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第30回 新型インフルエンザ対策を考える 〜検疫よりも国内体制の整備を!(JMM 編集長・村上龍)
http://www.asyura2.com/09/buta01/msg/640.html
投稿者 gataro 日時 2009 年 5 月 19 日 08:27:44: KbIx4LOvH6Ccw
 

http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/report22_1617.html

配信日:2009-05-06

新型インフルエンザ対策を考える 〜検疫よりも国内体制の整備を!

 メキシコを発生源とした、豚インフルエンザ(H1N1)の感染が世界中に広がっています。4月28日、WHOは継続的に人から人への感染がみられる状態になったとして、インフルエンザのパンデミック警報レベルをフェーズ4に引き上げました。これを受けて、厚労省も、豚インフルエンザ(H1N1)を新型インフルエンザとしました。この日から、厚労省は、かねてより作成していた「新型インフルエンザ対策行動計画」と「新型インフルエンザ対策ガイドライン」に従って行動しています。28日以降は、行動計画の第1段階(海外発生期)にあたり、まだ国内での発生例は認められていないことになっています。

 5月5日現在、感染者数は世界中で増えていますが、死亡者数はそれほど大きく増えてはいません。世界の感染者数1085人、死亡者数26人です。そのうち、メキシコの感染者数は590人、死亡者数は25人で、米国の感染者数286人、死亡者数1人、カナダの感染者数101人、死亡者数0人、ヨーロッパの感染者数92人、死亡者数9人です。

【水際対策は本当に有効か?】

 厚労省が水際対策と称して検疫に力を入れていることは、皆さんも報道からご存じでしょう。ゴールデンウィークの帰国ラッシュには検疫官を普段の3倍に増員したと言われています。このような報道が繰り返されることにより、厚労省の懸命な努力により、新型インフルエンザが水際でくい止められているという印象が国民の中に形成しつつあるように感じます。しかし、あの報道や映像を見て、専門家は疑問を感じています。

 テレビでは、検疫官たちがものものしい防護服でチェックに向かう姿が報道されています。あの防護服は、医療関係者が未知の病原体と対峙するとき、空気感染、飛沫感染、接触感染によって自らが感染しないこと、および医療関係者を介して患者間の感染を防ぐことが目的です。しかし、それなら、違う患者・乗客に接するたびに防護服を使い捨てにして着替えなければ意味がありません。着替えないまま走り回っているということは、もし、本当に新型インフルエンザ感染の患者がいたら、乗客にもふりまいてしまうことになります。

 新型インフルエンザの潜伏期間は長く見積もって約10日間ですが、空港利用者の大部分が短期間の旅行や出張から帰ってくる人でしょうから、ほとんどがこの期間中にあると予想できます。空港に着いた時に症状がなければ、どんなに検疫を強化しても発見できませんから、すり抜けて国内に入っていることになります。ちなみに、米国テキサス州で死亡したメキシコ人患者も潜伏期に国境を通過しています。このように、厚労省が主張する検疫強化によって水際で食い止める考え方は、医学的には妥当ではありません。

 また、テレビでご覧になった方も多いでしょうが、厚労省は乗客の体温を検知するサーモグラフィーを大量に整備しました。しかしながら、サーモグラフィーでの有症者発見率は0.02%すなわち1000人に2人で、99.8%はすり抜けます。サーモグラフィーは意味がないことは、SARSの際の経験からも知られています。一方、サーモグラフィーの価格は1台約300万円です。費用対効果が極めて悪い投資です。

【専門家がリードする世界のインフルエンザ対策】

 実は、世界中で検疫を強化しているのは、日本や中国などごくわずかです。WHOは、警報レベルをフェーズ4に引き上げた当初から、水際対策も検疫も無効として推奨していません。SARSの際の経験からも、検疫が無効であることを学んだと述べています。
( http://news.yahoo.com/s/afp/20090428/ts_afp/healthfluworld )
 
 また、4/30付けの New York Times は一面で、WHOの衛生環境問題担当の福田敬二事務次長補のコメントを引用し、検疫強化は妥当ではないと紹介しています。福田さんは1955年東京生まれで、その後、米国バーモント大学を卒業し、主に米国で公衆衛生・感染症の専門家としてキャリアを積んだプロです。
( http://www.nytimes.com/2009/04/30/health/30contain.html?_r=1&scp=1&sq=Containing%20Flu%20is%20not%20feasible&st=cse )

