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世界鑑測 北村豊の「中国・キタムラリポート」
2006年11月17日(金)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20061115/113768/
中国・高級幹部の子女たちを指す「太子党」とは
進学、就職、昇進…“親の七光り”で利益を享受
北村 豊 【プロフィール】
上海市党委員会書記の陳良宇が更迭される直前の2006年9月20日。香港誌「動向」の記者である羅冰が、上海市官界の腐敗について書いた文章に、「上海市の高級幹部230名余の子女は、その95%が金融、不動産、建設請負等の分野で要職にあり、97%が欧米風の庭付き高級住宅に住んでいる」という記述がある。
進学、就職、昇進高級幹部の子女が特権を享受
高級幹部の子女がその特権を享受していることは、決して上海市に限ったものではなく、程度の差はあれ、共産党中央・中央政府をはじめとして、中国全土の省・自治区・直轄市に及んでいる。ある人物が、実力、目端、上司の引き、コネ、ゴマスリ、前任者の失脚などの巡り合わせによって、幸運にも高級幹部という権力の座に就いたとすれば、まず手がけるのは妻子に対する昇進、優良企業への就職要請、有名大学・高校への裏口入学、次に親族に対する昇進支援、就職斡旋、口利きによる利益誘導などの各種配慮である。
中国人は伝統的に大家族主義であり、一族の団結により外部からの干渉、侵害、侵略を防ぎ、子々孫々までの一族の繁栄を図ってきた。一族の中に優秀な人材がいれば、一族で資金を出し合って学問を身につけさせる。この結果が吉と出て、その人物が官途に就いて出世すれば、当然の権利として一族全員でこれにぶら下がる。何の能力の無い者でも出世した人物の一族というだけで、あれよあれよという間に然るべき地位を得るから不思議だが、そんなものだと社会が納得して諦めているので、誰も文句は言わない。「泣く子と地頭には勝てない」ので、ひたすら「驕る平家」の凋落を待つことになる。
この大家族主義の伝統は、現在も脈々と続いており、中央政府の高級幹部はもとより、地方政府も高位の幹部から末端の郷・鎮・村の上級幹部までが、その権力に物を言わせて、妻子、兄弟、甥、姪といった一族を少しでも権力に近づけさせ、信頼できる自己の支持層をより厚いものとすることで保身を図っている。
高・中級公務員の収入は既に欧米先進国を上回っている
以前、国務院研究室、中央党校研究室、共産党中央宣伝部、中国社会科学院などの関係部門が共同で作成した調査報告書は、中国の高・中級公務員の収入は既に欧米の先進国の公務員や中産階級の収入を上回っていると述べている。同報告書によれば、2006年3月末時点で、中国国内で私有財産(海外や香港・マカオにある財産を除く)が、5000万元(約7億5000万円)以上の人数は2万7310人であり、1億元(約15億円)以上の人数が3220人であるという。驚くべきは、この1億元以上の金持ちには、何と90%以上の2932人もの高級幹部の子女が含まれていて、彼らが所有する資産の合計額は、2兆450億元(約30兆6750億円)以上であるというのである。
さらに、報告書は、中国の金融、外国貿易、国土開発、大型建設工事、証券という5大分野で要職に就いている人の80%から90%が、高級幹部の子女によって占められていると述べている。それは何故か。言わずもがなの話だが、その理由は、高級幹部特権による子女の有名大学への裏口入学から始まって、有名企業への裏口入社、果ては本人の能力とは関係のない、その親である高級幹部への配慮という形でなされる早い昇進である。
古い話で恐縮だが、筆者が北京駐在であった1987年の春だったと思うが、ある日仕事で外出し、中央政府系列の大企業が所有する大きなビルへ向かうべくタクシーに乗った。車中で温厚な感じの運転手とたわい無い雑談をしながら進むと、遠くに目的のビルが目に入ってきた。すると、運転手が突然真顔になって次のような話を始めた:
「これから行く○○ビルは、△△公司が所有するビルですよね。確か△△公司の本部もあのビルの中にあったはず。実は、△△公司の副総経理(副社長)をやっている王某と私は、学校の同級生なんです。学校時代、私は成績優秀で首席だったが、あの王某は飛び切りの馬鹿で、箸にも棒にもかからないアホだった。でも、見てください、何の後ろ盾を持たない庶民の私はしがないタクシーの運転手、片や共産党の高級幹部を親に持つ『あいつ』は、今や飛ぶ鳥を落とす大企業の副総経理。人生とはこんなものだと割り切れればいいのだけど、やっぱり不公平だよね」
「同級生」とは、小・中・高、どの学校時代を指すのかは、運転手の話に引き込まれて聞きそびれたが、筆者が下車した後、走り去る運転手の背中が寂しそうだった。
親の七光りで出世
筆者は、この話を聞く前から、王某が親の七光りで△△公司の副総経理になったことは知っていたが、会ったこともないし、興味もなかった。それから数カ月後の初夏、大手日本企業の中国総代表の交代パーティーが人民大会堂で開催され、筆者も招待されて出席した。
パーティーは着席方式で、500人程の招待客が大きな丸テーブルに着席し、パーティーの開始を待っていた。そこに突然、毬栗頭(いがぐりあたま)で、汚い半袖の開襟シャツに短パン、サンダル履きという出立ちの40代の男が会場に入って来た。「なんでこんな格好した男がパーティーに来るのか、それとも掃除夫か」と思っていると、何と主催者側は恭しく、この男を主賓席に導くではないか。
テーブルの隣りに座った人に「あれは誰か」と聞くと、「王某さ、知らないの」と来た。へエー、あれが先日の運転手が言っていた王某かと、筆者は納得し、その後はもっぱら王某に着目。主催者側の挨拶が始まったが、王某はタバコを絶え間なくくゆらせ、貧乏ゆすりを繰り返し、あっちを見たり、こっちを見たりで、落ち着きないこと甚だしい。その内に、挨拶が終了して食事が始まったが、暫くして気づいた時には、王某の姿は既に無かった。
それから数カ月後に、王某が訪日し、日本の財界人と面談したり、有名企業を訪問したという記事が日本の新聞で大きく報道された。記事には、日本の財界首脳の王某評が掲載されており、曰く、王某は「英邁な経営者」「有能な実業家」。笑わせちゃいけない。あのような常識もなければ、礼儀も知らない、粗野な男のどこを探せば「英邁」のかけらが見つかるのか。その後、北京で偶然にも王某とエレベーターに乗り合わせたことがあったが、その時の印象も、経営者とは到底見えない風情。織田信長も常人ではなかったと言うから、もしかすると王某もその類の天才肌の人なのかもしれないが、筆者には例の運転手の言葉が正しいように思われた。その王某は、今や△△公司のトップとして君臨している。
通称「太子党」と呼ばれる高級幹部の子女たち
筆者が面識を持った高級幹部の子女の中で、親の地位が最も高かったのは、トウ小平の次女であるトウ楠さんであった。科学技術部副部長を経て、現在は中国科学技術協会副主席兼書記処第一書記に就任しているトウ楠さんは、当時は国家科学技術委員会社会発展司の司長という地位にあったが、筆者は業務の関係で何度かお会いする機会を持ち、一度だけではあったが、上司に随行する形で会食したこともある。トウ楠さんの率直な印象は、女版トウ小平で、トウ小平に瓜二つ。知性と教養を身に付けた、非常に魅力的な女性に思えた。高級幹部の子女にもトウ楠さんのような人もいるわけで、王某のような親父の七光りばかりではないが、通称「太子党」と呼ばれる高級幹部の子女たちには、特権階級という甘えの構造の中でぬくぬくと育ってきた「おぼっちゃま」、「おじょうちゃま」が多いことはまぎれもない事実である。
「太子党」という言葉は、「中国共産党の高級幹部の子弟などで特権的地位にいる者たち」と定義づけられる。「地位は人を作る」というが、「太子党」は能力とは関係なく、エスカレーターに乗って、あらゆる分野の要職に就くことで、それなりの貫禄を身につける。大した能力はなくても、部下の作ってくれた原稿を棒読みすることぐらいはできるし、お茶を濁すことは得意。何か問題が起こっても、親の権威に物言わせて責任は回避できるので、責任感は皆無に近い。
