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[真相深層]石炭火力、狭まる包囲網
環境相が「待った」、欧米・中国も脱依存
全国で相次ぐ石炭火力発電所の新設に環境省が異議を唱えている。電力業界に温暖化対策を促すためだが、理由はそれだけではない。「このままでは世界の潮流から取り残される」。欧米に加え中国も脱石炭へかじをきるなか、今後、世界的に石炭火力への規制が強まる。2030年には「高くつく電源」になると専門家は指摘する。
CO2多く排出
6月、望月義夫環境相は山口県宇部市で進む大規模石炭火力計画に「環境アセスメント」という切り札で「待った」をかけた。今月14日と28日に審査期限がくる愛知県武豊町と千葉県袖ケ浦市の2計画でも、否定的な見解を示す方針だ。
「日本だけがなぜ石炭火力の新増設を進めるのかまったく理解できない」。6月初旬にドイツのボンで開かれた気候変動枠組み条約の作業部会。参加した名古屋大学(環境法)の高村ゆかり教授は、海外の専門家から出る厳しい意見に「答えに窮して苦笑いするしかなかった」とこぼす。
日本は11年の福島第1原子力発電所の事故後、低コストで一日中安定して供給できる電源として、石炭火力を積極的に活用してきた。経済産業省によると、発電量全体に占める石炭火力の割合が10年度は25%だったのに対し、13年度が30%まで増えた。
環境省の試算によると、現在、国内で計33基の石炭火力の新設が計画されており、発電容量にすると約1700万キロワットに上る。このまま計画が進めば、30年には発電量の電源構成比が40%台半ばまで達し、7月に政府が決めた電源のベストミックスで打ち出した26%を大きく上回る。
石炭火力は地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出量が液化天然ガス(LNG)火力などほかの化石燃料の電源に比べて多い。国内メーカーは石炭ガス化複合発電(IGCC)や石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)といった最新鋭の効率のよい石炭技術を持つが、それでも1キロワット時当たりのCO2排出量は、現在稼働中のLNG発電の1.7倍以上にもなる。
しかも、大規模な発電施設を造るとなると数千億円かかる。数十年にわたって高い稼働率を保たないと採算がとれず、電源として柔軟性に欠く。
海外では国をあげて石炭火力を縮小する動きが目立つ。欧州の場合、電力会社に対し、石炭から出るCO21トン当たりの課税額を高くするケースが多い。英国は982円と日本の3.4倍で、高い税負担で収益が悪化し、石炭火力が次々と閉鎖に追い込まれている。
米国も8月に入り、オバマ政権が石炭などの火力から出るCO2の削減幅を従来より2ポイント上げ、30年までに05年比32%削減する規制強化策を発表した。大気汚染に悩む中国も環境税の導入や石炭の総量規制などで削減の道を探っている。世界的に石炭火力の新増設に包囲網が敷かれつつある。
日本政府は15年度の環境白書で石炭火力について「コストが適切に反映される必要がある」と明記、国内でも今後、発電コストが高くなる可能性を示唆した。環境行政に詳しい小林光慶応大特任教授は「中長期的に大幅なCO2の削減を確実にするためには、日本でも石炭火力の規制を含めた制度の導入は避けられなくなっている」と語る。
現在1キロワット時当たりの発電コストは12.3円で火力のなかでは最も安い。しかし、欧米並みの規制が進めば、30年には18.9円まで跳ね上がり、LNGより高くなると環境省は試算する。
政権にジレンマ
経産省を中心に当面、石炭火力への依存はやむを得ないとする主張も根強い。「石炭火力は首相官邸も支持している」(経産省幹部)
原発事故後、発電コストが安いとされる原発の再稼働が進まなかったため、LNGの輸入増が国富流出との批判を招いた。安倍政権は電気代を安くしていく方針だが、原発推進の姿勢を鮮明にするとさらに支持率が下がるジレンマに陥るため、石炭頼みからなかなか抜け出せない。
環境省は今後、野放図に増えるおそれがある石炭火力の抑制策を検討する。電力各社が古い施設を廃棄するなどの能力調整に本気で取り組まない限り、「環境アセス」というカードを切り続ける意向だ。
(浅沼直樹、川口健史)
[日経新聞8月14日朝刊P.2]
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