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お互いを見下す日本と中国の大人げない関係
〜 米国が恐れる「第二、第三の衝突」の必然
ピーター・グリース オクラホマ大学政治学准教授(「中国の新ナショナリズム」著者)
http://diamond.jp/articles/-/9614
尖閣諸島沖での漁船衝突事件をめぐる中国側の予想外の強硬措置に日本政府は振り回された。中国人船長解放後、しばらくしてようやく中国は軟化の動きを見せたが、これで日中関係が改善に向かうと考えるのは楽観的すぎる。欧米で注目を集めた『中国の新ナショナリズム』の著者で、気鋭の中国研究家の一人であるピーター・グリース氏は、日中対立の根本的な原因は、突き詰めれば、お互いを平等な存在として認め合う“相対的ステータス”の合意がなされていないことにあると説く。経済的相互依存関係も対立回避には無力なのか。(聞き手・ジャーナリスト 矢部武)
――中国側が取った強硬措置の背景には何があるのか。
今回の問題は尖閣事件だけでなく、大規模な反日デモが起こった2005年春頃からの延長として考えなければならない。中国人の反日感情がなかなか消えないのは日清戦争から第二次大戦に至るまでの歴史的な背景があるからだ。この間の日本の行為は、中国人には残虐で不公正と映っている。中国にとって日本は長年中華文明圏の一員と考えられ、「弟分」のような存在だった。ところが中国は日清戦争に敗れ、屈辱的な下関条約(日清講和条約)をのまされた。
毛沢東時代には中国共産党の支配を強固にするために「中国は日本帝国主義を打ち破った」と勝利やヒロイズムを強調していた。しかし、毛沢東の死後、日本軍の残虐性などを強調した歴史教育が行われるようになり、中国人の反日感情が植え付けられていった。それは1995年の第二次大戦終戦50周年で増幅され、2005年春の反日デモで爆発した。そして尖閣問題が起きたのである。
――中国が日本を抜いて世界第二の経済大国となった自信も背景にあるのではないか。
それもあるだろう。中国政府は2年前のグローバル金融危機と地政学秩序の再編(欧米の衰退、中国の台頭)を最大限に利用し、国民に「中国は世界的なリーダーとして台頭している。中国は強い。アメリカも日本も欧州も弱くなっている」とのメッセージを発している。
ある面それがうまくいきすぎて、中国政府は国民から「強いのだから、外国に対して強硬姿勢を取るべきだ」と強い期待を受けるようになった。それが尖閣の問題でも相当のプレッシャーになったのではないか。それに加えて反日感情の問題もあり、日中間の争いを解決するのは非常に難しい状況になっている。
――「一党独裁」の中国がなぜ民意をそんなに気にするのか。
中国には民主主義国のような選挙がないので世論の支持は関係ないと考えるかもしれないが、それは違う。中国政府にとって国民の支持は非常に重要であり、外交政策なども世論を無視して進めることは考えられない。それは政府がナショナリズムの恐さを知っているからだ。
中国のナショナリズムは政府によって利用(煽動)されているとよく言われるが、実際はむしろボトムアップの大衆運動の側面が強い。だから政府は国民のナショナリズムに応えるために外国に強硬姿勢を取ったりしているのだ。
――中国のナショナリズムをどう特徴づけるか。
競争を勝ち抜いて得た名誉やステータスを非常に重視することだ。彼らは競争によって得たものでなければ意味がないとさえ考える。
中国は経済大国となり、他国は中国を「G2」と呼ぶ。政府はそう呼ばれたくないと言っているが、国民はそれを誇りに思っているだろう。彼らは「中国とアメリカが世界の最重要国なら、中国はトップになるべきだ」と政府にプレッシャーをかけることでナショナリズムを満たしているのである。
――日中間の対立の根底にはナショナリズムがあると?
