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核融合発電、再燃する開発競争 “地上の太陽”にあと一歩、2020年代前半にも実用化か
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投稿者 eco 日時 2015 年 2 月 13 日 12:22:28: .WIEmPirTezGQ
 

 
日経エレクトロニクス 2015年2月号
核融合発電、再燃する開発競争 【第1部:全体動向】“地上の太陽”にあと一歩、2020年代前半にも実用化か
野澤 哲生2015/01/19 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2015年2月号、pp.44-48(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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2015年02月20日までは特別に誰でも閲覧できるようにしています。
“夢のエネルギー”核融合発電は、現行の原子力発電に比べてはるかに安全で、燃料も無尽蔵に近い。実用化できれば原子力発電を置き換え、化石燃料も不要になる。開発や実用化の動きが国内外で活発になってきた。

 「国際熱核融合実験炉(ITER)†計画の後を見据えた開発競争が始まった」─。核融合発電技術のある研究者は、同技術を巡る新しい動きについてこう表現する。

†ITER=International Thermonuclear Experimental Reactor。核反応のエネルギーが500MW規模の炉で、核融合状態を300〜3000秒維持すると共に、投入エネルギーに対する出力エネルギーの比(エネルギー増倍率)で5〜10の実現を目指す計画。全体計画では、発電システムの検証は含まれていない。予算は、欧州が45%、残りの6カ国が約9%ずつ負担する協定になっている。初期の構想は1985年に持ち上がった。当初の参加国・地域は、米国、当時のソビエト連邦(ソ連)、日本、欧州。1999年に米国が脱退し、2001年にカナダが加入。2003年には米国が復帰したが、カナダが脱退。2003年以後、中国、韓国、インドが参加した。2007年に実施主体のITER国際核融合エネルギー機構が発足した。
 新しい動きとは、日本や韓国、中国などで、本来はITERの後に実現する予定だった「原型炉(DEMO)†」の設計が始まりつつあること(図1)。加えて、米国を中心に核融合発電を目指す民間企業が続々と生まれていることである(表1)。

†原型炉=7カ国・地域が協力して建設、運用するITERとは別に、各国が独自に建設する、商用炉の原型となる核融合炉。商用炉のデモ炉という理由で「DEMO」とも呼ばれる。日本でのDEMO計画は複数あり、「Slim CS」「CREST」などという名がある。韓国では「K-DEMO」という名前である。

図1 国レベルの核融合発電が2040年前後から実現へ
国の助成で進められている核融合発電技術の今後のロードマップを示した。ITERのロードマップは本誌推定。
表1 “核融合ベンチャー”が続々登場

 米Lockheed Martin社が2014年10月に独自の核融合炉技術の特許公開と併せて「核融合発電を10年以内に実現する」と発表したのも、その動きの1つだ。こうした民間企業の多くは、2020年代前半の実用化を目指している。

船頭多くして船山に登る

 核融合発電技術は、ある時期まではムーアの法則に従う半導体技術と競い合うように年ごとに性能が向上し、1990年半ばには性能指標上は核融合の実用化まであと一歩という段階に達した(図2)。ところが、その後は性能向上がほぼ止まり、約20年も停滞期が続いた。


図2 1990年代までの技術向上はトランジスタの進化に匹敵
ムーアの法則に沿ったトランジスタの集積度の向上と、核融合発電技術の性能指標「核融合3重積」の向上を比較した。1990年半ばまでは両者の値は共に1年半〜2年で2倍の勢いで向上した。(図:那珂核融合研究所の資料を基に本誌が作成)
 理由は、そのまさに「あと一歩」の実現を目指したITER計画が大幅に遅れていることにある。ITERは、核融合発電技術を実証する初めての核融合炉として計画された。ところが、炉が完成するのは現行の計画では2019年。実際には2023年以降になると見られている。核融合状態の実証にいたっては、2030年以降にずれ込む見通しだ。計画が持ち上がった1987年時点の構想に対しては、約14年の遅れになる。

