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▽ 新型ワクチン集団接種を実施せず、10mlバイアルの配給で混乱する地方自治体 ▽
わだ内科クリニック
院長 和田眞紀夫
2009年11月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp
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10mlバイアルを供給された診療所での混乱
製造過程における薬液節約のために10 mlバイアルが製造・供給されために多くの混乱を
招いている。最大で50回バイアルに針を抜き差ししなければならないことによる汚染の問題
もさることながら、ここでは接種の現場である診療所での混乱について言及したい。
診療所に10 mlバイアルを供給するということは、診療所に1日で最大で50人の接種を強
要することになる。というのもバイアル開封後の使用期限は24時間であり、それを過ぎると
汚染対策のために廃棄処分にしなければならないからである。これはもう個別接種といえる状
況ではなくてまさに集団接種になっているわけで、診療所に診療の傍らに集団接種を行わせて
いるというのが実態である。1日に100人の患者さんを診るだけでも疲弊している診療所に、
さらに1日50人の接種という多大な負荷をかけて現場の混乱に拍車をかけているのだ。こん
な行政方針が許されるものだろうか。
事実上、1日50人接種を実施することは非常に難しいことで、そうなると2−3 ml廃棄に
なる可能性も高い。仮に医療機関がその気でがんばったとしても、50人の患者さんを接種日の
1日に集中して来院させるのは至難の業だ。また規模の小さな診療所ではその逆の現象も起き
ている。とある診療所から当院が所属する地区医師会に苦情の一報が届けられた。その診療
所では東京都の最優先順位の妊婦や糖尿病などの慢性疾患の患者さんが少なく、10 mlバイアル
1本分の接種者が集まらず、接種が実施できないでいるという。このため同地区医師会では
東京都の原則を破って次の優先順位である未就学児の接種を前倒しして同時に接種開始して
よいという緊急通達を出した。1週間でも早い迅速な接種を望まれて組まれた行政方針である
のに、10 mlバイアルで供給したために完全に裏目に出ているのである。
驚いたことは10月2日の都道府県の担当課長に対して行われた厚生労働省の説明会では
「保健所や保健センターでの集団接種」を行うように指示を出していたという事実だ。となる
と集団接種を実施に踏み切らなかった張本人は都道府県ということになる。集団接種を実施す
れば診療所の混乱を回避できるばかりでなく、薬液汚染の問題も緩和される。集団接種ではバ
イアル1本を1−2時間で使いきってしまい、24時間かけて診療所で接種するのと比べて細菌
の繁殖リスクは全然違うことを事務方は理解していない。
参考:以下ロハス・メディカルより転記
「新型インフル『小児の予防接種スケジュール、可能なら前倒しを』−厚労省」 http://lohasmedical.jp/news/2009/11/06205516.php?page=3
「10ミリリットルバイアルを無駄なく使用するために、医療機関だけでなくて、保健所や保
健センターで接種できるように各地域で連携を取りながら進めて行ってもらいたいという方
針を決めて、都道府県の課長会議に10月2日に提出したところです。(中略)大変な患者さん
の数、ワクチンを希望する方が押し寄せる状況があり得ますので、前にも言いましたように、
医療機関や医師会等と調整して頂きまして、接種場所として保健センターや保健所などの活用
をご検討して頂くよう、再度お願いいたしました。」
今回、改めて国は集団接種をするように都道府県に呼びかけているのに「小児の前倒し接種」
については多くのマスコミが報道していながら、集団接種については全く無視して報道に載せ
ていないことも問題だ。集団接種については日本小児科学会も緊急提言として国に訴えている
ところでもある。
地方自治体から医療機関へのワクチン配布の不手際
先週末、当院へも医療問屋から10 mlバイアルが3本届いた。驚いたことに当然微調整用
の1 mlバイアルも何本かは配給されると思っていたのだが、届けられたのは10 mlバイアル
だけだった。1 mlバイアルがあればキャンセルに備えて1−2人余分に予約を取っておいて
キャンセルがなかったときに調整することができる。それがなければキャンセルが出た場合は
残分を破棄しなければいけなくなる。前述の患者数の少ない小規模診療所に対しては1 mlバ
イアルをまわすこともできたわけだ。
上先生とのパーソナルコミュニケーションで得られた情報によれば大病院へのワクチンの
供給状況も相当ひどいもののようだ。
参考:(以下転記)
成育医療センターの医療従事者:971人
