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シェルがBGを買収:原油安がもたらしたエネルギー産業の構造変化
石油からガスへ、上流から中・下流へ
2015年4月17日(金) The Economist
なかなか期待に応えてくれない――。英国第3位のエネルギー会社、BGグループには長年にわたってそんな嘆きの声が向けられていた。前途洋々だったにもかかわらず、同グループの事業は問題を抱え、経営は安定性を欠き、株価は低迷した。株価は過去1年の間に20%下落率した。
そこに、巨大企業、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが襲いかかった。シェルは現金と株式合わせて470億ポンド(約8兆4000億円)でBGを買収する。入札直前の株価の50%増しの金額で株主から株式を買い取る。規制当局から「待った」がかからなければ15カ月以内に3000億ドル(約36兆円)規模の石油ガス会社が誕生することになる。
出所:The Economist/ Bloomberg、各社の発表
石油・ガス保有埋蔵量を25%拡大
ここ数年間、BGを巡る買収の噂は立っては消えることを繰り返していた。そうした中で成立した今回の案件を見ると、苦境にある国際石油メジャーにとって、新たな油田を調査・開発するよりも、埋蔵量を既に獲得している企業を買収するほうが簡単で、しかも安上がりであることが分かる(たとえ買収価格が値の張るものであったとしても、である)。
また、この買収劇は原油価格が下落した昨年以降の業界再編の広がりも浮き彫りにした。エネルギー企業は株主をなだめるためコストを削減するのに躍起になっている。昨年11月、米国ヒューストンに本社を置く石油サービス会社のハリバートンは、規模の劣る同業の米ベーカー・ヒューズを350億ドル(約4兆2000億円)で買収した。
これよりずっと大規模な今回のBG買収によって、減少を続けていたシェルの石油・ガス保有埋蔵量は4分の1増しとなる。両社は合併後、世界第3位の生産量を誇るガス生産会社に生まれ変わる(図参照)。欧米資本としては石油・ガスの生産量で最大。時価総額でもエクソンモービルに次ぐ第2位となる。
この買収により、シェルの株主たちが抱いていた懸念の1つ、つまり「長期的安定に必要なリザーブ・リプレースメント(新たな埋蔵量を確保すること)が間に合わない」という不安は払拭される。だが、これと矛盾するようなもう1つの不安――その浪費ぶりで知られる経営陣が、本来なら株主に還元できるはずの現金を買収に湯水のごとく注ぎ込んでいる、という懸念――はそのままだ。
これに対してシェルは反論する。同社は既に設備投資を150億ドル(約1兆8000億円)削減していると発表済みだ。そして2016〜2018年には資産売却を300億ドル(約3兆6000億円)に引き上げるという。また、新たに拡大する株主層への配当を維持し、自社株買いを増やすと主張している。シェルは今回の買収で、総額25億ドル(約3000億円)のコスト削減を見込んでいる。コスト減は購買から取引に至るあらゆる局面に及ぶ。
石油よりガスの方が有望
今回の案件からはエネルギー産業におけるカネの動きがよく分かる。シェルの経営陣は、石油産業における中流(輸送)と下流(精製・販売)の事業の魅力が高まっていることを示した。新たに石油やガスが埋まっている場所を突き止めて開発するよりもリスクが少なく、利幅も大きいからだ。例えばBGの強みの1つはガスの液化と輸送、そして保管である。BGが保有する巨大なタンカー群があれば、世界のガス市場におけるシェルの影響力は増大するだろう。
この買収は1つの重要な変化を示している。今や天然ガス事業の方が石油事業よりも有望であることだ。シェルは大手石油会社というより大手ガス会社となる。ただし、簡単に利益を手にできるわけではない。世界のガス産業はコスト高と低価格に悩まされてきた。コスト高は、地底に眠るガスの多くが北極圏や深海など探索の困難な場所にあることから生じる。低価格は、他の燃料との競争や米国におけるシェールガスの供給過剰状態がもたらすものだ。
