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坂田雅子がドキュメンタリーをはじめたのは、報道写真家の夫グレッグ・デイビスが「肝臓が爆発し」て亡くなったのがきっかけだった。夫は生前、「枯れ葉剤を浴びたので子どもは作らない」と言っていた。彼女は夫への追憶と死への疑問を突き止めるためにベトナムの戦跡を訪ねた。そこで枯れ葉剤の影響に苦しむ人々と出会った。その旅がはからずも第1作の『花はどこへいった』(08年)に結晶した。
あれから3年、坂田は今度も枯れ葉剤を問題にして『沈黙の春を生きて』を作った。この映画の舞台も主にベトナムで、前作に登場していた障害を抱える子どもたちは苦しみながらも「生きて」いた。ここでは傷心の坂田の姿はなく、代わって米軍帰還兵の娘として生まれたヘザーという明るくふるまう女性が登場している。彼女は38歳で2人の子の母でもある。が、片足は膝下からなく、両手の指も4、5本欠けていた。それでも義足に短パン姿で障害者の子がいる家や病院を訪問し、人々を励ましていた。被害者同士が国境を超えて交流していく光景はすがすがしかった。
映画は、アメリカにいる枯れ葉剤による障害者にも光をあてて苦しい胸の内をもとらえていた。内臓が外に出たまま生涯を送った娘を語る母親の証言には胸が熱くなった。 タイトルの「沈黙の春」は、「化学物質は放射能と同じように不吉な物質」と農薬の危険性を告発したレイチェル・カーソンの著書からとったものだ。枯れ葉剤の犠牲者の悲惨がチェルノブイリの子どもたちの姿とダブって見えた。
ナレーション担当の加藤登紀子もパンフレットで触れていたが、枯れ葉剤の問題はケネディ大統領が『沈黙の春』に衝撃を受け、いち早く国内での農薬使用を制限する法律を作ったこと、その一方で、困った化学薬品会社ダウ・ケミカルやモンサントなどのために枯れ葉剤を発注して、ベトナムで空中から散布したことにある。映画は、10年におよぶその“猛毒”の量は7200万リットルと訴える。(木下昌明/『サンデー毎日』2011年10月2日号)
*『沈黙の春を生きて』は、9月24日より東京・岩波ホールにて上映。全国順次公開。
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【関連サイト】
ドキュメンタリー映画「花はどこへいった」 /3世代にわたる戦争の「傷跡」を描く【木下昌明さん】
【関連記事】
「しんぶん赤旗・日曜版」 2011年9月11日号 30頁
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