01. 2014年10月29日 11:34:54
: nJF6kGWndY
単純な机上の原価計算では、現実の電力需要を満たすことはできないなかなか甘くはないということだな http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42034 理想どおりにはいかなかった サハラ砂漠の再生可能エネルギー計画 当初は賛同した企業が次々離脱、計画難航の内的・外的要因とは 2014年10月29日(Wed) 川口マーン 惠美 3年前、ドイツが脱原発を決めようとしていたころ、太陽電池の研究が専門の物理学者に話を聞いたことがあった。彼が見せてくれたアフリカの地図には、アルジェリアのところに大きさの違う小さな正方形が2つ、そして、そのお隣のリビアに豆粒のように小さな正方形が1つ、書き込んであった。 彼は言った。「この一番大きな正方形の面積のソーラーパークで世界中の電気が賄えます。その次の正方形ならEU全体の電気。そして、一番小さなのがドイツの全電気需要」。一番大きな正方形は1辺が約300km、豆粒の方は60kmくらいだったが、どれも皆、大きなサハラ砂漠の中ではとても小さく見えた。 サハラ砂漠の壮大な再生可能エネルギー計画 サハラ砂漠に移民300人置き去り、10人死亡 リビア南部のサハラ砂漠〔AFPBB News〕 ただ、私は違和感を覚えた。その図は、太陽光の有効活用の可能性を示した象徴的なものにすぎないのだろうが、いったい何の意味があるのかと思ったのだ。「太陽光があれば、こんな小さな面積で世界中の電気さえ賄える」と思わせるためのトリックのような気さえした。 後で調べてみたら、案の定、これは小さな面積ではなかった。世界中の電気需要をカバーできる面積である1辺300km四方と言うのは9万km2で、およそ四国の5倍。豆粒の方は360km2だから、東京23区の6倍だ。 ところが、当時、この計画はすでに進められようとしていたのだ。 デザーテック・ファウンデーションという非営利団体がある。名前が表すように、砂漠の太陽と風エネルギーの高度な活用を目的としている。 デザーテックの構想というのは、サハラ砂漠に太陽光と風力の発電施設を作り、そこで発電した電気を、高圧直流ケーブルでヨーロッパ、アフリカに送電するというもの。これにより、将来的には、中東、北アフリカの大部分と、ヨーロッパの電力需要の15%を賄うというのが目標。 単純に計算すれば、そのためには1万3500km2の面積のソーラーパネルが必要となる。これは長野県の面積にあたる。 発案は2003年で、以来、多くの科学者、専門家、政治家がこのアイデアに携わった。科学的検証は、おもにドイツ航空宇宙センターが3年を費やして行ったという。 この案に賛同した企業が、Diiというコンソーシアムを作った。そして2009年、Diiとデザーテック・ファンデーションが一緒に、この遠大なプロジェクトを立ち上げたのだった。 コンソーシアムの主なメンバーは、ミュンヘン再保険会社、ドイツ銀行、シーメンス、ABB、E.ON、RWE、Abengoa Solar、Cevital、HSHノルトバンク、M&W Zander Holding、MAN Solar Millennium、Schott Solar 。その他にも、エネル、フランス電力、Red Eléctrica de España、モロッコやチュニジアやエジプトの企業などが参入した。どれもこれも、錚々たるメンバーだ。 デザーテック・ファウンデーションによれば、世界中の砂漠に降り注ぐ太陽エネルギー6時間分が、全世界の1年間のエネルギー需要に相当するという。 サハラ砂漠はほぼ無人であり、ヨーロッパに近い。このプロジェクトによって、ヨーロッパはCO2の排出を抑え、北アフリカとヨーロッパの経済が温室効果ガスの排出規制範囲内で成長できるようになるという主張。壮大かつ、夢のような話だった。 脱原発へ向け描いたユートピアの「陳腐な結末」 私がこのサハラ電気プロジェクトを知ったのは2011年、ドイツが脱原発を決めようとしていたころだ。ニュースの主旨は、原発が無くても電気は大丈夫という内容だった。しかし、このときも違和感を持った。すべてが、あまりにも現実離れした話に思えた。 それに、いくらサハラ砂漠の太陽が強烈とはいえ、夜は照らないだろうから、夜間の電気需要を満たす電源はどうするのだろうとも思った。近い将来、大規模な蓄電が可能になるという話はなかった。 また、サハラでは風の利用も考えられていたが、しかし、風は太陽ほど確実ではない。それに、電気をヨーロッパまで運ぶとして、送電のロスは? そもそも、どうやって送電するつもりなのだろう? アフリカからヨーロッパは電気を運ぶには遠い。