01. 2014年12月01日 07:04:14
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石川和男の霞が関政策総研 【第34回】 2014年12月1日 石川和男 [NPO法人 社会保障経済研究所代表] “太陽光バブル”処理は新政権の責任 前民主党政権の“不良債務”を全チャラにせよ! 再エネ政策混乱の責任は 民主党のみならず自民党にもある 資源を満足に持っていない日本が、自然エネルギー、即ち再生可能エネルギーを振興していくことは当然のことだ。だが、再エネの固定価格買取制度(FIT)の現状を見るにつけ、この制度は前民主党政権の首相だった菅直人氏の“大きな負の遺産”であると思う。結論から言うと、再エネ推進の方法を大きく誤っているのだ。 では、現自民党政権はどうなのか。私は、この点に関しては、自民党は民主党と同じ穴の貉(むじな)にしか見えない。政権に返り咲いた2012年12月の前回衆院選の公約として、『当面の優先課題として、3年間、再エネの最大限の導入』を図る旨を掲げた。そして、制度発足前から多くの問題点があることがわかり切っていたFITを、まともな手直しを殆どせず、今まで半ば放任・黙認してきた。 特にメガソーラー(比較的大規模な太陽光発電)に関して、高過ぎる買取価格や資源エネルギー庁による設備“認定”の甘さのせいもあり、“バブル”的な伸びを見せた。そうして、太陽光も含めた再エネ発電の電気を買い取る電力会社側の送電容量を超えるという異常な状況になってしまった。 現在、電力5社(北海道・東北・四国・九州・沖縄)が、新たな再エネ事業の参入予定者から電気を買い取るための接続を停止している。いわゆる「再エネ接続保留問題」だ。政権を担う政党として、自民党の責任はあまりにも重い。 これらの既“認定”設備の再エネ電気の全量を買い取るとともに、“原発ゼロ”を続ける、即ち“原発ゼロ+再エネ全量買取り”という最悪の状態になると、年間で総額6.4兆円、国民1人当たり年間5.3万円の負担増となる。これは、消費税2.5%分とほぼ匹敵する額だ(このあたりのことは、前回11月25日付け拙稿に詳しいので適宜参照されたい)。 現実を直視しないマスコミ 再エネ信奉はもはや宗教だ FITに対しては、あまり報道はされないが、鋭い指摘も少なくない。知人のジャーナリストは、「都心のマンションに住んでいる我々は、一戸建ではないので、太陽光パネルを設置したくても設置できない。結局、再エネ賦課金という追加料金を負担させられるだけだ」と批判する。 「固定買取価格が40円超というのは高過ぎ。“低リスクの投資商品”としてIRR(内部収益率)を7〜8%に設定し、再エネ事業者の利益率を確保することだけを考えたもの。国民負担がどうなるかをまったく考えていない制度だ。買取価格は発電コストの実態に即してせいぜい20円程度が限度。巨額の国民負担で再エネ事業者を潤わせるのは大間違いだ」と語る自民党議員がいる。 ある経済学者は、「FITは計画経済型の制度で、社会主義に合った仕組み。その遂行のために必要な系統設備などエッセンシャルファシリティを強化するための工事費用を、競争の一方の当事者である電力会社にだけ負担させるのは合理的ではない。公平な負担が不可欠」と語っている。 どこもこれも、言われてみればまったくその通りのことばかりだ。 しかし、マスコミはこうした論調をなかなか報じようとはしない。東日本大震災による東京電力・福島第一原子力発電所の事故が起こってからは、「再エネで脱原発だ!」とばかりに、さながら「原子力は悪で、自然エネルギーは正義の味方」という空気が蔓延している。いささか宗教的な感じがして、空恐ろしい気もする。 電力の質については 誰もが理解すべき 今年春頃から、想定を遥かに上回るメガソーラーの設備認定の「量」に直面し始めた九州電力。9月24日に「接続申込みの回答保留」を発表し、北海道・東北・四国・沖縄の各電力会社も九電に追随した。保留の理由は各社ごと微妙に異なるが、ほぼ共通している点は、各社とも再エネの設備認定量が電力使用量の少ない昼間その他の最低需要量を上回ってしまったこと。 供給と需要がバランスして初めて安定した電力を送れる、という電力安定供給の必要条件が崩れる恐れが、現実のものなってきたのだ。