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「腐った北京ダック」「漂白剤ポップコーン」「セメント・ミルクティ」
温家宝が撲滅を叫んでもきりがない中国「毒食品」の凄惨
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/6852
2011年06月06日(月) 近藤 大介 北京のランダム・ウォーカー:現代ビジネス
中国ではその昔、皇帝様の脇に必ず毒味役がいて、毒味役が味見をしたものしか、皇帝様は口にしなかった。つまり皇帝様は、常に毒殺の危険に晒されていたわけだ。だがいまや、13億4000万人の中国人の誰もが、「皇帝様気分」を味わっている。ここ中国においては、日々の一食一食が、かなりリスキーかつスリリングになりつつあるからだ。
化学薬品を添加しすぎて破裂する江蘇省の「爆発スイカ」は、日本でもすっかり有名になったが、そのくらいで驚いてはいけない。ごくごく最近問題になったものだけでも、ザッと挙げるとこんなにある。
○黒ダック・・・・腐った肉塊の詰まった北京ダックのパック。老舗の「全聚徳」ブランドで、北京の至る所で売られていることが発覚し、北京市民がパニックに陥った。
○痩せブタ・・・・河南省の大手食品加工メーカーが、ブタに特殊な化学薬品を注射し、脂身のない痩せぎすのブタを大量に生育し、全国に出荷していたことが発覚し、大騒動になった。上海では4678品目もの痩せブタが安全検査に合格していたことも分かり、上海市衛生局への怒りも高まった。さらにこの悪徳会社が5月末に工場再稼働宣言をしたことで、ブーイングが起こっている。
○染色饅頭・・・上海の大手菓子メーカーが、添加剤に浸して染色した毒饅頭を大量に売っていたことが発覚。騒ぎの後も、3万2000個の染色饅頭が回収されなかった。他にも、安徽省では染色ケーキ事件が起こった。
○墨汁ゴマ・・・白ゴマより黒ゴマの方が高く売れるため、白ゴマを大量の墨汁に漬けて出荷する。北京を始め、全国各地で墨汁ゴマが発覚している。広東省中山市では、一度に1325kgもの墨汁ゴマが押収され、「墨汁ゴマの故郷」との汚名を頂戴した。
○漂白剤ポップコーン・・・こちらは逆に大量の漂白剤にポップコーンを浸して白みを出していた。北京中の映画館で売られているポップコーンが漂白剤付けにされていたことが発覚。映画を観るのも命がけになってきた。
○毒モヤシ・・・三審陽のあるモヤシ農家が、特殊な化学薬品でアッという間にモヤシを発育させて出荷していたカドで、摘発された。市当局が念のため、市内のモヤシを一斉検査したところ、ほとんどが毒モヤシであることが判明し、三審陽からモヤシが消えた。同様に、河南省の毒ニラ事件、湖北省の毒ショウガ事件など、毒野菜事件は後を絶たない。
○セメント・ミルクティ・・・広東省のセメント会社が、副業で、廃液セメントを溶かし、香料を混ぜてミルクティを作り、広東省全域に出荷していた。
○ホルマリン・レバー・・・重慶でホルマリン漬けのレバーを1日に2tも出荷していた業者が摘発された。同様に河南省鄭州市では、ホルマリン漬け残飯肉が、小学生の大好物である「牛肉棒」として、市内全域で売られていたことが判明し、大問題になった。
○汚水油・・・中国には「汚水油業界」と呼ばれるアンダーグラウンドの業界があるほどで、汚水池に貯まった油を掬い上げては、食用油として売っている。中国全土の屋台の多くが、汚水油を使っているとも言われる。摘発された重慶のある汚水油業者によれば、日々200kgもの汚水油を、市内のレストランに出荷していたという。
毎朝の新聞には、次々に発覚する新種の食品事件が紙面を飾り、唖然とさせられる今日この頃だ。中国中央テレビと北京テレビにはそれぞれ、『質量報告』『公衆調査』という、ニセモノ調査報道の専門番組があって、毎日新手の事件を追跡調査報道しているが、ネタが切れることがないのだ。先日の放送では、「いまや肉を売る者は肉を食わず、野菜を売る者は野菜を食わないという世の中になってしまいました」と、アナウンサーが嘆いていた。
