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2010年02月10日(水) 週刊現代
「日本人はバカになった」は本当か 世界が嗤っている
全部ひらがなの答案が
都内有名私立大学に通う2年生の男子学生は、授業のレポート提出日が2日後に迫っているというのに、「まったく手をつけていない」という。焦る気配がないので、レポートのテーマが難しくて提出を諦めたのかと聞くと、そうではないらしい。
「しっかりと提出して、単位はとりますよ」
そう言うと彼はインターネットの検索サイトで「レポート共有」という二語を入れて、検索し始めた。表示されたのは、学生間でレポートの売買ができるサイトだ。「こんなレポートが欲しい」とオーダーすれば、過去にほかの学生が書いた類似のレポートが手に入るのだ。
「このままコピペ(パソコン上で文章をコピーして、貼り付けること)して提出してもバレないんですよ。僕は一応、結論を変えるぐらいのことはしますけど」
彼だけでなく、友人の多くはこうして手っ取り早く課題を片付けるという。
「ひょっとするといまや大学生の半分ぐらいは、『コピペ』で課題を提出した経験があるのではないでしょうか」
というのは、金沢工業大学大学院知的創造システム専攻の杉光一成教授だ。杉光教授は昨年、「アンク」という企業と共同で、あるソフトを開発したことで、教育関係者から大きな注目を集めた。
「コピペルナー」と名づけられたこのソフトを使えば、学生から提出された論文やレポートが、インターネット上から「コピペ」されたものであるかどうかを判別できるのだという。たとえ学生が文中の一部を書き換えていたとしても、全体の何割がコピペで構成されているかがわかるようになっている優れものだ。
昨年12月、教育機関を対象に販売されたこのソフトは、卒業論文提出期限を間近に控え、大学から注文が殺到しているという。
「東京大学や京都大学の教授からも『早くウチにも欲しい!』という声がありますから、コピペ問題は一流大学においても無縁ではないようです。ただ、これは大学教授のために開発したのではなく、あくまで学生のために開発したものです。
学生はコピペすることで、ものを考える、文章を書く機会を自分の手で奪っている。このソフトが普及すれば『課題を自分でこなすことで、自分の力が伸びるんだ』と学生が考えを改めるのではないかと期待しています」 (杉光教授)
レポートひとつ自分の力で書けない大学生がうようよいる―ゆとり教育が実施されて以来、「日本人はバカになったのではないか」という懸念があらゆるところで論じられているが、日本人は本当にバカになったのか。本誌が取材を進めると、信じがたい話が出るわ出るわ・・・。
法政大学の川成洋教授が嘆く。
「大学では英語、スペイン語、政治学、そしてヨーロッパ文化論を教えていますが、後者2つはベーシックな知識がなくてもなんとかなります。問題は英語です。基礎のできている学生とできていない学生の差が激しすぎる。『主語と動詞はなんとなくわかるが、補語と目的語といわれてもなんのことやら』という学生はまだマシなほうで、なかにはアルファベットの順番がわからない学生や、『次の英文を日本語訳せよ』と問題を出すと、全部ひらがなで書いてきた学生もいて、手がつけられない」
中央大学の山田昌弘教授も、学生の信じられない言動に頭を悩ませている。
「他大学に勤務する先生に聞いた話ですが、(学術本を読ませるのは難しいだろうと思って)『新書を一冊読んでレポートを書いてきなさい』と課題を出すと、『新書ってなんですか? 新しい本ですか?』と学生にいわれて愕然としたそうです。また、私のところにも『ソ連が崩壊したのは戦前ですか?』と平然と尋ねてきた学生がいましたね。我々が常識として知っていることを知らない若者が、確実に増えています」
ためしに身近にいる大学生に「広島・長崎に原爆が投下された日はいつか」と聞いてみてほしい。
