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FIT見直しで地域エネルギー事業存続の危機 「回避可能費用」見直し議論の本質
2015年5月13日(水) 山家 公雄
政府は、再生可能エネルギー(再エネ)電力調達費用の考え方を、実際のコストベースから、今後整備されるであろう取引市場価格ベースに変えようとしている。これは、電力小売り事業、地域エネルギー事業、エネルギーの地産地消の事業化に甚大な影響を及ぼす。コストが大きく上がる可能性が高いからだ。
多くのエネルギー関連委員会が開催されている中で、あまり目立たないが、重要なものがある。新エネルギー小委員会の下部組織である「買取制度運用ワーキンググループ」である。ここで、再エネ電力を調達する際の実質コストである「回避可能費用」の決め方を議論している。これまで、3月4日と3月30日の2回開催された。
再エネ普及策である固定価格買い取り制度(FIT:Feed in Tariff)が2012年7月に導入されて以来、回避可能費用の見直しは2度目である。こうした重要な事項が毎年のように変更されること自体、違和感を覚える。調達する側である小売り事業者が翻弄されていることは、容易に想像がつく。見直しのたびに調達コストが上昇しており、事業計画に大きな狂いが生じる。事業を断念する場合も出てこよう。特に、多くの地域で検討されている地産地消等を目指すエネルギー事業者にとって、致命的となる可能性がある。
1.前提および現状制度
【回避可能費用の考え方】
FITは、再エネ開発事業者が発電した電力を、採算を見込める価格水準(タリフ)で20年間固定で販売できる制度である。全量を小売り事業者が買い取るが、その際の調達コストは自ら発電するあるいは購入する場合にかかる費用とされており、これは「回避可能費用」と称される。タリフと回避可能費用の差額を再エネ賦課金として消費者が負担し、小売り事業者に交付される(資料1)。
回避可能費用は制度の創設当初、東京電力等の一般電気事業者の全電源に係る「変動費」と見なされた。再エネは出力が安定しないことから、既存設備の代替効果を持たず、燃料費等の変動費を代替するだけであるとの理屈である。この費用は概ね1kwh当たり7〜8円であった。
昨年、「回避可能費用は実態よりも低く、調達する電力会社の小売り部門が儲けているのではないか」、との批判が起きたことから見直された。再エネには、地熱や一般水力等の出力が安定するものがあり、それは設備を代替する効果が認められ、減価償却・人件費等の「固定費」も計上された。一方、太陽光や風力等の出力が変動する再エネは、火力発電の燃料費を主とする変動費を代替する。こうした考え方の下で、かなり厳密に再計算された結果、9〜11円と約2円上昇した。
資料1.小売完全自由化後のFIT買取スキーム
(出所)資源エネルギー庁
【回避可能費用として卸市場価格を提案】
今回の見直しは、2016年からの電力の全面小売り自由化によって、買い取り義務がある小売り事業者の概念が変わること等に対応するためのものである。一般電気事業者は存在しなくなり、再エネを購入するのは、既存も新規も含めて同じ小売り事業者になる(資料1)。発電事業も完全に自由化されるので、参考となる電源コストの情報は把握し難くなる。
一方で、電力取引(卸)市場の整備は進むはずであり、小売り事業者の調達コストは、基本的に取引市場価格の影響を強く受ける。従って、回避可能費用は取引市場価格とすべきである、というのが議論の中身である。
【高くなる調達コスト】
取引市場価格は、送電の1日前に取り引きする「1日前市場」と、新設される予定である送電の1時間前に取り引きする「1時間前市場」を参考に計算する。市場価格は時々刻々変わるが、直近の11カ月(2014年4月〜2015年2月)を見るとスポット価格の24時間平均で約15円である(資料2)。この水準だと、小売り事業者にとってかなりの負担になる。特に再エネを利用する新会社創設を計画しているものにとっては厳しい水準であろう。既存の大手電気事業者を含めて、非常に困惑している。FIT認定発電量が決まった後のコスト変更は、「大規模契約を締結した後に価格を強制的に変えられる」と同義である。
