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宮崎で発生した口蹄疫に、国民の注目が続いている。野党からは、政府対応の遅れが指摘され、多くの疑問を残したまま対策が決められた。その対策は、移動制限区域の半径10キロ圏内にいる牛や豚全頭に、ワクチンを接種した上での殺処分と、搬出制限区域の周辺10~20キロ圏に加工処理による緩衝地帯の設置であった。
また政府は、裁量により、全頭の殺処分で5頭の種牛を経過観察とした。東国原知事は、49頭の種牛についても、経過観察とする政治判断を求めたが、政府は認めず、殺処分された。他方で、周辺緩衝地域の加工処理対策では、現場が要請した未感染家畜の飼育を認める裁量をしている。
こうして赤松農水相は、混迷した事態を謝罪し、新内閣では現地指揮に当たった副大臣が起用された。一方で国民からは、口蹄疫の宮崎に、支援の輪が広がっている。
その中で、宮崎西部のえびの市は、感染が終息し移動制限が解除された。同時期に発生した韓国でも、広域防除機が威力を発揮し、沈静が伝えられている(日本農業新聞)。宮崎東部の児湯地域でも、ワクチン接種と殺処分が続き感染は衰えるかに見えた。
ところが6月10日、新たに感染が都城に飛び火し、設定した防疫緩衝地域を超えて、宮崎市・西都市・日向市にも広がり、近隣県や全国に拡大する懸念が強まっている。そして6月13日、農水省の牛豚等疾病小委員会は、発生農場1キロ以内の抗体検査を実施し、早期発見に努めるとの意見をまとめた。
現行の家畜伝染病予防法は、農場内の全頭家畜(患畜・疑似患畜)の殺処分だ。そして全会一致で可決された口蹄疫特措法は、感染が続き政府の防疫対策の効果も検証されないまま、全頭殺処分の対象を、農場内から半径10キロ圏域に広げている。
口蹄疫は、感染力が高いが人体への影響は少なく、患畜の経済的な被害の軽減が主な課題だ。だが全頭殺処分は、感染が区域の外に広がれば、無意味となる。経過観察で、未感染の家畜を救出できないだろうか。
またワクチン接種には、感染力を抑制する効果と共に、事態の終息を遅らせ早期解決に背反するリスクがあり、海外防疫規制(口蹄疫清浄国)にも影響を及ぼす。新たな対策にワクチン接種を組み入れるには、慎重な検討が必要で疑問が残る。
これまでも家畜伝染病防疫指針で、「現行のワクチンは、発症の抑制に効果があるものの、感染を完全に防御することはできないため、無計画・無秩序なワクチンの使用は、本病の発生又は流行を見逃すおそれを生ずることに加え、清浄性確認のための抗体検査の際に支障を来し、清浄化を達成するまでに長期間かつ多大な経済的負担や混乱を招くおそれがある」としてきたのだ。
この口蹄疫の発生で、何が問われているのだろうか。
まず、家畜伝染病予防法による、官僚主導の防疫方式と、裁量行政を問わねばならない。政府の対策の遅れが追求されたが、法制度や行政の対応は補完的なもので、直接の防疫には結びつかない。県の非常事態宣言も、効果を挙げ得なかった。
同じ宮崎で、同時期に発生したえびの市で感染が終息し、東部の児湯地域では感染の拡大が続いている。その違いを生んだのは、法制度や国・県の対応では説明できない。
えびの市では、感染終息の理由に、初動対応の適切と飼養密度の低さが挙げられている。だが宮崎東部では、懸命の消毒や移動制限、ワクチン接種・全頭殺処分・緩衝地域設置にも拘わらず、感染拡大を防止できなかった。2010.6.10.現在、県全体では殺処分・埋却未了が、約半分の15万頭余を残している。