本誌が複数の大学生(いずれも都内有名私立大学に通う)に尋ねてみたところ、「1945年8月まではわかるけど、その年はいっぱい『記念日』があるからややこしいですよね」と曖昧に濁す学生や、「1989年8月2日でどうでしょうか? 下4ケタが8982でバクハツですから」とシャレなのか本気なのか判別しがたい答えを返してくる学生に出会った。
大学生の歴史感覚の欠如は、相当深刻なようだ。
徳川家康を知らない
では、理系の知識はどうか。私立大学情報教育協会が私立大学の1500人近くの学生を対象に行った調査によると、大学生の2割が四則演算のとき、掛け算割り算を足し算引き算より優先するというルールをわかっていなかったという。
「文系の学生も対象に含めたデータだから、目をつぶってはどうか」という寛容な方もいるかもしれないが、理数系を専攻する大学生の間でも、数学力・理科力の低下は著しいという。立命館大学で経済学を中心に教える佐和隆光教授の話。
「(大学数学の基礎となる)微分積分を理解しておらず、1~2年生の時点で躓(つまず)いてしまう学生が増えていますね。東京大学の理科T・U類クラスの学生でも、微積分がわからない学生がおり、理解できるかどうかでクラス分けが行われているという話も聞いたことがあります」
六大学の一校で物理学を教える教授の話は、さらに衝撃的だ。
「物理の基礎的な講義で、まったく授業内容がわからないという学生が3割ほどいました。これでは授業にならないので、なぜわからないのかを学生に尋ねたところ、『基礎を忘れた』『テキストが文字ばっかりで読みづらい』という意見が多かった。そこで、やむなく教科書に『マンガでわかる物理』を使用することで決着しました。もちろんはじめての試みです」
それでも授業についていけない学生には補習を実施して対応している、とこの教授は言うが、大学で補習授業が行われる光景は、もはや珍しいものではない。日本私立大学団体連合会の調査では、学力低下に対応するため入学後に補習授業を実施する大学は67%に達しており、民間の教育支援企業に補習授業を委託する大学も少なくないという。
大学だけでなく、中学、高校の教育現場でも、補習教育が盛んに行われている。
京都府は'08年に行われた全国学力テストの結果、中学校3年の数学で小学校レベルの分数問題が解けない生徒が約12%もいたことから、昨年より中学1年生に小学校の学習内容を教える「振り返り集中学習」(ふりスタ)の実施を開始した。四角形の角度の計算方法や小数の計算などを復習させるという。
高校の補習授業は、各学校をはじめ、民間の教育会社や指導塾など幅広く行われているが、'09年にはNHK教育テレビの老舗番組『高校講座』でも、義務教育の学習を振り返る放送が開始された。
「第1回目の放送は『15÷(3+2)×3はいくつ?』という小学生レベルの内容でした。驚かれる方もいるかもしれませんが、勉強についていけない高校生は、このレベルから教えなおさなければダメなんです。大手教育支援企業・ベネッセコーポレーションが700校近くの高校を対象にした調査によると、『10倍したり10で割ったりすることができない』『徳川家康を知らない』といった生徒のいる高校も少なくなく、50%の高校が『小学校段階から教育をやりなおす必要がある』と答えているのです」(兵庫県内の高校で数学を教える教師)
なぜこれほどまで基礎学力が低下しているのか。「生徒の勉強時間が短くなっていることが学力低下の原因」とこの教師は指摘するが、実際日本の中高生の学習時間は、国際的に見ても短いことが、財団法人日本青少年研究所の調査でも明らかにされている。
'09年に日中韓米の4ヵ国で行われた合同調査の結果によると、日本の中高生が学校や自宅、塾で一日に勉強する時間は、平均8時間。中国の14時間と比べると、約4割も少ないのである(ちなみに韓国は10時間)。それでも学校の勉強を「きつい」と感じている高校生は77%で、4ヵ国で最も高かったのだから、言葉が出ない。
「ザ・エンド」って!?
