★阿修羅♪ > 文化2 > 124.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
(回答先: タイマーズのテーマ FM東京 デイドリームビリーバー イモ 投稿者 ワヤクチャ 日時 2009 年 5 月 03 日 21:30:37)
噂の眞相1989年6月特集10
忌野清志郎説もある謎の覆面バンド「タイマーズ」のゲリラ性
●レポーター 三田格
●突然、登場したタイマーズというバンド
単刀直入だが「ザ・タイマーズ」というロック・グループを紹介したい。メンバーは四人、ボーカル&ギターに覆面姿のゼリー、リード・ギター=トッピ・ムトウ、ベース=ダレダ・ワタシ、ドラム=トヨタショージ・パー。全員が土木作業員ルックである。
彼らは、そのいでたちからも新宿西口フォークゲリラを連想させてしまうが、実際にもこれまでゲリラ方式でしかステージに出てきたことはなく、他のいわゆるロック・バンドのようにいついつどこでライヴがあるから観に行く、という観客姿勢は完全に拒否されてしまっている。
彼らのステージは観客に無理矢理T∞I∞M∞E∞R∞S≠コールさせたあと「タイマーズのテーマ」で始まる。(「モンキーズのテーマ」の替え歌の「タイガースのテーマ」の替え歌)
♪きめたい
吸わせてくれ
さえない時は
ぶっとんでいたい
へイ ヘイ ウイ・アー・ザ・タイマーズ
タイマーを持ってる
いつでもどんな時でもタイマーを持ってる
タイマーズは客にとってみれば見る予定に入っていなかったバンドである。これまで様様な種類のロック・イベントにステージ・ジャックのかたちで乱入してきたが、彼らがステージに出てきてもロック・イベントとしては異様なことに誰ひとりキャーのひと言もなく、なんとも醒めきった雰囲気のなかで演奏は開始される。その未知のもの≠ェ歌い出した時、どんな反応が会場に起きたか――順番に紹介してみよう。
タイマーズのデビューは、去年の八月二日(まだ昭和のころ)富士急ハイランド特設ステージで行われたサマーイベントで、だった。ここでの反応はまっぶたつに分かれた。いわゆるノリノリ≠ニどっちらけ=Bおもしろがっていた人は明らかに頭を働かせて歌を聴いているのがよくわかった。「偉人のうた」という曲では♪もしも僕が偉くなったら(ヤッホー)、という仮定のもとに次の五つの指針が歌われる。
♪偉くない人の邪魔をしたりしないさー
偉くない人を舐めたりしないさー
偉い人だけとつるんだりしないさー
偉くない人たちやさえない人たちを忘れないさ
君が歌う歌をとめたりしないさー
タイマーズというグループはなかなか反権力的な姿勢を明確にするが、この最後の一行は明らかに(時期的に言って)RCサクセションに対する東芝EMIの原盤返却という昨年の椿事にひっかけてある、と思ったらそのころまだ発売中止中だった。そのRCの『カバーズ』のなかから「ラヴ・ミー・テンダー」と「サマータイム・ブルース」を彼ら流のアコースティック・タッチで続けて演奏した。彼らはおそらく、この事件をきっかけに結成されたバンドなのだろう。
彼らのロック・ミュージックというものに対する見方が実によくわかる曲に鶴田浩二のカバー・ヴァージョンで「ロックン仁義」というのがある。
♪どうせロックはありゃしねー
演歌やジャリタレばかりじゃないか
俺はしがないロックンローラー
義理も未練もありゃしねー
親も世間もみんな言う
たまには歌えよ歌謡曲
つらいとこだねロックンローラー
流行りすたりの人生さ
最初は大爆笑で聴いてしまうが、よくよく聴いているとこの歌の持っている無力感の深さにとらえられてしまう。どうしてこんな歌が書かれなければいけなかったのか?