 遅れの原因は、1つは実験技術から実用化技術へのハードルが非常に高かったことだ。ただし、それ以上に“船頭”が多すぎた。日本、欧州など世界の7〜8カ国・地域が、予算配分や炉の建設地の選定を巡って政治的な綱引きを繰り返し、時間と予算を浪費したのである。当初の炉の建設費見積もりは5000億円相当だったが、既に約2兆円掛かっている。最終的にはその数倍になるとの見通しもある注1)。

注1)この数兆円とされる開発費用についても、核融合発電技術を推進する人の多くは、多くのメリットに比べれば十分安いとみる。「インターネットやiPhoneの開発には累計1兆米ドル(約120兆円)規模の資金が投入されている。それに比べればずっと安い」(カナダの核融合ベンチャー企業 General Fusion社創業者のMichel Laberge氏)
ITERを待たずに原型炉へ

 ITERに参加する各国・地域は、ITERで核融合の実用化技術を実証した後に、それぞれの原型炉を開発し、それを基に実用化へ進む計画だった。ところが、ITERの大幅遅れにしびれを切らした一部の国が、原型炉の実現に向けて動き始めた(図1)。例えば、中国はITERの本格稼働前に独自の原型炉を2025年までに完成させる計画である。日本でも、ITERと原型炉のつなぎと位置付けていたJT-60SAがITERより早く完成し、2019年に試運転を開始する見通しである。

 一方、民間企業はITERの遅延をむしろチャンスと見る。20世紀にはなかった高度な情報技術(IT)や光学技術、コンピューターシミュレーション技術を駆使することで、それぞれ独自のアプローチで核融合発電技術の開発に乗り出している。一部のベンチャー企業には、IT企業大手の米Amazon.com社や米Microsoft社の創業者が出資を始めた。

エネルギー問題が解消

 核融合発電は、太陽がエネルギーを生む原理に近い仕組みを地上で再現し、発電につなげる技術である。実現すれば、そのインパクト、メリットは計り知れないほど大きい。

 メリットは大きく3つある。(1)核分裂に基づく既存の原子力発電に比べて、安全性が大幅に高い(図3、「核融合発電は“ノーマリーオフ”」参照)、(2)“燃料”はほぼ無尽蔵で入手コストも低く、将来数百万年にわたって持続可能である(表2)、(3)先進的な要素技術が幾つも開発され、発電以外にも多くの波及効果が生まれている(図4)、という3点である。


図3 既存の原子炉に比べて、過酷事故時の放射能汚染のリスクは1/100以下
(a)は、炉やその周辺設備に存在し、大気へ放出される可能性のある放射性物質のリスクを核分裂の原子炉と核融合炉とで比較した例。(b)は、青森県六ヶ所村の日本原子力研究開発機構青森研究開発センターにあるトリチウム回収プラントの一部。(図:核融合会議開発戦略検討分科会)
表2 “燃料”はほぼ無尽蔵、コストも安い


図4 波及効果を享受する分野は多い
トカマク型やレーザーを用いた核融合技術開発の波及効果の例を示した。
 燃料については、海水中の重水素(D)やリチウム(Li)を低コスト、低エネルギーで回収する技術が実用化、または実用化に近づいている(「海がLiの巨大“鉱脈”に、電力をほとんど使わない回収法も登場」参照)。Liの回収技術は、Liイオン2次電池を用いる電気自動車の将来にも大きな後押しとなる。これ以外にも、波及効果が大きい要素技術は数多い。

 第2部、第3部では、国レベルでのITER後を目指す動きや民間企業の開発技術とその進捗についてより詳しく解説する。

核融合発電は“ノーマリーオフ”
 核融合発電技術と、既存の原子力発電(核分裂)技術は、安全性という点で全く異なる技術である。核分裂は、基本的にオン、つまりノーマリーオンである。想定外の不具合や事故が起これば制御不能になり、時には爆発する。

 一方、核融合発電技術はノーマリーオフである。つまり、反応条件が想定からわずかでも外れた場合、その瞬間に炉が損傷する可能性はあるものの、その後、反応はすぐに止まり、暴走することがない。

