03. 中川隆 2013年1月05日 01:23:31
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経済学が理解できない知恵遅れがハイパーインフレ、ハイパーインフレと叫ぶ理論的根拠は 潜在GDPとGDPギャップ 06/2/27(426号)
GDPギャップの「偽装」
潜在GDP、GDPギャップそして潜在経済成長率(以後、潜在成長率と略)というものがある。ところが日頃見聞きするこれらの経済用語の実態は、「雲を掴む」ようにあやふやなものである。ところがこれらが一人歩きをして、世の中を混乱させている。例えば「潜在成長率を高めるには、生産性の低い産業や企業を排除する必要がある。そしてこれが構造改革である。構造改革によって経済は回復する。」という訳のわからない話に使われたりする。 筆者は、潜在GDPや潜在経済成長率について、このような奇妙な発想の出所がずっと気になっていた。そして最近、GDPギャップと経済成長率という日本銀行調査統計局の論文を見つけた。これが潜在GDPとGDPギャップなどについて、典型的なおかしな解釈をしている論文の一つなのである。まずこの論文に沿って、これらの経済用語を説明する。 潜在成長率は、文字通りその国、あるいはその地域が潜在的に持っている最大限の経済成長率である。潜在成長率を説明するには、まず最初にGDPギャップ(需給ギャップ)の説明が必要になる。GDPギャップは経済全体の「供給力」と「総需要」の差額である。「総需要」は国内総生産(GDP)と考えて良い。 一方「供給力」とは、その時々に現存する経済構造を前提にした最大限の供給力であり、一般に潜在GDPと呼ばれている。もっと正確に定義すれば「現存する経済構造のもとで、資本や労働が最大限に利用された場合に達成できる経済活動水準」と言うことになる。つまり設備がフル稼動し、雇用が完全雇用の状態での供給力が潜在GDPである。 潜在GDPと、潜在という言葉を使うから難しく聞こえる。潜在GDPは生産額(生産力)の天井と思えば良い。そして潜在成長率はこの潜在GDP(経済全体の供給力)の変化率である。つまり供給力が増えれば潜在成長率は大きくなる。 なるほど、筆者は、ここまでは異論はない。しかし「資本や労働が最大限に利用された場合」の水準と程度が問題である。定義に従えば、繰返しになるが、潜在GDPはGDPの天井である。つまり筆者だけでなく、誰もがこの物理的な天井である潜在GDPを越えた国内総生産(GDP)を実現することは100%無理と思うはずだ。もし潜在GDPを越えた需要が発生すれば、ただちに物価が上昇し、名目GDPは増えるが実質GDPは全く増えないという事態になる。
ところが政府と潜在成長率を頻繁に持出すエコノミストは、ずっとGDPギャップは1〜2%(デフレが深刻と言われた数年前でもわずか4%程度)と説明してきた。つまりGDPギャップは5〜10兆円ということになる。したがってわずか5〜10兆円の需要が増えればハイパーインフレが起ると言い張っているのだ。 ところがこれらの話が大嘘なのである。まずGDPギャップの数字は全く我々の実感から離れている。さらに直近では、彼等は何とGDPギャップがマイナス、つまりGDPが潜在GDPを越えた状態になったと言っている。物理的な生産力の天井を越えた生産が日本で行われていると言っているのだ。100%あり得ない話である。つまり彼等が主張してきた物理的な天井そのものが、真っ赤な「嘘」だったと自ら白状しているようなものである。 なるほど頭の中だけで考えれば、供給力の限界というものは有り得る。しかしわずか1〜2%の需要増で生産の物理的な天井にぶつかり、後は物価が上昇するだけという事態はとても今日の日本では考えられない。驚くことにそれに止まらず、最近ではGDPギャップがマイナスになったと、絶対に考えられないことまで言い出している。 つまり政府系エコノミストは、このような低い天井を想定した分析をずっと行って、これまで国民をずっと騙してきたのである。ズバリ、政府系エコノミストが言っている潜在GDPとGDPギャップは「偽装」である。そしてこのどうしようない論理的矛盾を解消するには、実際の潜在GDP、つまり日本の本当の生産力の天井が、政府系エコノミストが言っているより、ずっと上にあると考える他はない。 北海道は暑い もちろん政府のGDPギャップの算出方法に対して、理論面からの反論がある。本誌は有力な反論として丹羽春喜大阪学院大学元教授の02/12/2(第276号)「日本のデフレギャップの怪」を以前に紹介した。反論の主な骨子は三項目ある。一つは、政府系エコノミストがGDPの過去の実際値の平均値や、景気動向指数(景気動向指数が景気過熱でもなく、不況でもない状態を正常としている)を使って「潜在GDP」を算出していることである。つまりこれでは、大きく経済が落込こみ、かつその状態が長く続いた場合、落込んだ状態が普通、あるいは正常と見なされることになる。当然、GDPギャップはものすごく小さく算出される。したがってGDPギャップがマイナスになると言ったバカげた事態が起るのである。 もう一つは、潜在GDP算出に使う生産関数の資本と労働の分配率の変更である。伸びが低い労働への分配率を大きくして潜在GDPを小さくしている。これによって以前の経済白書時代より、最近の経済財政白書のGDPギャップは小さく算出されている。さらに三番目はなんと需要不足に起因する失業者はほとんどいないというとんでもない想定がなされており、失業者のほとんどはミスマッチと見なしていることである。 つまり驚くことに日本には今日余剰労働者がほとんどいないという想定がされているのだ。たしかにこれらのようにめちゃくちゃな設定をすれば、わずか1〜2%の需要増でも、生産は天井にぶつかったり、さらにはGDPギャップがマイナスになると言う大笑いのバカげた結論が出る。 GDPギャップに関して、丹羽元教授のような理論的、技術的な面からの反論に加え、筆者にも意見がある。これらついては来週号で取上げる。このように今日公表されている「潜在GDP」はインチキと断言して良い。しかしこのインチキ数字が冒頭に述べたように世の中を混乱させている。
GDPギャップが1〜2%とか、あるいはGDPギャップがマイナスになったと言っているエコノミストや政府関係者は、同時に、今日、日本の景気が良くなったと主張している。戦後最長の好景気が続いているとまで言っているばか者もいる。たしかにGDPギャップがなくなるということは、生産設備は能力一杯で稼動し、失業者が全くいなくなった状態である。実にばかばかしい話である。 ところが今日の日本では、このようなバカ話が通用する土壌が出来つつある。これはあまりにも長い間、経済の低迷が続いたことが原因となっている。バブル崩壊後に物心がついた人々、つまり若い人々は、日本の経済が良かった時代を全く経験していない。したがって少しでも景気が良くなれば、好景気になったと誤解する若い人々がいるのである。
世の中には、小泉改革で景気が良くなったと誤解する人々がいる。日経新聞などのマスコミや市場関係者がそれを風潮している。大企業だけが儲かっているに過ぎないのに、人々は日本の経済が良くなったと思い込まされているのだ。極寒のシベリアから北海道に来たロシア人が、「北海道は暑い」と言っているようなものである。 http://www.adpweb.com/eco/eco426.html
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