■安全な食事は外資系で
中国全土がこんな惨憺たる有り様なので、結局は自己防衛手段に頼るしかない。周囲の中国人によれば、いま北京っ子は、外食する時、次のような「3原則」があるという。
1.チェーン店へ行け・・・チェーン店の場合、一店舗が摘発されたら全店お取り潰しに遭う危険があるので、比較的食材に気を遣っている。海底捞という火鍋のチェーン店は、5月末から、北京の16店舗で初めて、10種類の使用添加物を表示するようになった。
2.四川料理は避けよ・・・四川料理は辛いため、危険食材を混入しても、発覚しにくい。また赤トウガラシの使い回しは、多くの店で問題になっている。
3.外資系の店へ行け・・・マクドナルドや日本系の牛丼チェーンは、肉を海外から調達しているため安全。スタバのコーヒーも同様だ。
そもそも、なぜ中国はこれほど荒廃してしまったのか。原因の一つは、「菜賎傷農、菜貴傷民」(野菜が安ければ農民が傷つき、高ければ庶民が傷つく)という矛盾だ。北京市の4月のCPI(消費者物価指数)は5・8%に達し、特に生鮮食料品の高騰が市民生活を圧迫している。
今年に入って中央政府は、生鮮食料品の物価抑制を、主要都市の市政府に命じている。だが無理やり物価を抑制すると、今度は農家が困窮する。山東省の白菜農家が、「白菜を5tも出荷して、ようやく100元(約1250円)に達する」と怒り、自分で作った白菜を踏んづける示威行動に出たりしている。このような自暴自棄になった農家が、毒野菜作りに励むという構図だ。
同様に、全国の中小企業の苦境も続く。5月に工業情報部が発表した「中小企業融資状況調査」によれば、現在の中小企業の状況は、3年前の金融危機の時よりも、さらに悪化しており、生産半減や停止に追い込まれる中小企業が続出しているという。政府はインフレ抑制のため、5月17日に銀行の預金準備率(中央銀行への預金義務の比率)を、史上最高の21%にまで引き上げた。
■「死刑に処す」
このため、全国の銀行で、貸し渋りが深刻化しているのだ。加えて人件費の高騰(政府は年に一度の最低賃金上昇を各地方政府に厳命している)、原材料費の高騰、電気代の高騰、元高の進行などによって、かつて「世界の工場」と呼ばれた中国の製造業の屋台骨が揺らいでいる。こうした中小企業が、苦しさ紛れで毒食品作りに走るというわけだ。
これにさらに、腐敗まみれの官僚が加わる。現在中国でベストセラーになっている『中国腐敗官僚リスト 2000〜2010年の250人の腐敗官僚のケース』という本を読むと、食品衛生検査を監督する官僚たちが、賄賂を取っていかに毒食品を黙認してきたかが分かる。
そもそも、中国で食品衛生法が施行されたのは1995年のことで、これを補強する全106条から成る食品安全法が施行されたのは、わずか2年前の2009年6月1日のことなのだ。
温家宝首相はここへ来てようやく、「毒食品を撲滅せよ!」と檄を飛ばし始めた。そして、6月に最高人民法院(最高裁判所)が、全国の下級裁判所に「食品の安全を脅かす犯罪についての通知」を出すことになった。
5月末にこの通知の内容が明らかになったが、「死亡者や甚大な被害が出た場合には死刑に処す」という厳しいものになっている。結局、一罰百戒で見せ付けるしか、解決方法はないというわけだ。
ちなみにこの通知には、「賄賂を取って職権乱用した官僚も厳罰に処す」との一文が付記されるなど、官僚に対する戒めを長々と説いている。悲しいかな、この国にあっては、毒食品の生産業者と官僚が、「同列」というわけである。
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