 核分裂の原子炉の場合、あらかじめ相当量のウラン(235U)を炉内に配置し、それをゆっくり反応させる。235Uが炉内で核分裂を始めると、特に制御しなければ、連鎖反応が起こって核爆発する(図A-1)。もちろん実際の炉では、連鎖反応が起こらないよう制御するが、何らかの不具合や事故でその制御ができなくなる可能性は常に残る。しかも、235Uの核分裂の後に新たに生成する放射性物質は何万年も核分裂を続ける。この制御はまだ実現できていない。


図A-1 核融合技術と、他の発熱反応との違い
核融合技術で主流となっている核融合反応「D-T反応」の場合を示した。青字はノーマリーオフの操作や反応、赤字はノーマリーオンの操作や反応を指す。原子力発電での核分裂反応は、一度ウランが核分裂を始めると、常に暴走のリスクと隣り合わせになり、しかも完全に消すには数万年以上かかる。一方、D-T反応では、反応を成立させる条件の1つが崩れると、すぐに停止し、暴走の危険がない。
 一方、核融合では、ガスコンロのガスのように常に炉外から燃料を供給する。しかも、燃料のうち、重水素(D)は放射能を持たない。もう一方のトリチウム(T)は放射性物質だが、核融合反応が進む中でLiから生成するため、発電システム中に大量に保管する必要がない。炉材は中性子によって放射能を持つようになるが、その半減期はほとんどが数カ月以下と短い。長い材料でも100年でゼロに近づく。

海がLiの巨大“鉱脈”に、電力をほとんど使わない回収法も登場
 核融合発電と電気自動車(EV)が将来、リチウム(Li)資源の確保を巡って争い、それぞれの普及の足かせになる─。こうした懸念が払拭されそうだ。Liを海水中から回収する技術が実用化一歩手前だからである。

 現在、Liは塩湖などから年間2万5000トン生産されており、需要に変動がなければ200年以上は枯渇しないといわれている。しかし、蓄電池としてLiイオン2次電池を用いるEVの需要が本格化すれば一気に逼迫する。核融合発電でのLiの需要は世界で実用化が進んでもEVに比べれば少ないが、現在のLi生産量では不足しかねない。

海水中のLiを利用

 解決策は海水中のLiの利用だ。海水中のLiの量は塩湖などでの埋蔵量の約2万倍といわれる。低コストで回収できれば、Liの資源問題は雲散霧消する。

 現時点で有力な技術は大きく2つある。いずれも日本で開発された。1つは、北九州市立大学 教授の吉塚和治氏の研究チームが開発した「イオン形状記憶吸着材料」を用いる方法である(図B-1)。


図B-1 “イオン形状記憶吸着材料”で海水中のLiを回収
北九州市立大学 教授の吉塚氏の研究チームが開発した、イオン形状記憶吸着材料で海水中のLiを回収する技術を示した。酸化マンガンなどありふれた原材料を使うため、電気代以外は非常に安いという。(写真:吉塚氏)
 この材料は、酸化マンガン(Mn3O4)などの安い原料を基に作製できる。コストは現時点でLiCl1kg当たり1万〜2万円で、塩湖からの採掘コストの10倍以上と高い。ただし、「コストの9割以上がポンプの電気代。海水のくみ上げシステムに組み込めば、圧力損を除く電気代の多くが浮くためコストダウンできる」(吉塚氏)という。

 もう1つは、日本原子力研究開発機構 核融合研究開発部門 研究副主幹の星野毅氏が開発した方法である(図B-2)。Liイオンだけを選択的に通過させる材料と、海水中と希塩酸のLiイオンの濃度差を基にLiイオンを取り出す。


図B-2 Li回収と同時に発電
日本原子力研究開発機構の星野氏が開発した、海中のLiを回収する技術。Liイオンを選択的に伝導させる材料を用いる。Liイオンの濃度差で起電力が生じるため、回収と同時に発電する。
 特徴は、既に回収コストを、現行の塩湖などでの採掘コスト並みに下げられそうな点。Liイオンの回収と同時に発電もできる。「ポンプの電力を賄えそう」(星野氏)という。

この記事のURL:http://techon.nikkeibp.co.jp/article/MAG/20150108/397831/   

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