それでもガス市場は成長を続けており、供給量は豊富で、環境問題の展望は石油よりも明るい。BGは東アフリカ、カザフスタン、トリニダード・トバゴなどの沖合いに有望な資産を持っている。一方で、問題を抱える資産もある。エジプトへの大型投資は政情不安のため回収が滞っている。その他はまずまずで運んでいる。200億ドル(約2兆4000憶円)を投じたオーストラリアでのプロジェクトは石炭層 から液化天然ガス(LNG)を生産することに成功している。
シェルは中国や米国で取り組んだ、シェールを狙った冒険的事業でつまずいて以降、沖合いに眠る天然ガスに投資するようになった。シェルのサイモン・ヘンリー最高財務責任者(CFO)は、LNGの供給過剰状態がいつまでも続くとは思わないと述べている。いずれにしても、規模と体力のある企業の方が危機を切り抜けるのに有利だ。
BPでさえ買収・合併の埒外にはいられない
シェルによるBG買収が、他の買収の引き金となる可能性がある。前回、原油価格が暴落した1990年代には買収・合併が相次いで起った。買収の標的となり得る企業の1つに英国の石油ガス探査会社タローオイルがある(同社の株価は昨夏から半値となっていたが、今回のBG買収の報道を受けて9%上昇した)。スリルとリスクが共存するプロジェクトを抱えるこうした小企業は、現状において特に危うい立場にいる。
一方、大企業を標的とした案件も考えられる。英国最大のエネルギー会社であるBPでさえも例外ではない。同社の企業価格はもはや「手が届かない」というほどではないからだ。
BGを吸収したシェルはしばらく後処理に追われそうだ(特に過去の買収を経た後の様々な実績を考えた場合)。だが新会社の米国における主要ライバル2社、シェブロンとエクソンモービルのいずれかが触発され、支配権の奪回を狙ってBPに攻勢をかける可能性がある。
今回の買収はシェルとBGそれぞれの課題を解消
世間はシェルとBGの統合案件に熱狂しているが、この統合の理由は主に両社の必要性によるものだ。BGは株主の失望を買うことはなくなっていたし、ノルウェー国営石油会社スタトイルでCEOを務めていた 有能なヘルゲ・ルンドを新CEOに迎えてもいたが、その命運は不確実性の高いガス市場とあまりにも密接に連動していた。また、石油事業における主要提携先であるブラジルの国営石油会社ペトロブラスは汚職スキャンダルのさなかにある。
一方、シェルは所有埋蔵量を補充し、コストを削減しようと奮闘していた。BGがシェルの期待どおりの企業であるなら、この合併によって新会社には今後数年間にわたって現金が流れ込む。そしてシェルの願いが叶って石油価格が1バレル当たり90ドル(約1万800円)を回復すれば、長期展望も明るいものとなる。
石油価格が下落したことで、長期にわたる困難な大規模生産・探索プロジェクトに投資する大企業の弱さが露呈した。景気のいい時代には技術的な難関にエンジニアたちは奮い立ち、拡大するバランスシートに重役たちは舞い上がったものだが、現在、彼らは膨らむ負債と株価の下落にあえいでいる。欧米の主要エネルギー会社の負債は今年、総額で310億ドル(約3兆7000億円)増加した。株価は昨年の夏以来、16%強目減りしている。その結果、エネルギー会社は市場で資産を売却している状態だ。
シェルとBGの合併劇、そして今後生じるであろう合併・吸収の背景に存在するのはエネルギー産業における根本的な変化だ。一部の予想に反し、原油価格が下落しても米国のシェールブームの勢いは衰えていない。コスト削減、生産性の改善、そして市場変動への適応において、業界を長らく支配してきた巨大企業よりも、小規模で柔軟性と革新性を備え、水平掘削と水圧破砕法に特化した企業の方が優れていることがわかった。種の保存のためには恐竜も”つがう”ものだが、今は哺乳類の時代なのだ。
©2015 The Economist Newspaper Limited.
Apr 11th 2015 | From the print edition 2015 All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
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The Economist
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