高校生の学力低下に合わせてか、大学の入試問題も幾分か易しくなっていると指摘するのは、『名ばかり大学生』の著者で、教育評論家の河本敏浩氏だ。河本氏は今年の1月に実施された大学入試センター試験の国語の問題を例に挙げて説明する。
「現代文の問題が、中沢けい氏の『楽隊のうさぎ』から出題されましたが、これは私立中学入試の最頻出作品なんです。しかも星野学園中学、カリタス中学など、難関とはいえない普通の私立中学で出題されます。作品自体は極めて素晴らしいと思いますが、内容は小学校の教科書に掲載されてもいいような文章で、いよいよセンター試験でも、小学生レベルの文章の出題を辞さない姿勢をとるようになったか、という気分ですね」
河本氏は、さすがにセンター試験のほうがやや高度な語彙力を求めているというが、設問を見比べたとき、選択肢で答えるセンター試験と、記述で答える私立中学入試のレベルは「甲乙つけがたい」という。
「高校生全体の学力が低下していることも指摘できますが、問題はそれだけではない。中学入試を受ける子どもと、中学受験をせずに学んできた子どもの間に、圧倒的な『学力格差』があることが見て取れるのです」(河本氏)
今年のセンター試験の国語の問題(上)。私立中学でも出題されており、設問も中学入試のほうが難しい? (下・河本敏浩氏作成)
大手予備校・東進ハイスクールの古文の人気講師で、吉野塾塾長の吉野敬介氏も、こう指摘する。
「長年古文の入試問題を見てきましたが、確かに昔と比べると問題に解きごたえがなくなったかもしれません。少し前までは、早稲田大学の入試問題でも、『これは受験生には解けないだろうな』と講師を唸らせるような問題があったのですが、最近は古文でも、一定の解き方や公式を覚えていれば解けてしまう問題が増えました。出題される文章自体も、古文というより、現代文に近い問題が出題される傾向が強くなっています」
たとえば「単語を並び替えて正しい文章にせよ」といった問題でも、以前は並び替える単語の数が5個か6個はあったのに、いまでは3個か4個だけと選択肢そのものが減っている、そんな傾向も目立つという。しかし、吉野氏が気がかりなのは、問題そのものよりも、生徒の学習意欲の変化だという。
「解き方がわからなければ、自分で考えるのではなく、すぐに答えを見ようとする学生も増えていますね。私は学生によく『いま頑張れなかったら一生頑張れないんだよ』と励ますんですが、この言葉が心に響くのも数日だけという学生が多い。おそらく彼らは、小中学校時代になにかを一所懸命頑張るということをあまり経験しなかったのではないでしょうか」
そんな生徒たちでも、わりと簡単に大学に入れてしまうというのだから複雑だ。そもそも大学の数が増え、子どもの数が減っているうえに、大学入試そのもののレベルが下がっているのであれば、大学生の質が落ちてしまうのも当然といえよう。
「人気のない大学の教授や入試担当者は、高校を回って『ぜひともおたくの学生を、ウチの大学に入れてください』と、土下座せんばかりの勢いで頼んでまわっています。昨年6月、ある大学のオープンキャンパス(大学見学会)に参加した女子生徒が、その場で『模擬面接を受けてみませんか』といわれたので、ものはためしで受けてみた。それからまもなくして、その女子生徒のもとに合格通知が来た。大学入学はここまで簡単になったか、と暗澹たる気持ちになりました」(前出・高校教師)
どんな手段であれ、大学に入ってさえしまえば、後はよほどのことがなければ卒業させてもらえるのが日本のシステム。「このシステムを変えなければ、日本の学力向上はあり得ない」という声は多い。前出の山田昌弘教授が言う。
「英語の授業で時々『theend』を『ザ・エンド』と平気で発音する学生がいるので、おかしいなと思って話を聞いてみると、みな推薦で入学してきた学生でした。彼らの能力が劣っているというわけではなく、受験に合格するために必要ではなかったから、無駄な勉強をしてこなかっただけなんです。
こうした学生の学力を上げるには、結局大学卒業のハードルを上げるしかありません。全国の大学が一斉に卒業認定のハードルを上げて、さらに卒業時の成績が就職にも直結するようになれば、学生も必死で勉強するようになり、学力レベルは間違いなく向上します」
学生に「さま」をつけて呼ぶ
大学卒業、そして就職につながるのなら、学生は勉強せざるを得ないという山田教授の意見には、多くの教授が賛同するところだ。
しかしそう簡単な話ではない。賛同のあとには、「わかっていても、それができないから悩ましいんだ」という声が返ってくる。都内有名私立大学に勤務する男性非常勤講師はこういう。