川南町では、一万七千人の人口を大きく上回る、十数万頭の牛や豚が殺処分された。ここに口蹄疫の七割が集中し、町の主力産業が壊滅に瀕している。初動対応で、ワクチン接種・全頭殺処分・埋却には、人員と埋却地の確保が必要だ。だが多頭飼育で飼養密度の高いことは、初動対応を困難にし増幅するのである。
ワクチン接種を行わず、患畜だけを殺処分とすれば、初動対応を迅速にする。同じ行政主導の下で、えびの市が終息し、宮崎東部で感染が拡大したのは、飼養密度の差に加え、初動対応を迅速にする地域力の差と捉えたい。それは、飼育農家を始め住民・自治体を含む、地域的な防疫対応力の差異だ。口蹄疫対策を担うのは、地域社会なのである。
感染の拡大が続く地域では、地域・現場の対応力が活かされず、政治主導の試行錯誤と、集権官僚の裁量行政で歪められた。行政主導のワクチン接種・全頭殺処分・埋却の具体的な経緯には、飼育農家を始め多くの批判が聞かれる。
また口蹄疫のワクチン接種は、感染抑制の一方で終息を遅らせ、新たな感染の発見を困難にすると共に、殺処分が残されている。全頭殺処分の患畜と未患畜の関係も同じだ。それは、家畜の全頭殺処分に加え、飼育農家を始め地域の活力を喪失させている。現地からは、希望を失った悲嘆の叫びが伝えられた。
都城では、えびの方式に学び、対策の見直しが聞かれる。経過観察で、被害を最小限に食い止め、未来に展望を持ち得てこそ、地域の活力を引き出すことができるのではないだろうか。
加えて今回の感染拡大は、英国の農家向け感染診断器具の開発や、政府と牧場を直結する防疫システムと比較し、初動対応の遅れが指摘されている(2010.6.7.NHKテレビ)。
鹿児島大学の岡本嘉六教授は、道路などの封鎖とともに、口蹄疫感染広がりを抑えるためには、時間単位の取り組みが必要であり、発症してから防疫措置を取るのではなく、発症する前に感染畜を見つけることが重要と発言(同6月11日夕KKBニュース)。感染確認がされた農家から1km以内の全農家へ立入検査し、抗体検査で感染の有無を調べることが重要だとのこと。
2000年の時はほとんど被害が広がらなかったが、まさに2000年の時は発症前の感染畜の確認がされていて、発症前に防疫措置ができていたのだ。だから技術や組織に優先して、地域社会に防疫の活力を生み出す、チエと仕組みが必要ではないだろうか。
現場や地域の活力喪失と、官僚主導の裁量行政の肥大化は、畜産だけに止まらない。米を始め各作目・農業の全分野に及んでいる。他産業や、インフラ・教育・社会保障も同じだ。政治主導が官僚主導を変えるには、国民主導と地域主権が不可欠なのである。
次に、問題の根っこには、口蹄疫の発生と飼養密度の関わり、加工畜産と呼ばれる、輸入飼料依存、薬漬けの多頭飼育農法がある。それは、技術文明に依存し、利便と効率優先の量産システム、作目・畜種・経営の選択と集中に起因している。
作物も家畜も、自然に対する人間の営みが、歴史の中でつくりだした。地球温暖化と同じく、技術文明が独り歩きすれば破綻を招く。このシステムは、飼料など農産物輸入依存が梃子となり、牛肉とオレンジ・果汁の自由化が加速した。低価格の輸入牛肉に、価格とコスト、品質と数量の両面で対応するため、量産と集約が追求されてきたのだ。
日米同盟・官僚主導と、国民・地域の対抗軸を見よう。口蹄疫では、官僚主導防疫の迷走と、地域力の再構築、宮崎支援の広がりが対抗軸だ。そして口蹄疫発生の土台には、牛肉自由化・輸入飼料依存を基軸とする、霜降り牛肉の高品質・高価格志向・多頭飼育の過密な加工畜産の歪みと、国民の食品不安・健康危機、食文化の崩壊がある。
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