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【小樽保健所長・外岡立人さんの新型インフルエンザ情報】
・(日経BP)インタビュー:新型インフル対策、地方の現状・世界の対策
・(ホームページ)最新・事実のまとめ
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インタビュー:新型インフル対策、地方の現状・世界の対策
外岡立人氏、小樽市保健所長
「新型インフルエンザについて最新の情報が欲しければ、小樽の外岡さんのホームページを見ろ」――新型インフルエンザ関係者の間でもそう言われている。北海道小樽市で、小樽市保健所の所長を務める外岡立人氏は、個人の立場で鳥及び新型インフルエンザ直近情報(http://homepage3.nifty.com/sank/index.html)というホームページを開設し、国内外の鳥インフルエンザおよび新型インフルエンザに関する情報を収集、要約して掲載し続けている。
3年半もの間、継続して情報を収集・分析しつつ、同時に地域における公衆衛生の責任者として新型インフルエンザ対策に携わってきた経験から、外岡氏は国と地方自治体との間で新型インフルエンザ対策に関するコミュニケーションがあまりに少ないと指摘する。
同時に氏は、具体的な対策として「感染中断免疫」という手法を推奨する。新型インフルエンザに感染し、発熱したらすぐに抗ウイルス剤の服用を始め、症状を軽く抑えると同時に免疫も獲得するという方法だ。
聞き手・文/松浦 晋也
2008年8月8日
――まず、どういった経緯で新型インフルエンザに関するまとめをネットで公開するようになったのでしょうか。
外岡:最初は2002年から2003年の新型肺炎(SARS)が流行した時でした。自分用にSARSに関する情報をまとめていたのですが、そのうちに自宅でも仕事場でも同じデータをいつでも使えるようにしたくなり、「それならプロバイダーのサーバースペースも空いているし、いっそ公開するか」と、インターネットでの公開を始めたのです。
非常に軽い気持ちで始めたのですが、これは専門家の間ではそれなりに好評でした。
SARSは2003年の後半には終息し、ホームページも閉鎖したのですが、2004年に入ると今度は鳥インフルエンザが話題になり始めました。
――2004年には京都府などでH5N1型の鳥インフルエンザが発生していますね。
外岡:そうです。そこで今度は鳥インフルエンザをテーマにホームページの更新を始めたわけです。ところが今度はなかなか終息せず、それどころか2006年になると、ネットで流通する情報が爆発的に増えました。わたし一人ではなかなか情報が追い切れないほどになり、疲れてしまって、ホームページを閉じようかと思ったこともあったのですが、協力者が現れたこともあって、今も続けています。
――保健所所長という職にあって、毎日あれほどの情報をまとめ、ホームページを更新するのは、大変な労力がいると思います。よく続いていますね。
外岡:更新を続けているうちに生活のリズムの中にホームページが組み込まれた状態になってしまいましたからね。それと、協力してくれる人がいたとしても、情報の取捨選択は、専門知識を持ち、なおかつ継続してウォッチしてきた自分がやらないといけないな、と感じたということもあります。気が付くと更新開始から3年半になりました。その間、およそ1万件の情報を翻訳や要約し、掲載しました。
――どのような反響があるのでしょうか。
外岡:鳥インフルエンザの人への感染が起きている国に滞在している在外邦人の皆さんがよく利用しています。「日本語の情報があるのは助かる」と言われることは多いです。また、国内の主婦層もよく見ているようです。「情報がまとまっていて助かります」という内容のメールをいただくことがあります。
――内容はかなり専門的で、一般には分かりにくい部分もあるように思うのですが。
外岡:勉強されている方は、きちんと内容を把握しているようですよ。また、内容まで踏み込まなくとも、毎日見に来て、更新される情報の量から「そろそろパンデミックがあぶないのかな」とか「まだまだ大丈夫そうだ」というような、雰囲気を感じ取っている方がおられるようです。特に主婦の間には、一部にパンデミック情報に関して非常に敏感な層がありまして、熱心に勉強しています。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/92/index1.html
