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http://diamond.jp/articles/-/14510
日本以上の速度で高齢化が進む中国社会
2050年には 60歳以上の高齢者が人口の3割を占めると言われ、日本をしのぐスピードで高齢化が進む中国。上海でも、2010年末には上海戸籍を持つ人口1412万人に対して、60歳以上の老人が前年比15万人増の331万人を占めるようになった。いよいよ本格的な高齢化社会に突入しようとしている。
筆者が訪ねた、上海で中級クラスの敬老院(老人ホーム)。中の造りは「病院」そのもの
Photo by Konatsu Himeda
さて、その上海で市民はどのように「老い」を迎えているのか。筆者は、上海で証券会社に勤務する山西省出身の劉さん(仮名)とともに、高齢者をケアする「敬老院(老人ホームに相当)」を訪れた。
劉さんは、重度の糖尿病を患っている60歳を過ぎたばかりの母親を、上海に引き取りたいと考えている。しかし、日中はそばにいることができないので、上海の老人ホームに入れることを検討しているのだ。
劉さんと筆者は、上海市内にある中級クラスの老人ホームの門をくぐった。複数階の建物に直線的な廊下、向かい合わせに小部屋を作り、ベッドを置くという造りは、むしろ上海の病院そのものだ。見た目に異なるのは、着ている衣服がパジャマではないことだ。
「母親を入れたいと思っているんですが…」と打診する劉さんに、事務局の担当者は「上海に持ち家はあるんですか?」と間髪入れずに聞き返してきた。まずは持ち家があること、身寄りがあることが必須条件のようだ。
「職業は何?」とも聞かれた。「証券会社」という劉さんの答えには満足したかのようだったが、母親は60歳を過ぎたばかりであることを伝えると、「それならまだ早い、ここは80歳過ぎの老人が大多数だから。70歳後半でも入るのは早いほうですよ」との説明が。さらに、彼が外省の出身だとわかると、「上海戸籍でないとダメでして…」という答えで、話は打ち切られた。
しかし、彼らの対応は決して悪いものではなく、「せっかくだから自由に見学してください」と声をかけられた。「自由に見学してください」とは、よほど自信がないと言えないセリフだ。
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ピンからキリまで……
中国の老人ホームの実態
エレベーターで5階にたどり着くと、広めのエレベーターホールが多目的ホールを兼ねていた。多目的ホールといえば聞こえはいいが、テレビと椅子が置いてあるだけで、することといったらおしゃべりぐらいだ。
上海市内でも、盧湾区などの“山の手エリア”ともなると、月8000元の高級老人ホームも存在し、卓球施設などもあるそうだ。私たちが訪れた中級クラスの老人ホームは、イベントや活動などはほとんどなく、せいぜい週2回のDVD鑑賞会程度。それ以外は起床から就寝までを、食事とテレビで埋めるしかない。
エレベーターホールを通過して右に折れると、左右に個室が並ぶ。日当たりもよく、眼下に公園の緑が一望でき、共用部も個室も清潔に管理されている。日中は布団を畳んで、私服を着て過ごす。どの方も「まだまだお達者」という感じだ。
入居者のひとりはここでの生活を「まあまあだね」と評価する。「もっとひどいところもある。屎尿の匂いすらするところがね。汚物のついた洗濯物をみんな一緒に洗濯するから、自分の衣類まで汚れて返ってくるんだ」と、顔をしかめる老人もいる。
今年73歳の黄さん(仮名)は、たまに咳き込むものの足腰はしっかりし、話しぶりもはっきりしている。娘と二人暮らしだったが、娘の仕事が忙しく面倒を見きれないため、この敬老院に入ったそうだ。
支払いは月2000元(約2万4000円、1元=約12円として)。年金が1500元しかないので、娘が500元を足して支払いに充てているという。これには身の回りの世話をしてくれる「保母(バオムー)」と呼ばれるお手伝いさんの費用(450元)も含まれる。敬老院に支払う費用は、このお手伝いさんに支払う金額(200元、300元、450元)で1〜3級に類別される。一番良いとされる1級のサービスには「大小便の手伝い」が含まれている。
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日本企業も商品と
ノウハウを紹介
上海市は、60歳以上の老人が市の人口の23.4%(331万人)を占める。平均寿命は82.3歳と、全国一の老齢都市とも言われている。中国では、市民の老後を国が支えるという枠組みが出来上がっており、町内、区や市、また居住区などを単位に老人ホームを設置し、高齢者の生活を支えている。
また、第12次5ヵ年計画(2011年〜2015年)では、養老社会制度を農村までカバーさせることや、60歳以上の高齢者人口の30%分まで養老のためのベッド数を増やすなどの計画が織り込まれている。