業務でインフルエンザ患者と対応する職員:218人
上記の合計1189人分の新型インフルエンザワクチンを東京都に依頼、要求しました。
しかし、届いたのは266人分でした。注射瓶に残ったワクチンをかき集め、309人の若い医療従事者を選抜し、接種しました。(後略)
バイアル配給の問題について当院担当の医療問屋に聞いあわせたところ、各医療問屋が東京
都に「去年季節性インフルエンザを各診療所が何本使ったか」の情報提供をし、診療所から提
出された概算の入荷希望数などのデータを併せて、東京都が各診療所に何本の新型インフルエ
ンザ用のワクチンを供給するか決めたそうだ。地区医師会の担当者にも聞いてみても、医師会
では各診療所への配給に関しては全く関知しておらず、やはり東京都が決めているとのことだ
った。
まとめと今後の展望
どうも厚生労働省の問題もさることながら、都道府県の対応にも相当問題がありそうなこと
が浮き彫りになってきた。「国から地方自治体へ」という指示機構に相当ひずみがきているの
ではないだろうか。国が指示しても、地方自治体が「笛を吹けど踊らず」という状態でうまく
動いてくれないようだ。もちろん地方自治体が積極的に独自の緊急対応をとる場合もなる。5
月の神戸・大阪の取った緊急対策などは、現場を無視した緩慢な国の対応を補って余りあった。
逆に今回は国の指示を無視して保健所等での集団接種を実施しなかった地方自治体の対応は
現場の混乱を増幅させている。
10 mlバイアル製造・供給の是非については先の国会質問でも議論が交わされたところでは
あるが、すでに10mlバイアルが製造されて診療所に供給され始めてしまっている現在、手持
ちの駒から可能な選択肢を選んでいくしかない。地方自治体はバイアル供給の作業に忙殺され
て集団接種の手はずを整える暇もないというところかもしれない。しかし、これは本末転倒な
話だ。集団接種を実施すれば煩雑なワクチン供給方法を組む必要もなくなるのである。
私個人の意見としてはそもそも優先順位を決めて配給制・予約制で新型ワクチンの接種を行
うこと自体に反対だった。まるで戦時中の物資の供給のようだ。同じ糖尿病でもインシュリン
を打っている人は接種の対象になり、経口剤だけの人は接種の対象からはずされている。これ
などは何の医学的な根拠もない強引な線引きだ。大げさに言えば場合によっては命にもかかわ
るようなワクチン接種という「国民の持つ平等な権利」が侵害されている。季節性ワクチンの
接種方法と同様に診療所の需要に併せて問屋に注文する方式でよかったと私は考えている。
当院でも新型ワクチン接種の予約を開始した初日、小さな診療所にもかかわらず100人もの
患者さんが予約のために殺到して少なからず混乱を招いた。3分の1の方は当院にかかりつけ
の患者さんではなく、疾病を抱えて大学病院に通院している方(大学病院からの依頼書持参)、
かかりつけ診療所の決まっていない方(これまで病気がなければ当たり前)、かかりつけは他
院でありながら病気そのものとは関係ない理由で当院での接種を求められる方など。
慢性疾患を抱えて病院等に通院している方は主治医に接種してもらうのが一番のはずだし
(なぜ自院で接種せずに他院に依頼するのか、その理由が全くわからない。単に1 mlバイアル
が供給されないという理由ならこれほど馬鹿らしいことはない)、健康で病院受診歴のない方
などはまさに集団接種で接種を受ければ済むことだ。今からでも決して遅くはない。次回の
まだ間に合う供給回から方針を転換して、中学生以下、もしくは高校生以下の接種は集団接種
とすること(10 mlバイアルを使用する)。疾病を抱える患者さんは主治医の病院・診療所で
個別接種とすること(注文制で問屋が1 mlバイアルを供給する)を提案する。
後は「接種対象でない方は接種をお控えください。接種対象の方は主治医に相談の上なるべ
く接種をお受けください」と国民に周知して、各医師の判断にゆだねればいい。すでに厚生労
働大臣と各医師との間で「接種対象を厳守するように」という前代未聞の契約書を交わさせて
いるのだからそれでもう十分なはずだ(悲しくなるほど国は医師を全く信用していない)。今後
ますます増大するだろう医療現場の混乱を鑑み、地方自治体が思い切った英断をくだして迅速な
対応(集団接種の実施)をとることを要望する。医師会もマスコミも良い結果を生むようにみん
なで後押ししていただきたい。その気になればすぐ出来ますよ、地方自治体の方・・・。
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今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。
MRIC by 医療ガバナンス学会
http://medg.jp
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