こうした連中が、汚職で稼ぐ、企業で高給を食む、国有企業改革に便乗して国有企業をただ同然で買収して我が物とする、親の威光を活用して外国企業の代理人や仲介人となることで法外な手数料をせしめる。「塵も積もれば山となる」のたとえ通り、懐はどんどん膨れ上がり、これが「億元長者」を生むことになる。
シンガポールの中国語新聞「聯合早報」は2006年11月1日付で、中国の元総理である李鵬の娘で、「中国電力国際発展公司」の総裁として「女電力王」と呼ばれる李小琳のインタビュー記事を掲載した。インタビューに答えて、李小琳は、「中国の歴史は長く、ずっと封建社会であったので、人々は太子党というものが存在するという構図を描きがちだが、中国には太子党など存在しない。その証拠に、私も大学卒業後は、下っ端から始めて、技術員、エンジニア、科長、副処長、処長、副総経理、総裁というコースで、一般の中国人と同様に、一歩一歩階段を上ってきたわけで、これも自分の努力の成果だ」と述べている。
李鵬の長男で、李小琳の兄である李小鵬は、「中国華能国際電力股処ヘ有限公司」の董事長であり、「アジアの電力王」と呼ばれている。水利電力部出身の李鵬は電力分野をその勢力下に収め、総理引退後もなお隠然たる勢力を保っているが、李一族が経営する企業及びその関連企業を含めると、中国の総発電能力の15%を牛耳っている計算になるという。
そうした背景を持つ李小琳が、太子党など存在せず、出世は自分自身の努力の成果であると語るところに、自らが太子党であることを如何に意識しているかが見て取れる。李小琳は中国大学入試の最難関である清華大学を卒業しているが、入学当時の清華大学学長であった蒋南翔は、父親の李鵬と極めて緊密な関係にあったことは、中国では知る人ぞ知る事実なのだが。
社会主義を標榜する中国で勢力拡大
中国語版のフリー百科事典「Wikipedia(維基百科)」には、「中華人民共和国太子党」としてアルファベット順で数百人に上る太子党のリストが掲載されている。リストに太子党として掲載された人の肩書を見れば、彼らが親の七光り族であることは一目瞭然である。親の七光りや2世議員は世界中に存在するが、それが社会主義を標榜する中国で「太子党」として定義づけされる程の勢力として存在し、さらに、それが富の偏在をもたらしているとすれば、事は重大である。
2005年に中国社会科学院と広東省社会科学院が公表した統計によれば、1980年代中頃から2003年末までの約20年間に、党・政府幹部の配偶者及び直系親族で、海外及び香港・マカオに定住した人の総数は実に120万人に上るという。
この中には、元共産党政治局常務委員の家族・直系親族が21人、元全人代副委員長、元副総理、元政治協商会議副主席の家族・直系親族が270人、元省級・部級の高級幹部の家族・直系親族が2万1740人、現職の省級・部級の高級幹部の家族・直系親族が726人含まれていた。定住先は全世界に分散されているが、上位3位は、カナダの20万人、米国の18万人、フランスの10万人であり、日本にも7000人が定住しているとある。これら高級幹部の家族・直系親族は、国有資産を私して海外逃避を図っている人たちも多く、定住先の富裕地区に居を構え、優雅な生活を送っているという。中国人は本当に多様性に富んでいる。
(北村豊=住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト)
(註) 本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、住友商事株式会社 及び 株式会社 住友商事総合研究所の見解を示すものではありません。
太子党
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http://zh.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E5%AD%90%E5%85%9A