そもそも、最初の見直しでかなり厳密に実際の調達コストを計算したはずであり、それより高いのは、損失を被ることを意味する。あるいは、市場が未整備で、限界的な調達手段の地位にとどまっていることになる。
以下で、これらについて検証してみる。問題点が多く、拙速な導入は慎重に検討すべきである。
資料2.現行回避可能費用と市場価格水準との比較
(出所)資源エネルギー庁
2.回避可能費用見直し案の疑問点
政府が提示する前提に対して、3つの疑問点がある。(1)小売り事業者として新旧事業者を1つに括れるのか、(2)導入時期は尚早ではないか、(3)薄い取引市場で信頼できるのか、である。
【疑問点(1):小売り事業者として新旧事業者を1つに括れるのか】
全面自由化によりすべて「小売り事業者」になるとのことだが、東電等の一般電気事業者系の小売り事業者は、同グループの発電事業者と強いつながりを維持する。発送電分離は2020年からであり、その後も資本関係は残る。現状厳しい経営状況におかれているとはいえ、発電設備の面では圧倒的な存在感がある。多様な種類の電力を自社で発電しているうえ、卸売事業者との長期契約も締結している。この圧倒的ともいえるシェアは、特段の措置がなければ長く続く可能性が高い。
【疑問点(2):導入時期は尚早ではないか】
電力システム全体としては、完全自由化後も複数の経過措置が取られる。しばらくは一般電気事業者系小売り事業者に対する電力の料金規制は継続することになるが、その間「総括原価制度」は一部残る。また、新電力が存続できない場合等でも需要家への電力供給が続けられるように「最終補償制度」が用意される。これは送配電事業者が行うこととされている。離島等の供給条件が悪くコストの高いところでは、他地域とそん色のない料金水準が保証される。いわゆるユニバーサルサービスであるが、その供給は一般電気事業者系が担うことが想定されている。
このように、制度の「本則」では、種々の経過措置が用意されている。少なくともこの措置が適用される間は、一般電気事業者系の小売り事業者と発電事業者は大きな存在感を持つことになる、と考えるのが自然である。にもかかわらず、どうして再エネ支援策の変更については急ぐのか。
【疑問点(3):薄い取引市場で信頼できるのか】
最も重要な点であるが、電力卸市場の整備はどの程度期待できるのか。競争促進、安定供給のために卸市場の整備が重要であることは論を待たない。それとどの程度の速度で整備が進むかは別問題である。長い間、卸市場はほとんど機能しなかった。圧倒的な発電設備をもつ既存の電力会社は、市場に「玉」を出さなかった。「競争相手である新電力に兵糧を送る必要はない」、とも言われた。
「3.11」のとき、電力需給が極度に逼迫し、卸市場の出番であると期待されたが、余剰電力が既存の電力会社へ直接供給され、市場が一時閉鎖状態になったことは記憶に新しい。最近取引が増えてきたとはいえ、取引全体に占めるシェアは1.3%(2013年度)にすぎない。しかも行政指導によって、事業者が「自主的」に拠出したものもある。指標にするとされた「1時間前市場」はまだできていない。こうした経緯や発送電分離が当初予定より2年遅れの2020年になったことを考えると、今後どれだけ機能するか不明である。
次に、再エネ電力調達費用を取引市場価格に合わせる「調達費用の市場化」が導入されたとして、当面の状況をシミュレーションしてみる。
3.取引市場価格の見通し:欧州のように下がるのか
【市場の厚みとメリットオーダー機能で欧州は低下】
前述のように、現状の市場価格は平均で15円である。これは、今後どういう水準で推移するのだろうか。再エネ先進国のドイツをみてみる。EU(欧州連合)加盟国はEU指令に基づき国内制度を整備するので、どの加盟国も同様の傾向をたどる。現状、回避可能費用は卸市場価格となっている。卸価格は近年顕著に下がっており、その影響で再エネ賦課金は上がっている。