●国と地方はコミュニケーションが不足している
――ホームページ更新の一方で、保健所としても新型インフルエンザの対策マニュアルを配布するなど、活発に活動しておられますが、現在の地方自治体レベルのパンデミック対策を、どのように考えていますか。
外岡:圧倒的にコミュニケーションが不足しているというのが実感です。
――どことどこの間のコミュニケーションでしょうか。
外岡:国と地方自治体との間のコミュニケーションです。
ご存じの通り厚生労働省が用意したパンデミック時の行動計画は、指針を示すものであって、具体的な対策は地方自治体が行うことになっています。
我々地方自治体の担当者のところには、政府から指示が来るわけですが、それがファクシミリ1枚だったりするわけです。いきなり「これをしろ」というファクシミリが届いても、その背景にはどのような状況があり、なぜ動かなければならないのかという基礎的な知識が、地方の担当者の間で共有されなければ、すぐに行動することはできません。
政府は指針を出し、実際の行動は地方自治体が行うというのは、実は米国の行動計画と同じ形態です。米国は州政府の力が強いので、連邦政府が出した指針で、州政府が行動するわけです。
しかし、米国の場合は2006年の1年間をかけて、保健社会福祉省のレービット長官が、新型インフルエンザ対策の必要性を全米で説いて回りました。そうすることによって、はじめて地方レベルでも「国は本気だ。我々も対策をしなくてはならない」という意識が生まれ、実効的な行動計画を策定できるわけです。
ところが日本では、このような国と地方との密度の高いコミュニケーションは行われていません。地方としては、国がどこまで本気なのかが見えないのです。
――国の力の入れ具合が分からないと、地方自治体としては動けないということでしょうか。
外岡:今、国は地方分権を進めて権限を地方自治体に委譲しつつありますが、地方自治体の行政側には今なお「お上がなんとかしてくれる」という意識が色濃く残っています。これまで、さまざまな国の政策に振りまわされてきた観のある地方自治体としては、国が本気である確信がなければ動きにくいのです。同時に、地方では情報も足りません。
――インターネットが使えるようになり、ご自身が小樽からの情報発信を行っているのに、情報が足りないと感じているのですか。
外岡:情報リテラシーが足りないといえばそれまでですが、個人のホームページに掲載された情報よりも、国が出す情報やマスメディアに載る情報のほうが、地方自治体関係者の意識には届きやすいことは間違いありません。
情報がきちんと届いていないところに、「あれをしろ、これをしろ」という国からの通知のみが届いているのが現状です。
――東京でウォッチしていると、国の対策も徐々に進んでいるように思えますけれども。
外岡:そうでしょうか。例えば、最近になってプレパンデミックワクチンの事前接種を6000人規模で行うという方針が出ましたが、その趣旨が末端まで伝わっているかといえば否です。
プレパンデミックワクチンのリスクとベネフィットはどんなものなのか、まずどんな人たちに接種して、その後どのように接種対象を広げていくのかいかないのか――末端の医療関係者にまで基礎的な認識が浸透しないままで、対策を立ち上げても実効性には疑問が残ります。わたしには「対策をやっていますよ」というアリバイ証明のように思えます。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/92/index2.html
●財政難のところにファクス1枚の通達がやってくる
――その他にも地方自治体レベルでの対策を阻害する要因はあるのでしょうか。
外岡:まず財政です。地方自治体の財政は、潤沢なところばかりではありません。北海道でも夕張市が財政再建団体に転落しましたが、多額の赤字に苦しんでいる地方自治体は多いのです。そんなところにファクシミリ1枚で「行動計画を作れ」とお上からの指示が来ても、「お金がない」「他のところに予算を使うべき」ということになってしまいがちです。我々保健行政にかかわる者が、その必要性を首長や地方議会に説明しても、「そうは言っても、カネがないのはどうにもならない」ということになります。
その上、厚生労働省からの指示は、新型インフルエンザだけではありません。