再エネの接続を増やし続けると、電圧や周波数が不安定となり、最悪の場合には広域停電が発生する。送電設備の増強や、天然の蓄電池と呼ばれる揚水式発電の新増設を行えば、更なる再エネ接続を増やすことは許容されるであろう。しかし、いずれも高額な工事費や一定の時間を必要とする。 こうした設備面での処置をせずに再エネ接続を押し進めれば、夜間は停止し、気象条件によって出力が大きく変動する太陽光発電や、風頼みの風力発電を例とする、いわば暴れ馬のように出力が不安定な再エネの悪影響をもろに受けて、送電網全体の電力の質が低下することは必至だ。これは、再エネの好き嫌いにかかわらず、誰しも理解しておかなければならないことである。 「電力の質」は、我々一般庶民の社会生活や国内産業の経済活動など、国全体を支えている。決して軽視してはならないものだ。「電力の質」が低下すると、経済社会システムに打撃を与えかねない。それにより、無用で多大な国民負担を発生させる恐れがある。 発電を停止させられ続けている原子力発電再開を、一定の基準の下で合理的に行い、発電しながら原子力規制基準への適合性を審査するという世界の常識、いわばグローバルスタンダードに沿った現実的な規制運用に切り替えれば、年間3.7兆円(2014年度見通し)に上る本来不要な国富流出は即刻回避することができる。これは、消費税率に置き換えると1.3%程度になる計算だ。 また、FITに関しては、既“認定”設備について、国内の経済成長の足取りが確かなものとなるまで一時的に制度の運用を停止すれば、消費税率に換算して1%程度の国民負担が減ることになる。 これらを総合的に勘案すると、原子力発電再開とFITの両方に緊急措置を講ずることで消費税率2%を超える国民負担減を実現できることになる。つまり、消費増税(8%→10%)による国民負担増にもかかわらず、なお余りある国民負担減となる。この点、衆院選後の新政権では、消費増税論と併せた最重要政策課題として実現に向けて努めるべきだ。 ちなみに、再エネ政策面で日本が雛形にしている欧州では、FIT見直しが既に始まっている。日本での再エネ振興策をどのように改正していくかについては、欧州での見直しの結果や成果をよく見ながら考えていくのでも決して遅くはない。 世界的でも優れた 日本の電力の質 ところで、再エネに関しては、「電力の質」という重要な問題に密接に絡んでいるだけに、少々深堀りしてみたい。下の資料1、資料2をご覧いただくとわかるが、日本は、停電時間の短さも、停電回数の少なさも、世界的に上位の成績である。政府の見解を引用すると、次の通りだ。 ○英国、アメリカでは、他国と比較して停電時間が長い。 ○フランス、ドイツの停電時間は30分から50分程度で推移。 ○日本の停電時間は概ね低い水準で推移。2004年は台風の上陸回数が多かった影響で停電時間が大きく増加。 ○韓国の需要家1軒当たりの年間停電時間は低い水準で推移。 ○中国は、2004年は急増する消費に供給が追いつかず、全国で3,500万kWの電力が不足し、深刻な電力不足に陥った。2005年以後は、それまで進めてきた電源の整備に加えて流通設備へも積極的な投資が行われるようになり、2008年に発生した風雪害や四川大地震の際の電力不足を除けば、電力不足は年々緩和されている。 (出典:エネルギー白書2010)
(出典:エネルギー白書2010) 再エネ大量接続なら 調整力の確保も必須 次に、電圧について。日本では、標準電圧100ボルト回路では101±6ボルト以内、標準電圧200ボルト回路では202±20ボルト以内と規定されている。 太陽光や風力など再エネが送電網に大量接続されると、これら再エネ設備からの逆潮流(系統の末端から基幹系統側に電力が逆に流れる電力)によって、系統の末端である配電系統の電圧がローカルに上昇傾向になる。この影響で、きめ細かい電圧調整・制御が必要となる。 更に、周波数について。電力各社は、周波数や需給を調整する社内マニュアルを公開している。それによると、東日本では50ヘルツ±0.2〜0.3ヘルツ、西日本では60ヘルツ±0.2ヘルツとされている。それを安定的に維持する業務は「需給運用」と言われ、常に電力の供給と需要をバランスさせることによって周波数は一定に保たれている。 