2012年の「固定価格買取制度」(FIT:再生可能エネルギーを用いて発電した電力を、電力会社が一定価格で買い取ることを政府が義務付けた制度)の導入以降、太陽光発電所の建設計画が急増したことで電力系統網の負担が増し、現在経済産業省において制度の見直しが急ピッチで進んでいるのは既報の通りである。ここにきてその具体的内容が徐々に示されてきた。
3つの太陽光発電の接続ルール
まず太陽光発電の導入状況を簡単な制度説明とともにまとめていきたい。
太陽光発電の導入量に関しては、
・経済産業省が、事業者の計画を認定した量によって計測する「認定量」
・事業者が電力会社に接続を申し込んだ量で計測する「全接続申込量」
・実際に太陽光発電所を電力系統網につないだ量で計測する「接続済量」
という3つの計測法がある。
固定価格買取制度では、原則として電力会社が系統安定化を名目に太陽光発電所に出力制限をかける場合、「年間30日」または「360時間」という一定の上限が設定される。
しかし上記のうち「全接続申込量」が、各地域で電源種ごとに設定された「接続可能量」(電力会社側の設備容量の上限)と呼ばれた一定の閾値を超えると、その地域の電力系統網を管理する電力会社は経済産業省からの指定を受けた「指定電力会社」となり、原則とは異なるルールが適用される。具体的には、電力会社が後発の太陽光発電所にどれだけ出力制限をかけても補償義務が生じなくなる。
(出所:「再生可能エネルギー各電源の導入の動向について」資源エネルギー庁)
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このように太陽光発電の接続にあたっては、「30日という“日数単位”での出力制御の上限がつくケース」「360時間という“時間単位”での出力制御の上限がつくケース」「無制限無補償の出力制御が強いられるケース」の3パターンがあり、それぞれを「旧ルール」「新ルール」「指定ルール」と呼ぶ。さらに、それぞれの条件で接続をした事業者をそれぞれ「旧ルール事業者」「新ルール事業者」「指定ルール事業者」と呼ぶようになっている。
・旧ルール事業者 =30日という“日数単位”の上限で出力を制御される。
・新ルール事業者 =360時間という“時間単位”の上限で出力を制御される。
・指定ルール事業者 =無制限無補償の出力制御が強いられる。
現在、太陽光発電については東京電力・中部電力・関西電力の三大都市圏を除く大手電力会社の管内は、「全接続申込量 > 接続可能量」となっている状態で、新規接続に関しては「指定ルール」に移行している。
現状、運開している太陽光発電の量を表す「接続済量」はまだ各地域ともそれほど高くない水準なので、実際に出力制御が行われているわけではない。だが、これらの地域では今年後半以降徐々に出力制御が行われる見込みである。その経済的影響がどの程度のものか、ということは事業者にとって最大の関心事となっている。
特に「指定ルール」下での運用を余儀なくされる後発組は、「無制限に出力制御されて、太陽光発電所の赤字での運営を余儀なくされるのではないか」と戦々恐々としている状況にある。
「出力制御恐怖論」で委縮する業界
こうした指定ルール事業者の「出力制御恐怖論」の根拠となっているのが、各電力会社による出力制御の試算である。
例えば九州電力の試算を見てみよう。817万kwの太陽光発電が導入された場合、旧ルール事業者にどれだけ出力制御がかけられるかによって、指定ルール事業者に対する出力制御は次のように変わってくる(資源エネルギー庁の資料「出力制御の運用ルールについて」より)。
旧ルール事業者が年間30日にわたり目いっぱい出力制御された場合 → 指定ルール事業者の出力制御は年間35日間程度。
出力制御日数が使い切れず、旧ルール事業者の出力制御が25日にとどまった場合 → 指定ルール事業者への出力制御日数は18日増え、53日もの出力制御を強いられることになる。
指定ルール事業者としては、このような不安定な状況での投資は当然受け入れられるものではなく、銀行も腰が引けている状況にある。
政府としてはこうした業界の委縮ムードを取り除くためにも「公平な出力制御の在り方」を検討しているのだが、議論のポイントは旧ルール事業者、新ルール事業者、指定ルール事業者の間のバランスをどのように取るか、という点になっている。先ほど示したように、旧ルール事業者の出力制御の上限に余裕があるまま指定ルール事業者の出力制御がなされると、指定ルール事業者が大きな不利益をこうむることになるからだ。
そこで旧ルール事業者と新ルール事業者と指定ルール事業者の間のバランスを取る考え方としては、経済産業省からは以下の3点が示されている。
(1)同一ルール内での均等な出力制御の実現
現状、旧ルール、新ルール、指定ルール、という異なる3つの出力制御ルールが混在するが、それぞれのルール内では均等に出力制御を行うようにする。
(2)公平な出力制御
原則として、旧ルールまたは新ルール下での接続事業者が出力制御の上限に達するまでは、接続ルールに関係なく全ての発電事業者に対して公平に出力制御を行うことを原則とする。
(3)旧ルール事業者の出力制御枠の最大限の優先活用
指定ルール事業者に対して年間30日または360時間を超えて出力制御を行う場合には、公平性の観点から、旧ルール事業者及び新ルール事業者に対しては可能な限り上限まで出力制御を行うこととする。
一言で言えば「なるべく全事業者に対して公平に、ただし旧ルール・新ルールの出力制御の上限枠は十分使い切った上で、出力制御を行う」というところである。
これらは現状の制度からすると当たり前のことであろう。ただし一方で、「これでは出力制御への恐怖が払拭されない」との観点から、長期的な公平性を担保するために、短期的には指定ルール事業者の方が事業収支上有利となるようなルールも検討すべき、という指摘もなされている。
「バンキング」「ボローイング」の導入
こうした議論の中でいくつかの制度的改正が議論に上っている。1つ目は出力制御量の「バンキング」「ボローイング」である。