メタボリックシンドローム対策や老人医療など、「これをやりなさい」と、やるべきことが次々と降りてきます。なかでも最近ではメタボリックシンドローム対策は、かなりの労力を必要とする内容でした。地域の保健所の人的リソースには限りがあります。「あれもこれもやらなくてはならない」という状況の中で、いつ来るか分からない新型インフルエンザ対策に、人員と予算を振り向けるのは難しいというところが多いのではないでしょうか。わたしは心配しています。
どこまで国が本気で対策するつもりなのかを、きちんと地方に伝えなければ、地方としてもなかなか動けません。国は新型インフルエンザに本気で対策をするつもりならば、米国のようにトップ自らが全国を回って説明会を開催する必要があるでしょう。
――地方自治体の首長や議員レベルでの、新型インフルエンザに対する認識はどの程度なのでしょうか。切迫感を感じてはいないのですか。
外岡:まだまだです。それどころか、医師の間でも危機感が共有されているとは言い難いです。「インフルエンザというからには、いつも冬になると流行するアレだろ。寝ていれば直る程度の感染症なら、なぜ注意しなければいけないのか」という誤った認識は、今もって残っています。
その一方で、全国的に医師は不足しており、病院の経営状況も厳しくなっています。新型インフルエンザに備えて、設備を整えたり病床を増やしたり、緊急時の行動マニュアルを決めておいて欲しいと地域の病院にお願いしても「それは難しい」ということになりがちです。
日本の医学は臨床を中心に発達してきました。病気になった患者を治療し、直すという方向です。一方で、公衆衛生には臨床ほどの力を入れてきませんでした。ですから、医師としても、病気が広がる原因を分析し、事前の対策によって感染症の拡大を防ぐという方向にはなかなか頭が切り替わってくれないのです。
公衆衛生という概念は、英国で始まりました。19世紀にロンドンでコレラが流行した際に、特定の水源の水を飲んだ者の間に発病者が出たことから、社会環境全体を見渡して疾病対策を行うという考え方が出てきたのです。そのせいか、旧英領の国はどこも充実した公衆衛生の体制を持っています。オーストラリアや香港、インドなどです。
――なるほど、1997年に香港で鳥インフルエンザが初めて確認された時に、拡大を食い止めることができた背景には、進んだ公衆衛生学があったわけですね。
外岡:一方日本では、戦前にドイツから医学を導入したこともあって、公衆衛生学の普及は遅れました。第二次世界大戦後に米国の占領軍が持ち込んだものが、日本の公衆衛生学の基礎になっています。
さらにさかのぼれば、日本の場合、中世のペストを経験していないということも、新型インフルエンザ対策が遅れている原因の一つでしょう。欧州においてペストの流行は文化史的な大事件でした。その恐怖は人々の意識の奥底に残っています。しかし日本は、人がばたばたと死んでいく、本当に恐ろしい疫病を経験していません。
最近では、SARSが国内に入ってこなかったということも、逆に新型インフルエンザ対策を遅らせたと言えそうです。カナダは国内にSARSが入り、しかも院内感染を引き起こしたことから、いちはやく新型インフルエンザ対策に取り組みました。
わたしは、国が先頭に立って地方に新型インフルエンザ対策の重要性を伝えていく、息の長い活動が必要だと思います。もちろん地域の公衆衛生関係者も、それぞれの地域での主導権を持ち、責任感を持って主体的に新型インフルエンザ対策に動かねばならないでしょう。
公衆衛生は保健所という組織の原点であり、責任でもあります。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/92/index3.html
●危機感を煽るのではなく冷静な啓蒙活動を
外岡:それでも、2年前あたりに比べると、ずいぶんとましにはなって来てはいます。2年前なら、そもそも「新型インフルエンザって何?」という人がほとんどでした。何をどう訴えかけようにも、そもそも興味がないので話すら聴いてくれないという状況でした。
それが、新型インフルエンザの存在すら知らないという人はずいぶんと減りました。少なくとも「新型インフルエンザ」という単語はみんな知っていて、わたしたちが勉強会を開催すると「ちょっとのぞいて知識を仕入れておこうか」と、やって来る人は増えてきています。
