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化としての数学編集する 2010年07月27日02:03 *
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大学に入った年に、森毅教授の『解析学』(日本放送出版協会・1974年初版)と言ふ本を買ひました。
その本の始めの方に、天秤の釣り合いの話が出て来ます。
小学校の理科で習ふ通り、天秤の両端に錘(おもり)をつるすと、支点から端までの距離と錘(おもり)の重さの積が等しい時に、天秤は釣り合ひます。この誰もが知る現象を、古代ギリシャ人と近代ヨーロッパ人は、全く違ふ捉え方をして居た、と森氏は、述べます。
即ち、古代ギリシャ人は、この釣り合いの条件を比によって捉えようとした。ところが、ニュートン以降の近代ヨーロッパ人は、長さX重さと言ふ量に着目して、モーメントと言ふ新しい物理量を考え出した、と言ふのが、この本における森毅氏の指摘なのです。つまり、同じ現象を数量化するのに、古代ギリシャと近代ヨーロッパは全く違ふ発想を取って居る、と言ふ事です。森氏は、そこに、古代ギリシャと近代ヨーロッパの文化の違いを見てとっておられる訳で、古代ギリシャと近代ヨーロッパのそうした文化的断絶から、読者に、微積分学を中心とする解析学を生んだ近代ヨーロッパの文化への関心を惹起しようとしたのです。
大学に入って間も無い時に読んだこの本のこの箇所は、私に、強烈な印象を与えました。森氏は、そこで、文化としての数学と言ふ視点を持ち、数学が、歴史の中でいかに変遷して来たかを、分かり易く示しておられた訳ですが、森氏のこうした数学観に、私は、深い影響を受けました。
数学は文化であり、文化は数学を重要な要素として居る、と言ふのが、森氏が、その著作を通して、私に教えてくれた事でした。森氏のこうした数学観、文化観は、私のヨーロッパ文化への見方、そして、日本文化への見方に大きな影響を与えたと思ひます。
森氏のこうした考察には、現代の数学を生んだヨーロッパ文明に対する日本人の視点が深く投影されて居たと思ひます。森氏は、数学を通じて、「西欧とは何か?」を考え続けた知識人だったのであり、森氏の著作には、日本人だからこそ気が付き、語る事の出来た西欧文明論が有ったと、私は思ひます。
この様な知性に接すると、「理科系」、「文科系」と言ふ区分を絶対視して人間を区分する事の空しさに気が付かずには居られません。数学に限らず、科学を本当に理解しようとすると、必ず科学史の問題に出会ひます。そして、科学史について学べば学ぶほど、考えれば考えるほど、科学が、文化の一部である事を知らされます。森氏は、その事をとても強く意識して居た人です。氏は、数学を文化として見つめ、語った最高の教養人であり、日本人でした。
森氏の本を通して数学に出会えた事は幸せな事でした。
その森氏が、或る時、「老いとは何か?」と問はれて「若さからの解放」と答えた事が有りました。味わい深い言葉です。
御冥福をお祈りします。
平成22年(西暦2010年)7月27日(火)
西岡昌紀
http://nishiokamasanori.cocolog-nifty.com/blog/
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■数学者の森毅・京大名誉教授が死去
(読売新聞 - 07月25日 17:29)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1287454&media_id=20
数学者の森毅・京大名誉教授が死去
(読売新聞 - 07月25日 17:29)
関西弁の社会、文化評論で知られる数学者で、京都大名誉教授の森毅(もり・つよし)さんが、24日午後7時30分、敗血症性ショックのため、大阪府寝屋川市内の病院で亡くなった。
82歳だった。自宅は京都府八幡市西山和気6の11。告別式は行わない。
1928年、東京都生まれ。71年に京都大教授に就任。関数解析を専攻するほか、教育や文化史全般に関心を広げた。
91年の退官後、時事問題を鋭い視点と、独特の語り口で論評し、テレビなどでも幅広く活躍した。著書は「チャランポランのすすめ」「現代の古典解析」など100冊を超える。
昨年2月27日に自宅で料理中に大やけどを負って入院。家族によると、肺炎や敗血症を繰り返し、入院生活が続いた。最近は高熱を出し、4日ほど前から意識がなくなった。遺体は、家族が「医学のために役立ててほしい」と献体した。
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