卸市場では、「メリットオーダーシステム(変動費の低い電源から落札され、均衡価格で決済される)」が採用されている。このシステムの下では、変動費がゼロあるいは小さい再エネや原子力から落札され、均衡点を形成する限界設備は火力になる(資料3)。取引シェア4割程度と厚みのある現状の卸市場では、多様な電源による電力が取り引きされ、理論に近い決まり方になる。燃料費ゼロの再エネが増えると均衡価格には下げ圧力がかかる。
資料3.ドイツの卸市場サプライカーブ:メリットオーダー
出所:Eco-Institute
【未整備な日本市場は先行き不透明】
一方、日本はどうなるであろうか。取引市場に、こうした多様な電力が提供される保証はない。取引シェア1%程度の厚みしかない、1時間前市場等が未整備である、発送電分離の実効性が不透明、原子力・水力が大手電力会社に集中している、といったことを勘案すると、ドイツのような状況になるには相当な時間を要する、と考えられる。
具体的に見てみよう。原子力は一般電気事業者とその子会社である日本原電が独占している。水力の9割は一般電気事業者と電源開発(J-POWER)が保有している。J-POWERがどのような判断をするかが注目されるが、これまでは一般電気事業者と契約している。都道府県が運営する公営事業者は約3%のシェアを持つが、やはり長期契約に縛られている。東京都が一般電気事業者との契約を打ち切って公募に踏み切ったが、違約金の支払い問題に発展したのは記憶に新しい。なお、自家発電用が6%ある。
これらの変動費の小さい低コスト電源は、「市場原理」で取引が活発になるのだろうか。簡単でないことは容易に推測できる。「敵に塩を送る」だけでなく、自社で所有する火力発電設備の稼働を抑えることになりかねない取引を積極的に行うだろうか。現状の「1%卸市場」は行政指導への付き合いなどによるものとみられる。ただし、取引市場への供給を強制する仕組みが作られれば話は別である。フランスは発電事業者に対して、原子力発電の一定割合を発電原価に基づく価格で小売り事業者に卸販売する義務を課している。
要するに、日本でメリットオーダーシステムが短い期間で機能する保証は全くない。政府ワーキンググループの議論では、だからこそ再エネを利用して市場の厚みを形成していくのだ、と発言する委員もいた。これには、大人ができないことを幼児に託すような印象を受ける。
【調達コストが割高になる必然性】
取引所経由が1%ということは、残りの99%は相対契約か自家発電利用である。原子力や水力は長期の相対契約で取引が進むことが想定される。これらは、メリットオーダーシステム上は最も安い電力である。従って、市場取引よりも安く調達できることになる。換言すると、卸価格を調達費用とする再エネは、割高な電源となる。それともフランスのような措置を国は導入するのだろうか。
コスト高と分かっている電力の購入を、制度上続けられるだろうか。まさにFIT存続の危機が訪れる可能性が生じる。政府の本音がもしここにあるとしたら、大変な策略である。そうではないと信じたい。また、賦課金の上昇と、小売り事業者の調達コスト上昇に伴う価格上昇とではどちらの影響が大きいだろうか。再エネ反対の急先鋒であるエネルギ−多消費型企業にとって、どちらが望ましいのであろうか。
【エネ庁も卸価格指標の限界に気付く?】
資源エネルギー庁(エネ庁)もこの点に気が付いたようだ。あるいは、危機感を強めた電力業界が、エネ庁にアドバイスしたのかもしれない。前述した委員会の第2回会議で、「市場、相対長期、自家発を総合的に勘案する指標も一方法」とオプションの一つとして提起している。これは、市場価格オンリーよりはまともでありある程度評価できる。3月4日に開かれた第1回会議では、回避可能費用は1日前市場と1時間前市場の加重平均とするのが望ましいという案を提示していた。
