題が最も深刻で、政治・経済・社会の不安定性の根本原因になっている。
そのため、2002年ヨハネスブルグサミットでトニー・ブレア元英国首相の提唱で発足した、採取産業透明性イニシアティブ(Extracting Industries Transparency Initiative=EITI)という国際機関が設立された。サミットでも発展途上国における石油・鉱物資源の採掘権益取得、利益配分そして鉱山運営にともなう腐敗防止対策がよく議論される。2008年の洞爺湖サミットでも議題に上がり、G8 首脳宣言の「世界経済 4. 天然資源」の項目にも資源産業の透明性とガバナンスの重要性が盛り込まれた。
せっかく有望な資源を持っていても、国民は少しも豊かにならないばかりか、アフリカのように貧困が助長されるケースがいかに多いことか。アフリカのパラドックスとも言われる。アフガニスタンも“資源の呪い”の罠にかからなければよいが。
果たして、米国の思惑通りに公正な国際入札と適正な開発が行われ、腐敗、紛争もなく、“オランダ病”にも罹らず、豊かなアフガニスタンの建国ができるだろうか。
◆関連
コンゴ民主共和国:戦禍にまみれ、ようやく訪れた静けさ−JanJanニュース
http://www.news.janjan.jp/world/0804/0804235566/1.php
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