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地熱生かしたまちづくり 秋田県湯沢市、国内23年ぶりの大型地熱発電所が稼働へ
http://www.sankei.com/premium/news/151018/prm1510180003-n1.html
先日、秋田県湯沢市で開催された「全国自治体地熱サミットin 湯沢」(主催:JOGMEC、湯沢市)でコーディネーターを務める機会に恵まれました。市内には東北電力・上の岱(うえのたい)地熱発電所が稼働しており、地域で地熱を生かしたまちづくりに取り組んでいます。2019年には国内では23年ぶりとなる大型地熱発電所も稼働する予定です。
地熱と共存するまちづくり
秋田県の南の玄関口に位置する湯沢市は、人口4万8000人を擁する日本有数の豪雪地帯です。市内には、恐山(青森県)と立山(富山県)と並ぶ日本三大霊地の1つ、川原毛地獄(標高800メートル)があり、灰白色の溶岩に覆われた山肌と火山性ガスが音を立てて噴出するさまは、豊かな地熱資源があることをうかがわせます。
市街地から東南約33キロメートルの国有林内にある上の岱地熱発電所(出力2万8800キロワット)は、1994年3月に稼働し、約7万5000世帯分の消費電力量に相当する電力を生み出しています。風光明媚(めいび)な景観に配慮し、発電所は山小屋をイメージした建屋になっています。
発電所周辺では、地熱を生かしたユニークな取り組みが行われています。地元企業の栗駒フーズは、87年度の「地熱エネルギー開発利用モデル事業」に認定され、全国で初めて温泉を使った低温殺菌牛乳やヨーグルト、アイスクリーム、プリンなどの乳製品を製造販売しています。
工場の近くで乳牛60頭が飼育され、温泉熱の低温殺菌処理(62〜65℃で3分間殺菌)により、しぼりたての牛乳の成分をほとんど壊さない自然の形で消費者に届けています。私も牛乳を試飲させていただきましたが、コクがあり、そのおいしさに感嘆しました。
ここで利用している温泉熱は、地域利用されず、河川に廃棄されていた熱水で、供給温度は約95℃。1時間あたり10トンずつ工場に入ってくる熱水を乳製品の処理加工に利用した後は、牛乳瓶の消毒熱源や敷地内の融雪などに有効利用しています。
地熱を「食」に生かす
2014年からは、湯沢市とコンビニエンスストアのローソンが共同で地熱温水を利用した「地熱活用低コスト型周年農業実証」を行っています。農業所得の減少は、地域経済の活性化に影響を与えますが、農作物を1年中栽培する周年農業を確立することができれば、年間を通して収入を確保できます。
「ハウス団地」と呼ばれる5棟のうち2棟に湯沢市内の小安峡温泉から約80℃の源泉を引き込み、温泉熱でハウス内を暖めて、冬でも水耕によるミツバと小ネギ、土耕によるトマトの栽培を行っています。
ハウス2棟の温泉水の維持管理費は、月1万円ほど。重油を利用していた頃は月10万円ほどかかっていたそうで、大幅なコストダウンを実現できました。ハウス内の暖房に使った温水は、水耕栽培の水中に設置されたパイプに流され、水温低下を防ぐために再利用しています。 採れたてのトマトの試食を勧められ、丸かじりしました。うーん、しっかりした歯ごたえと爽やかな甘みがおいしい! この地熱水活用のトマト栽培をしているのは、Uターンで地元に帰ってきた青年2人です。やりがいのある仕事があれば、地元に戻ってきてくれる好例とも言えそうです。地熱水活用トマトはローソンに出荷していますが、秋田県内で冬場にトマトを出荷しているのは、ここだけとのこと。ニーズが高まれば、出荷量を増やすことも検討しています。
地熱は、温度域によりさまざまな用途に利用ができるため、野菜や果物の乾燥加工品の製造は、利用しやすいビジネスモデルの一つです。市内の「地熱利用農産加工所」では、野菜を細かく刻んだ後、約90℃の温泉で湯がき、温泉熱を使ってトマトや大根、リンゴなどの乾燥チップを生産し、土産店で販売しています。
市内で生産されたサクランボを乾燥させた「ミッチェリー」という商品は、地元の高校生が中心となって開発したものです。最近は6次産業化(地域資源を活用した農林漁業者などによる新事業の創出)による地域活性化が期待されていますが、地域の若者の活躍の場を広げることも再生可能エネルギーを生かしたまちづくりに大事なことです。
大型地熱発電所の開発
今年5月からは、Jパワー、三菱マテリアル、三菱ガス化学の3社の共同出資により設立された湯沢地熱による山葵沢(わさびざわ)地熱発電所(出力4万2000キロワット、敷地面積15.7万平方メートル)の建設が始まっています。総事業費300億円、地熱発電所の規模としては国内5番目の大型プロジェクトです。
1993年に現地で事前調査が始まって以来、20年越しの着工となりました。今年度は、発電所と生産、還元基地の土地造成や、坑井の掘削を行い、2019年5月に運転開始する予定です。
発電形式は九州電力・八丁原地熱発電所(大分県九重町)でも採用され、高温高圧の地熱流体の場合に採用されている「ダブルフラッシュ発電」です。気水分離器で分離した熱水をフラッシャー(減圧気化器)に導入して蒸気をさらに取り出し、高圧蒸気と低圧蒸気でタービンを回す発電方式で、シングルフラッシュ発電よりも10〜25%出力が増加します。
このほか、湯沢市内では、「木地山・下の岱地域」(事業主体は東北自然エネルギー開発)と「小安地域」(事業主体は出光興産・国際石油開発帝石・三井石油開発)でも、地表調査や環境調査などの調査が進められています。
地熱開発に関心を示す地方自治体に共通する課題として、少子高齢化や若い働き手の人口減少による過疎化、地域の経済衰退などの問題があります。自治体としては、発電所での雇用創出だけでなく、地熱や熱水の利用による観光振興や産業振興、農業振興など多くの効果を地熱開発がもたらし、魅力あるまちづくりにつなげたいという思いがあります。
世界3位の地熱資源大国の日本。住んでいる人たちがより豊かに楽しく暮らせる、地熱を生かしたまちづくりが各地に広がってほしいと思います。(松本真由美)
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まつもと・まゆみ 東京大学教養学部客員准教授(環境エネルギー科学特別部門)。上智大学在学中からテレビ朝日のニュース番組に出演。NHK−BS1ワールドニュースキャスターなどを務める。環境コミュニケーション、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を研究する傍ら、シンポジウムのコーディネーターや講演、執筆活動などを行っている。NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事。
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