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シェルがBGを買収:原油安がもたらしたエネルギー産業の構造変化 石油からガスへ、上流から中・下流へ
http://www.asyura2.com/09/eg02/msg/1547.html
投稿者 rei 日時 2015 年 4 月 17 日 07:03:09: tW6yLih8JvEfw
 

シェルがBGを買収:原油安がもたらしたエネルギー産業の構造変化

石油からガスへ、上流から中・下流へ

2015年4月17日(金)  The Economist

 なかなか期待に応えてくれない――。英国第3位のエネルギー会社、BGグループには長年にわたってそんな嘆きの声が向けられていた。前途洋々だったにもかかわらず、同グループの事業は問題を抱え、経営は安定性を欠き、株価は低迷した。株価は過去1年の間に20%下落率した。

 そこに、巨大企業、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが襲いかかった。シェルは現金と株式合わせて470億ポンド(約8兆4000億円)でBGを買収する。入札直前の株価の50%増しの金額で株主から株式を買い取る。規制当局から「待った」がかからなければ15カ月以内に3000億ドル(約36兆円)規模の石油ガス会社が誕生することになる。


出所:The Economist/ Bloomberg、各社の発表
石油・ガス保有埋蔵量を25%拡大

 ここ数年間、BGを巡る買収の噂は立っては消えることを繰り返していた。そうした中で成立した今回の案件を見ると、苦境にある国際石油メジャーにとって、新たな油田を調査・開発するよりも、埋蔵量を既に獲得している企業を買収するほうが簡単で、しかも安上がりであることが分かる(たとえ買収価格が値の張るものであったとしても、である)。

 また、この買収劇は原油価格が下落した昨年以降の業界再編の広がりも浮き彫りにした。エネルギー企業は株主をなだめるためコストを削減するのに躍起になっている。昨年11月、米国ヒューストンに本社を置く石油サービス会社のハリバートンは、規模の劣る同業の米ベーカー・ヒューズを350億ドル(約4兆2000億円)で買収した。

 これよりずっと大規模な今回のBG買収によって、減少を続けていたシェルの石油・ガス保有埋蔵量は4分の1増しとなる。両社は合併後、世界第3位の生産量を誇るガス生産会社に生まれ変わる(図参照)。欧米資本としては石油・ガスの生産量で最大。時価総額でもエクソンモービルに次ぐ第2位となる。

 この買収により、シェルの株主たちが抱いていた懸念の1つ、つまり「長期的安定に必要なリザーブ・リプレースメント(新たな埋蔵量を確保すること)が間に合わない」という不安は払拭される。だが、これと矛盾するようなもう1つの不安――その浪費ぶりで知られる経営陣が、本来なら株主に還元できるはずの現金を買収に湯水のごとく注ぎ込んでいる、という懸念――はそのままだ。

 これに対してシェルは反論する。同社は既に設備投資を150億ドル(約1兆8000億円)削減していると発表済みだ。そして2016〜2018年には資産売却を300億ドル(約3兆6000億円)に引き上げるという。また、新たに拡大する株主層への配当を維持し、自社株買いを増やすと主張している。シェルは今回の買収で、総額25億ドル(約3000億円)のコスト削減を見込んでいる。コスト減は購買から取引に至るあらゆる局面に及ぶ。

石油よりガスの方が有望

 今回の案件からはエネルギー産業におけるカネの動きがよく分かる。シェルの経営陣は、石油産業における中流(輸送)と下流(精製・販売)の事業の魅力が高まっていることを示した。新たに石油やガスが埋まっている場所を突き止めて開発するよりもリスクが少なく、利幅も大きいからだ。例えばBGの強みの1つはガスの液化と輸送、そして保管である。BGが保有する巨大なタンカー群があれば、世界のガス市場におけるシェルの影響力は増大するだろう。

 この買収は1つの重要な変化を示している。今や天然ガス事業の方が石油事業よりも有望であることだ。シェルは大手石油会社というより大手ガス会社となる。ただし、簡単に利益を手にできるわけではない。世界のガス産業はコスト高と低価格に悩まされてきた。コスト高は、地底に眠るガスの多くが北極圏や深海など探索の困難な場所にあることから生じる。低価格は、他の燃料との競争や米国におけるシェールガスの供給過剰状態がもたらすものだ。

 それでもガス市場は成長を続けており、供給量は豊富で、環境問題の展望は石油よりも明るい。BGは東アフリカ、カザフスタン、トリニダード・トバゴなどの沖合いに有望な資産を持っている。一方で、問題を抱える資産もある。エジプトへの大型投資は政情不安のため回収が滞っている。その他はまずまずで運んでいる。200億ドル(約2兆4000憶円)を投じたオーストラリアでのプロジェクトは石炭層 から液化天然ガス(LNG)を生産することに成功している。