 実は、世界の新型インフルエンザ対策は高度なトレーニングを受けた専門家のネットワークによって推し進められています。この点、現場経験が皆無で、さまざまな担当分野をローテーションする医系技官が主導する日本の姿は異様です。

 厚労省の検疫強化の方針については、現職の医系技官で、検疫の専門家である木村盛世氏も反対しています。彼女は厚労省の対応が間違ってしまった理由を以下のように述べています。
「専門家がいないからでしょうね」
「医系技官の使命は、国民の健康と安全な医療を守ることであり、そのためにはプロフェッショナルである医師の能力が必要。だから本来は専門家であるはずです。ただし、今の医系技官は、臨床も何もできない専門能力のない医師がたまたまやっている。だから彼ら自身、自分たちの知識のなさをカバーするので精一杯。」
「霞が関にいたって現場のことは絶対に分からないし、施策の企画立案を法令官僚だけするのは不可能です。現場の意見をきちんと吸い上げるような仕組みと人が必要なんです。でも今はトップダウンで、現場では無理と思っているようなことが、本省が言っているからで全部押し通されてしまっています。」
( http://lohasmedical.jp/news/2009/05/01183722.php )

【国内メディアの報道】

 では、このような状況をマスメディアは、どのように報道してきたでしょうか? 基本的に厚労省が推進する検疫強化を、そのまま報道しています。おそらく厚労省から記者クラブに提供された資料をそのまま掲載しているのでしょう。しかしながら、今回の騒動では、一部の新聞の記事はかなり正確です。特に朝日新聞の報道の質は高いと考えています。以下、幾つかの記事をご紹介しましょう。

  新型インフル、「弱毒型」でも重症化の例 (5/2 朝日新聞)
  「そもそも、インフルエンザウイルスで「弱毒型」というとき、症状が軽い病気をもたらすという意
  味ではない」「弱毒型だと細胞への侵入は、呼吸器や消化管にとどまる。強毒型だと、全身の細
  胞がもつ分解酵素と反応するため、全身の細胞に入り、全身性の出血などを起こす」「1918年
  から世界中で2千万〜4千万人の死者を出したスペイン風邪(H1N1)、57年からのアジア風邪
  (H2N2)も弱毒型だった。近年、強毒型の鳥インフルが人に感染しやすく変異すると懸念され
  ているが、もとはスペイン風邪のような被害を防ぐのが大流行対策だった」

  空港でのチェック「効果薄い」 欧州は情報共有に力点(5/1 朝日新聞)
  「5人の感染者が出ている英国のBBCテレビは29日のニュースで、メキシコから到着便に対し
  てマスクと防護服を着用した係官が機内検疫をする成田空港と、特段の検査を受けないまま到
  着ロビーに出来てた乗客が出迎え家族と抱き合うロンドン・ヒースロー空港の映像を対比させ
  た。ニュースは「WHOによると」として空港でのチェックは効果が薄いと説明した。英国は島国
  だが「水際」には力を入れていない。注意喚起のパンフレットを配る程度。英健康保護局の広報
  官は「新型肺炎(SARS)流行時、そうした対策はあまり効果がなかった」


【新型インフルエンザ騒動は長期戦に】

 では、新型インフルエンザ対策として何が重要なのでしょうか? この問題を考える上で大切なことは、今回の新型インフルエンザ騒動が長期戦になる可能性が高いという前提に立つことです。

 1918年3月に発生したスペイン風邪は足かけ3年続きました。この間、3回の大きなピークがありました。第一波は比較的マイルドでしたが、同年6月に世界の三か所の港(ブレスト〔仏〕、ボストン〔米〕、シエラレオネ〔アフリカ〕)において発生した第二波は致死率が20%を超え、第一波とは比較にならないほどの強力な毒性を獲得していました。そして、同年晩夏あたりには日本に上陸し、猛威を振るいました。なんとインフルエンザが夏に大流行したのです。
( http://www.nytimes.com/imagepages/2009/04/30/health/0430-nat-1918pandemic.ready.html )
朝日新聞は、5月1日に「長期戦の覚悟を持とう」という社説を掲載し、冷静な対応を呼びかけました。これは、非常に評価できることです。