それぞれ簡単に説明すると、「バンキング」とは「出力制御の未実施分の繰り越し」のことを指す。ある年の出力制御量が上限に至らなかった場合、その未実施分を翌年度に「バンキング」して繰り越しすることを可能とする制度である。
例えば旧ルール事業者がある年の出力制御が24日しかなかったとしたら、「30日−24日=6日」で6日分ほど「バンキング」されることになる。
一方で「ボローイング」とは、その逆の「出力制御の事後的な調整」のことを指す。ある年の出力制御量が年間上限を超えてしまった場合、翌年度の出力制御を減らすことでその超過分を差し引いて、事後的に調整する制度である。
例えば旧ルール事業者がある年の出力制御が36日であったとしたら、「36日−30日=6日」で6日分ほど「ボローイング」されて、翌年度の出力制御の上限は「30日−6日=24日」で24日になるというわけだ。
経済産業省はこの制度の導入に関してかなり前向きなようだ。関係機関・有識者から大きな異論が見られないため、おそらく今年中には関連法規の改正がなされるものと思われる。
見直しの要求が絶えない「接続可能量」
これと併せて検討がなされているのが、冒頭に言及した「接続可能量」の見直しである。接続可能量は制度の根幹に関わる非常に重要な数値であるにもかかわらず、法律上の位置づけははっきりしないまま審議会での議論だけで設定された。そのため、その水準の適切性については不満がくすぶっており、見直しの要望が絶えない。経済産業省もこれは十分認識しており、3月には宮沢洋一経済産業大臣が維新の党の高井崇志議員の質問に対して予算委員会において以下のような答弁をし、接続可能量の定期的な見直しを確約している。
宮沢国務大臣 「接続可能量につきましては、委員おっしゃるように、これがまず第一弾ということでございますので、定期的に検証を行って、需要や電源構成の変化を当然反映させていかなければいけないと思っております。
そして、今接続連系についてもお話がございましたけれども、接続連系につきましては、今の系統ワーキングの前提は、現行の各電力会社間のルールを前提にしておりますけれども、今後、この4月から、例えば広域的運営推進機関が設立されますので、そういう中におきましてもしっかり検討していっていただかなければいけませんし、その中で、例えば30分ごとの断面できめ細かく運用容量を決めるとか、そういうこともやっていかなければいけないと思っておりますので、定期的に見直していきたいと思っております」
この宮沢大臣の答弁にもあるように、太陽光発電の接続可能量の再算定に当たっては、“電源構成の変化”(特に原発の稼働水準)と“地域間連携線を通じた各電力会社間の電力融通の活発化”の2点が大きな影響を与えることになる。
このうち地域間連携線の利用に関しては長期的な課題となるのだが、短期的には将来の電源構成に関するエネルギーミックスの議論に5月中には何らかの結論が出ると目されているので、それに伴って接続可能量の再算定が進むものと思われる。
現状の接続可能量は原発がフル稼働することを前提に算定されているので、いくつかの原発の廃炉が決まったことを踏まえると、再生エネの接続可能量が増加することは確実である。
経済産業省は、地熱・水力・バイオマス電源を優先的に接続する意向を示しているので、太陽光発電の接続可能量にどの程度の恩恵があるかは不透明だ。だが、太陽光発電協会など準公的な団体などの試算などを見る限り、接続可能量が各地域で大幅に増加する可能性も十分ある(参考:「太陽光発電の現状と展望」太陽光発電協会)。
この際に、問題となるのが「拡大した接続可能量を、どのようにして各ルールの事業者に振り分けるのか?」ということなのだが、これに関しても3つほどの案が出ている。
(1)指定ルールの下で接続した太陽光発電事業者を繰り上げて新ルールを適用するために活用する。
(2)今後新たに接続しようとする太陽光発電事業者に新ルールを適用するために活用する。
(3)指定ルールで接続した太陽光発電事業者の出力制御量を減少させるために活用する。
このうち(1)(2)に関しては「特定事業者に利する」との批判もあり、現状の議論では(3)の選択肢が有力となっている。しかし一方で「日本では固定価格買取制度の運用の歴史が浅く、出力制御の予測が困難なため、現実的には出力補償の上限がかからないとファイナンスがつかない」との批判もあり、どの案が採用されるかの議論は白熱している。
電力会社と再エネ利権との間で板挟みになる経産省
以上、太陽光発電業界にとって鬼門となっている「出力制御」に関する政策、制度の改正の方向性に関する議論を眺めてきた。改めてまとめると、大きな構造としては「出力制御の補償リスクを避けるため、無制限無補償という指定ルールを保ちたい」という電力会社の意向と、それに反する「出力制御に上限がなければファイナンスが難しい」という銀行・事業者の意向の間で経済産業省が板挟みになっている、という状況になっている姿が見て取れる。
経済産業省としてはこれ以上制度を複雑化すると公平性を担保できなくなるため、本来は「無制限無補償」という現状の指定ルールを貫きたいところだ。とはいえ、再エネ利権というものが確立してくる中で「出力制御に上限を設けるべき」という事業者や銀行の声も無視できず、エネルギーミックスの議論も巻き込んで知恵を絞っているというところである。
このような中で、旧ルール・新ルール事業者と指定ルール事業者の間の公平性をどのように担保していくか、ということが大きな課題となっている。短期的には指定ルール事業者の方が旧ルール事業者・新ルール事業者よりも条件が良くなるようなケースを設定するのか、ということが今後大きな焦点になってくるであろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/43658
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