http://www.asyura2.com/09/china02/msg/571.html
Tweet |
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/column/20101001/104900/
7月28日、南京の化学工場で大爆発が起こった。7月末までに13人が死亡、重傷者14人、120名が入院した。中国の一般庶民にとって目に見えない危険が潜む化学工業は"悪魔的存在"に見える。頻発する化学工業の事故。増大する一方の一般庶民の不安。中国政府も重い腰を上げようとしている。目指すは化学工業の産業再配置だ。
目に見えないリスク
今日、中国国民が悪魔のようの恐れているものがある。いつ襲いかかってくるか分からない危険で不安な存在だ。それは何か。化学工場なのである。
7月28日。南京で大事故が発生した。プロピレンのパイプラインの爆破事故だ。
事故が発生した南京は江蘇省の省都。2014年8月のユースオリンピック開催が決まっており、市街地の改造計画が進んでいる。町をあげての「お化粧直し」の最中だった。
南京の北東市街地。長江の南沿岸にある地域で事故は発生した。爆発現場は栖霞区万寿村15号。ここは南京プラスチック第4工場の跡地である。地下に埋設されていたパイプラインを都市開発業者が誤って切断し、漏れ出したプロピレンが引火して爆発した。
原因は地下に埋設されているパイプラインなどを事前に調査することなく、乱雑に工事を始めた開発業者にある。
爆発の威力はすさまじく、数々の報道写真が写す家屋の損害状況はさながら大地震のあとのようである。事故当日、爆発の瞬間、南京は町全体で地響きが感じられたという。
事故に関して国内メディアは現場写真や被災状況を一斉に報道した。なぜか日本ではほとんど報道されていないが、7月28日は南京の化学事故の日として人々の脳裏に鮮烈に刻まれることになるだろう。
南京は中国石油化学や金陵石油化学などが集まる中国でも有名な重化学工業都市である。中国社会科学院工業経済研究所の金碚所長によると、1949年の新中国建国以前から化学工業は南京の重要産業であったという。
長江流域に広がる化学工業
2003年、江蘇省は長江沿岸の開発戦略を決定し、ゴールデン・ウォーター・フロントと名付けて建設に着手した。当時の幹部は「8年ないし10年、あるいは20年かかってもゴールデン・ウォーター・フロントを中国最先端の生産エリアにする」と豪語していた。こうした戦略に沿って、長江両岸に産業が立地し、GDP増大に大きく貢献した化学工業は長足の発展を遂げた。
しかし、その裏で住民の安全を脅かす出来事が多発するようになったのである。
江蘇省西南部、長江下流南岸に位置する、黒酢で有名な鎮江市。その鎮江の化学工業区がすぐ下流の丹陽市の取水口に位置する。そのため、丹陽の水道は2002年から22回の汚染危機に遭遇した。2005年3月にはまるまる1週間、全市が断水したという。2009年には鎮江の化学工場が化学品の漏出事故を起こし、中学校で被害者を出すなど、大気に放出された汚染が近隣都市に多大な影響を与えた。
長江水資源保護局の翁立達前局長によると、長江流域には全国の半分以上の化学工場が集中しており、毎日、長江に流れ込む工業汚水、生活汚水は黄河の流量に匹敵するという。水はすべてを流し去ってくれるというのが"常識"だった中国だが、今では川の水は有限であり、また命の源泉であるという当たり前のことが強く意識されるようになっている。
汚染と並んで住民が不安視しているのが事故のリスクである。
工業化と都市化の進展により、化学工場と都市生活の距離が近くなったのが、リスク増大の大きな原因というのが中国の多くの専門家の考えだ。南京の事故が大きな被害を出したのは、郊外への都市の拡大で化学工場と市街地との距離が縮まったからであり、化学工場は都市からさらに遠い地域に移すべきだと主張する。
中国では近年、化学工場の事故が多発している。
大きなものでは、2005年11月、吉林省吉林市の化学工場の爆発が日本でも報じられた。有害化学物質が松花江(アムール川最大の支流)に流出し、下流にロシアが位置していることから国際問題にまで発展した事故だ。
そのほかの重大事故としては
2003年:重慶開県の天然ガス噴出事故(243人死亡、4万1000人が避難)
2004年:重慶天原化工工場の塩素ガス漏出事故(1人死亡、8人行方不明、3名負傷)
2007年:広西宜州一化工場爆発事故(20人死亡、1万1500人が避難)/山西洪洞民営化工工場の爆発事故(4人死亡、1人負傷)
などが挙げられる。
絶えない化学工場の事故
2010年だけでも、1月には蘭州の中国石油蘭州石化工場の爆発事故(6名死亡)、7月には大連パイプライン爆発・石油流出事故があった。そして、南京の事故と時を同じくして発生したのが、松花江での化学品の入ったドラム缶の流出事故だ。7000個の青いドラム缶を回収するために1万人以上の軍隊が出動した。
