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水素社会への展望と課題
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投稿者 あっしら 日時 2015 年 4 月 27 日 02:50:51: Mo7ApAlflbQ6s
 


水素社会への展望と課題

(上) 官民でインフラ構築必要

佐々木一成 九州大学主幹教授

長期的な開発体制を 省エネやCO2削減に貢献

 「水素社会」という言葉が広く使われるようになってきた。水素を自動車の燃料として本格的に使い始めた今年は水素元年ともいわれる。燃料電池車(FCV)が一般販売され、燃料の水素ガスを購入できる水素ステーションの整備が国のロードマップに沿って進められている。2009年から販売されている家庭用燃料電池「エネファーム」は累積販売台数が10万台を超え、電気もできる給湯器として30年には全世帯の1割に設置する国の目標も掲げられている。17年には家庭用より大型の燃料電池発電システムの市販も予定されている。

 なぜ今、水素なのか。水素社会とはどのような社会で、どのようなメリットや課題があるのだろうか。

 エネルギー資源を持たない我が国にとって、資源を安定的に入手し、電気や熱、車の燃料などをできるだけ安く確保することは、国の施策の根幹にかかわる。財務省の貿易統計によると、近年、貿易赤字が増大しており、その主たる要因はエネルギー輸入の増加といわれている。13、14年とも、天然ガス、石油、石炭などの鉱物性燃料の輸入額は約27兆円に達している。

 現在、生活や産業に欠かせない電力の約9割は火力発電でまかなわれている。当面、この状況は避けられない。

 燃料電池は、水素を含む燃料から電気を取り出す技術である。水の電気分解の逆の反応であり、燃料を燃やさずに直接、電気を取り出すことができる。この反応で使われる水素は、地球上に最も多く存在する元素であり、水素ガスはいろいろな方法で作ることができる。例えば、製油所や製鉄所、ソーダ電解事業所の副産物の水素ガスを活用して車の燃料として供給することが可能である。都市ガスやLPガスなどの既存のエネルギー供給ネットワークを活用して炭化水素燃料から水素ガスを取り出すこともできる。水素ガスが車の燃料として広く使用されるようになれば、自動車産業や日々の移動が石油という特定のエネルギー資源に依存しなくなり、エネルギーの安全保障に貢献できる。

 FCVの燃料は純水素ガスであるが、燃料電池発電には純水素ガスのみならず、都市ガスなど水素原子を多く含む炭化水素燃料も使える。エネルギー変換効率が高い燃料電池で発電することで、同じ電気を取り出すのに必要な化石燃料の量を減らせるため、省エネと二酸化炭素(CO2)排出削減になる。つまり、水素を介して発電する燃料電池の普及によって、「水素利用社会」がまず実現できる。

 高効率に電気を取り出せるメリットは家庭や車に限定されない。数キロワットから数百キロワットレベルの業務・産業用など、より規模の大きい発電用に展開できる。逆に小型の携帯機器用、宇宙航空用を想定した技術開発も進められている。

 将来、CO2排出の大幅減が国際的に求められる時代が来た時には、CO2フリーの純水素ガスをエネルギーとして本格的に使うことで、「純水素社会」に順次移行していくことになろう。下水処理場からのメタンガスや、電力系統に流せずに余剰になった再生可能電力、海外の未利用資源などから作ったCO2フリー水素などを活用することで、長期的にはCO2排出ゼロの車社会を実現することも夢ではなくなる。

 再生可能エネルギーは天候に左右され、変動が激しい。その余剰電力を使って水を電気分解して作った水素でエネルギーを蓄えるシステムの開発も進められている。水素をエネルギー貯蔵のために使いこなせるようになれば、蓄電池や揚水発電所と並ぶ、中規模の蓄エネルギー技術の柱となり、再エネを利活用する余地も広がる。各地域にあるエネルギー源から電気や水素を取り出すことが可能であるため、エネルギーの地産地消が実現できる。これまで域外に流出していたエネルギー代金がその地域にとどまることで地域の経済活性化や自立にも貢献できる。ただし、再エネを活用する際には、トータルでのコストや効率、CO2排出量の精査が必要である。

 このように燃料電池を核にした水素エネルギーのポテンシャルは極めて大きいが、エネルギー社会全体の根幹にかかわる変化でもあるため、当然、水素社会の実現には時間がかかる。多くの課題があるが、まず第一に官民を挙げた水素インフラの構築が重要である。FCVの本格普及には水素ステーションのネットワークの確立が必要である。

 国などの支援は当面欠かせない。従来のガソリンスタンド型の水素ステーションだけでなく、石油燃料や電気、熱も供給できるエネルギーのコンビニにしたり、再エネからの余剰電力で水素を製造・貯蔵して販売したり、下水処理や食品系・植物系廃棄物処理で発生するバイオガスから水素ガスを作って販売することなども検討に値する。水素ステーションの設置コストの低減も欠かせない。