彼らがRCの『カバーズ』に対するリアクションのなかで活動を開始したということは非常に自然なことなのだ、と納得してしまった。同曲には語りが入る。
古いやつだとお思いでしょうが、ちょっと言わしておくんなさいよ
気がつきゃ軽いサウンドばっかりじゃござんせんかい
英語だかなんだかよくわかんねー
何を歌ってんだか聴きとれねーようなサウンドばっかりでごぜーやす(中略)
冗談のひとつも言えねー
好きな歌さえ歌えねー
替え歌のひとつにもいちいちめくじらを立てる
嫌な世の中になっちまったもんでござんすねー えー社長!
●ヒロシマ平和コンサートと横国大学園祭
タイマーズが次に姿を現わしたところはなんとヒロシマ平和コンサート≠セった。八月五・六日にわたって繰り広げられたこのロック・イベントは広島の原爆被災者のために施設を建てるお金を集めるために十年間続けられるという主旨でよく知られているものである。例によってスペシャル・ゲストでタイマーズの名前がコールされても会場は誰も知らない。そのなかで彼らは「ギゼンシャ」という曲を歌い出した。
♪ギゼンシャ ギゼンシャ あいつはギゼンシャ(ギゼンシャー)
シハイシャ シハイシャ おれはギセイシャ(ギセイシャー)
ヒガイシャ ヒガイシャ あんたはヒガイシャ(ヒガイシャー)
シカイシャ シカイシャ TVのシカイシャー(コウタロー)
ギゼンシャは歌うよ 世界の平和のために(ヘイワ ヘイワ ヘイワ へイワ)
リカイシャはいないよ 出てくるやつらはみんなギゼンシャ
このあとさんざんギゼンシャとは自分のことだ、ギゼンシャと呼んで欲しい、僕たちはみんなギゼンシャ、と歌い続けたものだからさすがの山本コウタロー氏(総合司会)もかなりムッとした表情であった。「テーマ」が始まった途端にNHKの衛星生中継のスタッフも右往左往していたようだが、担当ディレクターが始末書を出すという事態にも及んだと聞く。演奏メニューが富士急ハイランドとまったく同じであっただけに「所かわる」ことの怖しさを思い知った僕であった。歌≠ノはやはり力がある。NHKのディレクター氏もまさかいまどきのロックにこんな牙があるとは思ってなかったに違いない。ちなみにステージの途中でゼリーは放射能浴びて死ぬぐらいならな、麻薬中毒で死んだ方がましだぜ、俺はそう思うな≠ニ言い放った。ヒロシマの観客たちはどう聴いただろうか? 残念ながらそこまではよくわからなかった。
この日のタイマーズのライヴは英国BBC放送によって録画されていた。ライヴ終了後にタイマーズはBBCのスタッフによりインクヴューを受けたが、このインタヴューがいまのところタイマーズが受けたインタヴューの最初で最後のものである。オン・エアされたかどうかはわからない。
富士急ハイランド、ヒロシマと来てタイマーズ・パート・スリーは初の首都圏、横浜国大大学祭の最終日であった。ただしタイマーズの噂は大学生間にかなり伝わっていたようで、これがちょっとした惨事になってしまった。ボ・ガンボスやティアドロップスに続いて泉谷しげる&ルーザーがステージに出るところをタイマーズがステージージャックした瞬間、観客がステージ前に向かって押し寄せてきたのだ。会場はゆるいスロープ状になっており、勾配を下る人間の波には勢いがつきやすかった。最前列でカメラを構えていたおおくぼひさこさんやスタッフの数名が身動きのとれない状態になり、押しつぶされた女の子がひとりかつぎ出されるという事態になった。ステージは中断。舞台監督が押し寄せた客たちにもとにもどるよう指示するが、なんと混乱の収拾を持ち切れないタイマーズは中断≠フ声にかぶせるように演奏を再開してしまったのだ(!)。
●天皇崩御をテーマに演奏する!
