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[地球回覧]米シェール革命 熱狂と刹那
テキサス、輸出に盲点
米テキサス州北部フォートワース。草原の真ん中で大型車両が列をなす。向かう先は高い塀に囲まれた一画。シェールガスの採掘現場だ。
資材がひしめく敷地内。ガス井の横で作業員が筒状の機器を磨く。「破砕用の銃だ」。現場監督が説明する。
採掘技術の肝は、地中を横向きに掘り進む「水平掘削」と石油やガスを含むシェール層を爆薬や水圧で砕く「フラッキング(破砕)」。大型車両で運んでいたのは水に混ぜる大量の砂だという。
一帯はシェール革命発祥の地。幹線道路沿いにもガス・石油井が次々と現れる。テキサス州は全米で掘削中の井戸の半分を擁し、年2万の新規掘削を認可している。「ドリル・ベイビー・ドリル(掘りまくれ、ベイビー)」。オバマ大統領も皮肉った推進派の合言葉を地でゆく勢いだ。
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「水が汚れた」「健康を害した」「地震が増えた」。シェール開発にはこんな声もあるが、どうか。州都オースティン。掘削認可の実権を握る3委員の1人、ポーター氏を訪ねた。住民や環境に配慮し中立に判断する立場と想定していたら、面食らった。
「掘削で地下水が汚れた例はない」「温暖化? 人類が気候を変えられるかね」
業界の肩を持ち、連邦当局にも異を唱える。自由放任、反規制、反連邦。そんな南部の風土を体現するシェール革命の旗振り役だった。
委員会の来し方を知れば納得もいく。正式名は「テキサス鉄道委員会」。1891年の発足時は鉄道の監督組織だったが、1930年代に石油が開発ブームで値崩れすると、生産量を調整するカルテルへと変貌。世界の石油価格を支配するようになった。
皮肉にもその鉄道委員会を手本に誕生した石油輸出国機構(OPEC)に、70年代に力を奪われた。昨今の鼻息の荒さにはテキサスの黄金時代への郷愁もにじむ。
ただシェールブームによる生産急増で、今の天然ガス価格は2005年の高値の7割安。1930年代の過剰供給の二の舞いとならないか。頼みの綱は輸出だ。
「日本から100組以上の訪問を受けた。互いを利する関係を築けるはずだ」。地元の開発会社、クイックシルバー・リソースのリンジー氏は話す。原子力発電所の停止で液化天然ガス(LNG)需要が増す日本とテキサスは急接近。昨年、同社のガス田には東京ガスが出資した。州沿岸部では日本勢の絡むLNG輸出基地の建設も進む。
ウクライナ危機も輸出熱に油を注ぐ。「LNG輸出でロシアの蛮行に報いよ」「友好国を見捨てるな」。テキサス州選出のコーニン上院議員とバートン下院議員は口々に叫ぶ。米国は石油危機後の1975年に原油輸出を規制。天然ガスも自由貿易協定のない国への輸出は個別審査だ。その規制を撤廃せよと言う。
実際ポーランド、リトアニアなどロシアにエネルギーを頼る国からは米国に輸出要請が相次ぐ。「エネルギー輸出は安全保障上も有益だ」。ガス開発大手サウスウエスタン・エナジーの規制担当幹部、トラムート氏も理論武装して議員を回る日々という。
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盲点もある。シェール井は寿命が短く開発から数年で生産量が急減する。業者が次々に井戸を掘るゆえんだが、昨年は州北部の掘削申請が10年ぶりの低さとなった。「テキサスのシェール革命の旬はあと10年との分析もある」とテキサス大エネルギー研究所のウェバー副所長は語る。
テキサスは過去に4度の石油ブームを経験した。エネルギー市場の変動は激しい。だからこそ稼げるうちに稼ぐ。それが歴史に根差すテキサスの人々の深層心理ならば「ドリル・べイビー・ドリル」の合言葉は刹那的にも響く。
(米州総局編集委員 西村博之)
[日経新聞6月8日朝刊P.15]
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