「こんな学生には単位をあげたくない、と思ったことは数え切れないほどありますよ。しかし、学生による教員評価システムが採用されている以上、単位認定を厳しくしたり、レベルの高い授業を実施したりすると、クビが危なくなるのはこっちのほうなので、学生に厳しい評価を下せないんです」
現在、多くの大学では、受講している講座の内容や教授の質を学生側が評価するシステムが導入されている。夏期休暇や冬期休暇前になると、「授業内容はわかりやすいか」「教授は学生の質問に答えてくれるか」「授業について感想があれば自由に書いてください」といった細かい設問が書かれたシートが学生に配られ、この評価が教員の"通信簿"となる。
この通信簿が教員の待遇にどれだけ反映されるかは各大学によって異なるが、学生の評価があまりに低いと、来年からその講義が閉講になったり、さらには大学を辞めさせられたりする講師もいるのだという。
教員は名指しで批判されるのに、評価をする学生は匿名で保護されており、それをいいことに、都内の有名私立大学で、少し高度な講義を行った女性非常勤講師の評価記入欄に『お前みたいなブスは死んじまえ』と書き込んだ学生がいたという話もある。
前出・川成教授は「この教員評価システムこそ、日本の知の衰退を招く引き金となっているのではないか」と指摘する。
「このシステムのおかげで、少しわかりづらいが高度で質が高いという授業を誰もできなくなってしまい、結果として大学の質の低下を招いてしまっています」
さらに川成教授は、別の問題にも言及する。
「最近では学生の名前を『さま』づけで呼ばなきゃいけない大学もあると聞きますが、大学にとって入学してくる学生はお客様になっている。この『お客様待遇』が問題なんです。入学してから卒業するまで、傷をつけずに大切に社会に送り出してあげなければならない。
いま、学部長に選ばれた教授が一番最初にやらなければならないのが、警察まわりです。最近、大学生が事件を起こすことが多くなりましたが、『事件が起きたときには、どうか大学名と学生名を公表しないようにしてください』と、所轄の警察署とそこに詰める記者クラブにお願いにあがるんです。これが学部長の仕事とは、悲しくなってきます」
経営維持のため、大学は少しでも学生に居心地のいい環境を提供し、入学者を増やさなければならない。山田教授は「全国の大学が一斉に卒業のハードルを上げなければ意味がない」と強調したが、学生に対してここまで低姿勢になっている大学が、この「正論」を理解するには、長い時間を必要としそうだ。
大人も笑っていられない
学生の「劣化」に呆れたくなる気持ちはわかる。しかし、それはあまりに無責任すぎる、というのは教育評論家の尾木直樹氏だ。
「子どもたちは、大人の教育政策に振り回されている被害者です。そもそも、これまで大人が『学力とはなにか』を真剣に議論してこなかったことに問題がある。日本では、いまだに詰め込み型の教育が重視されているが、世界の教育では、学力とは『持っている知識をいかに活用するか』だと考えられているんです。それを鑑(かんが)みず、いまだに詰め込み型の学習が正しいと信じて、子どもに知識偏重の学習を強いている大人のほうがバカなのではないか」
実は、大人もバカなのだ―。尾木氏は大人の責任を追及するが、確かに大人が学生のことを笑っていられるのはいまのうちかもしれない。いま、世界では「大人の学力」を測ろうという動きが盛んになっている。
その代表的なものが、OECD(経済協力開発機構)が実施する「PIAAC(ピアック)」―国際成人力調査だ。この調査について、文部科学省職員が説明する。
「国際的に労働市場が流動化するなかで、各国の大人がどれだけの能力を持っているのかを測る必要があるのではないかという議論がでてきました。そこでOECD加盟国(日本、アメリカ、イギリス、フランス、韓国、フィンランドなど)で、16歳から65歳を対象とした調査を行い、ビジネススキルや基礎学力を測ることになったんです。
具体的には「読解力」「数学力」「ITを活用した問題解決能力」が調査対象で、文章や図表から情報を読み取り、それを活用する力があるかどうか、さらに普段どんな新聞、雑誌、学術論文を読んでいるかなどについても回答してもらう調査になる予定です」
PIAACは今年4月より予備調査が開始され、2011年に本調査が行われる。その2年後の2013年に結果が発表されるが、この文部科学省職員は、「2013年、日本はPIAACショックに襲われることになるかもしれない」と危惧する。
