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最軽量元素、重たい課題 水素、次世代エネに期待
コスト抑制・供給安定、海外生産も模索
水素が次世代エネルギーとして注目されている。石油などの化石燃料とは異なり、燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さず、水などの形で身近に豊富に存在する。水素と酸素を反応させてつくった電気で駆動する燃料電池車(FCV)や、水素ガスを燃料にしてタービンを回す発電技術など、「水素社会」の到来が現実味を増しつつある。だが、肝心の水素はどこでどのように製造されているのか。安定調達は可能なのか。
千葉県市原市。東京湾に面した工業地帯に産業用水素の国内最大手、岩谷産業の製造拠点がある。水素をセ氏マイナス253度に冷やして液化、体積を800分の1にしトレーラーで大量輸送する。
燃焼でCO2出さず
もととなる水素は、隣接する旭硝子の工場で塩水を電気分解してガラス原料のカセイソーダをつくる際の副生物だ。旭硝子からパイプラインで岩谷の工場に送られ、それを精製・液化している。
水素はあらゆる物質のなかで最も軽い。単位重量あたりの発熱量はガソリンの2.7倍だ。燃やしても空気中の酸素と反応して水が生じるだけでCO2を出さず環境に優しい。だが自然界では酸素と結びついて水となり、水素そのものとしては存在しない。
このため石油や天然ガスのように採取するわけにはいかず、水素原子を含んだ物質を分解して取り出す必要がある。国内に液化水素工場を3カ所持つ岩谷は「カセイソーダの副生水素を使うか、(水素を含む)天然ガスを改質して水素を得ている」。
水素は石油精製では原油から硫黄分を取り除く役割を果たし、鉄鋼業ではステンレス鋼の表面を輝かせるための添加剤として使う。口紅やマーガリンの製造でも油脂を固めるのに活躍している。工業品の生産に必要な産業素材として広く使われており、石油精製会社や製鉄会社は生産過程で出てくる水素の大半を工場内で自ら利用している。
水素がいま注目されているのは、その用途が広がりを見せているからだ。昨年末のトヨタ自動車に続き、ホンダも2015年度中にFCVを発売する計画。三菱重工業や川崎重工業などは水素発電技術の開発を進めている。
暮らしの中で日常的に水素を使えるようにするには民生向けや発電向けなどに安定供給できるだけの実力があるかどうかが問題になる。
8割は自家消費
一般財団法人エネルギー総合工学研究所の試算では、日本国内の石油精製会社などの合計水素製造能力は年間356億ノルマル立方メートル(セ氏零度、1気圧での体積)。その8割強が自家消費される。
外部供給できる量は65億ノルマル立方メートル程度で、出力100万キロワット級の水素発電所2基とFCV約160万台(国内の乗用車保有台数全体の3%弱)を満たせる程度だ。エネルギー総合工学研は現在のままでは20年以降は水素の供給力不足に陥ると予測する。
そこで打開策と期待されているのが海外で水素をつくって日本に運ぶ方法だ。
オーストラリア南東部。褐炭と呼ぶ低品質で安価な石炭をガス化し、水素を大量生産して日本に運ぶプロジェクトが進行中だ。川崎重工が主体となり、20年の試験稼働をめざしている。水素の供給量確保に加え、もう一つの課題である水素の販売価格の引き下げも狙う。「25年には水素の卸価格は現在の半値(1立方メートルあたり30円程度)にしたい」と同社の西村元彦水素プロジェクト部長は意気込む。
岩谷やJX日鉱日石エネルギーなどは現在、FCV向けに水素を1立方メートルあたり100円以下で小売りしている。これでFCVの燃料費はハイブリッド車(HV)並みになっているが、「採算は度外視した」(JXエネの内島一郎副社長)。事業として成立するには60円程度の水素の卸価格の大幅引き下げが必要だ。
新たな視点での水素製造の取り組みも出てきた。文字通りクリーンな水素(CO2フリー水素)をつくる動きだ。水素を石油精製や製鉄の生産過程や、天然ガスや石炭の改質から得る限り、水素の使用時にCO2が出なくても製造時にCO2が出る。
東芝は川崎市と連携し、15年度から再生可能エネルギーを使って水素をつくる実証実験を始める。太陽光発電の電気を蓄電池にため、必要な時に電気で水を分解して水素をつくる。水素は燃料電池に供給され、電気や温水ができる。水処理国内最大手のメタウォーターは下水汚泥からつくったバイオガスを改質して水素を得て、燃料電池に供給するプラントづくりを進める。
エネルギーとしての水素の活用は緒に就いたばかりだ。家庭用燃料電池やFCVの市販など日本は実用で先行する。石油危機後の省エネのように、化石資源枯渇や温暖化という地球的課題の克服をめざす水素技術も日本の看板になりそうだ。
(榊原健)
キーワード 燃料電池
燃料である水素と空気中の酸素を化学反応させて電気と温水をつくるシステム。家庭用燃料電池は2009年に日本で初めて市販された。都市ガスを装置内で改質して水素を取り出す際に二酸化炭素(CO2)を排出するが、火力発電の電気を使い従来型給湯器でお湯をつくる場合と比べて「トータルのCO2発生量は半分程度で済む」(東京ガス)。
工場や店舗向けの発電量が多い産業用燃料電池の開発も進んでいる。三菱日立パワーシステムズや三浦工業などが17年度の商用化をめざしている。燃料電池車(FCV)はタンクに充填した水素を使って燃料電池で電気をつくり、その電気でモーターを回して走る。
[日経新聞3月27日朝刊P.37]
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