 第二に、高効率発電という本質的な利点を持つ燃料電池は、電力・ガス自由化の流れの中で次世代型の発電システムとして期待される。火力発電の効率を上げていくことで国全体のエネルギー分野の無駄を減らし、CO2の排出を減らすことができる。燃料電池を核にして、天然ガスを使い、発電効率が70%を超える超高効率発電システムを構築することも原理的に可能である。資源的な制約が少ない石炭をガスに変え、燃料電池で高効率に発電することも可能である。

 本格普及には低コスト化を含めたさらなる技術革新が欠かせないが、国全体で考えると、燃料輸入低減やCO2排出削減に大きく貢献できる技術である。公的な導入補助制度はもちろん、高効率発電の技術開発や老朽火力発電所更新のコストを、将来の燃料費削減やCO2排出減で回収できるような仕組みを考えていくことも大事になろう。鉱物性燃料のごく一部を節約できるだけでも、メリットは兆円単位となる。国、自治体、エネルギー事業者や利用者、投資家が投資できるレベルにするためにも、システムコスト低減や発電効率のさらなる向上が求められる。

 水素社会がどのような社会なのか、安全性も含め、国民に広く示していくことも欠かせない。燃料電池や水素技術を多くの方々に安心して使ってもらうためには、普及啓発に向けた地道な活動が必要である。20年の東京オリンピック・パラリンピックは、日本がリードする水素技術を世界に発信する素晴らしい機会になる。各地で進められているスマートコミュニティー、再エネを使った水素技術、大型燃料電池の実証研究などで、経済性と環境優位性が示されることを期待したい。

 最後になるが、エネルギー分野の技術開発では開発期間が数十年にわたることが多い。逆に、数十年の間、メンテナンスも含めて事業が継続する分野であり、裾野も広い。製品開発しながらの次世代技術開発も欠かせず、技術を磨きながら次の世代を担う人材を育て続けていく必要がある。そのため、国の成長戦略の中に、それを支える若手人材の戦略的な養成を明確に位置付けることが重要である。特に今後の海外展開も見据えて、グローバルに活躍できる博士レベルの人材を、我が国が戦略的に育成していくことが国際競争力強化にもつながると考える。

 日本が世界をリードしている分野であるがゆえに、国際競争力を長期にわたって維持するためにも、オールジャパンでの戦略的・組織的な対応が切に望まれる。

ポイント
○水素は特定資源に依存せず、安定調達可能
○再生エネを水素に貯蔵し、地産地消を実現
○高効率燃料電池は次世代発電システムの核

 ささき・かずなり 65年生まれ。スイス・チューリヒ工科大工学博士。専門は電気化学

[日経新聞4月20日朝刊P.21]

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(下)海外の「再エネ由来」導入を

 塩沢文朗 国際環境経済研究所主席研究員

 日本は2012年以降、1次エネルギー供給の93%を化石燃料に依存している。世界の化石燃料の需要は増加の一途をたどり、50年には現在の約1.7倍に増えるとみられている。いずれは資源の確保競争が厳しくなり、価格が上昇するのは必至であろう。また、二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの排出量も大幅に削減することが必要だ。50年までに温暖化ガス排出量を先進国全体で80%またはそれ以上、世界全体で50%削減するという目標は、G8(主要8カ国)の国々で共有し、日本も堅持している。

 しかし中長期の予測などからは、今後とも原子力発電を相当程度(発電電力量の十数%)維持しても、50年においてもなお、1次エネルギー供給の約8割を化石燃料に依存せざるを得ないという日本の姿が見えてくる。1次エネルギーは、化石燃料と原子力と再生可能エネルギーから成るので、原子力の大幅な増強が現実的な解とはなりにくい状況では、再エネを大量に導入しない限り、化石燃料への依存を減らすことは将来にわたってできない。まして50年に温暖化ガス排出量を80%削減することは難しい。

 将来のために、今から再エネを大量に導入するための準備を進めていく必要がある。

 日本は、その地理的環境(日射量、日射強度、風況など)から、国内の再エネ資源には質的にも量的にも恵まれていない。それはコストにも表れている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、日本の太陽光発電のコストは世界の約2倍、陸上風力発電のコストは約3倍。中東地域の太陽光発電コストの約6倍という情報もある。

 国内の再エネ資源を活用することは重要であるが、経済や国民生活に大きな負担を強いることなく導入できる量は限られている。大量導入するためには、資源に恵まれた海外の再エネを利用することが不可欠である。海外の太陽、風力資源への依存を高めても、これらのエネルギーは無尽蔵に、また政情の安定している地域にも広範囲に賦存しているから、エネルギー安全保障を損なう懸念は小さい。

 海外の再エネ資源の利用が不可欠という認識に立てば、それを大量に運んでくる方策を考えなければならない。太陽、風力エネルギーは通常、電気や熱エネルギーに変換されて利用されるが、電気や熱を長距離、時間をかけて輸送することは困難である。輸送、貯蔵に優れたエネルギー形態は化学エネルギーだ。なかでも水素は、地球上に豊富に存在する水と、再エネから作ることができる。再エネから作られた水素(CO2フリー水素)をエネルギーとして利用することで、私たちが直面しているエネルギー・環境制約を克服できる可能性がある。これが「水素社会」実現の重要な価値の一つである。

