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賃金を10倍にしないと社員が辞める!?日系企業が怯える「昇給神話」の虚と実
http://www.asyura2.com/09/china02/msg/727.html
投稿者 gikou89 日時 2011 年 1 月 19 日 01:04:10: xbuVR8gI6Txyk
 

http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110111/217882/?P=1

賃金を10倍にしないと社員が辞める!?
日系企業が怯える「昇給神話」の虚と実


 「金さん、至急相談したいことがあるのです。すぐに会社に来てくれませんか」

 1本の電話がかかってきました。普段から親交のある総経理(社長)からでした。私は採用活動の相談かと思ったのですが、そうではなさそうです。興奮した様子の総経理が「話は後。とにかく来てくれ」と言うので、早速、会いに行きました。

 すると総経理は、困り果てた表情でこう言ったのです。「うちの会社の平均賃金を10倍にする方法を教えてくれませんか」。


平均賃金を10倍にしてほしい

 その会社は日本では大企業に属する規模ですが、中国法人はまだ中小規模の会社でした。100%出資で中国に進出して5年なので、現地法人の歴史はそれほど長くはありません。生産工場を持つメーカーで、社員数は約200人です。上海の郊外に工場があり、市内に営業拠点があります。

 「いきなり社員の平均賃金を10倍に? ・・・いったいどうしたというのですか」。そう聞く私に、総経理はこう言いました。「金さん、このままだと社員全員が辞めてしまうかもしれない・・・」。

 総経理の話はこうです。
「弊社は中国に進出して以来、堅実に、そしてまじめに事業を進めてきました。社内の雰囲気も悪くありません。おかげさまで売上も順調です」
「しかし、先日あるコンサルティング会社の方が来ました。賃金調査も行っている会社だったので、うちの会社の賃金水準はマーケットでどれぐらいの位置にあって、弊社の社員はどのぐらいの価値があるのかを聞いてみました」

 つまり、この総経理はコンサルティング会社に賃金調査を依頼したのです。


驚愕の結果だった調査報告

 総経理は事細かに調査概要を私に説明してくれました。まず自社の社員について、その職位や職責についてアンケートに答えます。

 例えば、個別の社員の職位とその名称、等級、職位別の人員の比率、職位別の学歴や経験、マネジメントやプロジェクトの範囲、指揮命令系統と報告の対象、職責及び目標(目標達成度合いを含む)といった項目です。そして、それぞれ現在の賃金を記入します。

 このコンサルティング会社は、この会社の競合会社6社でも同様の調査をしていました。つまり、ライバル会社との間で賃金の比較ができるわけです。6社の中にほかの日系メーカーはなく、欧米系と中国の民営企業だけでした。この総経理は、日系の同業の中では自社の賃金は高い方だと自負しており、私もそう感じていました。

 ところが、そうではなかったのです。総経理は棚の奥から分厚い調査報告書を持ってきて説明を始めました。

 「金さん、とりあえず見てみてください。同じ仕事内容や職位で並べて各社を比較すると、弊社の200人の社員のうち競合会社の平均的な水準を超えている人はわずかだったのです。少しはそういう人もいるかもしれないとは思ったのですが、これほどだったとは・・・」

 ショックを隠し切れない様子の総経理は、こう続けました。「何よりもショックだったのは、全社の平均賃金です。会社の規模に違いはあるものの、弊社の平均賃金はあまりにも低いことが判明しました」。

この調査結果における平均賃金は、高い方から低い方までを4段階に分け、どこに属しているかを示してあります。この会社は最低の25%の中にありました。その中でもまた4段階に分けてあり、そこでも最低の水準に分類されていました。まさに「下の下」といったところです。

 「正直に言って、日系の中では高いという自負はありましたが、欧米系を含む同業で見るとこれほどまでに低いとは想像もしませんでした。事業は順調に推移していますが、このままでは社員がすべて同業他社に転職しまわないかと、不安でたまらないのです」。興奮が一段落した総経理は、一転して気落ちした表情になりました。

 私は「総経理、社員はおそらく他社の賃金も知っていますよ。それでも御社に残っているのは理由があるはずです。そこには自信を持ちましょう」と励ましました。と同時に、こう付け加えました。「ただ、この結果は真摯に受け止めるべきだと思います、平均賃金を10倍にする必要があるかどうかは別としても、賃金体系を含む人事制度をもう一度見直してみませんか」。


