01. 2014年12月16日 07:10:25
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「「燃やさない文明」のビジネス戦略」 水素社会の明暗 明の定置型、暗の燃料電池車 2014年12月16日(火) 村沢 義久 大阪で1.2MWの燃料電池導入 大阪府は2014年12月2日、大規模定置型の燃料電池システムを導入し、大阪府中央卸売市場内に設置すると発表した。購入先は、ソフトバンクグループとアメリカBloom Energy社の合弁会社であるBloom Energy Japan(ブルーム・エナジー・ジャパン) 。 中央卸売市場は、野菜や果物、および水産物を扱うため、大量の電力を使う。現在の、関西電力との契約電力は4600kWである。それに対して、新たに導入する燃料電池システムの発電能力は1200kW(1.2MW)。Bloom Energy Japanの「Bloomエナジーサーバー」(出力200kW)6セットからなる。1MWを超える燃料電池は国内最大である。 完成は2014年度内の予定で、導入後は20年間にわたり燃料電池を常時定格出力で動かし、その電力は卸売市場が全量購入する。そのため、関西電力との契約電力は1200kW減って3400kWになる。 燃料電池システムや付帯設備および設置費用、燃料ガスの購入費用は全てBloom Energy Japanが負担する。従って、ユーザーである卸売市場は、初期コストゼロで燃料電池システムを設置でき、後は電力料金を支払うだけである。その料金は、発電量1kWh当たり25円に抑えるという。 この方式により、この卸売市場全体の通常と非常用を合わせた総合的な負担は燃料電池システムの導入前後で変わらない予定。 非常用電源も兼ねる 大阪府が、この卸売市場に燃料電池システムを導入することになったきっかけは、老朽化した非常用ディーゼル電源(900kW)を更新しようとしたことだ。 今回の燃料電池システムの発電能力は1200kWなので、非常用電源としての能力を3割以上増加させることになる。ディーゼル発電は非常用のみだが、燃料電池システムは、常用にも使えるため、関西電力との契約電力を26%減らせるという追加のメリットが得られることになったのだ。 この燃料電池システムは、都市ガス(主成分メタン)を使用現場で改質し、空気中の酸素と反応させて電力を生み出す仕組みだ。非常用電源は、系統電力が途切れた時にも機能しなければならないのだが、その時にガス管が損傷してしまったのでは役に立たない。この問題を克服するため、このシステムでは、中圧導管からガスの供給を受けることとした。 都市ガスは、上流側から高圧(10気圧以上)で送り出され、整圧器で中圧(数気圧)に整圧されたのち、再度整圧器を通して圧力を落として低圧で一般家庭などに供給している。 地震で被害を受けるのは主に末端の低圧導管。そのため、この燃料電池システムでは、地震に強い中圧導管から取り込む仕組みとしたのである。 汐留のソフトバンク本社に設置されたBloomエナジーサーバー(200kW) 出所:ソフトバンク 燃料電池車にアメリカから冷たい反応 水素の活用には、定置型と自動車向けがある。定置型の中でも、小型のものは、「エネファーム」の日本勢が先行しているが、大型で進んでいるのはBloom Energyなど海外勢だ。一方、燃料電池車(FCV)では、トヨタ、ホンダの日本勢がリードしている。 トヨタは、FCV「MIRAI(ミライ)」を12月15日に国内で発売すると発表した。価格は723万6000円(税込み)で、国からの補助金を活用すれば約520万円になる。ホンダも2015年度中にFCVを販売する予定と言う。 筆者は、定置型燃料電池と比較して、FCVの先行きには悲観的な見方をしている。日本では、「究極のエコカー」と呼ぶ人もいるのだが、世界の見方はかなり違っている。 まずは、テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)。