 日本では水素エネルギーの活用は、燃料電池の導入という形で進んでいる。家庭用燃料電池コージェネレーション・システム(エネファーム)は14年末までに累計で11.3万台普及した。政府は「日本再興戦略」(13年6月閣議決定)で、30年に530万台の導入目標を掲げ、普及を推進している。燃料電池車(FCV)も、トヨタ自動車が世界の先陣を切って14年12月に発売した。FCVは30年に200万台程度の普及が期待されている。

 しかし、これらの普及効果を見ると、普及目標が達成されたとしても、エネファームでは日本のエネルギー消費量を約0.4%、CO2排出量を約0.5%削減、FCVでは日本の化石燃料消費量を約0.3%、CO2排出量を約0.2%削減する程度にとどまる。これは、化石燃料の消費構造と普及目標の水準(日本の世帯数約5000万世帯、乗用車保有台数約6000万台に対する割合)を見ればある程度自明だが、次のような要因も影響している。

 それは、エネファーム内部で生成される水素の燃料は都市ガス、LPガスであること、FCVの普及台数が200万台程度であれば、必要な水素量(年約20億立方メートル=セ氏0度、1気圧で)は国内の製油所などで化石燃料から製造された水素(改質水素)で足りるからだ。これでは化石燃料の消費量もCO2排出量もあまり減らない。

 このようにエネファーム、FCVの普及だけでは「水素社会」への道のりは遠いと言わざるを得ない。ただ、これらの普及は、水素エネルギー利用とその供給チェーンの構築の端緒を開き、社会から受容されるうえで重要な役割を担っている。

 化石燃料を多く消費している分野は、発電(40%)と製造業(22%)である。これらの分野でCO2フリー水素の大量導入が進んで初めて、「水素社会」の本来の価値を手にすることができる。発電分野では、水素のプラント引き渡し価格が1立方メートル(セ氏0度、1気圧)あたり30円に低下し、海外からのCO2フリー水素の供給チェーンが形成されると導入の環境が整うとみられている。この条件は後述のような取り組みを進めることにより、経済的にも技術的にもクリアすることが十分に可能と考えられている。その時期は化石燃料の価格動向や目指すCO2排出削減水準に影響されるものの、30年ごろとなるだろう。

 現在考えられる「水素社会」へのシナリオは次のようなものだ。

水素エネルギーの利用はエネファームとFCVで始まり、水素の需要増はFCV分野で起きる。FCVの普及には、水素ステーションの整備などの課題はあるが、ハイブリッド車と競合できるとされる、ステーションでの販売価格目標(1立方メートル90円)は既にクリアされた。FCV燃料向けの水素は、30年ごろまでは改質水素が担う。

 (2)30年ごろになって発電分野への導入環境が整うと、水素需要は年200億〜300億立方メートルの規模へと一挙に増加し、国内の改質水素では足りなくなる。これにより海外からのCO2フリー水素エネルギーの大量導入が始まる。

 (3)この大量導入が始まると、FCVなどの燃料もCO2フリー水素に置き換えられ、FCV本来の環境性能が発揮されるようになる。製造業やその他の分野にもCO2フリー水素エネルギーが導入され、「水素社会」への移行が本格化する。

 このシナリオの実現のためには、以下のようなことに取り組む必要がある。まず再エネ由来のCO2フリー水素の製造コストの低減と、その大量供給チェーンの構築である。そのコストが下がるまでの間は、化石燃料の改質で製造した水素とCCS(CO2の回収・貯留)を組み合わせ、事実上CO2フリーとした比較的安価な水素を利用するのが実際的だろう。

 大量供給チェーンの構築にあたっては、エネルギーキャリア(体積当たりのエネルギー密度が非常に小さく、大量輸送や貯蔵が容易ではない水素を、輸送、貯蔵が容易な状態または別の物質に変換したもの)の開発を進めることも必要である。利用技術面では水素エネルギーを燃料とする発電用のタービンや大型燃料電池、工業炉などの開発と実証を進めることが課題だ。これらの開発は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で昨年から始まっている。

 こうした取り組みにより、可能な限り早期に「水素社会」が到来することを期待したい。その実現は、日本のエネルギー・環境制約を克服するための数少ない実際的方途と考えるからだ。

〈ポイント〉
○化石燃料の削減には再エネの大量導入必要
○国内の再エネ資源は質・量ともに限られる
○燃料電池普及だけでは省エネ効果は限定的

 しおざわ・ぶんろう 52年生まれ。横浜国大大学院修了。元内閣府審議官(科学技術政策担当)。住友化学理事

[日経新聞4月21日朝刊P.25]


 

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コメント
 
01. taked4700 2015年5月02日 00:02:08 : 9XFNe/BiX575U : ydlnBLGAuw
現状で自然エネルギーを使って水素を作るというのは現実味がありません。

太陽光や風力を使っても、コストがかかるだけであまり効果はありません。

やるなら、地熱とか潮力ですが、現状ではあまりに取組みが遅いですね。

また、地熱は本来そのまま電力供給に使えるので、水素にするのは却って効率が落ちます。

ともかく、地熱開発をもっと大規模にやらないと何も始まりません。


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