――とすると、もう少し地方政治家や医師が危機感を共有できるような方向で、啓蒙活動を行うべきなのでしょうか。
外岡:だからといっていたずらに危機感を煽るような啓蒙活動は好ましくないでしょう。今年1月にNHKが放送した番組(NHKスペシャル「シリーズ最強ウイルス」2008年1月12・13日放送)は、一般に新型インフルエンザの脅威を伝えるのには非常に大きな役割を果たしました。しかし、今後とも「こんなに怖い感染症がやって来る危険性がある」という形での啓蒙活動の必要があるかといえば、わたしはないと考えています。もっと、「明るい希望のある」啓蒙活動をしていくべきです。
――何か、そのように考える根拠があるのでしょうか。
外岡:全世界の情報を集め分析していると、この1年ぐらいで、新型インフルエンザへの対抗手段が急速に充実しつつあるのが分かるからです。
例えばワクチンならば、鶏卵を使った従来の製造法とは異なる、さまざまな細胞を利用した、より高い生産速度を達成した細胞培養法がいくつも実用化の段階に入りました。現在世界的には、通常の風邪を引き起こすアデノウイルスに、H5N1インフルエンザウイルスの遺伝子を組み込んだ上で、細胞培養法でワクチンを製造するという手法が注目されています。短期間に安全性の高いワクチンを製造する方法として有力です。グラクソ社の「プレパンドリックス」のように、プレパンデミックワクチンが臨床向けに発売されるようにもなりました。
英国とベルギーのバイオ企業は共同で、H5N1を含む全てのA型インフルエンザに対して免疫を発現する万能型ワクチンを開発しています。すべてのA型インフルエンザウイルスに共通な抗原に着目して体内に抗体を生成するというものです。
接種も、注射だけではなく、鼻腔内へのスプレーや皮膚にパッチを張るという手法が開発されています。
抗ウイルス剤も、ワクチンに添加するアジュバント(免疫増強剤)も、研究が進んでより良いものが出来つつあります。特に抗ウイルス剤に関しては、タミフルの特許を持つスイスのロシュ社は既に年間4億人分のタミフルの生産体制を整えており、各国でのライセンス生産に応じる姿勢も見せています。
過去のインフルエンザ罹患履歴やワクチン接種の履歴によっては、H5N1ウイルスに対する交差免疫が生じる可能性があるという研究も出ています。つまり毎年、通常のインフルエンザワクチンの接種を受けている人は、ある程度のH5N1ウイルスに対する免疫を獲得している可能性もあるのです。
要するに、1918年のスペインインフルエンザの時とは、人間の側が保有する対抗策が桁違いに増えているのです。スペインインフルエンザの時は、そもそもウイルスというものすら発見されていませんでした。公衆衛生に関する知識も普及してはいませんでした。
それに比べれば、今、我々はさまざまな対抗策を手に入れつつあります。確かに、全世界的な交通網の発達により、ウイルスが拡散する速度は非常に速くなっているでしょう。それでも、わたしは今現在、人類が保有する対抗手段を正しく使うならば、悲惨な事態は回避しうると考えています。
ですから必要なのはいたずらに「怖い感染症が来るよ」とあおり立てるような啓蒙活動ではありません。正しい知識と見通しに基づいた、冷静な啓蒙活動が必要なのです。「スペインインフルエンザよりも恐ろしい事態になり得る」といつまでも言い続けるのではなく、「今はこういう対策も取り得るのだから、このようにして被害を小さくしていこう」と語っていくべきなのです。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/92/index4.html
●有効なパンデミック対策「感染中断免疫」
――ご自身のホームページでは「感染中断免疫」という対抗手段が有効ではないかと推奨していますね。これはどのようなものでしょうか。
外岡:オーストラリア人でインフルエンザウイルスの研究で多大な実績をあげたグレメ・レーバー博士が提唱している対抗策です。「感染中断免疫」という言葉は、英語のAborted-Infection Immunityを、わたしが訳しました。
感染中断免疫の基本的な考え方は単純です。我々は感染症に罹患し、回復すると免疫を獲得します。一度罹患することが免疫獲得の条件なわけです。とはいえ、重症化して死んでしまっては意味がありません。