マスク氏は、テスラの年次総会などで「燃料電池(Fuel Cell)は馬鹿電池(Fool Cell)」と発言し、FCVの普及には否定的な見方をしている。 マスク氏は、その理由として、水素燃料はつくるのに時間もコストもかかり、貯蔵、輸送が難しく、さらに安全性の問題があること、などを挙げている。 フォーブス誌も辛辣で、今年4月17日に発表されたコラムで、水素燃料補給の困難さなどネガティブな面を指摘した上で、「(トヨタのFCVは)買うのがバカバカしいほどのもの(ridiculous to buy)」と突き放している。 筆者は、FCVについて、マスクCEOやフォーブズ誌のように、「Fool」や「Ridiculous」などと言う気はない。トヨタの技術は素晴らしいものだと思う。しかし、FCVが「究極のエコカー」の座を勝ち取れる可能性は極めて低いと考える。 FCVには設計上の制約も これまでトヨタの最初の市販FCVは500万円台になると予想されていたのだが、実際には700万円台となった。補助金(約200万)を活用しても500万円台と高価だ。 対する、電気自動車の方は、日産「リーフ」(Sグレード)は287万円。そこから53万円の補助金分を差し引くと234万円まで下がる。「MIRAI」の半額以下だ。三菱「i-MiEV」(Mグレード)なら226万円。補助金分49万円を差し引くと177万円と、200万円を切る負担で入手できる。 しかも、「MIRAI」は全長4890mm、全幅1815mmという大きなサイズにもかかわらず、4人しか乗れない。5人乗りにできない理由は大きな水素タンクである。普通のガソリン車の燃料タンクは60リッター以下だが、「MIRAI」の水素タンクは倍の122リッターもある。 しかも、FCVのタンクは、高圧の気体(水素)を蓄えるために円筒形(あるいは球形)にせざるを得ないという制約がある。タンクを1個にすると、直径が大きくなって室内スペースが圧迫されるため、「MIRAI」では細めのタンク2個に分割したのだが、それでも5人乗りにすることができなかったのだ。 その点、EVでは、バッテリーパックを平たく作り、床下に装備することができるのでスペース的には全く問題ない。もちろん「リーフ」は5人乗りだ。 トヨタ「MIRAI」 出所:トヨタ自動車 インフラ整備で明暗 上述のように、筆者は、FCVの将来には悲観的だ。その理由は二つある。電気自動車は走行中のCO2の排出がゼロであり、充電を太陽光発電で賄うようになれば、さらに、排出量を減らすことができる。対するFCVは、水素を取得する段階でCO2が発生してしまうため、温暖化対策としての効果が非常に限定的である。 さらに、FCVの場合、水素供給のためのインフラ整備の困難さが大きなネックになる。水素は、数百気圧という高圧タンクに搭載することになり、そういう高圧水素を供給するステーションが必要になる。 ステーション建設に数億円というコストがかかるため、なかなか設置は進まない。目標自体が、2015年中に100カ所という小さなものだが、その達成も難しそうだ。実際、具体的な計画ができているのは40数カ所しかなく、稼働中のものとなると、20カ所にも満たない状況だ。これでは、本格普及は難しく、せいぜい「テスト販売」程度にしか対応できない。 日本初のガソリンスタンド併設水素ステーション 海老名中央水素ステーション 写真:JX日鉱日石エネルギー 対するEVの方は、現時点で、すでに6050カ所の充電拠点があり(普通3490+急速2560)、桁が二つも違っている。しかも、200Vの普通充電なら自宅でもできるので、充電拠点は事実上無限に存在すると考えても良い。 充電には8時間程度かかるが、夜寝ている間にやれば、朝起きた時には充電済みの愛車が待っている。オイル交換の必要もないので、ガソリンスタンドに行く手間もなくなるというわけだ。従って、「究極のエコカー」はバッテリー使用のEVであると考える。 このように筆者は、燃料電池車には否定的なのだが、定置型燃料電池の方はもっと可能性があると考える。一番の違いは、定置型は都市ガスを使うためにインフラ(ガス管)がすでに存在していることだ。 