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ドイツ固定価格買取制度は技術革新にも気候変動にも貢献しない?
科学的視点に欠けた政策批判
2014年3月28日 大林ミカ 自然エネルギー財団事業局長
http://jref.or.jp/column/column_20140328.php
2000年から2013年のわずか10数年で、自然エネルギーの電力消費に占めるシェアを6%から25%に増やし @ 、世界で最も成功したと言われるドイツの自然エネルギー政策。1990年代から、次々に打たれた合理的な政策ミックスの結果だが、やはり一番効果を発揮したのは、固定価格買取制度(ドイツ流に言えばEEG)だと言っていい。
旧態依然とした一律の設置補助金ではなく、発電へ事業安定性やインセンティブを与えるため、系統への接続と発電を保証し予め決められた価格で買い取る方法である。
固定価格買取制度やそれに類似した政策は、今や、100にのぼる国や地域で導入されている。日本でも導入17ヶ月で太陽光発電の累積導入量を2.2倍にするなど、大きな成果をもたらした。
しかし、その効果を、是が非でも失敗だと主張したい人たちがいるらしい。
固定価格買取制度やドイツのエネルギー政策に批判的な(日本の)人たちが最近取りあげているのが『2014年レポート:ドイツにおける研究、イノベーション、技術的パフォーマンス』 A (ドイツ語)という報告書だ。ドイツ連邦議会に付託された「研究とイノベーションについての専門家委員会」(以下EFI。Expertenkommission Forschung und Innovation)が 2014年2月26日にメルケル首相に答申した年次レポートである。
ドイツでは、首相の諮問機関をはじめとして、独立した専門家集団によるさまざまな委員会が存在する。大変権威ある委員会も多く、沢山の重要な分析や勧告書を政府に提出している。 EFIは、2008年に設立された新しい委員会で、ドイツの科学研究について助言を行うことになっている。今回の報告書も、ドイツ国内の研究や技術革新、技術パフォーマンス全般を見渡したものだ。全体で260ページに上る中で、自然エネルギー政策、特に固定価格買取制度について触れられているのはわずか数ページだが、他の数多あるエネルギー政策に特化した報告書や分析と真逆の結論を出している。EEG=固定価格買取制度はまったく効果がなかったので廃止すべきだと断じているのだ。
EFIの報告書曰く、ドイツの固定価格買取制度は「自然エネルギー分野の技術革新をまったくもたらしておらず」、「気候変動対策にも寄与していない」ので「グリーン電力証書へ転換すべき」だという。
ここ十数年の(92年からの電力供給法に遡れば過去20年の)ドイツ固定価格買取制度の効果についてはすでにあまねく認められているので、本来なら改めて議論されないところだが、 新しい連立政権が新しい自然エネルギー政策を発表しようとしている時にタイミングよく出されたため、ちょっとした騒ぎとなったようだ。記者会見で、固定価格買取制度の部分への質問が多いことに、執筆者の専門家委員会そのものが驚いていたという。
まず、2月26日に経済エネルギー省が「包括的な研究ではない。ドイツの固定価格買取制度は、非常に大きな効果をもたらした」と声明(ドイツ語)を出した B 。ガブリエル経済エネルギー大臣も同じコメント(ドイツ語)をしている。
技術革新部分についてもすぐに反証があがってきた。
EFIは、技術革新効果の重要な指標として特許出願数をあげ、1990−2005年の調査ならびに2000−2009年の調査を根拠としているが、ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー(Agentur fur Erneuerbare Energien, AEE)の資料によれば、ドイツでは、2008年以降、自然エネルギーの特許出願数が飛躍的に伸びている(英語)。
EFIの報告書は、直近5年間の状況を完全に無視しているのである。
特筆すべきは、エネルギー分野で世界的に知られる研究機関であるフラウンフォーファーISIを筆頭に、ETHチューリッヒ、DIWベルリン、ウィーン技術大学、ザンクト・ガレン大学など、ドイツ国外を含めた著名な学者たち17名が署名した声明である。
EFIの報告書に対して、2014年3月3日に出された声明 C (ドイツ語。プレスリリース D ・英語)は、「ドイツの固定価格買取制度は、自然エネルギー技術を、普及から産業にまで高めた」としている。政策と技術の進展や社会への普及などの複雑な効果要因を解析するためには、事実に基づくさまざまな側面からの分析が必要であり、一つの要素だけで判断すると、全体を捉えることができない。
固定価格買取制度技術革新の効果としては、具体的には、風力発電機の平均出力が、2000年以降1,100kWから2,600kWと倍以上に増えていること、また、太陽光発電は過去7年間だけでも設備の価格が1/3に下がり、同時に発電効率は著しく向上していることが指摘されている。固定価格買取制度による需要増大が、スケールメリットや学習効果をもたらし、このような発展の決定的な要因になった。
さらに、ドイツの固定価格買取制度は、技術だけではなく、制度や構造の改革に貢献し、特に金融セクターにおける融資・投資を促す制度として、一般市民や、小さな協同組合や農業者が、自然エネルギー事業に関わることができるような改革をもたらした。そして、世界的に成功例として政策が拡がることで、アジアや他の地域でも大きなイノベーションをもたらした、としている。これまで、20年以上にわたり、欧州の自然エネルギー政策を分析してきた専門家たちの声明だけに、インパクトがある。
気候変動問題については、EFIの報告書は、“現状では機能していないEU排出権取引制度の問題点を固定価格買取制度のせいだとして責任転嫁している”、という批判があがっている。
そもそも、25%も電力を供給し、熱分野でも急速に伸びている自然エネルギーが、温室効果ガス削減の効果を上げていない、ということがあるだろうか?
その他にも、再生可能エネルギー研究協会のポジションペーパー E (ドイツ語)などがだされているのでご参照されたい。
最後に、筆者が驚いたのは、「固定価格買取制度を止め、自然エネルギー証書取引へ移行せよ」という“提言”だ。筆者は、90年代後半から、諸外国のグリーン電力料金や証書の取り組みを調査し、日本のグリーン電力証書制度設計にも関わってきた。
現在の日本のグリーン電力証書は完全なボランタリースキームであり、日本では、政策分類上は、固定価格制度の導入前に実施されていたRPS制度が、海外のグリーン電力証書取引の概念を政策化したものといえる。
そう考えると、過去10年で1,000万kWに満たない自然エネルギー導入量のRPS制度と、わずか17ヶ月で700万kWの導入をもたらした固定価格制度と、促進策、あるいは産業政策としてどちらが優れているかは、自ずと明らかではないだろうか。
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