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※日経新聞連載
[時事解析]農地と太陽光発電
(1)条件付きで規制緩和 地代不要なら利益
農地への太陽光発電設備設置は農地法で規制されてきた。食料供給の基盤である優良農地を確保する目的だった。だが再生可能エネルギー促進の観点から、農林水産省は2013年3月末の通知で、太陽光パネルを設置する架台の支柱基礎部分を農地の一時転用許可の対象とする条件付き規制緩和に踏み切った。
条件は(1)太陽光パネルを支柱付きの架台に設置する(2)農業を継続し、営農状況を毎年報告する(3)原則3年での認可更新(4)農作物収穫量が地域平均の2割以上減少しない――など。市町村の農業委員会が審査する。
10年に約40万ヘクタールあった耕作放棄地で農地への復元が難しいのは約17万ヘクタール。うち11万ヘクタールに太陽電池を並べれば年間580億キロワット時の発電ができると農水省は試算する。関西電力大飯原子力発電所4号機(出力118万キロワット)の年平均発電量は約80億キロワット時で、その7倍以上だ。現在は耕作放棄地での発電事業は認められていないが潜在力の高さが分かる。ちなみに日本の耕地面積は14年時点で451万8千ヘクタールある。
再生エネの固定価格買い取り制度(FIT)で太陽光の申請が突出したため、経済産業省は太陽光発電の買い取り価格を引き下げる。14年度に1キロワット時あたり32円だったのを7月から同27円に改めて抑制を狙う。借地で運用するには厳しい水準だが、農家が自らの農地に設置するなら地代は不要で利益は出る。潜在需要は大きいとみたクボタやヤンマーなど農機メーカーは、今年から農地向け太陽光発電システムの販売体制を強化している。
(編集委員 竹田忍)
[日経新聞5月4日朝刊P.17]
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(2)農業続けながら売電 米作農家副収入に
光が強いほど、植物の光合成は活発になるが、一定の強さを超えると頭打ちになる。この強さを「光飽和点」と呼ぶ。数値は植物によって異なり、サトイモやスイカは8万ルクス、ミョウガやミツバは2万ルクスと幅がある。それぞれが持つ光飽和点以上の日射を受けても光合成には役立たない。
この性質を利用すれば太陽光パネルで一定量の日照を遮っても農作物の生育に大きな影響を及ぼさずに電気を起こせる。農業を続けながら太陽光発電による売電を可能にする「営農発電(ソーラーシェアリング)」だ。
福井博一・岐阜大教授は「夏に成長して冬は光を必要としない、あるいは枯れてしまうような植物が向いている」と語る。たとえばイネはこの条件に該当するが、収量や品質にある程度響くのは避けられない。ブランド米として売るのは難しいが、徳用米で販路を求め、同時に売電収入も入る。コメ消費不振にあえぐ米作農家の経営を副収入で支える。
造園植物も営農発電に向く。デベロッパーは日当たりの良い建物南側に公園や開放スペースを設けて物件の価値を高める。日陰の北側には日照を求めないヤブコウジやヤブラン、ツワブキなどを植えて緑地面積を確保する。これらの造園植物は太陽光パネルで影ができる営農発電の農地でも育てやすい。安定した販売先があるのも強みだ。
営農発電は遊休農地の活用策として有効だ。全農家をカバーするわけではないが、環太平洋経済連携協定(TPP)に伴う影響を緩和する効果も期待できる。
(編集委員 竹田忍)
[日経新聞5月5日朝刊P.19]
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(3)茶畑との組み合わせ 新たな付加価値に
再生可能エネルギーの特性について、「国民のためのエネルギー原論」(植田和弘・梶山恵司編著)は「農業、漁業、林業など地元の自然に依拠する産業と親和的なところ」「第1次産業と同様に土地に固着した産業」と記している。農地における太陽光発電はこの典型例といえる。
農林水産省の統計によると、2013年の主産県による荒茶(商品として流通する前加工段階の茶)生産量は8万2800トンで前年比4%減だった。村沢義久・立命館大客員教授は「家庭であまりお茶を飲まなくなったのと、ペットボトル入りのお茶の普及で煎茶などは大きな影響を受けた。環境は厳しく、茶農家による耕作放棄地も出ている」と語る。
お茶の有力産地である静岡県は平年年間日照時間が2099時間(理科年表)で全国5位。茶どころは総じて日照に恵まれた地域が多く、太陽光発電に適する。茶畑に営農発電(ソーラーシェアリング)を組み合わせれば多面的な効果がある。
茶農家にとって茶葉の品質を損なう霜は大敵。太陽光パネルで茶畑を部分的に覆うと霜が下りにくくなり、霜よけ送風機の「防霜ファン」は不要になる。茶の栽培手法に「かぶせ茶」がある。収穫前の十数日間、黒い覆いをかぶせて日光を遮ると茶葉の甘味とうまみが増して色が鮮やかになる。日陰をつくる太陽光パネルの設置と茶葉は相性が良い。
「再生可能エネルギー生産への貢献をお茶の新たな付加価値として評価する海外の需要家も出てきた」と村沢客員教授は話している。
(編集委員 竹田忍)
[日経新聞5月6日朝刊P.21]
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(4)エネルギー地産地消も 小規模分散型強み
ドイツ農業に詳しい愛媛大学アカデミック・アドバイザーの村田武氏は「小規模経営農家が生き残る道は穀物に野菜や畜産を加える複合化が主だったが、そこに再生可能エネルギーが組み込まれた」と話す。日本の営農発電(ソーラーシェアリング)も複合経営の形態の一つと位置づけられる。
アルビン・トフラー氏は著書「第三の波」で、農業革命による「第一の波」、産業文明の出現に伴う「第二の波」に続いて訪れる「第三の波」の基盤の一つに「再生可能なエネルギー資源」を挙げた。第三の波の下では新しい経済が出現し、「プロシューマー(生産者であり消費者でもある存在)」が増えると指摘した。
エネルギーを使うだけの消費者だったのが、再生エネ生産者の側面も持つ結果、プロシューマーになる。山家公雄・エネルギー戦略研究所所長は「プロシューマーはエネルギー問題の当事者となり、エネルギー・環境問題に覚醒する」とみる。
環境経済学者のエイモリー・ロビンス氏は再生エネを「新しい火」と呼び、(1)希少でなく潤沢(2)地域限定ではなくどこにでもある(3)一時的でなく恒久的(4)無償――などと定義した。こうした条件ゆえに大規模太陽光発電所(メガソーラー)だけでなく、農家単位で小規模分散型の営農発電も実現した。
営農発電はエネルギーの地産地消に発展する可能性も秘めており、多様な影響を及ぼしそうだ。
(編集委員 竹田忍)
=この項おわり
[日経新聞5月8日朝刊P.27]
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