 シェルは中国や米国で取り組んだ、シェールを狙った冒険的事業でつまずいて以降、沖合いに眠る天然ガスに投資するようになった。シェルのサイモン・ヘンリー最高財務責任者(CFO)は、LNGの供給過剰状態がいつまでも続くとは思わないと述べている。いずれにしても、規模と体力のある企業の方が危機を切り抜けるのに有利だ。

BPでさえ買収・合併の埒外にはいられない

 シェルによるBG買収が、他の買収の引き金となる可能性がある。前回、原油価格が暴落した1990年代には買収・合併が相次いで起った。買収の標的となり得る企業の1つに英国の石油ガス探査会社タローオイルがある(同社の株価は昨夏から半値となっていたが、今回のBG買収の報道を受けて9%上昇した)。スリルとリスクが共存するプロジェクトを抱えるこうした小企業は、現状において特に危うい立場にいる。

 一方、大企業を標的とした案件も考えられる。英国最大のエネルギー会社であるBPでさえも例外ではない。同社の企業価格はもはや「手が届かない」というほどではないからだ。

 BGを吸収したシェルはしばらく後処理に追われそうだ(特に過去の買収を経た後の様々な実績を考えた場合)。だが新会社の米国における主要ライバル2社、シェブロンとエクソンモービルのいずれかが触発され、支配権の奪回を狙ってBPに攻勢をかける可能性がある。

今回の買収はシェルとBGそれぞれの課題を解消

 世間はシェルとBGの統合案件に熱狂しているが、この統合の理由は主に両社の必要性によるものだ。BGは株主の失望を買うことはなくなっていたし、ノルウェー国営石油会社スタトイルでCEOを務めていた 有能なヘルゲ・ルンドを新CEOに迎えてもいたが、その命運は不確実性の高いガス市場とあまりにも密接に連動していた。また、石油事業における主要提携先であるブラジルの国営石油会社ペトロブラスは汚職スキャンダルのさなかにある。

 一方、シェルは所有埋蔵量を補充し、コストを削減しようと奮闘していた。BGがシェルの期待どおりの企業であるなら、この合併によって新会社には今後数年間にわたって現金が流れ込む。そしてシェルの願いが叶って石油価格が1バレル当たり90ドル(約1万800円)を回復すれば、長期展望も明るいものとなる。

 石油価格が下落したことで、長期にわたる困難な大規模生産・探索プロジェクトに投資する大企業の弱さが露呈した。景気のいい時代には技術的な難関にエンジニアたちは奮い立ち、拡大するバランスシートに重役たちは舞い上がったものだが、現在、彼らは膨らむ負債と株価の下落にあえいでいる。欧米の主要エネルギー会社の負債は今年、総額で310億ドル(約3兆7000億円)増加した。株価は昨年の夏以来、16%強目減りしている。その結果、エネルギー会社は市場で資産を売却している状態だ。

 シェルとBGの合併劇、そして今後生じるであろう合併・吸収の背景に存在するのはエネルギー産業における根本的な変化だ。一部の予想に反し、原油価格が下落しても米国のシェールブームの勢いは衰えていない。コスト削減、生産性の改善、そして市場変動への適応において、業界を長らく支配してきた巨大企業よりも、小規模で柔軟性と革新性を備え、水平掘削と水圧破砕法に特化した企業の方が優れていることがわかった。種の保存のためには恐竜も”つがう”ものだが、今は哺乳類の時代なのだ。

©2015 The Economist Newspaper Limited.
Apr 11th 2015 | From the print edition 2015 All rights reserved.

英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。

このコラムについて
The Economist

Economistは約400万人の読者が購読する週刊誌です。
世界中で起こる出来事に対する洞察力ある分析と論説に定評があります。
記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。
このコラムではEconomistから厳選した記事を選び日本語でお届けします。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150415/279977  

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コメント
 
01. 2015年4月21日 16:23:16 : nJF6kGWndY

愚かな規制は国民負担と産業の衰退という形で返ってくる

http://jp.wsj.com
米電力料金の高騰―業界特有の会計が要因にREBECCA SMITH原文(英語)
2015 年 4 月 21 日 14:04 JST