日中対立の最大の原因は、両国間で相対的ステータスの合意がなされていないことにある。したがって、ナショナリズムの強い中国人ほど日本を見下し、同じように日本人も中国を見下す。お互い平等な存在として認め合う相対的ステータスの合意がない状況では、問題が起きた時にどう謝罪したらいいかも決められない。
中国が経済大国になったいま、「日本は中国に敬意を払うべきだ」と考える中国人が増えている。一方、日本は近代化の歴史が長く、「すべての国は平等である」との理念に基づいた国際的なエンゲージメントの経験は豊富だが、対中関係になるとそれが実践できなくなってしまうようだ。
――尖閣は日本の領土とする歴史的根拠があり、米国も日米安保の適用対象になると明言している。中国はその事実を変えようとしているのか。
それは難しい質問だ。日本の立場は理解できるが、中国側も尖閣諸島の領有権を主張しており、私はその方面の専門家ではないのでどちらの領土かはっきり答えられない。ただ言えるのは、中国にとってこれは単なる領土問題ではなく、国家のアイデンティティとナショナリズムの問題だということだ。
だから、「中国は強い。日本は中国に敬意を払うべきだ。日本は中国市民を逮捕すべきではなかった。船長をすぐに釈放し、謝罪すべきだ。さもなければさらなる対抗措置を取る」と怒りがどんどんエスカレートしてしまうのだ。
――中国は南シナ海でも周辺国と領有権を争っているが、日本とこれらの国は大国・中国の強硬姿勢にどう対応したらよいのか。
それがわかれば国務長官になれるだろう。私が言えるのはこの問題は慎重かつ広い視野に立った上で領土問題だけでなく、国民感情、アイデンティティ、ナショナリズムなどを考慮して臨まなければ解決は難しいということだ。
それと中国からみると、尖閣の問題は日本の歴史的な背景がからんでいるため、マレーシア、フィリピン、ベトナムなどとの領土問題と少し異なるように思う。
――米国は日中関係悪化をどう見ているか。
クリントン国務長官は、尖閣諸島は日米安保の適用範囲になるときっぱり言い切った。また、南シナ海で中国と領有権を争う国々の問題についても懸念を示した。しかし、米国は当事国に代わって領土問題を解決することはできないし、中国との関係もあるので、できるだけ巻き込まれたくないというのが本音ではないか。
とくに日中関係が悪化して武力衝突に陥れば、米国は日米安保に沿って軍隊を出動しなければならなくなる。そうならないように日中両国で問題を解決するように願っているだろう。
――今後の日中関係はどうなるか。
残念なことに、短期的には日中関係が良好になることはないだろう。とくに今は過渡期にあり、日中間で相対的ステータスの合意がなされなければ些細なことでも過剰反応して大問題になってしまう。
――相対的ステータスの問題では具体的に何をすべきか。
日中両国は互いに平等であるとの考え方を確立することだ。そのためには必ずしも両国が友人になる必要はない。友人にならなくても互いを平等な存在として認めれば争いを解決することはできる。問題は両国で相手を見下す人があまりに多すぎることだ。
――日中は互いに主要貿易相手国で経済的な相互依存関係にあるが。
残念ながら、経済的な相互依存関係にあっても対立や争いを防いだり、解決したりできるとは限らない。
――中国は2年後の指導者交代をひかえているため、現指導部は対日強硬策を取らざるを得ないとの指摘もあるが。
それはあるかもしれないが、大きな要因ではないと思う。中国の指導者は引退をひかえた指導者だろうが、次期指導者候補だろうが誰でも同じように国内のナショナリズムに応えていかなければならないからだ。
――日本政府が中国人船長を釈放したことに国内では「弱腰外交」との批判が高まっているが。
日本政府を弱いと見るかどうかは、個々の考え方によるのではないか。自信を持っている人は日本側の寛大さと見るかもしれないし、問題は政府の行動そのものより、それをどう解釈するかにあるのだ。
日本政府が日中関係が修復不能になるのを避けるために船長を解放したのなら、必ずしも「弱腰」とは言えないだろう。もしかしたらそう批判するのは日本の強さに自信が持てず、日本が外国からどう思われるかに過度に敏感なスーパーナショナリストのような人たちかもしれない。自信のある人は外国からどう思われようとあまり気にしないだろう。
――中国は強硬姿勢を貫くことで何を得たのか。
この問題で「日本政府は弱い」、「中国政府は強い」と考える人は少なくないだろうが、はたして本当にそうか。たしかに中国は強さを世界に印象づけたかもしれないが、同時に「いじめっ子国家」のように見られたかもしれない。それはけっして中国の利益にならないだろう。これによってベトナム、フィリピン、マレーシアなどが中国に懸念を抱き、脅威を感じるようになれば中国にとってはマイナスだ。 中国は小さな戦いには勝ったが、大きな戦争に負けたのかもしれない。
ピーター・グリース (Peter Hays Gries)
米中関係の理解を深めるための研究調査を行うオクラホマ大学米中問題研究所の所長を兼務。中国のナショナリズム・国内政治・外交政策、国際関係の政治的心理などが専門。日本で研究員として働いた経験を持ち、日本の政治・文化にも精通している。中国のナショナリズムはボトムアップの大衆運動であると主張した著書「中国の新ナショナリズム」(2004年)は大きな反響を呼んだ。ミシガン大学で中国研究修士号、カリフォルニア大学で政治学博士号を取得。
http://diamond.jp/articles/-/9614
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