太陽光や風力など再エネが送電網に大量接続されると、それらの不安定さのために、需給運用は非常に難しくなり、想定外の変化に即座に対応できる揚水式水力発電所(注)などの調整力の確保や、域外から受電を機動的に行える基幹系統が必須となる。 ただ、こうした設備の建設コストは高額であり、これまで開発されたのは必要最小限の量だけ。揚水式水力発電所については、設備利用率は8%程度を維持することを目安に開発が進められてきた。“原発ゼロ”の現状では揚水式発電所の稼働率は低いのだが、それは当然である。原子力発電所の稼動が正常化すれば、自ずと揚水式水力発電所の稼働率も上がる。 揚水式水力発電所や基幹系統設備、蓄電池の新増設を計画的に行えば、不安定な再エネを更に導入していくことも可能だ。それなくして、ひたすら再エネ接続を進めれば、周波数は異常に不安定となり、電力需給システム全体に悪影響が出ることは想像に難くない。経済社会システムのあらゆる機能がコンピューターによって管理されている今日、コンピューターがシステムダウンすれば、どのような事態になるか。よくあるパニック映画のような話が、現実のものになってしまうかもしれないのだ。 コンピューターの周波数の許容範囲は±0.5ヘルツとされており、50ヘルツ地域なら百分の一秒の変動でコンピューターはダウンする恐れがある。そのくらいに優れて敏感なのだ。 なお、電気の質を守るための送電系統の投資を省いてきたり、なすべき手当てを行わなかった結果、電気の質が大幅に低下した例がフランスにある。 フランスでは1980年代まで、電源計画に投資を重点的に行う一方で、送電系統への投資を省いてきた。結果として、フランスの停電時間は、英国やドイツの3倍にも達したと聞く。そこで急遽フランスでは、系統設備のメンテナンスや取替え、系統復旧自動化を積極的に実施し、EUの他の国と遜色ない水準の電気の質を取り戻した。それだけ、「電力の質」を維持するためには投資・手当てが重要な要素であるということであり、それは洋の東西を問わない。 (注)日本では、夏の昼間にはエアコンや屋内照明で電力消費が多くなるが、夜は電力消費が少なくなる。そこで、夜間に余裕のできた火力・原子力発電所の電力を利用して、揚水式水力発電所の下部貯水池から上部貯水池まで発電用水を汲み上げ、再び昼間の発電に使う。 新政権は再エネに係る “不良債務”を全チャラに 今月14日の衆院選における各党の公約を見ると、やはり“再エネ信仰”のオンパレードになっている。我々有権者は、しっかりと見極めていく必要がある。再エネは国産エネルギーとして将来的に有望なエネルギー資源である。だから、再エネ振興は国是の一つであることは間違いない。 しかし、その方法を間違ってはいけない。再エネが原子力や石炭・石油・ガスなど化石燃料に代替するようになるには、エネルギー回収効率や蓄電効率を飛躍的に向上させる必要がある。そのための技術開発や実証には長く永い時間が必要となる。それまでの間は、原子力や化石燃料で凌いでいかなくてはならない。 現行のFITは、前民主党政権の“不良債務”として残存している。“太陽光バブル”を起こしたツケを払うべきは前民主党政権のはずなのだが、今となっては跡形もない。「前民主党政権のせいだ!」といつまでも悪態をついてばかりでは、何も進まない。来る12月14日の総選挙後には、新政権(現自民党政権が継続する公算が大きい)は、その責任において、再エネに係る“不良債務”を全チャラにしていかなければならない。 最後に、衆院選の投票を目前に控えた今、敢えてもう一度皆さんに尋ねたい。前回の拙稿で次のように書いたが、皆さんはどうだろうか? ― 「原発ゼロをすぐ実現させます!自然エネルギーをどんどん導入するので心配ありません!」と語る候補者は信用できない。(参照1) ― 「原発ゼロを目指し、自然エネルギーを推進しますが、そのためには時間が必要です。当面は原子力も自然エネルギーも化石燃料もバランス良く使っていくしかありません」と語る候補者は信用できる。(参照2) http://diamond.jp/articles/-/62933
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