そこで、新型インフルエンザにかかり、熱が出たらすぐにタミフルなどの抗ウイルス剤で治療を開始します。発熱症状が出てから数時間の間に治療を開始すれば、症状は軽くて済みますし、回復後は免疫も獲得できます。
この考え方は、米国がパンデミック時に予防的にタミフルを内服するという方針を出したことに対する反対意見として出てきました。鳥インフルエンザが限定的に人にも感染している現状ならば、発症者周辺の人間にタミフルを内服させて感染拡大を防ぐのは理に適っています。しかし、ひとたびパンデミックが起きてしまい、大量の感染者が出た場合、多くの人が抗ウイルス剤を予防内服するのは非現実的です。そんなことをすれば、抗ウイルス剤の在庫があっという間になくなってしまいます。
それならば、罹患初期に抗ウイルス剤による治療を開始することで症状を軽く抑えると同時に、免疫も獲得するほうが、全体としてパンデミックを軽く終わらせることができるのではないかということです。
――抗ウイルス剤は一般的にはタミフルが使われますが、十代の子どもでは異常行動が出る可能性が否定しきれていません。厚生労働省は最近、異常行動とタミフルは無関係とする調査報告を出しましたが、使用した統計手法に対する疑念も出ています。これは引き受けるべきリスクでしょうか。
外岡:今後の研究にもよりますが、プレパンデミックワクチンによるプライミング(プライミングについては岡田晴恵氏へのインタビューを参照のこと)でも同様の効果が期待できます。十代の子どもには、プレパンデミックワクチンの接種を検討したほうがいいかも知れません。
――新型インフルエンザがタミフルに対する耐性を持っていたら使えない方法ではないでしょうか。
外岡:そのリスクはあります。しかし、プレパンデミックワクチンも、用意したワクチンとは全く異なるウイルスがパンデミックを起こすというリスクを抱えています。これはリスクマネジメントの問題でしょう。
――「かかったかな、と思ったら」という感冒薬のコマーシャルがありますが、この方法では、市販の感冒薬のように抗ウイルス剤が家庭の常備薬となっている必要がありますね。
外岡:そうです。最低でもパンデミック時に素早く一般家庭に抗ウイルス剤が配布できるだけの備蓄と配布体制の準備が必要です。手元に抗ウイルス剤を備蓄しておくこと、そして発熱症状が出たらすぐに服用することを、社会的な常識として定着させねばなりません。
――タミフルは使用期限が5年です。かつて3年であったものが5年に延ばされ、今、7年に延ばせないかという議論が行われています。家庭での備蓄となると、きちんと正規の保管方法を守ってくれるかという問題もあります。
外岡:ですが、家庭で抗ウイルス剤を備蓄することは、一番簡単かつ確実なパンデミック対策なのです。オーストラリアとニュージーランドでは、タミフルの市販を解禁することを検討しています。薬局で医師の処方箋なしでも買えるようにするわけです。
――完全に市販の感冒薬と同じ扱いにするわけですね。
外岡:供給量が少ない場合には、自由流通だと奪い合いになり、本当に必要なところには行き渡らない可能性もあるのですが、全世界的なタミフルの生産能力は現在向上しつつあります。誰でも手軽に薬局でタミフルを購入できるという体制が、家庭での備蓄を進める強力な手段であることは間違いありません。
耐性株を生み出す可能性のある濫用を防ぎつつ、必要な時に誰の手元にも抗ウイルス剤があり、誰もが正しい利用法を知っているという状況を作るべきだと考えています。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/92/index5.html
●マスメディアは勉強不足、目立つ「大本営発表」
――となると、正しい情報をきちんと流通させるという意味で、マスメディアの責任は重大ですが、自身がホームページで情報発信を続けている視点から、日本のマスメディアにおける報道をどのように見ていますか。
外岡:マスメディアの記者たちには、もっときちんと勉強してもらいたいと思います。
日本のメディアを見ていると、海外で重大な情報がニュースとなっても、それを後追いし、分析し、意味づけして流すということがほとんどありません。今やインターネットで、海外の情報を集め、分析することは誰にでもできるようになりました。しかし、国内で流通するニュースを見る限り、新型インフルエンザを担当する記者たちが、そのような情報収集と分析を行っている気配は感じられません。
