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「エネルギー基本計画」政府案が語らない三つの事実
2014年3月20日 大野 輝之 自然エネルギー財団常務理事
http://jref.or.jp/column/column_20140320.php
自然エネルギー財団は、先週、政府の「エネルギー基本計画」案に対する見解を公表した。その中では、政府案が福島原発事故の災禍を経験し、気候変動の危機がIPCC第5次報告でもますます明らかになるという状況にもかかわらず、原発と石炭火力の双方を「重要なベースロード電源」と位置付けていることを指摘した。政府案は、原発と石炭火力がいかに重要なものか、あれこれと書き込んでいる。
このコラムで指摘したいのは、反対に、書かれるべきなのに、政府案に書かれていない事柄についてである。
基本計画でどのような方針を打ち出すかは、日本を取り巻く現在のエネルギー情勢をどのように認識するかにかかっている。政府案は、その冒頭に「福島第一原発事故及びその前後から顕在化してきた課題」という章を置き、まさしく彼らの状況認識を述べている。この論理展開の形式は正しい。問題は内容だ。政府案は、中東・北アフリカ地域の不安定化や北米のシェールガス革命の動向に多くの紙幅を割いている。確かに「アラブの春」に端を発する中東情勢やシェールガス革命は、この間に起きたエネルギーを巡る大きな変化であり、それについて触れるのは間違っていない。間違っているのは、世界で起きているエネルギー分野での三つの大きな変化に全く触れていないことである。
第1は、福島原発事故後に、多くの国々が脱原発の方向に舵を切ったという事実である。欧州では、2011 年に、ドイツが 2022 年までにすべての原子力発電所を止めることを定め、ベルギーも 15 年からの順次廃止を決定、スイスやイタリアも国民投票で脱原発を決めた。米国では、2013年中に5基の運転中の原発の停止が決まった。
福島事故後に作られる初めての「エネルギー基本計画」であるにもかかわらず、政府案は文字通り、一言もこれらの事実に触れていない。原発関連の世界状況で政府案に書かれているのは、「新興国を中心とした世界的な導入拡大」という文言だけである。
第2は石炭火力についてである。昨年9月には、米国政府が、事実上、石炭火力を新設できないようにする規制案を公表し、途上国の石炭火力発電にも融資しない方針を決定した。
途上国に対する同様の方針は、その後、米国輸出入銀行、世界銀行、欧州投資銀行、欧州復興銀行など主要な国際金融機関からも発表され、広がっている。
政府案は、世界で起きているこうした変化は全く語らず海外に石炭火力を輸出する方針を掲げている。
政府案に書かれていない第3の事実は、世界で起きている自然エネルギーの急速な拡大である。
政府案には、ドイツなど欧州のいくつかの国では既に自然エネルギーが電力消費の2−4割を占める基幹電源となっていることや価格低下が進んでいることには、これも文字通り、一言も触れていない。
状況認識を示す冒頭の章で、自然エネルギーについて触れているのは、固定価格買取制度の導入で自然エネルギーが電気料金の増加要因になっている、という文脈の中での一か所だけである。
世界での脱原発の動き、石炭支援政策の見直し、そして自然エネルギーの拡大ということまでもが、日本政府にとっては、国民に紹介したくない「不都合な真実」なのだろうか。
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