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http://eco.nikkei.co.jp/special/nationalgeographic/article.aspx?id=MMECf1000010092009&page=1
ナショナルジオグラフィック
太陽エネルギー発電【日経エコノミー】
太陽光発電ドイツ・バイエルン州の農場の屋根を太陽電池パネルが覆う。太陽電池は、太陽光がシリコンなどの半導体の中の電子を移動させ、電位差をつくりだすことで電流を発生させる仕組みだ。太陽熱発電と違い、太陽光発電は小規模なシステムでも効率的に運用できる。文=ジョージ・ジョンソン、写真=マイケル・メルフォード(c)2009 National Geographic
莫大(ばくだい)なエネルギーを秘めた太陽光。その恵みを最大限に享受しようと、人類はあくなき探求を続けてきた。太陽光発電の最前線に迫る。
◇ ◇ ◇
透きとおった空に、ピンク色を帯びた太陽が涼しげな輝きを放つ。米国南西部のモハーベ砂漠に朝が訪れた。不夜城のように明るいラスベガスの町に満月が沈んでいく。
太陽熱発電所「ネバダ・ソーラー・ワン」が間もなく動き始めようとしていた。100ヘクタールの敷地に並べられた曲面鏡が、まるで光の運河のようにいくつもの長い列をなしている。これはトラフ式太陽熱発電という方式で、「トラフ」とは細長い溝を意味する。鏡の枚数は全部で18万2000枚以上。夜間は下を向いていた鏡が、上を向いて太陽を追いかけようとしている。
「今日はまずまずの晴天になりそうです」と、制御室のオペレーターが言った。発電の仕組みはこうだ。まず太陽光を曲面鏡に反射させ、その上に延びる鋼鉄の集光パイプに集める。パイプ内を流れるオイルは最高400℃にまで加熱され、巨大なラジエーター(放熱器)に送られる。そこでオイルの熱を使って蒸気をつくりだし、タービンと発電機を動かす。
この発電所が供給する電力は最大64メガワット(1メガワット=100万ワット)。一般家庭なら1万4000戸、ラスベガスのカジノでも数カ所をまかなえるほどだ。「蒸気をつくった後の工程は、通常の発電所と同じです」。施設責任者のロバート・ケーブルはそう言うと、通りの向こうにあるガス火力発電所を指さした。
ネバダ・ソーラー・ワンが操業を開始したのは2007年。それまで米国では17年以上も、太陽エネルギーを使う大型の発電所が建設されなかった。米国はその間に、この分野でほかの国々に後れをとってしまった。この発電所も、所有するのはスペインの大手建設会社アクシオナ社、使用している鏡はドイツ製だ。
ケーブルと私はヘルメットとサングラスを身につけ、小型トラックで鏡の列の横をゆっくりと進んだ。放水車に乗った男たちが、鏡に水をかけて掃除している。「ほこりがつくと鏡に影響がでますから」と、ケーブルは説明する。鏡の上に延びているのはオイルを流すパイプだ。光をよく吸収できるように表面は黒いセラミックで覆われ、断熱効果を高めるため真空のガラス管の中に収められている。
夏の晴れた日の、太陽が真上に来る時間帯なら、ネバダ・ソーラー・ワンは太陽光の約21%を電力に変換できる。ガス火力発電所に比べれば効率は低いが、太陽光は“無料”だし、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を排出しない。
およそ30秒おきに、モーターが鏡の向きを調整するブーンという音が聞こえる。正午までに鏡は完全に真上を向く。午前8時、パイプ内のオイルが発電可能な温度に達し、さらに30分後、発電所のタービンがうなりを上げた。電力供給の準備が整った。
米国のオバマ政権は、地球温暖化問題に正面から立ち向かい、輸入石油への依存度を減らすと公約している。風力やバイオ燃料も代替エネルギーの有力候補だが、太陽の光ほど豊富にあるエネルギーはほかにない。