国内でのニュースを見ても、政府なり企業なりの発表をそのまま流しているだけで、独自の視点から分析を加えることはまれです。これでは、かつての「大本営発表」と変わりありません。
的確な情報分析は、情報収集の蓄積の上に成立します。ただ単に、ニュースリリースを記事に仕立て直すだけで事足れりとしているなら、それは非常に情けないことです。
海外のニュースを見ていると、例えばロイターではインフルエンザ関連を専門にウォッチしているライターがいて、それこそ医学雑誌を超えるような質の論説を書いています。
――マスメディアの一員として、言い訳をする気はないですが、おそらく踏み込んだ分析を行っても、大多数の読者は読まない可能性もあるのではないでしょうか。
外岡:それはあるかも知れません。「大本営発表」が責められもせずに通用する背景には、自分で考える習慣を失った、それ以上のニュースを望まない読者がいるのでしょう。今、これだけ新型インフルエンザ関連の話題が流通するようになっても、圧倒的大多数の一般人は自分のこととしては考えられず、無関心なのだと思います。
このことは政治家も同じなのではないかと危惧しています。どこまで世界の状況を正確に把握した上で、対策を考えているのでしょうか。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/92/index6.html
●世界の状況を見据えた上での対策が必要
――現在の日本の対策も、世界の状況を見据えたものになっていないということですか。
外岡:先ほど話したように、今や世界中でさまざまな新型インフルエンザに対する対抗手段が開発されつつあります。それらをいち早く国内で試験し、行政手続きを経て臨床で使用可能にするということが、なぜ実行されないのでしょうか。
例えば、プレパンデミックワクチンを全国民分備蓄するか否かという問題があります。現在の備蓄量は、全国民には到底足りませんが、その一方で、海外の製薬メーカーは、効果の高いアジュバントの開発にも成功しています。
現在、プレパンデミックワクチンに使用しているアルミ系のアジュバントよりも、効果の高いアジュバントが使用できれば、現在の備蓄を何倍もの人数に接種できるのです。
日本の対策は、なにか非常に内向きになっているように思われます。すべてを国内でまかない、対策も国内限定となっています。しかし、世界を見渡すと、日本国内よりもずっと高度な対抗策が次々に実用化されつつあります。
――米国は、国内でのワクチン製造能力をアップさせるにあたって、国内メーカーを援助するのではなく、進んだ技術を持つ欧州の製薬会社を国内に誘致するという方法を採りました。それと同様に、すべてを国内で完結させるのではなく、柔軟に進んだ技術を取り入れるべきということでしょうか。
外岡:もっとオープンに海外からの技術を導入していくべきだと考えます。いいものは積極的に導入して、国内技術と同じ土俵で使っていかなくてはなりません。
対策についても、国内向けだけで事足れりとしてはいけないはずなのです。日本に新型インフルエンザが入ってきてしまってからの対策は、最後の段階であって、それ以前に封じ込めることができれば、被害をはるかに小規模な段階で食い止めることができます。発生国で封じ込めることができれば、そのほうがずっといいのです。
ですから、新型インフルエンザが発生した場合の、当事国への援助をあらかじめ用意しておくことは、決して他国への利益供与というわけではなく、日本国民を守るために意味があることなのです。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/92/index7.html
●高まる企業のBCP作成の気運
――今後、世界的に見て新型インフルエンザ対策は、どのようなものになっていくのでしょうか。
外岡:ひとつはっきりしているのは、先進国では国レベルでの対策が一巡して、企業レベルでの対策に焦点が移っているということです。いわゆるBCP(business continuity plan)ですね。それぞれの企業が、パンデミック時にどのようにしてビジネスを継続し、損失を防ぐかの準備を行うという段階に入っています。
米国では、保健社会福祉省が「企業は社員分のタミフルを備蓄すべき」というガイドラインを出しています。それに対応して、ロシュは米企業に対して「社員一人あたり年間6ドルを支払っておけば、パンデミック発生時に48時間以内にタミフルを届ける」というサービスを開始しました。このサービスは米保健社会福祉省がサポートしています。