義務教育修了段階の15歳を対象とした国際学習到達度調査(PISA)が'06年に行われた際、日本は「科学的応用力」で6位、数学的応用力で10位、読解力で15位とふるわなかった。
この結果は「PISAショック」と呼ばれ、学習指導要領の見直しの呼び水とさえなったのだが、PIAACの結果が出れば、「大人の学力」の低下が詳(つまび)らかになり、新たな学力論争を呼び起こすことになるかもしれないというのだ。
「PIAACで調査される3つの能力は、どれも日本人が苦手とするものです。おそらく日本の成績は、下位とは言いませんが、上位に食い込むことはないでしょう。『日本人の学力は、たいしたことないじゃないか』と、世界の嗤(わら)いものになってしまう日が近づいているのです」(前出・文部科学省職員)
PIAACでは読書の質も問われるというが、日本人の読書量はここ数年で急激に減少している。昨年9月に文化庁が公表した「平成20年度国語に関する世論調査」(調査対象は16歳以上)によれば、「1ヵ月に大体何冊ぐらい本を読んでいるか」との問いに、「読まない」と答えた人が46・1%に上っている。
平成14年度の同様の調査では37・6%だったのに、わずか6年でさらに10ポイント近くも読書離れがすすんでいるというわけだ。16歳以上の人口は約1億1000万人。その46%ということは、約5000万人もの日本人が「1ヵ月に一冊も本を読まない」ことになる―。年間では約3000万人といったところか。
これは少々大げさかもしれないが、読書量の低下は、誰もが思い当たる節があるはずだ。
一日に28冊の本を購入したことが報じられた鳩山由紀夫首相は、この基準に照らせば大の読書家といえよう。そんな鳩山首相でも、1月22日の衆院予算委員会で「朝三暮四の意味を知っているか」と尋ねられ、自信満々に「『朝決めたことと夜決めたことですぐ変わる』意味だ」と答えてしまうのだから、不甲斐ない。
しかし「朝令暮改と朝三暮四の違いを理解していない人が首相を務めているなんて」と笑ってもいられない。
先述の「国語に関する世論調査」では、「慣用句・言葉の意味を正しく認識しているか」についても調査が行われたのだが、「時を分かたず」の意味を「すぐに」、「破天荒」を「豪快で大胆な様子」、「敷居が高い」を「高級過ぎたり、上品過ぎたりして入りにくい」と答えた人の割合は、それぞれの本来の意味(「時を分かたず」は「いつも」、「破天荒」は「だれも成し得なかったことをすること」、「敷居が高い」は「相手に不義理などをしてしまい、行きにくい」)を答えた人の割合を上回った。
ハトのふりみてわがふり直せ―。首相の質の劣化は、国民の質の劣化のあらわれだというのは、元衆議院議員の岩國哲人氏だ。
「歴代の首相の愚かさに呆れて、政治家の劣化を指摘する声が高まるのもわかるが、そんな政治家を長年選び続けている有権者も同時に劣化しているということに気づかなければならない。国民も自分たちの考え方について省みるときがきたのではないか」
留学生たちが呆れている
なんで日本人は勉強しないの
このままでは日本は、世界から取り残された「バカの国」になる―。そんな危機感を抱く教育関係者は多い。実際世界の国々が、日本の知力の衰退に呆れはじめているという。前出の川成教授は、こんなエピソードを明かす。
「先日、東南アジアの学者らが日本に短期留学に来たとき、私にこう言いました。『日本は本当に素晴らしい国で、私たちの憧れだった。しかし日本の大学に来てわかった。わが国の学生は、軽々と日本を超えられる』。さらにベトナムのある研究者は、『日本の大学は夜になると図書館を含めすべて灯(あか)りが消える。これはわが国では考えられないことです』と首を傾げていました。このまま知の衰退が進めば、日本は二流国に成り下がってしまいますよ、と彼らは警鐘を鳴らしているんです」
前出の山田昌弘教授も続ける。
「中国からの留学生を見ていると、朝から晩まで勉強する彼らの熱心さには頭が下がる。彼らの間では『コンパやバイトに明け暮れる日本人に染まらないことが重要だ』が合い言葉になっているようです」
韓国人のIT企業経営者が続けて言う。
「日本人は勤勉を誇りにしているが、実際はそんなに働いているようには思えない。私は仕事の関係でよく日本に行きますが、昼の喫茶店は居眠りする営業マンであふれ、夜は終電がなくなるまで飲み歩くのが日本のサラリーマンの姿。ビジネスの世界で『働く』とは、効率よく仕事を進めることであり、ただだらだらと働いているだけなのに、『俺たちはよく働く』と言うのは間違いでしょう」
