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民主党衆議院議員山田正彦前農林大臣のブログです。
本日テレビタックルに出演されています。
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2012年1月15日(日曜日)
米国民の大半が自由貿易協定、FTA・TPPに不安を感じている
ワシントンの天候は変わりやすい。
昨日は真っ青に晴れていたのに今日は朝から冷え込んで午後から雪が降り始めた。
夕方、米国の全国労働総同盟(日本で言えば連合)の事務所を訪問する。
応接室の窓から、すぐ目の前にホワイトハウスがくっきりと見える。
窓ガラスを通じて、暮れなずむホワイトハウスにしんしんと白い雪が舞っている。
なんともいえない幻想的な風景に、私たちはしばらく窓の風景に目を取られた。
テア・リー会長補佐、キャシー国際部長、ドレーク通商政策担当などAFL−CIO(全国労働総同盟)幹部との意見交換は私を驚かせた。
リー会長補佐は語る。
「我々はオバマ大統領のTPPについての姿勢に異議を唱える。
これまでのメキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)、その他のFTAにしても多くの雇用の創出が約束されたが、実際にはそうならなかった。逆にNAFTAだけでも、安い外国人労働者が移入して100万人の米国人の雇用が失われている。
例えば、米国の企業が自国の工場を閉鎖してメキシコに進出する。そうでなければ賃金を半分にしてくれと経営者は被用者に迫る。職場を維持していくためにやむを得ないと賃金カットに応じたら、それでもメキシコに工場は移転して失業者が増えてしまう。
それだけではない。そのようなことが相次いで生じてくれば、当然ながら労働者の賃金も引き下げられて労働環境が劣化してきたのだ」
私は日本でTPPに賛成している連合の幹部に、これらの話を聞いて欲しかった。
リーさんの話はさらに続く。
「米国にとって、自由貿易は大企業、多国籍企業の利益にはつながったが、雇用の面では失業が大幅に増えて、かつての倍近い失業者を生じさせた。現在では米国民にとって富裕層と貧困層との格差を広げただけに終わっている。
TPPが締結されて、ベトナム、マレーシアなどからの安い労働力が米国に流入してきて、さらに格差社会が進むのではないかと私達は心配している」
うなずける話である。まさに私がTPPに日本が参加して一番怖れていたことだった。これまで私はNAFTAではメキシコとカナダが負け組みで、米国だけが勝ち組だと考えていたが実際にはそうではなかった。
米国でも勝利したのは多国籍企業などの大企業だけだったのだ。
「山田議員、それだけではないのです。メキシコでは労働者はさらに悲惨な状況に追い込まれました。NAFTAの前に約束されたように賃金が上がるどころか、どんどんカットされて失業者が増えたのです。
劣悪な労働条件のもとで犯罪、暴動まで生じました。今では組合に参加している労働者は1%にも満たないほどです」
私は、日本の連合がTPP参加に関して、ILOの基本条約が承認されて労働者の権利がさらに保護されると言っていたのをお聞きしたが、米国に来てそうではないことがわかってきた。
米国で昨年12月に開かれた米国議会・貿易商委員会の公聴会でUSTRの責任者であるマランティス次席代表は、
「TPP加盟国ではすべての環境と労働を統一したルールにする」と述べている。
同公聴会では5月10日合意が何度も語られている。
その内容について、先日批准された米韓FTAでも、韓国で労働問題の紛争が生じた場合には米国の関係者が入る理事会で解決することになっている。
それだけではない。
米・コロンビアのFTAでは米国は労働省の新設、労働監督官の採用、さらに刑法の改革まで参画することが決められている。しかも労働に関する義務は、商業上の義務と同様の紛争解決手続きをとることになっている。賠償額も貿易により生じた損害額となっている。
こんなことでいいのだろうか。
日本の労働法における労使関係は解雇権の乱用に関する規定など長い間の「判例」の積み重ねによって体系だったものになっている。
TPPに参加すれば、これらが壊されて労働法そのものの改正が必要とされる。
米国はILOの基本条約は団結権および団体交渉権など8件があるが、強制労働禁止と最悪の状態での児童労働の禁止など2項目しか認めていない。
私も弁護士なので、かねてから米国よりも日本の方が労働者の権利は保護されていることは知っていたが、非常に心配になってきた。
米国から派遣労働を押し付けれて、日本の終身雇用が失われて雇用のうち非正規雇用だけで4割を占めるようになったように、多国籍企業、大企業にとって都合のいいように労働法を変えさせてはならない。
メキシコの場合は労働上の環境の劣化だけではなかった。
実はメキシコでもNAFTAに参加する前には、企業進出で雇用が大幅に期待できるのに加えて、農業の分野でもトウモロコシの価格は上がるなどとバラ色の夢に包まれていた。
ところがNAFTAに参加したあとでは、この10年大変な状態に陥っている。
メキシコでは昔からトルテーィアで有名なようにトウモロコシが農業の主たる生産物であったが、米国の遺伝子組み換えのトウモロコシに一蹴されて農業は壊滅状態に陥ってしまった。
そのはずである。
米国ではトウモロコシでも1エーカー当たり28ドルの補助金が生産農家に与えられているのに、カーギルなどのグローバル穀物商社が輸出信用を背景に関税ゼロのメキシコに進出すればひとたまりもない。
サトウキビも米国産のGMOトウモロコシを化学処理した異性化糖に席捲されて、砂糖産業そのものも大変な状態になってしまった。
農地を離れた農民がどっと米国の南西部に職を求めて押し寄せて、それが米国人の失業、労働環境の悪化につながったのだ。
「自由貿易では関税をゼロにするだけでなく、すべての各国のルールは貿易にとって邪魔な非関税障壁だとしてルールを変えていくのだから、すべての国にとって企業の利益にはなっても、国民のためにはならない。米国民の大半もそう思っているのです。」
リーさんはそのように結んだ。
そして「TPPについて、米国の国民はこれから議論を始めることになります」と加えた。
私には衝撃だった。
労働組合の幹部は自由貿易に懸念を感じても、米国では、大半の人がFTA、TPPなど自由貿易は国益につながるとして大賛成だろう考えていたのだった。
実際には上院・下院の議員の中にも、ファーマーズ・ユニオンさらに自動車業界など産業界にもかなりの人が自由貿易やTPPに反対もしくは懸念を感じていたのだ。
調べると、それなりのデーターが揃っていた。
米国におけるNBCニュースとウォール・ストリート・ジャーナルの2010年9月の世論調査によれば69%の米国人は「米国と他国のFTAでは米国の雇用を犠牲にしている」と考えている。さらに自由貿易は米国に利益をもたらしたと考えているのは国民の17%に過ぎない。
むしろ53%の米国人が米国に損害を与えたと答えていて、これは1999年の調査が30%だったことからしても明らかである。
20ほどの米国の各種世論調査もそのような状況だった。
日本とは異なる。
日本の世論調査は1年前は70%以上がTPP賛成で大新聞の論説委員、テレビ局の解説委員もすべてがTPP賛成だったことを考えれば、歴然とする。
昨年の11月頃からようやく国論も2分されるようになった。
全米労働総同盟を退出したときには、すでにワシントンはとっぷりと暮れていた。
あれほど降りしきっていた雪もやんでいた。
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