日本でも、ここにきて企業の関心が急速に高まっています。わたしのところへも、企業からの問い合わせが増えました。
――それは、例えば新型インフルエンザの発生が懸念される国に駐在員を置いている企業が中心でしょうか。
外岡:そんなことはありません。駐在員の有無とは関係なく大手企業は、新型インフルエンザのバンデミック時のBCPに向けて動き出しています。
――日本の場合、中小企業の数が多いです。中小企業の取り組みはどうでしょうか。
外岡:わたしの知る範囲では、中小企業での取り組みはまだまだですね。今後、保健所でも地域の情報センターとして中小企業のBCPに取り組んでいかねばならないと思っています。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/92/index8.html
●野鳥よりも密輸が鳥インフルエンザを拡散しているのではないか
――ご自身のホームページでは、数年のうちのパンデミック発生の確率を35%と出していますが、現在の世界の状況をどのように見ていますか。
外岡:毎年、鳥インフルエンザは北半球の冬に拡がり、夏は発生件数が減るのですが、この2008年の夏はいままでにないほど発生件数が減っています。2006年は冬から夏はインドネシア、中国、エジプト、アゼルバイジャンなどで感染者が相次ぎ、これはパンデミック間近かと思わせましたが、今年の5月以降はめっきり感染者数が減っています。
世界のメディアも、「これはひょっとするとH5N1のパンデミックは来ないのではないか、次に来るのは別のタイプのインフルエンザウイルスではないか」というような論調が見られるようになりました。
この現象が何を意味するのか、今のところは分かりません。このまま終息するのか、それとも今後また増えるのか、なんとも言いようがないところです。
――今年の春には青森と北海道で相次いで感染死したハクチョウの死骸が見つかりました。野鳥による感染拡大の可能性はありませんか。
外岡:わたしとしては野鳥がウイルスのキャリアとなっているのか、なんとも判断できないでいます。確かにマガモは不顕性感染を起こすのですが、例えばインドネシアであれほど人への感染が起きているにもかかわらず、すぐ隣で、鳥ならばすぐに飛べる距離のシンガポールでは鳥インフルエンザは発生していません。また、野鳥がウイルスを伝搬するとしたなら、インドやバングラデシュから隣国のネパールやブータンへ容易に鳥インフルエンザが拡大しているはずですが、両国ではいまだ発生していません。
個人的にはむしろ人の手による家禽の密輸や、人の移動に伴ってウイルスを含む鳥の排泄物が拡散することにより、感染拡大が起きているのではないかという印象を持っています。
――今年春の韓国での鳥インフルエンザ発生も、感染家禽の不用意な転売が拡大を招いていましたね。
外岡:野鳥の監視は必要です。鳥インフルエンザによる死骸が見つかったなら、付近を走る車両のタイヤ消毒や靴の裏の消毒をし、その他の死骸が見つからないか厳重にチェックすべきです。しかし、世界的に見て野鳥によってウイルスが拡散しているのかといえば、そうではなく、人が主因ではないかという印象を持っています。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/interview/92/index9.html
●対策の裏側に見えてくる死生観の違い
外岡:インドネシアでの人への感染事例を見て思うのは、「インドネシアでは人の死が、今の日本よりもずっと当たり前なのではないか」ということです。なにか妙な病気で一人死んだとしても、それはさほど恐怖の対象にはなっていないのではないのでしょうか。
同じ事は、スペインインフルエンザの時の日本にも言えるのではないかと思います。速水融先生の「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ」(藤原書店刊)は、大変に素晴らしい研究だと思いますが、あの中で速水先生は、その後に起きた関東大震災の印象が強かったために、スペイン・インフルエンザは忘れ去られたのではないか、としていますよね。
