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2009.12.25
房奴 好況の陰でのしかかるマイホームのローン返済
こんな「言葉」が!43 中国で
丹藤佳紀 (ジャーナリスト)
さまざまな分野で世界一だ、最高峰だなど威勢のいい大きな経済指標・統計の喧伝される中国経済だが、人々の暮らし向きは本当に良くなっているのか。そんな疑問を抱きながら中国のウェブサイトを漂っていたところ、標題の「房奴」に出会った。そして、それを題名に据えたテレビドラマが人気を呼んだこと、今年になって同じテーマでテレビドラマが『蝸居』(カタツムリの家)が製作され、シリーズで放映されて大きな反響を呼んだことを知った。後者は、再放映されたが、途中で打ち切られたため、それをめぐってネットでもさまざまな意見が交わされている。
「房奴」の房は房屋などに使われ、家屋・部屋を意味する。奴は、中国の国歌・義勇軍行進曲の歌詞の出だしにある「奴隷」のそれである。
「どこかで見たことが・・・」と考えていたら、「卡奴」に思い当たった。この卡は、外来語であるカードを音訳するため、「KA」の音を借用したもの。「卡片」などが造語されたが、関所などを意味する「卡」本来の用法とは関係ない。だから、「卡奴」はもうおわかりの通り「カード負債の奴隷」で、「信用卡」(クレジット・カード)が普及した2000年ごろに登場した。
こちらの「房奴」はその“後継”で、「住宅ローンの過重な返済に追われる人」が正解だ。最初に登場したのは2005〜2006年、不動産価格が高騰したときである。そして2007年8月に教育省が公布した新語171に含まれたことから“市民権”を得た。
テレビドラマは、2008年に出版された同名の小説を基に28本のシリーズものとして製作された(写真)。60年代生まれ、70年代生まれ、80年代生まれの市民がマイホーム購入の夢を抱き、ローン返済の圧力にもまれながら生きるさまざまな様相を描きだした内容である。
ドラマ
(これもテレビドラマになった)
中国の検索エンジン「百度」の提供する「百度百科」によると、「房奴」の意味するところはほぼ次のようなものになる。
都市に住む勤労者が20〜30年の返済期間で住宅ローンを組む。その支払いが年間可処分所得の40―50%(あるいはそれ以上)に達する事例がある。「百度百科」のあげた調査結果によると、所得の50%以上をローン返済に充てている人がローン利用者の32.18%にものぼっている。ローン返済額は所得の3分の1ぐらいまでが国際的にも通用する割合とされ、それを超えると生活の質の低下が避けられない。娯楽や旅行を楽しむどころか、教育・医療など必要な支出も極度に切り詰めなければならなくなる。このため、病気や失業を恐れながら日々を送る・・・。
ローン返済のためのこうした抑圧状態を「房奴」と表現したわけだ。
中国政府は米国発の金融危機以降、経済成長率8%を保つため、金融緩和、自動車・家電製品の購入補助など思い切った内需拡大策を展開した(本ブログの拙稿「保8」、「家電下郷」参照)。それが功を奏して今年、8%は達成されそうだが、今年1〜11月で前年同期比17.8%増加という不動産投資は住宅価格の高騰を招いた。
中国の分譲マンションは、1平方メートルあたりいくらという価格で売り出されるが、6年前、4000元(約6万円)だった北京市中心部のマンションが、オリンピック開催による値上がりもあっていまでは7倍強の30000元に跳ね上がった。住宅の価格と購入者の所得対比を見ると、中国のほとんどの都市で勤労者の年間可処分所得の6倍を超えている。北京、南京、青島などの大都市では10倍を超えているという。
こうした「房奴」状況を中心テーマとして改めて取り上げたのがテレビドラマ『蝸居』(カタツムリの家)である。7月に上海テレビで放映されて大きな反響を呼んだ。国営通信・新華社が12月上旬発表した「今年の流行語」でも、上記の「保8」や「大学生就業」などと並んでこの「蝸居」も選ばれた。都市住民の多くに共通するテーマであり、このシリーズは当然、話題になった。ドラマは、北京テレビが10月に再放映しのだが、35回シリーズが10回で打ち切られてしまった。
その間の事情については、住宅ローンの返済圧力の大きさやマイホーム入手難というテーマが忌避されたからだとか、当局者の権力乱用や腐敗ぶりがリアルに描かれたからだなど、さまざまな見方がネットで流れている。
逆に言えば、それだからこそ当局が理由を明らかにしないいつもの流儀でシリーズを打ち切らせたのだろう。前作と共通の「房奴」状況を中心テーマにしたものだけに、ネットの意見の中には、国歌の歌い出しをもじった「立ち上がれ、房奴になりたくない人々よ」という替え歌も登場した。