【本当に必要なのは国内の医療整備】

 新型インフルエンザ対策のポイントは、流行を最小限にくい止めること、および新型インフルエンザ感染に弱い人を守ることです。常識的に考えれば、日本にも新型インフルエンザは入ってくるでしょう。わが国の緊急の課題は、医療現場に新型インフルエンザの可能性がある人が大量に押し寄せても対応できる体制を整えることです。その場合、問題は病院の体制整備です。

 今回の新型インフルエンザは、健康人であれば、タミフルを飲まずとも自然に治癒している人も多いようですし、早期にタミフルで治療すれば命にかかわることはなさそうです。逆に、致死的になるのは、高齢者やがん患者などの免疫力が低下した人たちです。実は、病院の入院患者の多くが該当し、新型インフルエンザ騒動で発熱患者が病院に押し寄せた場合、多くの入院患者がリスクに晒されることになります。

【我が国は感染症後進国】

 ところが、わが国の病院の感染症体制はかなり貧弱です。戦後の復興期ならいざ知らず、すでに過去のものと皆さんが考えているような結核、はしか(麻疹)といった感染症も、他の先進国よりも遙かに多いのです。現在でも、看護師の間で結核の集団感染が起きることは時々報道されますし、欧米では日本人留学生がはしか(麻疹)を発症して周囲にうつすため、はしか輸出国と揶揄されるほど、わが国は感染症後進国なのです。さらに、先進国の中で日本が唯一、エイズ患者数が増え続けています。

 高度成長期以降、病院で取り扱う疾患の中心は心筋梗塞やがんなどの生活習慣病になりました。つまり、伝染しない病気です。このため、日本では感染症対策の専門家も少なく、院内の隔離設備がない病院がほとんどです。

 厚労省のホームページには、「第一種」「第二種」感染症指定医療機関という分類や、「感染症病床」「結核病床」という分類が載っているだけで、医療現場が最も知りたい、隔離室や陰圧室の数は載っていません。日本のどの病院に何床の隔離室、陰圧室等があるのかさえ、厚労省が把握しているかどうか怪しいものです。このような状況では、医療者がどんなに頑張っても、感染拡大を防ぐことはできません。日本の多くの病院では「隔離」したくてもできる設備がないため、感染に弱い他の患者を守ることさえできないのです。

 前述の木村盛世氏は、「先進国では死者が少ないから日本でも少ないだろうと考えるのは甘い。日本もメキシコ並みの死亡者が出ると考えて、準備しておくべき」と警鐘を鳴らしています。

 新型インフルエンザ対策としてまず必要なことは、病院で隔離する設備を整えることと、病院に押し寄せる人々を新型インフルエンザか否か振り分けるスタッフの増員することです。新型インフルエンザか否か振り分ける人員を増やして初めて、従来の医療つまり感染に弱い他の患者たちの医療を続けることができるのです。この対応は即座にすべきです。そして、検疫に振り分ける人的・経済的資源は、すべてのこちらに向けるべきでしょう。

【本末転倒の検疫強化】

 ところが厚労省は、ゴールデンウィークの帰国ラッシュの検疫のため、現に診療にあたっている医療機関の医師・看護師に検疫させようとしました。文部科学省も、検疫業務に当たる医師の派遣を3空港に近い千葉大、東京大、大阪大、京都大、九州大の5大学の病院に要請したのです。他の検疫所や自衛隊の医師・看護師が応援に行くのならまだ理解できますが、病院の体制を強化し、準備を整えなければならない今、病院で診療を行っている医師・看護師を、診療から引きはがすのでは本末転倒です。

 ところで、なぜ厚労省は検疫にばかり注力して、医療機関の体制整備にお金や人手を振り向けようとしないのでしょうか。それは「検疫法」では、検疫は厚労省が公権力を行使して、直接行うことになっているからです。ところが、もし1例でも国内で発生すれば、それ以降は現場の医療機関の問題となり、厚労省の直接的な仕事ではなくなります。厚労省に限らず、役人の行動原理は責任回避が大きなウェイトを占めますから、国内の医療機関の体制整備より「検疫の実績」を重視するのは十分に理解可能です。それが、いくら医学的には間違いで、国民の健康を損ねる危険性が高くてもです。

