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(書評)同性愛の謎 竹内久美子/著
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投稿者 矢津陌生 日時 2013 年 1 月 10 日 11:12:27: fqfGCq6zf5Uas
 

著者の竹内久美子氏は日高敏隆氏を師として京都大学で生物学(動物行動学専攻)を学んだ。研究者としてより、一般向けに男と女の不思議を解説するエッセイストとして、情報を発信し続けている。動物行動学(人類を含む)の知識をベースにした解説には説得力がある。日本国内でなかなかできない海外での性に関する調査を裏付けにしたものがおもしろい(日本国内でも調査できればおもしろいのだが、あと50年はかかるような気がする)。

老若男女の性の悩みの人生相談も、思わず「ナルホド」「ナットク」の明快さである。全く学者らしくない、一般向けに分かりやすく解説された数多くの本が出版されている。生物学をベースに一般向けの著作は、ムツゴロウの畑正憲氏に次ぐ多さだ。とかく一般向けに研究者が自由な発想で書くと、学会から「学問に対する誤解を招く」との批判を受けるが、どんどん情報を発信していくべきだ。受け手が取捨選択すればよい。御用学者よりよっぽど貢献度が高いと思う。

この書では、同性愛の謎について解明を試みる。同性愛者は子孫を残さない行動に多くの時間を費やし、全く子孫を残さない人もいる。それにもかかわらず、その遺伝子が脈々となぜ引き継がれていくのかという疑問。同性愛者は男にも女にも存在するが、女の同性愛者は男性よりはるかに少ない。女の場合はあまり社会的問題として取り上げられないからなのか、正確な割合はよく分からない。今では同性愛者が堂々とテレビに出演するが、30年ほど前人気歌手だった相良直美がこの問題で業界から干されたことがある。

著者は「過去に偉大な足跡を残した、たとえばダヴィンチ、オスカー・ワイルド、フレディ・マーキュリー、三島由紀夫などを尊敬しているため、男性の同性愛者に対して悪い感情を持ったことがない」ことが、本書を著す動機になったそうだ。同性愛はいずれの民族にもあり、人類に普遍的である。キリスト教世界では厳に禁じたために、モラルに反するものとなっているが、現代の欧米社会では認められる方向に進んでいる。

日本でも昔の仏教界ではことに有名で、空海がこの文化を中国から輸入し、正当化し、普及させる先駆者になったそうだ。実際、空海の持ち込んだ教義には性のタブーがほとんどない。戦国武将の中でも織田信長と森蘭丸の話は有名である。戦国時代に日本に来た宣教師が日本は「ソドム(男色)」の国だと報告している。いまでも世界中で軍隊や宗教施設では同性愛はどんなに禁じても無くならない。

「同性愛の謎」までは解明されていないが、同性愛にはホルモンが重要な役割を果たし、遺伝的には子孫の繁栄を補完する働きがあるという仮説である。簡単に言うと、女の繁殖能力の高い(X染色体にある)遺伝子が、男のX染色体上に発現すると、その男は同性愛者になる確率が高い。(女=XX、男=XY)そのかわり、その親族の女では子供の数が多いから一族全体(その染色体を持つ)としては一定の数の子孫を残し、生物学的に採算は合う。ヒトについての調査研究はやはり難しい。

矢津陌生ブログ http://yazumichio.blog.fc2.com/blog-entry-228.html より転載

 

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