マーケットを見る欧米系、日系同業のみで調整する日系

 日系企業は横のつながりが非常に強く、同業であっても情報交換を密にしているケースが多いようです。社員の賃金についても同じように情報交換をしています。

 本来、企業の賃金はその会社の賃金体系や人事制度に照らして決められるべきですが、実際には「同業」「同規模」「同地域」の状況をにらみながら横並びで決まることが多いようです。中には同業の総経理同士が直接話し合って賃金を調整している例もあります。

 一方、欧米系企業は人事部門の発言力が強いこともあり、そのほとんどが賃金調査に大きく左右されます。恣意的な調査結果を排除するため、複数の調査会社に依頼をして、しかも連続して同じ会社に発注しないというルールを持つ会社もあります。中には「賃金調査チーム」という専門部署がある会社もあります。

 欧米系の考え方は「社員の市場価値はマーケットで判断する」というものです。欧米系が考えるマーケットとは現在の事業を運営している地域の相場と他社の賃金水準です。職位によって賃金の差が大きいため、調査会社とは職位や職責の「定義」について綿密に打ち合わせをします。

 比較対象となる「他社」の意味するところも違います。日系の場合「同業」「同規模」「同地域」ですが、欧米系の場合は「採用における競合(人材の供給先や、候補者の応募先)」「商品における競合(商品での同業)」「規模における競合(同規模の会社)」「競合になりそうな競合(今後の事業展開見込みを含める)」という4つの観点です。

 調査によって導き出されたデータは昇給や昇格に反映され、社員との面談においても使われます。重要な職位にある社員にはマーケット(調査データ)より高い待遇を提示するのが一般的です。ボーダーラインにいる社員にはマーケットと同程度の賃金を提示し、辞めてもらいたい社員にはマーケットより低い金額を提示します。


欧米系と日系の賃金の差は約1.5倍

 また欧米系は、今の中国では、ほぼ無条件に毎年10%の昇給が必要だという見方をしています。現在、日系企業の平均昇給率は6〜9%で、物価が大きく上昇した今年は10%を提示する会社も出てきました。一方、欧米系の平均昇給率は約14%です。日系企業よりも高いというイメージがありますが、実際には幅があり、個別に見ると0〜35%の間にあると言われています。

 賃金がすべてではありませんが、中国人社員にとって経済的要素である賃金は、就職先を決める大きな項目の1つであることに変わりはありません。欧米系と日系の賃金の差は約1.5倍あると言われています。

 最近、中国各地で最低賃金の引き上げが実施されています。中国のホワイトカラーの賃金は決して安くはありません、総監(部長)クラスや役員クラスで日本と同等もしくは日本の役員クラスの報酬をもらっている例も珍しくありません。それが、日本の社長よりも多いケースもあります。


一般のワーカーについても同様の事が言えます。内陸部の経済発展により沿岸地域に出稼ぎに行く必要がなくなり、旧正月に田舎に帰ったまま、帰って来ないワーカーが多い背景にはそんな理由があります。

 今後中国は内需拡大を目指し、政府が号令をかけ全体の賃金水準を上げていこうとしています。また、3回目の雇用契約更新時に事実上の終身雇用契約である「無固定労働契約」が導入される可能性も高まっています。雇用する経営者にしてみれば、固定費である賃金が大きくのしかかってくるわけで、メリハリの利いた賃金及び人事制度の再構築の必要が迫られています。


「賃金も大事だけど、この会社のこの仕事が好き」

 さて、冒頭の「平均賃金を10倍にする方法を教えてください」と言った総経理の会社はどうなったか――。

 その後、総経理と人事担当者と数カ月に及ぶ議論をしました。その結果、人事制度を根底から考え直し、「会社の価値観に合う人材で、かつ業績を上げている」を評価するという方針に変更しました。賃金体系を抜本から見直しをした結果、それに不満を持つ数人の社員が退職しましたが、現在では離職率も低くなり、経営は安定しています。

 一連の騒動を振り返り、総経理は最後にこんな話をしていました。

 「金さん、調査結果を見た時はうろたえて、社員が全員やめてしまうのではないかと不安になったが、うちの社員も捨てたもんじゃなかった。何人かが辞めてしまったのは残念だったが、『賃金も大事だけど、この会社のこの仕事が好き』という連中が残ってくれたのは大きな収穫だったよ」

 

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