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◇改革に踏み出す東大 存在感高める慶応
英国の教育専門誌『タイムズ・ハイアー・エデュケーション』が昨年10月に発表した世界大学ランキングによると、東京大は日本勢トップの27位。論文の引用回数や、研究者による教育・研究評価、教員1人当たりの研究収入や学生数などの13項目で評価する。上位100校に入った日本の大学は、東大と54位の京都大のみ。慶応大は早稲田大と同じ351位だった。
これを見る限り、東大か慶応かといえば、その優劣は明確だ。東大の国内トップの座は揺るぎない。しかし、東大は改革待ったなしの崖っぷちに立たされ、「東大史上初の大改革」(浜田純一総長)に取り組む構えだ。
一方、慶応には東大ほどの大学改革の嵐は吹き荒れていない。むしろ清家篤塾長は「私立の学校は建学の精神を実現するためにある。それが必要とされなくなったり、実現できなくなったら、やめればいい。大きな変化の時代だからこそ、学問を大切にした福沢諭吉の精神、慶応の建学の精神がますます社会で必要とされる」と自信を見せる。
なぜこうも違うのか。
東大は慶応以上に大学グローバル化の荒波にさらされている。
東大合格者数で有名な進学校のある男子高校生が、東大の授業を試しに聴講したことがある。大学の許可を得て授業に出席したのだが、学生のやる気のなさに驚いた。「質問したのは自分だけ。大学生の授業への参加度があまりに低かった」という。この高校生は志望を海外大学に絞り、現役で合格。今夏、米国東海岸の有名大学に進学する。
欧米のトップ大学は海外の優秀な教員を招聘し、世界中から優秀な学生を集めている。今の東大には、彼らを引きつける魅力も財政力もない。
加えて言うなら今の東大にそれほどの教育力もない。東大が2012年3月に11年度の卒業生を対象に実施したアンケートでは、「大学の途中でやる気がそがれてしまった」が48・6%にも上った。また、「専門課程を習得するだけの能力や前提となる知識を欠いていた」は55・7%と半数を超えた。
浜田総長が2年前に「9月入学導入」の検討をぶち上げたのは、この現状を打破する狙いがある。留学生の受け入れや東大生の留学を増やして学生の多様性を高めると同時に、教員の意識改革も進める。9月入学自体はこのほど見送りが決まったが「この2年間の議論の中で、危機意識を共有し、教員の意識改革は進んだ。東大は必ず変わる」。
一方の慶応は、国内での高いブランド力を維持し、その存在感を高めている。
◇衰えない人気
駿台予備学校情報センターの石原賢一センター長は「慶応経済学部と早大政経学部の両方に合格した場合、7〜8年前から慶応経済学部を選ぶ生徒の方が多くなった。国立大学人気が高まる中、慶応は国立大学と併願しやすい入試科目であることも人気の理由」と言う。
就職、その後の昇進でも、同窓会「三田会」のネットワークが後輩たちを引き上げる。それをよく知る親が、小中学校段階から慶応の系列校に行かせたがる。さらに、資格試験にも強い。公認会計士の合格者数は12年まで38年間連続トップ。12年度の国家公務員採用総合職(旧1種)試験合格者数は、もちろんトップは東大412人だったが、慶応は81人で前年度比1・4倍の躍進を遂げた。不透明な時代に「約束された将来」を求め、慶応が選ばれる。
◇共通の悩み
こうした状況をみると、「焦る東大、追い上げる慶応」という構図が浮かび上がる。だが、事はそれほど単純でもない。両大学とも共通の悩みを抱えているからだ。
「学生の均質化が大学の質の低下につながっている」と、何人もの教授が証言する。東大の学生は、約半数が関東出身者で、なかでも中高一貫の国私立男子校出身者が多数を占める。受験勉強のテクニックに長ける彼らの学力は高い。しかし、受動的に授業を受けて効率よくテストで高得点を取ろうとする。
ある私立大の理系教授は、頼まれて東大で講義をしたときのことを思い出す。いつものように学生と対話型の授業を行い、「この現象が起きる理由は?」と尋ねてみた。すると1人の学生が、「いちいち私たちに聞かず、初めから先生が解説してくれればいい」と返された。
慶応のある教授も「学生の均質化は大きな悩み。東京、神奈川、千葉、埼玉という1都3県の学生が多くなりすぎた。ディベートをしてもお互いにの呼吸でわかり合って、理論的に説明したり反論しないで済むことが多くなっている。これではディベートの意味がない」。慶応の13年度一般入試の合格者9446人のうち1都3県の合格者は7割を占める。東大以上に首都圏化の傾向が強い。
◇改革か、現状肯定か
改革は進むのか。東大の各部局は今年度中に、教育改革の計画をまとめることになっている。計画案をいち早くまとめた大学院総合文化研究科・教養学部のメニューには大胆な改革案がずらりと並ぶ。▽4学期制導入▽少人数指導の導入と充実▽初年次に答えが一つではない問いや正解がない問いに学生が向き合う経験を通して、受験勉強とは本質的に異なる大学での学びの姿勢を養う▽習熟度授業を英語以外の科目にも拡充▽英語による授業を増やして短期留学生の受け入れを増やす▽外国語を母国語とする教員の割合を11・5%から20%に引き上げる──。
一方、慶応の清家塾長は、系列校からの内部進学者が約2割を占めるほか、一般入試やAO入試など、入学ルートの多様性を理由に「入学生に多様性がある」との認識だ。「自分なりの仮説を作って、検証して、結論を導くという作業が慶応の教育では行われている」と自信をみせる。
愛校心に満ちた卒業生の支援もあり、慶応ブランドは当面揺らぐことはないかもしれない。だが、グローバル化の荒波を受けにくい内海にいて、国内私大トップの座に安住してはいられないだろう。
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◇慶応「三田会」手本に 「赤門学友会」で“群れる”東大に
大学の同窓会といえば、会員約28万人を抱える慶応「三田会」の結束力が知られている。だが、東大も急ピッチで同窓会の活性化に力を入れている。「東大出身者には群れるという伝統はなかった。むしろ群れることははばかられた」と自らも東大卒で東大卒業生室の山路一隆副室長は言う。変化をもたらしたのは浜田総長だ。「ネットワーク化の時代。仲間と一緒に知恵を出し合うことで社会に貢献できる」と、群れることを肯定する。卒業生の大学への貢献に期待を寄せ、総長就任の翌年の10年に同窓会「赤門学友会」の活性化を公言した。
推定約20万人(故人を除く)の卒業生のうち、連絡先を把握できているのは現在約12万人。この3年間で約2万人増えた。登録団体数は今年度内に国内外で250に達する見込み。今年は全国の市長でつくる「赤門市長会」、外資系企業・法人の勤務経験者による「外資系銀杏会」などが相次いで発足した。外資系銀杏会代表の児玉哲哉・バークレイズ証券副会長は「互いの交流を通して、日本の経済や大学のグローバル化をサポートしたい」と話す。
すでに一部の登録団体が提供する学生向けの海外プログラムも昨年から始まり、今夏インドに行くプログラムは競争率13倍の人気を集めた。同窓会の支援は、大学改革以上のスピードで、学生らに刺激を与えることになりそうだ。
産官学のトップに座る東大ネットワークの知恵とパワーは強大だ。大学側は寄付の増額にも期待を寄せる。赤門学友会の存在感が三田会に並ぶ日も遠くないかもしれない。
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