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誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』【日刊サイゾー】
http://www.cyzo.com/2009/11/post_3257.html
高校中退の元ニート、マ男(小池徹平)は一念発起してIT会社にプログラマーとして
入社するも、そこは世に言う"ブラック会社"だった。
上司やクライアントに
おべっかを使い、部下には冷徹なリーダー役を品川祐がリアルに演じている。
(c)2009ブラック会社限界対策委員会
人は何のために働くのか?
食べていくため、家族を安心させるため、理想の彼(彼女)をゲットするため、デカい仕事をするため、社会と繋がっていたいから......。
その答えは人によって千差万別だろう。
B級アイドルのオタクたち5人による密室劇『キサラギ』(07)での演出力が高く評価された佐藤祐市監督は、IT会社のオフィスフロアを舞台にした最新作で再びシチュエーション・コメディーに取り組んだ。
タイトルは『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』。
青春群像劇を得意とする佐藤監督が"働くことの意義"をテーマに、ポップなエンターテイメントドラマに仕立てている。
現代の蟹工船とも、IT土方とも呼ばれるIT企業の下請け会社で、プログラマーとして働くことになった元ニートのマ男(小池徹平)が主人公。
高校中退ながら何とか就職することができたものの、そこでは奴隷さながらの過酷な労働が課せられる、労働基準法無視の悪徳企業=ブラック会社だった。
デスマ(デスマーチ=死の行進)と称されるギリッギリなスケジュールの中で、右も左も分からないまま、マ男は1台のパソコンのみ与えられソルジャーとして戦うことを強いられる。
地獄のような日々ながら、社内イジメを見事に解決する人格者の先輩・藤田さん(田辺誠一)との出会い、能力が認められてのプロジェクトリーダーへの大抜擢、肥留めに咲いた一輪の蓮の花のような美人派遣社員・中西さん(マイコ)を巡る恋の鞘当て......とマ男の心を震わせる出来事が待っている。
どれも、マ男が自宅に引きこもっていた8年間には味わえなかったものばかりだ。
2ちゃんねる発の同名ノンフィクション(著:黒井勇人/新潮社)を原作に、かなり忠実に映画化している。
職場のマドンナ、派遣社員の中西さん(マイコ)。
仕事は卒なく出来て、裏表のない真っすぐな性格
だが、彼女の後先を考えない言動が職場に混乱を
招く。
リーダー(品川祐)は無責任でただ威張っているだけだし、隣の席の井出(池田鉄洋)はくだらないギャグばかり連呼するお調子者。
そんなヤツらとグダグダしながらも、デスマをクリアしていくうちに、職場内にいつしか"団結"らしきものが生まれ、仕事をやり遂げた爽快感がマ男の全身を温かく包み込む。
今どきの映画では珍しく、何ともハッピーな社会派エンターテイメント作品だ。
IT業界に限らず、会社勤めなり、バイト経験なりのある人なら、共感度数が極めて高いドラマだろう。
働く上で、収入・仕事内容・人間関係の3つの要素がモチベーションとなるわけだが、3つともが揃っている人は極わずかなはずだ。
もし、「3つとも揃っている!」と思える人がいれば、その人はその幸せを今、心から噛み締めたほうがいい。
その幸せは、そう長くは続かないから。
理解ある上司や雰囲気づくりのうまい先輩が一人でもいなくなれば、その幸せはあっという間に壊れてしまう。
3要素の中でも、とりわけ人間関係の比重は大きいのだ。
例え人気企業に入社でき、希望の職種に就けたとしても、尊敬できる上司や先輩に出会えるとは限らない。
マ男もブラック会社にどうしているのか不思議なほどの人格者・藤田さんに声を掛けられなければ、入社1週間足らずで退職していただろう。
上司や先輩に恵まれるかどうかだけは、いくら一流大学に入り、早くから就活して、安定した大企業に入社できても全く保障されていない。
公開中の映画『沈まぬ太陽』で、航空会社の腐敗ぶりを10年前から指摘していた原作者・山崎豊子は、文筆活動を毎日新聞大阪本社文芸部からスタートさせている。
その職場には作家の井上靖が副部長としていたことは有名なエピソードだ。
新米記者だった山崎豊子は徳川夢声のインタビューに3度失敗し、部長から「取材できるまで、帰ってくるな」と怒鳴られてシクシクと泣いていたそうだ。
そのとき井上靖は「個人ではなく、新聞社の一員という意識で取材に臨めばいい」とアドバイスしている。
このひと言が、作家・山崎豊子の原点となっている。
井上靖のひと言がなければ、スタッフに資料集めを分担させ、自分は企画・構成・仕上げに徹する執筆スタイルも生まれなかったのではないか。
職場での出会いは、かくも大きい。
おもろい人、けったいな人、すごい人、自分ひとりの人生では出会わないような様々な価値観を持った人たちと生で出会えるのが会社勤めの醍醐味だ。
当たるも八卦、外れるも八卦、とりあえず勤めてみるしかない。
当然だが、『ブラック会社』は後味のいい娯楽映画であって、現実社会における重要な視点は欠落している。
マ男は藤田さんや中西さんに励まされ、無茶なスケジュールを乗り切ることで、社会人として生きて行く自信を得る。
しかし、大喜びしているのはマ男だけではない。
無茶なスケジュールを強要したクライアントやサービス残業で従業員たちを働かせまくった経営者は、マ男たちとは別の温度の笑顔を浮かべているのだ。
不可能だったスケジュールを可能にしたことで、今後マ男たちにはますます無謀な仕事が課せられることになる。
マ男の先には、限界を超えたさらなる限界が待っている。
がんばらなければ始まらないが、ただがんばればいいというものでもないのだ。
2006年に出版された『過労自殺と企業の責任』(著:川人博/旬報社)では日本の年間自殺者約3万人(先進国では突出した数字)のうち、勤務に関する自殺は年間2,000〜8,000人に上ると推定している。
真面目な人間ほど、働き過ぎにより体調を壊し、精神疾患に陥り、会社の都合でリストラされたことで生きる希望を失ってしまうというシビアな問題があることを、これから就活に臨む人たちは頭の片隅に小さくとも入れておくべきだろう。
人は何のために働くのか? という冒頭の問いだが、劇作家つかこうへい氏の有名なセリフ"人は幸せになるために生まれてきたのです"の一部を言い換えて、最後にこう言わせてほしい。
"人は幸せになるために働くのです"と。
(文=長野辰次)
●『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』
原作/黒井勇人 脚本/いずみ吉紘 監督/佐藤祐市 出演/小池徹平、マイコ、池田鉄洋、田中圭、品川祐、中村靖日、千葉雅子、森本レオ、田辺誠一 配給/アスミック・エース 11月21日(土)より渋谷シネクイント、新宿バルト9ほか全国ロードショー公開中。<http://black-genkai.asmik-ace.co.jp>
ブラック会社限界対策委員会 (
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