京都大学大学院の中西輝政教授は、日本人の議論する力の低下が、日本の衰退を招くという。
「個々の学生の能力は高いと考えているが、みな大勢の前で自分の意見を言うことができないのです。ゼミの授業でも、誰も発言しないために討論にさえならないのが現状です。こんな国はほかにありません。留学生はもの言わぬ日本人の姿を見て、『なんだこの国は』と戸惑っています。学生にかぎらず、自分の意見を主張する力がない日本人は、ビジネスの場でも、国際交渉の場でも押し切られてしまうでしょうね」
日本は明らかに世界の国国から嗤われている。日本の知の衰退をしり目に、世界の国々は、国際競争力を向上させるために、自国の教育レベルを押し上げようと心血を注いでいる。特に近年各国が競い合うように取り組むのが、「一流大学の誘致」と「大学の国際化」だ。
ドバイやアブダビといった中東の発展国では、世界中から優秀な学生を集めようと、MIT(マサチューセッツ工科大学)やボストン大学、ソルボンヌ大学をはじめとした一流大学の誘致を次々と成功させ、現地にキャンパスを建設している。本国とほぼ同程度の授業が受けられるため、中東中から学生が集まっているという。
EUでは、域内の大学間での学生や研究者の協力関係を促進させる「エラスムス計画」を実施し、連携して教育レベルの向上に努めている。さらに世界の大学の雄・ハーバード大学は、豊富な資金力をバックに、アメリカだけでなく中東や中南米、中国など世界中から優秀な学生を呼び寄せ、知の最高峰の座を一向に譲ろうとしない。
もう手遅れなのか
日本の大学も、大学の国際化の流れを、ただ傍観しているわけではないのだろうが、「いまは国内の学生を獲得するためのブランディング戦略に手一杯。国際化を図ろうにも、対応できる能力やアイデアをもった職員に乏しい」(関西有名私立大学職員)のが現状だという。
「一橋大学が、もっと世界に大学の名前を浸透させるため、ケンブリッジ大学に倣(なら)って『ワンブリッジ大学』という通称をつけようと真剣に検討したことがあったと聞きました。笑い話に聞こえるでしょうが、どこの大学も、その程度のアイデアを出すのがやっとなんです」(同職員)
これでは世界が日本の大学を相手にしないのも仕方ない。大阪大学大学院国際公共政策研究科の山内直人教授は「日本の大学の国際化は大きく遅れている」と断言する。
「留学生比率はほとんどの大学で1割未満に留まっていますし、英語で受けられるプログラムが少ないため、まず留学生は日本語をマスターしなければならないという大きな壁がある。これでは世界の大学生が日本を敬遠するのも無理はない。これらを改善しようという動きはみられますが、このまま国際化が遅れれば、世界の優秀な学生の獲得に失敗し、長期的には日本の知の衰退、国際競争力の低下につながるでしょう」
実際、山内教授が言う知の衰退による国際競争力の低下は、一部では現実のものになっている。
1月9日、ラスベガスで開かれた世界最大規模の家電展示会で、サムスン電子の前会長・李健氏は、「日本企業との競争についてどう考えるか」と尋ねられ、「気にはしているが、心配はしていない。基礎技術やデザインでも、わが社は日本企業より優位にある。一度優位に立ったものを追い抜くには、時間がかかる」と言い放った。
EUでも「日本にはもう学ぶことがない」という声が多く聞かれるという。EU事情に詳しい、目白大学の三上義一准教授が語る。
「EU内でも日本の景気後退や政治の混乱は報じられますが、いままでは『なぜ日本は衰退したのか』が話題になっていたのに、最近では『日本はこの20年間、よく頑張った』という論調のほうがよく見られるようになっています。20年前は『あの小さな国・日本が成長した秘密はなにか』が盛んに研究されましたが、EUにおいて日本はもう過去の国という扱いで、インドや中国といった台頭著しい国がアジアの代表となっています」
さらに京都大学経済研究所の西村和雄教授は、日本の技術神話も崩れはじめているのではないかと指摘する。
「私は2年ほど前に、中国とベトナムに進出している日本の製造業の関係者に聞き取り調査をしたことがあるんですが、基礎学力や仕事の正確さでは、中国やベトナムの労働者のほうがすぐれているという結果をみて愕然としたことがあります。徐々にではありますが、日本の存在感は、世界中で低下しているのです」
「日本人はバカになった」は本当か―。日本人より先に、世界はこの答えに気づいている。
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