実はわたしも、スペインインフルエンザが日本を襲った2年半の間の「北海タイムズ」という地方紙の縮刷版にすべて眼を通しました。確かに、流行性の感冒で大変なことになっているという記事も出ているのですが、それ以上に印象に残ったのは殺人事件、それも猟奇的な殺人事件の記事が多かったことです。
おそらく当時は今よりもずっと治安も悪く、ごく普通の人にとっても殺人が身近なものだったのでしょう。そんなところで、「はやり病で誰それが死んだ」と聞いても、今の我々が受けるようなショックは受けなかったのではないでしょうか。
――今、こうやって新型インフルエンザ対策が行われている根本には、死生観の変化があるのかも知れませんね。
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外岡立人さんが主宰する
鳥および新型インフルエンザ海外直近情報集 http://nxc.jp/tarunai/
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http://nxc.jp/tarunai/index.php?action=pages_view_main&active_action=multidatabase_view_main_detail&content_id=2059multidatabase_id=42&block_id=520#_520
作成日時 5月10日 (3) 事実のまとめ
カテゴリ 5月第1週〜
現在世界で流行しているインフルエンザA(H1N1)の事実をまとめる。
・ブタインフルエンザウイルス由来のA(H1N1)ウイルスによるインフルエンザである。
・病原性は軽く、これまでの米国における入院率は4.6%であり低い。その多くは糖尿病等の合併症を持つ人々である。メキシコでは48人の死者を出しているが、その多くも糖尿病や狭心症、高血圧を基礎疾患として持っていた人々である。
・メキシコでの致死率は3.2%。メキシコ以外での致死率は0.14%。米国とカナダだけの致死率は0.16%。メキシコ以外での致死率は季節性インフルエンザとほぼ同じ。
・タミフルとリレンザは効果を持つ。
・自然経過で治癒する。
・感染率は、家族内では25%。それほど感染率は高くない。一般社会の中では、10%以下と推定。季節性インフルエンザと同程度。
・これから夏場に入る北半球では発生数は減少してゆく(流行は終息)と推定される。
・このウイルスが今後、人人感染の過程で変異を繰り返し、病原性を高める可能性もあるが、同じ確率で低くなる可能性もある。
・ウイルスが他のインフルエンザウイルス、鳥インフルエンザウイルスとの間で遺伝子組み替えを(遺伝子再集合)起こして、より毒性の高いインフルエンザウイルスに変化することが恐れられている。ブタや人に混合感染を起こすことによる。
・来月から到来する南半球のインフルエンザシーズンで、このインフルエンザA(H1N1)がどのような流行を起こすかが、今後のウイルスの動態を予想する上で重要な観察事項となっている。
・現在は病原性は低く、パンデミックになっても、それほどの被害は出ないと推定されるが、ウイルスの保有する危険性を考えると、ワクチンにより多くの人々の感染を阻止することで、ウイルスの封じ込め(駆除)が必要かも知れない。
・ワクチンの作成には5〜6ヶ月要するが、製造に必要な鶏の有精卵の量に限界があるから、季節性ワクチンの製造量との割合をどうするかが大きな懸案事項となっている。
米国では6億回分(3億人分)のワクチンの製造が可能と言われ、製造がいつでも開始可能となっている。
WHOも世界の大手ワクチンメーカーと話し合いが行われていて、いつでも製造に着手出来る体制にある。日本も製造可能な態勢にある。
製造開始時期は遅くとも5月末頃。
A(H1N1)ワクチン製造の問題点:
a: 実際にA(H1N1)ウイルスが今後も、特に冬期間に流行するか否かは未定。消え去ることもあり得る。
b: 季節性インフルエンザワクチン製造量を減らした場合、実際に季節性インフルエンザが大流行し、その株が悪性度の高い場合は、高齢者を中心として犠牲者が多数出る可能性もある。次シーズンには香港型(H3N2)ブリスベン株が大流行する可能性も高い。一昨年米国、昨年は欧州で大流行。
c: A(H1N1)ワクチンの副作用が発生する可能性。どれだけ製造ワクチンが効果を発揮するか。
| 記入者:外岡
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