2005年の松花江の事故を契機として、当時の国家環境保護総局が全国の化学工業・石油化学プロジェクトの環境リスク調査を実施した。実に7555件の建設プロジェクトが調査対象となった。
調査の結果、化学工業のプロジェクトの81%が河川流域や人口密集地域など"敏感"な地域に位置し、45%は重大なリスク源となっていることが浮き彫りになった。
当時、記者会見を行った国家環境保護総局の潘岳副局長(組織・役職名は当時のもの)は「化学工業や石油化学には産業配置や立地に関してゆゆしい環境リスクが存在しており、これが水環境汚染が激増している根本原因である。だが、短期的に解決するのは難しい。単体のプロジェクトでは環境アセスメントに合格しているが、地域全体の計画から見ると不合理だ」と説明している。
しかし、こうした考えに対して社会科学院工業経済研究所の金碚所長は「今回、事故が起こった南京プラスチック第4工場は最も古い工場であり、栖霞区はもともと化学工業区である。建設当時は市街地から離れて位置していた。北京の化学工場にしてもすべてが移転した訳ではない。南京が今のような大都市に発展できたのは化学工業があったからだ」と反論する。
国家環境保護部(日本の環境省に相当。2008年に国家環境保護総局から格上げ)の下部機構の調査によると、石油化学工業の集約度は低い。中国は世界第2位のプロピレン生産大国だが、生産は全国20余省に散らばっている。世界最大の工場が年間280万tの生産規模を誇っているのに対して、中国では最大の工場でも生産能力が年間100万t程度でしかない。
福建省の三都澳南渓石油化学コンビナートは、自然保護区から2kmの至近にあり、そこは中国人が好んで食する大黄魚(いしもち)の産地でもある。コンビナートのために保護区の面積が縮小された結果、保護種も減ってしまったという。
政府部門は、産業によって得られる経済利益と市民の安全との間を揺れ動いて、なかなか答えを出そうとしない。
臨海コンビナートへ
こうした中、全国に均等に産業が配置され、「化学が都市を包囲する」という状況を転換するため、国家環境保護部が動き出した。
国家環境保護部はすでに、渤海湾沿海地域など5つの地域を選び出し、重点産業発展に関する戦略アセスメントを始動させた。全国のあちらこちらで近隣に公害や危険を及ぼしている工場を臨海部に集める戦略である。
本コラムで以前に紹介した曹妃甸エコ工業区や、開発が先行している天津などはまさに渤海湾沿海地域の中心的存在であり、全国の化学工業の再配置を通じて環境負荷や事故防止といったリスクをいかに下げるかという国家的な課題の中で、大きな発展の機会が到来しようとしている。
しかしながら、渤海湾を地図で眺めると、発展の夢ばかりを描くわけにはいかない。渤海湾は東京湾や大阪湾などに似た閉鎖性海域である。こうした海が1度汚染されると、回復には相当の資金と時間が必要となる。産業配置によって河川の汚染を防止したとしてもそのツケを海洋に回すような政策は許されることではない。アセスメントでは当然のことながら、こうしたリスクが検討されることになる。
ところが、今の中国の環境保護政策や産業高度化政策には、海洋汚染を防止する有効な措置や、近海を汚染してしまったときにただちに原状回復させる有効な担保措置がない。このままでは、国家プロジェクトとして喧伝している曹妃甸エコ工業区などは仮に産業が集積したとしても、エコとは名ばかりで、全国の危険な化学工場を集めて渤海湾を事故と公害で汚染する「悪魔の要塞」になりかねない。
1つの担保措置として、中国の専門家は"企業の社会的責任"の重要性を指摘する。
大連海事大学世界経済研究所の劉斌所長はこう問いただす。「我々は鉄鋼や化学工業を臨海部に持ってこようとしているが、これらの産業は中国では汚染の代名詞である。根本の問題は中国の大企業に最低限度の環境責任が欠如していることにある。メキシコ湾の原油流出事故では、米国は事故を起こしたBPを倒産ぎりぎりのところまで追い詰めたが、中国でこうしたことが可能だろうか」
大きな環境汚染を引き起こした松花江の化学工場爆発のケースも、事故を起こした中国石油吉林石化が示した責任は、経営幹部の停職と、罰金100万元(日本円で1200万円)の支払いだけだ。
今年1月に発生した蘭州での爆発事故では、保険に加入している被害者に限って保険会社から50万元(600万円)の保険が支払われるという。事故を起こした企業の責任や企業自身が支払うべき痛みというものが全く感じられない。
中国の化学工業が“悪魔”とみなされる最大の原因はこの辺りにあるようだ
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。