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〔解説、向井敏〕
剣と剣との対決、チャンバラは時代小説の華。この方面で質量とも余人を圧してぬきんでているのは、…意外にも、地味で端正な作風で通してきたはずの藤沢周平である。
まず、その量。主として剣客もの長短諸編を通じてこの人が編みだした剣技剣法は、主人公側の分だけで、驚くべし、50に余る。長編の主人公の場合について言えば、ざっとこんな具合だ。
一刀流、無眼流、雲弘流、空純流、無外流、直心流。
【出所】藤沢周平全集第六巻/文芸春秋 H5年
≪夜明けの月影〜柳生但馬守宗矩≫から
好色も…先祖の血のせいでないとは言えないと思いながら、宗矩はそばの夜具の中に深く沈み込んでいる少女を振り向いた。縫(ぬい)、18歳。長い髪と白い額が見える。かすかに寝息が聞こえた。
鞭のようにしなう身体と白いなめらかな肌を66歳の宗矩は、つい先ほど賞味し終わったばかりである。縫の身体は、宗矩に余生が残り少ないことを忘れさせる効能があった。少女を抱いたあとは、血は勢いよく身体を駆けめぐり、肌はあたたまり、気持ちを若やぐような気がする。
≪闇の傀儡師≫から
源次郎は伊能に近づいていった。そして六、七間の距離まで近づいて、伊能が刀を抜くいたのをみると立ちどまった。伊能の刀がゆっくり上がって、霞ノ太刀の位置にとまった。同時に左足を踏み出し、伊能の構えは花車になった。
源次郎は天心に構えた。腕も身体も、一本の剣の陰にひそみ、剣身一如となりながら、獣が耳をそばだてるように、吹いて来る風を聞こうとする。
その構えから、猿臂、波乱、風声、曲水、天鼓の変化がうまれるのだが、どう変わるかは伊能の剣技次第だった。
「無眼流天心の構えか」
伊能がつぶやいたのが聞こえた。
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