私は昨年秋、ドイツ南西部のフライブルクにあるフラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所のアイケ・ウェーバー所長からこんな話を聞いた。「地熱発電や風力発電など、ほかの再生可能エネルギーはどれも量的な限界があります。地球上の全人類が必要とする総電力は、およそ16テラワット(1テラワット=1兆ワット)。2020年には、20テラワットに増えるとみられています。一方、地球の陸地に降り注ぐ太陽光は12万テラワット。つまり、太陽エネルギーはほとんど無尽蔵にあると言えるのです」
太陽エネルギーを利用する発電方式は大きく2つある。まず、太陽光を熱に変えて発電する太陽熱発電。これにはネバダ・ソーラー・ワンのような「トラフ式」のほかに「タワー式」と呼ばれる方法がある。タワー式は、地上に並べたヘリオスタットという名の平面鏡で、太陽光を巨大なタワーの頂上に集める仕組み。鏡はコンピューター制御で動かし、太陽の向きを追いかける。
もう1つの方式は太陽光発電。シリコンなどの半導体でつくった太陽電池パネルを使い、太陽の光を電力に直接変換する。
どちらの方式にも、それぞれ優れた点がある。たとえば太陽熱発電は、今のところ太陽光発電よりもエネルギーの変換効率が高い。ただし電力を市場に届けるためには、広い土地と長い送電網が必要だ。これに対して太陽光発電は、電力を必要とする場所の屋根に太陽電池パネルを設置すれば済む。
また、2つの方式には共通の弱点がある。曇りの日は発電量が減り、夜間にはゼロになることだ。そのため、昼間につくった電力を蓄えておくエネルギー貯蔵システムの開発が進められている。
米国でのソーラー・ブームは、30年前のジミー・カーター政権の時代にもあった。1973年、アラブ諸国が実施した石油輸出禁止措置をきっかけに第1次オイルショックが世界を襲い、米国は国家的な危機を迎える。カーター大統領は太陽エネルギーを重視した新しいエネルギー政策を提唱した。1979年にイラン革命が起こり、原油価格が再び急騰。カーター大統領は自らの政策を実践するかたちで、ホワイトハウスの屋根に太陽熱温水器を設置した。
その後、80年代半ばに大型トラフ式太陽熱発電所、「SEGS T」と「SEGS U」がラスベガスの南西260キロの場所に誕生すると、たて続けに同タイプのSEGS発電所7基が近くにつくられた。
これら9カ所のSEGS発電所では、現在も約100万枚の鏡が合計354メガワットの電力を生みだす能力をもつ。ところが、米国経済が第2次オイルショックを乗り越えると、原油価格が下落。資源問題に対する切迫感が薄れるとともに「第1次ソーラー革命」は失速し、太陽熱温水器はホワイトハウスの屋根から取り外された。
コロラド州ゴールデンにある米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)は、カーター時代のもう1つの“遺産”だ。一時は政府から厄介者扱いされたNRELだが、今はオバマ政権が打ちだした再生可能エネルギー支援策のおかげで予算が増えている。
ここでは各種代替エネルギーの研究開発を行っていて、ガラスの代わりに軽量の高分子素材を使った鏡やエネルギー変換効率の高い集光パイプ、さらには最大の課題である、昼間に得たエネルギーを貯蔵しておく方法などの研究も進めている。
スペイン・グラナダの東にある町、グアディクス付近では昨年、熱エネルギーを貯蔵できる世界初の商用太陽熱発電所が操業を開始した。この施設では日中、鏡が集めた太陽光を利用して融解塩(高温で融解した塩の液体)を加熱する。そして夜間に融解塩の蓄えた熱を使って蒸気を発生させ、発電するのだ。
太陽エネルギーを使った発電技術のもう1つの柱である太陽電池パネル(太陽光発電)は現在のところコストが高く、エネルギー変換効率も10〜20%程度(トラフ式太陽熱発電は24%)だ。この点については、科学者の努力不足と言うより時代背景が強く影響している。1980年代半ばにソーラー・ブームが失速した後、多くの優秀な技術者が同じく半導体を扱うコンピューター産業に流れてしまったのだ。最近になって、ようやく一部の技術者が太陽エネルギーの分野に戻りつつある。
※以上の記事は月刊誌「ナショナル ジオグラフィック日本版」特集の抜粋です。さらに詳しい内容を読まれたい方はこちら