02. 2014年12月12日 07:18:18
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「エネルギー 世界の新潮流」 再エネと顧客サービスに軸足を移す欧州の巨人 エーオンの歴史的な事業革新プラン 2014年12月12日(金) 山家 公雄 欧州最大のエネルギー会社エーオン(E-On)は、11月30日に、火力・原子力等の従来発電部門等を新会社に分離・独立させる(スピンオフ)、親会社は再生可能エネルギーと顧客サービス関連部門に集約するとの方針を発表した。スピンオフ方式の事業再編は、株主総会の承認を経て2016年より実施される。 欧州の大手エネルギー会社は、卸市場価格の低下、販売数量の減少に直面しており、経営が悪化している。特に従来型電源の発電事業は苦境に立っている。こうしたなかで、ドイツを主に世界規模で事業を展開するエーオンは、大胆な事業革新プランを発表した(資料1)。 資料1.エーオンの事業再編概念図 (出所)E.ON 従来型発電を移し、再エネと顧客周りに集中 新会社(子会社)は、【1】従来発電事業(火力、原子力、水力)、【2】国際エネルギー資源取引(グローバル・エネルギー・トレーディング)、【3】資源開発・生産事業の3事業を行う。2013年度の決算では、利払い前償却前税引き前利益93億ユーロのうち35%は【2】に属する。昨年度末の職員数は6万2000人であるが、新会社には2万人が移行する。本社はライン・ルール地方に置かれる。 スピンオフ後に残る「新生エーオン」(親会社)は、再生可能エネルギー、配電事業(顧客周りネットワーク)、顧客サービスにフォーカスする。再エネ事業と配電事業で利益の54%を占めている。4万人の社員がここに配置される。風力・太陽光の投資を増やしていく方針である。 同社の顧客数は3300万軒を誇るが、本年度は久方ぶりに増加する見通しであり、サービス充実の成果と自信を深めている。配電線は60万kmにも及ぶ。発電量の11%は再エネであり、容量は約1000万kWである。 新戦略を進めていくために、2015年の設備投資額を当初予定の43億ユーロからさらに5億ユーロ増額する。重点分野は、風力事業の拡大、ドイツとトルコの配電網のアップグレード、省エネ等顧客への新規サービス対策としている。 スピンオフ方式で事業再選を行わざるを得ない背景について、同社CEOのヨハネス・テイセンは、「【1】劇的に変わるグローバルエネルギー市場、【2】急速に進む技術革新、【3】多様化する顧客志向、という奔流の中では、エーオンの川上から川下まで取り込む広いスパンのビジネスモデルはもはや続けられない」と説明する。また、このスピンオフは「大胆な新しい経営の始まり」と位置付けている。 また、「二つの独立した会社は、環境激変により性格が異なってしまった事業を担うが、各々が明確なプロファイルとミッションをもっており、両社ともに生き延びていける。雇用確保の面でベストな方法であると固く信じる」としている。新戦略は雇用カットプログラムではないことを強調している。 エーオンは、市場価値ベースでドイツ最大のエネルギー会社である。一方で310億ユーロの純負債がある。ビジネス大転換の前提・準備として、これまでの負の資産を処理しなければならない。 発電事業の膨大な損失を処理 今年度は、第3四半期までに対前年比25%の減益であるが、第4四半期には45億ユーロの減損費用を計上する。第3四半期までに7億ユーロ超の減損費用を計上しており、大幅な積み増しになる。主たる減損処理の対象は、発電資産と南欧のオペレーション事業である。 スペインとポルトガルの子会社は、オーストラリアのインフラ投資会社であるマッコーリー(Macquarie)に、25億ユーロで売却することが決まっている。また、イタリアにある資産の処理を探求していく。北海で展開している資源開発・生産事業については、戦略的な方向性を検討するとしている。 スピンオフの第1ステップとして、新会社の株式のマジョリティは現在の株主に配布される。マイノリティはエーオンが保有するが、中期的に市場に売却する。通常の新規株式公開(IPO)のように、直ちに市場に売却はしない。投資家は新会社の株主とともに親会社の株式も所有できる。 こうして実現する資産処理や資金をテコに事業再編を実施し、再エネ等への投資を進めていく。なお、配当は2014年度、2015年度は一株当たり0.5ユーロを提案している。2012年度は1.10ユーロ、2013年は0.6ユーロだった。 どうして、こういう事態に陥ったのか。