 今回、厚労省は医療機関から医師・看護師を引きはがして検疫をさせましたが、たとえ病院が新型インフルエンザでパニックになっても、厚労省医系技官や検疫官は医療機関へ応援に行くつもりはないのでしょう。これは国民にとっては不幸です。本来、厚労省がすべきことは、国立国際医療センターのJICAの待機医師・看護師や、国立研究所など、診療に従事していない医師・看護師を、発熱外来へ応援に行かせることを、不安を抱えている医療機関に約束することです。

【名ばかりの発熱外来】

 厚労省は、医療現場には新型インフルエンザを診療する発熱外来を設置せよと通達し、5月4日現在536か所の発熱外来が設置されたとしています。

 繰り返しますが、感染を広げないための基本は「隔離」です。感染したら死ぬ確率の高い他の患者を守るために、他の患者と接しないように、個室に入ってもらわなければなりません。ところが、外来に、他の患者と接しない個室や陰圧室を持っている病院は日本では非常に少ないのです。

 厚労省は、新型インフルエンザの可能性のある人は保健所の発熱相談センターから発熱外来に行くから、発熱外来を設置していない病院には行かないと言いますが(もちろん行かないように呼びかける必要はありますが)、発熱外来のない病院にも来てしまった場合、他の患者に接触しないよう待っていてもらうための隔離室は必要です。発熱外来を設置するために、入口の外にテントを張った病院もありますが、2人目の患者が来たら、どこで待っていてもらえばいいのでしょうか。同じ部屋の中で、検査結果を待つ6〜8時間の間に、可能性のある人同士でうつしあってもよいというものではありません。今のままでは、病院に押し寄せた患者さんが待っていてもらう部屋はない病院が多く、外で待っていてもらうことになります。文字通りの「青空」診療になりますが、そこへ台風が来て、外で列を作って待つ患者さんたちが雨風にさらされることを想像してください。阪神大震災などのときの避難所のような光景が目に浮かびます。

【厚労省は即座に予算を確保せよ】

 ところが厚労省は、「発熱外来の整備は都道府県の役割であり、国としての補助等は現時点では考えていない」(同省健康局結核感染症課)と言っています(ソネットM3 MR君 5/4号「ヒト・カネ不足」で果たして対応可能か? 新型インフルエンザ)。私は、この発言を聞いてあきれ果てました。これは、行政の責任を完全に放棄していることを意味するからです。

 一方、現場からは、「通常診療を維持しながら発熱外来に対応するのは難しく、診察できても1日3、4人程度」「タミフルや防護服の支給もない。丸腰の兵士を前線に送るようなもので、職員の安全が心配だ」「厚労省は現場に指示するだけで、何の支援もない」という声があがっています。これは、太平洋戦争時の大本営と現地師団の関係を彷彿させます。

 厚労省は、これを機に、隔離室・陰圧室の状況を明らかにし、感染症の診療ができるよう、医療機関の整備をするべきです。まず、外来と入院それぞれの個室と陰圧室の数を把握しているなら、早急に公表すべきです。把握していないなら、早急に調査すべきです。そして、すべての病院の外来に隔離室を用意し、ポータブル前室(個室のドアに設置すれば陰圧室になる)やプレハブを建てるべきです。このような処置には、当然、予算が必要でしょうから、厚労省は国民にお金がかかることを説明すべきです。厚労省が誠意をもって説明すれば、多くの国民は納得してくれるでしょう。

 逆に、今回のように医療現場に予算をつけず、指示をおろすだけでは、その体制は形だけで、いざというときに役に立たないでしょう。厚労省の号令によって、一夜にして全国に500カ所以上出現した「発熱外来」を多くのマスメディアは好意的に報道しましたが、そんなものが果たして機能するでしょうか? 「張り子の虎」でないことを祈るばかりです。

 新型インフルエンザ対策は緊急の課題です。スペイン風邪のように、新型インフルエンザが強毒化して、第二波、第三波が襲ってきてからでは手遅れなのです。今すぐ、医学的に合理的な対策を打ち立て、国民と十分に情報共有する必要があります。
 

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