あいだに海もある。 それに、ソーラーパネルは化学薬品をフルに使った工業製品だ。まず、これを作るために大量の電気が要る。将来、何十年にもわたって、大量のソーラーパネルがどんどん生産されると考えただけで、なんだか空恐ろしくなった。 しかも、それは永久に持つとは限らない。故障、あるいは老朽化したパネルは、いずれ大量の産業廃棄物となる。環境へのかなりの負担になる可能性があるのではないか。疑問は次々に湧いたが、しかし、一方で、大勢の専門家が言っているのだから、実現の公算が全くないわけではないのだろうとも思った。 ひょっとすると、私のような素人の知らないうちに、再生可能エネルギー電気の研究も送電や蓄電の技術も日進月歩で進んでおり、10年後ぐらいには、本当にサハラ砂漠の電気が少しずつヨーロッパに来るのかもしれない。そうするうちに、そんな話は忘れてしまった。 ところが、先週10月15日、このプロジェクトがつぶれたというニュースが流れた。「一つのユートピアの陳腐な結末」と、ドイツ第1テレビのコメンテーターは言った。 すでに数年前から、参入していた大企業が次々に離脱し始めていたという。デザーテック・ファウンデーションとDiiは、最初から相容れなかった。平たく言うなら、デザーテック・ファウンデーションができると主張していることを、Diiの多くの企業はできると思えなかったのだ。 そのうえ、Diiの内部でも意見が対立していたという。結局、デザーテック・ファウンデーションは、これ以上この混沌の中にいると、自分たちの語ってきた夢のイメージが壊れると懸念したらしい。よって、袂を分ち、これからは別々の道を行くことにした。 太陽エネルギーは砂に勝つことができるか モロッコ初の巨大太陽エネルギー発電所、15年に始動 10月19日、モロッコが同国初の巨大太陽エネルギー発電所を2015年に始動することが明らかになった ©AFP/FADEL SENNA〔AFPBB News〕 プロジェクトが進まなかった理由は、技術的な問題ももちろん大きいが、政治的なそれもある。 サハラ砂漠は砂しかないところだが、とはいえ、皆のものではない。それはアフリカ大陸の3分の1を占め、そこに領土を持つ国は、エジプト、チュニジア、リビア、アルジェリア、モロッコ、西サハラ、モーリタニア、マリ、ニジェール、チャド、スーダンと多国に及ぶ。しかも、はっきり言って、政治的にまるで安定していない国ばかりだ。 そして、それらの国どれもが、太陽を商品にしようとするのだ。たとえ技術的な問題が解決して、本当に発電がおこなわれ、その電気がヨーロッパに来るにしても、その元栓のところは、これら政局の不安定な国に握られることになる。リスクの大きさは限りない。企業が抜けて行ったのは当然のことだった。 そもそも現在のドイツは、太陽光は余っている。設備の容量だけでいうなら、すでにピーク時の需要の2倍もあるという。だから、太陽が照れば電気はでき過ぎる。ただ、ドイツはあまり太陽が照らないから、平均すると、発電における太陽光の割合はまだ4%にすぎない。ここへさらにサハラ砂漠の電気が入れば、電気市場はさらに混乱する。 さて、振出しに戻ったデザーテックのプロジェクトだが、現在は目標を変え、砂漠の電気で近辺のアラブの国の電気を賄い、また、海水を真水に変える工場を動かすという計画に仕切り直しするらしい。 淡水工場はたくさん電力を使う。しかし、砂漠から電気を引ければ送電距離は短く、また、夜間の電気がどうしても必要と言うわけでもないだろうから、実現の可能性はあるのかもしれない。 ただ、一つ思うのは、砂漠には太陽もあるが、砂もある。砂は水と同じでどこにでも入り込み、何でも覆い尽くす。私は昔、イラクの砂漠の真ん中のコンテナで住んでいたことがあるので、砂の恐ろしさはよく知っている。何もしなければ、砂漠を走るアスファルトの道路は、あっという間に砂で覆われていく。 太陽光のパネルはハイテク製品だ。火山の灰がうっすらかかっただけでも性能が落ちるというのに、水のようにどこにでも浸み込んでくる砂に耐えられるのだろうか。それを考えると、仕切り直しのプロジェクトも何となく信じられないというのが、私の正直な感想だ。 【もっと知りたい! あわせてお読みください】 ・「ドイツの再生可能エネルギー:“しわ取り”は高くつく」 ( 2014.07.30、川口マーン 惠美 ) ・「“現実的な”エネルギー政策なしでは日本は弱体化する」 ( 2014.07.23、川口マーン 惠美 ) ・「後退するドイツの改革」 ( 2014.05.01、The Economist )
|