数年前までは、M&Aを通じて巨大化したエネルギー会社は、勝ち組と言われていた。短期間のうちに、業績が悪化し、経営に大鉈を振るところまで追い込まれたのである(資料2)。 資料2.エーオンの株価推移 (出所)Bloomberg エネルギー会社転落のストーリー アンバンドリンク(発送電分離)が徹底しているEUでは、「電力会社」(あるいはガス会社)は存在しない。あるのは発電会社、小売り会社、送電会社、配電会社であり、小売り周りでアドバイスを行うサービスプロバイダーも登場してきている。送電・配電会社は、インフラ事業であり、地域独占が認められコストは料金に転嫁され、安定的な収益を上げられる。しかし、変動する再エネ急増への対応に追われており、オペレート革新、設備増強を推進している。発電と小売りは完全競争の世界であり、機敏な経営判断が求められる。 こうしたなかで、「旧電力会社系の発電会社」が苦境に陥っている。所有している火力発電が作る電気が売れないのだ。また、販売単価も急激に下がっている(資料3)。2000年代後半に実施した火力発電への積極投資と再エネ普及により基本的に供給過剰になっている。量と価格とがダブルで効いて業績が悪化している。米国でも似たような状況が出てきており「(既存)電力会社が陥るデススパイラル」という言葉も登場している。 資料3.EPEX Spot電力市場での価格推移 (出所)EPEX どうして売れないのか。電力取引市場においてコストが高いと判断されるからである。EUの電力取引市場は、需要量と供給される電力の変動コストで決まる。風力・太陽光等燃料費を要しない電源がまず選択され、以下原子力、石炭、天然ガス、石油の順番となる。一度作られた生産設備は、変動費をカバーできれば、固定費の一部でも回収できれば稼働を続けることが合理的な判断となる。その時間帯の需要規模により、需給が交差するところで価格と数量が決まる。限界設備は石炭か、天然ガスか、石油かになる。均衡価格は均衡数量全体に適用される。この市場取引システムはメリットオーダーと称される(資料4)。 資料4.ドイツの卸市場サプライカーブ:メリットオーダー (出所)RWE 需要減、再エネ普及などが複合的に 再エネが普及すると、火力発電はその分周囲に押しやられる。天然ガス火力は石炭よりも燃料費が高くより苦境にあるが、太陽光の急拡大が追い打ちをかける。天然ガスは運転の柔軟性が高く、ピーク時間帯で稼働し、高い価格を享受してきた。ところが、太陽光はピーク時に最も発電することから、太陽光の量が増えるとともに、ピーク時価格の低下を招いた。要するに、太陽光に天然ガスが取って代わられる状況が増えてきた。2009年から3年続けて年間850万kWを超える太陽光が導入されたが、ドイツでこの傾向が目立ってきたのは、この辺りからである。 天然ガスの苦境は、火力間すなわち燃料間競争でも不利になってきたことにも原因がある。石炭価格の下落に比べて、天然ガス価格は緩慢であった。米国では、シェールガス革命の煽りを受け石炭価格が暴落したが、その余剰石炭が欧州へ大量に流れた。また、リーマンショックの影響でエネルギー需要が減り炭素価格が低水準で推移した。これが石炭価格の引き下げに寄与する。一方、天然ガスは、基本的に原油と連動しており、原油価格が高止まるなかで下げ渋る。 また、景気後退や省エネ進展による電力需要減が効いている。取引市場価格の下落傾向は、特にドイツで顕著であるが、EU全体的に及んでいる。需要減、再エネ普及、石炭価格下落等が複合的に効いている。 以下、エーオンのテイセンCEOが行った説明のポイントを紹介する。エネルギー事業の本流を歩み「勝ち組」だった事業者の言であり、含蓄がある(資料5)。 資料5.エーオンのテイセンCEO (出所)E.ON 「本流」が変わろうとしている 最近まで、エネルギー事業の構造は明確で直線的であった。バリューチェーンは、資源開発地点から発電所、送電線、卸市場を経てエンドカスタマーまで繋がっていた。ビジネスの全体像が把握でき、大規模生産設備から監視・制御が可能であった。この従来型のエネルギー世界は、われわれにとって馴染みが深い。巨大設備とそれが統合されたシステム、大規模な取引により構築されていた。この技術は確実であり、成熟していた。 これらのシステムはまだ存在しており、必要不可欠なものである。しかしここ数年、新しい世界が、並行するかたちで急成長してきた。多くの技術革新、顧客の期待の上に成り立つ世界である。新しい技術の成熟、コスト低下、それを背景とした再エネの普及がこのトレンドの主たる推進者である。どれよりも多く再エネ発電への投資が実施されてきている。