上海で10月、第1回上海国際老齢産業交流会が(株)ゲストハウス(本社:兵庫県)、JTBの主催で開催された。医療介護先進国である日本から、この高齢化市場に向けた技術や商品、ノウハウなどのアプローチも始まっているのだ。「日本式の介護システムが求められているのではないか」「一人っ子政策で親の面倒を見きれない世代に、優れた日本の高齢者サービスは市場性を見いだすはず」といった期待が聞かれる。
上海の高齢化社会に詳しい上海体育学院教授の李建国氏は、「中国では認知症が増えている。高齢者の健康支援の軸足は、これまでの『治療』という在り方から、『予防』にシフトするだろう」とも指摘している。
日本と中国、
それぞれに異なる「老い方」
今後の老齢化を見据え、日本企業も関心を高める昨今だが、同じ高齢化社会とは言え、「似て非なる部分」にも注目すべきだろう。
例えば、老人ホームといっても日本人のイメージとはだいぶ異なるが、それは単に中国が遅れているからではない。同じアジアの高齢者でも、国が違えば「老い方も違う」ものなのだ。
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そもそも中国の、あるいは少なくとも上海の高齢者たちは、日本に見る高齢者の姿とはかなり異なる。大きな違いは、背筋がピンと伸びていることである。老人ホームの高齢者たちは、多少歩みが遅く、また話し方がゆっくりしていても、頭の回転は素早く社会問題にも敏感で、対等な議論さえもできる。老いてもなお自立している、そんな気配さえ感じさせるのだ。
公園や家の近所で誘い合って運動に勤しむ老人の姿がよく見られる
Photo by Konatsu Himeda
日本では朝に夕に病院で順番待ちする高齢者の姿を多く見かけるが、上海では朝に夕に運動で自ら体を鍛える高齢者たちが多い。これが日本と中国の高齢者の決定的な違いであり、「自分の健康は自分で責任を持つ」「信じられるのは自分だけ」という意識が垣間見られる。
彼らが頼るのは医療ではなく、自分の脚。まずはお金を掛けずに自分の体を鍛えることに相当の時間を注いでいるのだ。公園では太極拳をし、家の近所では友人と誘い合って競歩をする。また、マンションの敷地内には必ずと言っていいほど、子どもの遊具よりも優先して、高齢者向けの健康器具が設置されている。
中国には「9073服務」という計画がある。「90%の高齢者は在宅でケアし、7%は地域の老人ホームで、また3%は市や区の老人ホームでケアする」というものだが、「基本は在宅で」という観念もまた、中国ならではのものだ。
老人ホームという言葉には、まだまだネガティブなイメージがつきまとう。前出の劉さんも「仮に自分の親を老人ホームに入れたとしても、このことは他人には言えない」と打ち明ける。老人ホームに入れるのは、自分が親孝行な息子ではないことの証になってしまうからだ。
老人ホームとは独居老人、貧困老人、もしくは重病を抱えた老人、もしくは家庭不和で面倒を見てもらえない高齢者が行くところ、というイメージがまだまだ強い。
他方、昨今は金持ちが増えたとは言え、上海市の圧倒的多くの家庭では夫婦共働き、ましてや教育費に相当の出費が課される生活の中で、高齢者のケアには十分な資金が投入できないのが実情だ。
別の大学で年金問題を研究する専門家は、「上海の富裕層の中に外省出身者が占める割合は高い。だが、流動性の高い外省出身者が、ここ上海で高齢化を迎えられるかどうか。また、上海戸籍の一般家庭が、高齢者介護にどれだけ家計を振り向けられるかも課題」と指摘している。
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過酷な現実と、
たくましく生きる老人たち
中国人の老後をこう括った言葉がある。
「自分で歩けなくなったらそれまで。後は死を待つだけ」――。
中国といえば「公園で太極拳」のイメージが強いが、老人にとっては切実な“自衛策”でもある
Photo by Konatsu Himeda
これが中国の高齢化の過酷なまでの現実である。だからこそ、中国の高齢者たちは他人の助けを待たずして、自ら自分の体を鍛えるのだ。その傾向は最近さらに強くなっている。夫と二人暮らしの初老の李さん(62歳)はこう話す。
「いまどき最低でも月2000元を支払わなければ『保母(バオムー)』は来てくれない。もともと上海では『保母』に面倒見てもらうのは一般的ではないけれど、このインフレでますます人には頼っていられなくなった」
さて、そのような中国社会が、高齢者介護先進国と言われる日本のノウハウの、どの部分を歓迎するのだろうか。前出の李さんは「日本の過剰なほどの面倒見の良さは知っている。けれども、かえって我々の独立した生活能力を阻むのではないか」との懸念も表す。日本は進んでいるから、日本のものは品質がいいから――そんな理由だけではなかなか受け入れてもらえないようだ。
共に歩む高齢化社会、日本と中国に共通する課題は何なのか。たくましく老いるこの社会で必要なケアとは何なのか。文化や社会背景の差を抑えた上での、日本企業の展開が期待される。
世論調査
質問1 老後に備えて、体を鍛えていますか?
鍛えている
とくに何もしていない
その他
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