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<moku−go>
毎日新聞 2010年9月30日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/opinion/kaneko/
日米外相会談でクリントン米国務長官が「尖閣諸島には日米安保条約5条が適用される」と明言した。さて、これで日本はひと安心か。
誤解しないほうがいい。5条の対象は「日本国の施政下にある領域」である。つまり、長官は尖閣諸島が日本の施政下にあるという認識を言い換えたので、日本の領土だとは言わなかった。従来の米国の立場を繰り返したまでだ。
いま、中国の漁業監視船が尖閣沖で日本の巡視船とにらみあっている。中国の公船によって施政権を行使して見せているのである。こんな事態が常態化したら尖閣は安保条約の適用外になる。現に、ロシアや韓国の実効支配する北方四島や竹島に安保条約は適用されていないではないか。
もし日本の巡視船と中国の監視船が武力衝突したら、在日米軍は出動するか。そう簡単ではない。
2005年の日米安全保障協議委員会合意によって「島嶼(とうしょ)部への侵略」は、日本が単独で対処することになった。以前、衛星放送BS11の番組で孫崎享・元外務省国際情報局長が力説していた。
これが日米同盟の現実なのである。米国を過信して単純な強腰外交をやると危うい。落としどころをにらんでの、二枚腰、三枚腰が必要だ。
尖閣諸島の領有権問題が本格的に浮上したのは沖縄返還協定調印の1971年である。米国が「琉球諸島、大東諸島」の施政権を日本に返還したが、そこに尖閣諸島が含まれていた。
これに対し中国は(当時の中国とは中華民国であるが)、「釣魚台」(尖閣の台湾名)は琉球の一部ではなく歴史的地理的に台湾の一部であると抗議した。当時、日本と国交のない中華人民共和国も「釣魚島」(尖閣の中国名)は台湾省の一部だから中国の領土だと主張した。日本は「米国から返還される琉球列島の一部」であり、日本の領土だと反論した。
では、米国の立場はどうだったろう。米国務省は「尖閣を含む施政権を返還する」が「施政権と領有権とは別」で、「もし領有権について対立があるなら、当事国間で解決すべきだ」との見解を日本に伝えていた。(林金茎「戦後の日華関係と国際法」有斐閣)
この時、米国はキッシンジャー大統領補佐官がひそかに中国と関係改善を進めていた。1972年2月、ニクソン大統領が電撃訪中、5月に沖縄が返還され、沖縄から中国を狙う核ミサイル「メースB」が撤去された。中国への配慮である。尖閣領有権で中立の立場をとったのも中国への配慮だろう。当時から米国は中国に向けた別の顔があるのだ。
(専門編集委員)
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