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視点・論点 「電力の競争促進と温暖化対策」
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/128250.html
http://tatsuohatta.blogspot.jp/
電力システム改革をどう進めるか
http://www.amazon.co.jp/dp/4532355303/
東日本大震災後、「計画停電」が実施されました。
この時、電力供給量が減り、需給が逼迫したにも関わらず、電力価格が上がりませんでした。家庭はもちろんのこと、実は大企業も全く同じ状況にありました。大震災後は、結局、価格上昇による需要抑制は起きず、どんなに電力を必要とする人や会社に対しても「計画停電」をする結果になったのです。
現在、「電力の自由化」をどう進めていくかが議論されています。
電力の自由化の進展によって競争が促進されると、電力料金が下る事はよく知られています。実は、電力自由化の進展は、あまり注目されてこなかった他の効果ももたらします。まず停電の可能性を減らし、次に温暖化対策にも役立ちます。本日はこのことをお話使しようと思います。
T危険な電力体制
電力自由化の進んだ国では、電力需給が逼迫すると、価格が高くなり、利用者が需要量を減らしたり、発電所が追加発電をしたりする動機づけが働きます。それによって、自動的に需給ギャップが縮小されます。
日本にはその仕組みがなく、ユーザーは、所定の料金で好きなだけ使える契約を電力会社や新電力と結んでいます。そのため、当日になって需給が逼迫していることがわかっても、需要家は節電の動機を持たず、契約価格で好きなだけ自由に使い続けることができるのです。
一方電力会社は、この契約に対応するために、通常は、十分に大きな発電能力を持ち、需要家の望む量をいくらでも供給できるようにしています。しかし日本の電力供給体制は、一旦発電能力が不足すると、需要を抑制したり、追加の発電を促す機能が全くない危険なシステムです。
Uリアルタイム精算市場
今後も計画停電のような事態を防ぐためには、需給逼迫時に電力価格が上がる仕組みをつくらなければなりません。
この仕組みを説明しましょう。
電力は、その需給をごく狭い幅で一致させないと周波数が変化して停電が起きてしまうという特性を持っています。したがって、停電を防ぐために、送電線上の周波数の変化に反映される需給のギャップを時々刻々監視して、需給を合致させることが必要です。これを行なうのが「給電指令所」です。例えば、需要が供給を超えている場合には、給電指令所が発電所に対して追加の発電を命じます。必要であれば、需要家のブレーカーを切って需給調整をします。
最終的な瞬間ごとに必要となる追加発電の費用を「リアルタイム価格」といいます。
上では、「電力自由化国では、発電所も電力ユーザーも価格に反応するので自動的に需給ギャップが縮小される」と申しましたが、この仕組みが「リアルタイム精算制度」です。
まず、自由化国では、大口ユーザーは、時間帯ごとの電力使用計画量を、さらに発電所は、時間帯ごとの発電計画量を、実際の取引日の前日に、給電指令所に対して届出ることが義務付けられています。
しかし、当日には、需要家も発電所も、計画値通り行動できるわけではありません実績値は計画値からずれます。すなわち差分が生じます。この差分を、大口需要家や発電会社は、給電指令所との間で売ったり買ったりして精算するのです。この精算で用いられる価格は、リアルタイム価格です。すなわち、給電指令所が最終的な瞬間ごとに必要となる追加発電の費用です。この制度を「リアルタイム精算制度」といいます。
図の左側のグリーン線は、発電所が指令所に対して前日に届け出た当日の時間ごとの発電計画です。しかし当日にはずれます。その際の実現した発電量が左側の青線で書かれています。青線と緑線の縦の差がその時間における計画値と実現値のずれです。その差をリアルタイム価格で売買するわけです。需要側も赤で示されている実現値と緑線との縦の差分を精算することになります。
この精算では、発電所は、計画を超えた発電量を給電指令所に売却する一方で、不足分は指令所から購入します。さらに、大口需要家は、計画値を超えた需要量を指令所から購入します。その一方で、計画値からの節電分を指令所に売却します。節電分は一種の発電とみなすわけです。
当日急に電力需給が逼迫すれば、リアルタイム価格は高騰します。このためリアルタイム精算制度は、逼迫時に大口ユーザーに節電動機を与え、発電所に追加発電の動機を与えます。この制度を設立して停電の可能性を引き下げることが、今回の自由化制度設計の最重要課題です。
V温暖化対策
次に自由化によって価格の調整機能を発揮させることは、温暖化対策を効果的にすることを説明しましょう。
日本では、温暖化対策として、原発や再生エネルギーなど、炭素を全く排出しない電源-ゼロエミッション電源-に補助を与えてきました。ゼロエミッション電源の割合を増やせば、その分CO2の排出が減るというわけです。
しかし温暖化対策のためには、発電におけるエネルギー使用だけでCO2を削減しても問題は解決しません。産業用、輸送用などの用途に関係なくエネルギー源全体のCO2の排出量を減らさなければなりません。この観点からは、ゼロエミッション電源のみに補助をすることが非効率的であることは明らかでしょう。
広い範囲の用途で削減するには、炭素税が役立ちます。
炭素税は、CO2を排出するエネルギー源をその分不利にして、その使用を抑制します。
発電に関して言えば、炭素税は、ゼロエミッション電源を、化石燃料発電に比べて相対的に優位にします。
しかし炭素税には、石油や石炭からCO2排出量が少ない天然ガスにシフトさせる効果もあります。さらに、石炭火力のCO2排出量を抑制する技術の開発を推進します。
一方、ゼロミッション電源に対してのみ特別な補助を与えたとしても、天然ガスシフトも火力発電技術開発も推進しません。
日本の炭素税率は、ヨーロッパ水準に揃えれば十分です。日本だけがそれ以上の抑制をしなければならない理由はありません。国際水準の炭素税を日本の基幹的な温暖化対策にすると、化石燃料の効率的な使用が促進されると同時に、化石燃料発電の割合が今後増えることが予想されます
国際水準の炭素税以上の貢献をするとすれば、途上国で行うべきです。途上国では非常に非効率な石炭火力の発電をしていますから、日本の効率性の高い石炭発電の技術を使った投資をすることが、同じ金額を使うなら、日本でその金を使うより、はるかに費用対効果が高い地球温暖化対策になります。
地球温暖化対策として有効な炭素税は、価格競争が行われている状況で初めて効果を発揮します。電力会社が市場を実質的に独占しており価格競争が行われていない環境では、炭素税は効率化の意欲を生みません。したがってそのような状況ではこれまでのように特定の電源に補助を与えるという社会主義的な温暖化対策が、次善の策として正当化できたかもしれません。しかし、価格競争が行われる仕組みが出来上がると、炭素税は最小の社会的犠牲で最大の温暖化対策効果を発揮します。
Wむすび
電力自由化は、停電の可能性を減らし、炭素税を有効に機能させる効果もあります。
これまであまり注目されてきませんでしたが、これらも、電力自由化の重要な効果です。
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