しかも、燃料電池が天候に関係なく安定的に電気を供給できるベースロード電源であるため、現在の電力会社から独立した地産地消(あるいは自産自消)の電力システムを構築できるという大きなメリットを持っている。 技術で勝って、ビジネスは? 最近の日本企業は、家電などに見られるように、「技術で勝ってビジネスで負ける」というバターンを繰り返している。FCVもその道を歩んでいるのではないだろうか。 トヨタFCVのセールスポイントは、EVと比べてエネルギーの補給が迅速で、かつ、航続距離が長いことだ。水素は3分程度で充填でき、約650キロメートル走ることができる。つまり、これらの点ではガソリン車と同等ということだ。 確かに技術は素晴らしい。しかし、ビジネス的にはどうなのか。トヨタは、今年12月に国内で発売し、15年末までに約400台の販売を目指すと言うが、「究極のエコカー」と意気込む割には何とも寂しい数字だ。しかも、すでに官公庁や企業を中心に約200台を受注している。つまり、一般ドライバー向けの販売目標は200台以下ということになる。 対するEVの販売も予想を大きく裏切ってはいるが、それでも、日産「リーフ」は月間販売台数1000台のペースを維持している。テスラの「モデルS」は、発売2年で累計販売台数は4万7000台に達している(2014年9月現在)。 21世紀は、シンプルな技術の組み合わせのもとに、ビジネスで勝つ時代。FCVはそのトレンドに逆行しているように感じる。 EVはバッテリー交換方式に期待 上で、「EVの販売も予想を大きく裏切っている」と言ったが、その最大の理由は、航続距離の不足と充電にかかる時間の長さだ。 幸い、この問題を解決するために、既存のバッテリーを使いながら、その運用を工夫することにより、使い勝手を飛躍的に良くする方法が提案されている。それが、バッテリー交換方式だ。 テスラは、2013年6月、イーロン・マスクCEO自ら、「モデルS」のバッテリー交換方式を披露した。この時には、同時にガソリン車の給油も行い、両者を競争させた。その結果、給油には3分半ほどかかるのに対し、バッテリー交換は半分以下の1分30秒ほどで終わった。 テスラは、交換ステーションを、まず、カリフォルニア州でロサンゼルスとサンフランシスコを結ぶ高速道路5号線沿いに展開し、次いで首都ワシントンからボストンへの道路にも建設する計画を発表している。それぞれの拠点で交換用バッテリー50セットを用意するという。 2014年10月現在、まだこのようなステーションは完成していないが、「有限実行」のマスク氏の手腕に大いに期待したい。 究極のエコカーはバッテリー使用のEVであり、発電の主役は構造が簡単で、設置の容易な太陽光発電である。太陽光発電の不安定さを補正するためには、バッテリーが必要で、そのコスト・パフォーマンスを劇的に向上させることが必須だ。 そういう大きな流れの中で、原発と火力発電に代わるベースロード電源として、定置型燃料電池にも期待がかかっている。 テスラ「モデルS」 バッテリー交換方式にも対応(ただし、交換ステーションは未整備) 出所:筆者撮影(車は木村理氏所有) このコラムについて 「燃やさない文明」のビジネス戦略
いま、大きな変革の節目を迎えようとしている。時代を突き動かしているのは、ひとつは言うまでもなく地球環境問題である。人口の増大や途上国の成長が必然だとしたら、いかに地球規模の安定を確保するかは世界共通の問題意識となった。そしてもう一つは、グローバル化する世界経済、情報が瞬時に駆け巡るフラット化した世界である。これは地球環境という世界共通の問題を巡って、世界が協調する基盤を広げるとともに、技術開発やルールづくりでは熾烈な競争を促す側面もある。 筆者は「燃やさない文明」を提唱し、20世紀型の石油文明からの転換を訴える。このコラムではそのための歩みを企業や国、社会の変化やとるべき戦略として綴ってもらう。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141212/275070/?ST=print |