再エネ投資は、減少するどころではなく、増え続けていく。 同時に、再エネコストは急激に下がってきている。特に陸上風力は、従来型の電源と同等かそれ以下にまで下がっている。他の再エネも、遠からず経済性のあるものになる。 再エネ発電は、単なる革命的な設備ではない。他の技術革新と融合して、顧客の役割を変えつつある。既に太陽光発電を設置し電力の一部を自給している場合は特にそうである。蓄電池が普及してくると、顧客は電力・ガスのネットワークから相当程度独立できるようになる。 エネルギー供給を自らアクティブにデザインする顧客は着実に増えていく。何よりも、そうした顧客は、クリーンな、持続可能なエネルギー源を、そして資源を節約する効率的な消費を志向している。 エーオンの会見は、世界のエネルギー関係者に大きな衝撃を与えた。100年超続いたビジネスモデルの大変革がまさに現実になろうとしているからだ。 必然性があった事業改革 この動きは、決して唐突ではない。欧州を主に発電会社が苦境に陥っていた。ドイツNO2のRWE社は、エーオンに比べても再エネ投資が少なかったことから、一足先に大赤字に陥った。昨年の決算で、第二次世界大戦終了後初の赤字計上になり、大きな話題となった。その際に、テリウムCEOは、今回のテイセンCEOが行った説明とほぼ同じ内容の発言をしていた。「エネルギー大転換、プロシュ−マ−モデルの促進役になる」ことを新たな戦略のエッセンスにすると解説していた。これについては、本コラム「欧州電力の巨人が分散型システムの推進力に」にて紹介している。 米国でも同様な動きが出てきている。全米最大の独立発電事業者であり、従来型発電でNO2のNRGは、11月20日に「当社のCO2排出量を2030年までに50%、2050年までに90%減らす」と発表した。デュークエネジーの元CEOであるジム・ロジャース氏は、再生可能エネルギービジネスが主役になっていくことを重ねて表明している。 もっとも、既存事業者の現状への警戒感は強い。日本の電事連に相当するエジソン電気協会(EEI)は、こうした状況を分析し「電力ユ−テリティはデススパイラル」に陥りつつあることに警鐘を鳴らした。EU内でも、イギリス、フランスでドイツの政策を批判する経営者は少なくない。ドイツ国内でも、賛否両論がある。 議論が続く容量市場創設 発電事業者は、稼働率・利用率が急低下する厳しい状況の中で、火力発電が持つバックアップを含む調整価値を評価するように政府に強く働きかけている。変動する再エネは火力発電の調整力があってこそ稼働・普及できるという論理だ。現状の電力取引市場のルールでは変動費のコストしか評価されない。いざという時のために待機している価値が評価されない。そのため、いわゆる「容量市場」を創設して、固定費をカバーするような仕組みつくりを訴えている。 フレクシビリティとCO2削減 もっともな要請にも見えるが、ドイツ政府の対応は迅速ではない。電力ネットワークが有する調整機能は、最近では「フレキシビリティ」という用語で語られており、バックアップはその一つの機能という位置づけだ。これには、ディスパッチヤブル電源(火力、水力等)、ストレージ(揚水等)、インターコネクト(連系線)、需要サイド等がある。燃料(メタン、水素)や熱のもつ蓄エネルギー機能も注目されている。火力でも需要家や再エネ設備に近いコジェネ等の小規模電源の方が有効である、という議論もある。 こうしたなかで、大規模火力がどの程度必要とされるのかの検証を要するのだ。また、CO2削減目標との関連で、火力発電の取り扱いについて、排出権取引を含め、検討の最中にある。 今回のエーオンの事業再編は、従来発電設備対応への結論が出ない政府にしびれを切らして、自社で整理・分離し、投資家や市場への説明を果たすとともに、政府の早期対応を促す狙いがある、との解釈がある。そういう面があることは否定できないが、基本は時代の流れに従う、先取りするという戦略であると考える。テイセンCEOの言葉を額面通りに受け止めるのだろう。株式市場は、発表後堅調に推移している(資料2)。 このコラムについて エネルギー 世界の新潮流 米国でのシェール革命の進展や、欧州における再生可能エネルギーの普及など、世界のエネルギー地図は大きく変化している。化石エネルギーから再生可能エネルギーまで幅広い分野で世界の最新動向を伝える。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141209/274909/?ST=print
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