しかし、総合指標を提示できるということは、全面自由化後も従来通りに回避可能費用を試算できるということではないか。
4.追い込まれる新電力
【火力偏重の限界】
一方、新電力の調達を見てみる。新電力は火力に偏る傾向がある。というか、頼らざるを得ない。しかし、大手エネルギー会社でも、新電力の運営は簡単ではない。火力は燃料費の割合が大きく、しかも燃料価格は変動しやすい。特に燃料価格が高騰する局面では、原子力・水力を有する事業者との競争が厳しくなる。これは2000年代後半に、現実に生じた。隆盛しつつあったコジェネレーションシステム(熱電併給システム)や自家発代行等のオンサイトビジネスが一気に萎んでしまった。燃料ポートフォリオや、電源の多様化の重要性が改めて実感されたのだ。
こうした中で、燃料費ゼロの新たな電源である再エネは、一定の支持を得る可能性がある。調達コストが既存の大規模電源とそん色のないレベルに設定されれば、ポートフォリオに組み込みまれる可能性は十分に見込みうる。
【地方エネルギ−会社の苦境】
地方で計画されている新電力は、火力の調達すら難しい。火力発電を開発するには、海外からの燃料調達や、燃料インフラへのアクセスという高いハードルがある。大手エネルギー会社は先行して、インフラを支配し、サプライチェーンを整備している。ただし、都道府県や市町村区の企業局等が開発した水力発電を有する自治体は、事業化できる可能性がある。
再エネへの期待は大きい。再エネ発電設備は、資源の豊富な地方に、新たに建設する場合が多いからだ。地産地消等を目指した事業の多くは、現行のFIT制度を前提に計画している。電力調達コスト(回避可能費用)の見通しをたてやすい、再エネ発電設備は地元事業者を含めて地方で多数建設される、地産地消により地域内で資金が循環する、地域資本の再エネ投資を促すといったメリットが期待できる。
【立地交付金代替としてのFITスキーム】
現行の回避可能費用の考え方に基づくFITの存在は、地域でエネルギー事業が根付くための拠り所ともなっていた。これらの芽を摘んでいいのだろうか。再エネ普及のためには、立地地域の理解が不可欠である。地域住民に不信感を持たれては、持続的な普及は難しい。大規模電源の立地交付金と類似の効果があるとも考えられる。
現状、同じ電源ではありながら、再エネは立地交付金の対象になっていない。現行のFITは、自ら事業を行おうとするやる気のある地域に対して行動を促す誘因がある。交付金に比べて、より低コストで行動を促し得る優れた対策ともいえる。こうした再エネ普及と自主的な地域振興を併せ持つ価値を評価すべきである。
筆者の結論は、再エネと卸市場がある程度成熟するまでの間、現行制度を維持すべきということである。
「FIT制度の回避可能費用として卸価格を適用すべき」とする見直し案について検証した結果、次のように整理できる。
シェア1%という未成熟な取引市場に委ねる場合、次のような課題が考えられる。
• 卸市場が非常に薄い。
• しばらくは顕著に厚みが増すことは考えにくい。
• 小売り事業者の電力調達コストは現行制度よりも高くなる。
• 引き取り義務のある小売り事業者は、割高な電力の調達を強いられる。
• 地産地消や地域活性化を狙う地域会社は、窮地に陥る。
• FIT制度は廃止を含めて見直される可能性が生じる。
その一方で、
• 電力自由化に関しては、慎重に経過措置が盛り込まれており、既存の電力会社の発電事業はしばらくは大きな地位を占める。
• 政府も長期の相対取引や自家発電設備のコストを勘案した総合指標をオプションとして提示している。
ことから、代表的な電源によるモデル試算も可能であろう。
何よりも、頻繁に重要事項が変わることは、まさに政策リスクである。政策に対する信頼性の喪失は、投資誘因を著しく削ぐ。地方の自主的な意欲を著しく削ぐ。
以上の理由から、再エネと卸市場がある程度成熟するまでの間、現行制度を維持すべきだと考える。
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