老朽化した電柱を取り換えることに同社が投資をすると、それに基づいて現在10.45%となっている年間利益を45年間得られる権利を確保することになる Fred Prouser/REUTERS
 ニューヨーク州の一般家庭が支払う電気料金は10年前より4割上昇した。その一方で、同州で発電の主要燃料である天然ガスの価格は39%下がっている。
 消費者が天然ガス価格の下落の恩恵を感じられないのはなぜなのだろう。燃料費は電気料金の少なくとも4分の1を占めているというのに。
 大きな理由の1つに電力会社の巨額の設備投資がある。ニューヨーク州の電力会社各社は発電所から汚染制御装置に至るまで新たな設備に過去10年間で170億ドル(約2兆円)を投資している。そしてこの急増する費用を顧客が負担しているのだ。
 ジーンズ大手リーバイ・ストラウスの元会長で、2013年にニューヨーク州当局のエネルギー担当顧問に就任したリチャード・カウフマン氏によると、ニューヨーク州の電力会社の投資計画により、電力料金は向こう10年間でさらに63%上がる可能性があるという。同氏はそれが「ニューヨークにとって持続可能な道ではない」と指摘する。
 ニューヨーク州が例外なのではない。設備投資は全米各地の電力会社で増えており、それに伴って顧客の電気料金も上がっている。
 昨年の平均電力価格は1キロワット時(kWh)当たり12.5セントで前年比3.1%高となり、インフレ率を大幅に上回った。連邦政府の統計によると、米国の家庭向けの電力料金は04年以降4割上昇している。
 業界団体のエジソン電気協会(EEI)によれば、同じ期間中に投資家所有の電力会社の設備投資額は2倍以上に増えた。つまり14年の設備投資額は1030億ドルと、04年の410億ドルから急増した。EEIは03年から16年までの設備投資総額が1兆ドルを超えるとみている。
 独立系のコンサルタントで、オハイオ州立大学の元エネルギー問題研究員ボブ・バーンズ氏は、「この設備投資の急増は過去30年で最大だ。これが、電気料金が上がり続けている理由だ」と話す。

左図:電力会社の設備投資、右図:米国の一般家庭電力料金
 EEIによれば、この設備投資のうち一番大きな部分(13年は38%)は、新たな送電線など送電システムに使われているという。また、これとほぼ同じくらいの資金が発電に使われており、多くは天然ガス火力発電所の新設に利用されている。新しい環境規制に合致しない石炭火力発電所の代わりとなる施設だ。
 専門家たちは、設備投資急増の理由がいくつか存在すると指摘する。環境上の規制順守の必要性、悪天候や物理的攻撃、さらにはサイバー攻撃から守るための送電網強化といった理由だ。
 しかし電力会社を巨額の設備投資に向かわせる誘因はもう一つある。設備投資は、実際には会社のボトムライン(利益)を増やすのだ。企業会計をいわば逆立ちさせたような業界規制の結果だ。
 大半の業界では、企業が生み出す売り上げからコストを引き、残ったものが利益となる。これが売り上げに占める比率は「利益率」と称される。これに対し、規制を受ける電力会社は違う仕組みを持つ。通常、州の規制当局が電力会社の「許容可能な利益率」を設定し、その後に電気料金を設定する。費用がカバーでき電力会社に利益が出る程度の売り上げを達成できるような水準に設定するのだ。
 現在、電力会社の「許容可能な利益」の上限は通常、株主資本(自己資本)の10%前後に設定されている。株主資本は、送電線、発電所やその他の資産への投資に使われている。このため、電力会社は投資をすればするほど、利益を増やせる。
 これが、必要でないかもしれないプロジェクトへの投資を促しかねないと指摘する向きもある。電気自動車の充電スタンドの整備や、低コストな設備の代わりに高コストの設備を選ぶといったことだ。
 独立系の電力会社を代表することの多いウィンストン・アンド・ストロウン法律事務所の弁護士ジェリー・R・ブルーム氏は、「電力会社が支出額に応じて報酬を受けられるシステムを変えない限り、このメンタリティーを壊すのは困難だ」と話している。
 サザン・カリフォルニア・エジソン社(ソーカル・エジソン=エジソン・インターナショナルの子会社)は、約10億ドル支出して、数千本に上る電柱を建てかえないし修理する計画だ。コストは1本当たり1万3000ドル(約155万円)だ。50年前に立てた老朽化した電柱を取り換えることに同社が投資をすると、それに基づいて現在10.45%となっている年間利益を45年間得られる権利を確保することになる。
 サンフランシスコに本拠を置く監視団体「公益事業改革ネットワーク」の法律専門家ボブ・フィンケルスタイン氏は、ソーカルが突然電柱に関心を持ったのは、「彼らが過去において怠慢であったか、あるいはカネを使う方策を探しているからだろう」と述べた。
 これに対しソーカル・エジソン幹部のマイク・マレッリ氏は、同社は電柱5000本を検査した結果、保守の遅れに対処するのに大規模な計画が必要と判断したと述べた。
 かくして同社は2014年から17年までの間に何十にも上る計画を実施し、総額150億−170億ドルを投資することになっている。


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