この日は「土木作業員ブルース」「彼女の笑顔」「こんにちは 赤ちゃん(崩御ヴァージョン)」と新曲のラッシュだったが、観客に合唱まで求めた「原発賛成音頭」がこれまでRC版「サマータイム・ブルース」を支持していた彼らのまったく逆の顔を見せたということで興味深かった。
♪さあさ皆さん聴いとくれ ゲンパツ賛成音頭だよ
これなら問題ないだろー みんな大好き原子力
ゲンパツ賛成! ゲンパツ賛成!
うれしいゲンパツ楽しいな 日本のゲンパツ世界一
なんにも危険はございません みんな仲間だ原子力
ついには「一家に一台、原子力」と続くのだが、この曲を推進スタッフが真に受けて踊り出す光景を想像するとおかしくてたまらない。あんなに難しい顔をしていたゲンパツ論争のどこからも自由になれてしまう批評の方法があった。なんてすごいの一言だ。吉本隆明さんもこの音頭には賛成なんだそうだ。
その「サマータイム・ブルース」の方はRCヴァージョンではなく、ついにタイマーズのオリジナル替え歌で天皇崩御ヴァージョン≠ェ登場した。
♪元気だったころしか写らない
やっぱりダメだ 死んでるな
「原子力」が「元気だっ…」、「さっぱり」が「やっぱり」とインをフンじゃってるところがニクいが、なんだかここにはメディアでは言っちゃいけなかった、でもほんとうは日常の会話のなかでは一番ヒンパンに交わされていた(ジョーク程度の)天皇観がストレートに出ていたのである。あの時期、不思議なことだが大部分の人がオーラルなレベルとメディアのレベルを使いわけていたと思う。あるいは肯定しようが否定しようがどこかに厳粛さというのがあって、笑っちゃいけなかった感じ。そのギャップに感じられてしまったバカバカしさみたいなもの――そういうものを全部記憶している歌なのじゃないかと思える。反天皇制陣営の悲愴な決意も、この歌が持っている笑いの次元に比べたら、どっか時代の気分≠ニズレていたと思うし、でもこの感じはメディアにはまったく残らないで世の中は過ぎ去っていっちゃうんだろうな、とも思ってしまうわけだ。
そして、ほんとうは冗談ばっかり言っていた大喪の礼の翌日――タイマーズは四度目のお目見えをする。ラ・フォーレ原宿における「パレスチナ独立宣言記念パーティー・東京」。
「カプリオーレ」
足の速いカプリオーレ
さすがのお前も今日は走れない
すべてのハイウェイ閉ざされて
誰かが年老いて死んだという
国をあげてのお葬式の日は
彼女のトラックも走れない
ヤダナ ヤダナ ヤダヤダヤダヤダナー(以下略)
「ギン・ギン」
ギーン ギーン
ギーン ギーン
参議院議員
衆議院議員
衆参両議院
政治献金 成金議員
株券議員 黙秘権
議会議員
ギーンギーン
ギーン ギーン(以下略)
「総理大臣」
なんにもはっきり言わねー
(略)
まるでプロダクションのタレントみたい
(略)
タレントだったらおいらと組もうぜ
おいらと組んで ブルースしようぜ
年より同志 仲良くやれるぜ
(略)
おいらのギターで あんたが歌えよ
ウソやホントやデッチ上げ
自慢話、苦労話
声を張りあげて 歌っていいぜ(略)
ブルースでこの国を 踊らせてやろーぜ
ブルースでこの社会を 持ちあげてやろーぜ
ブルースで土地をころがそーぜ、イエッ
若い女がギャーギャー騒ぐよーなことを
いま教えてやるぜ、大臣
いまよりよっぽと素直になれるぜ(以下略)
「税」
間接税
消費税
増税
コクだぜ国税
固定資産税
住民税
相続税
所得税
有名税 そりゃないぜー
いやだぜ納税 ぼくだけ免税
払うぜ血税(以下略)
さらに「恩教」「イモ」と続くが…タイマーズは、しかし実はこうした色のはっきりしたイベントを好んではいない。この日も最後に「ほんとうはこういうのヤなんだよ」と付け加えていたぐらいだ。タイマーズは別に政治のために音楽を手段化しているバンドではない。レコード産業の流通にはのれないような、だけど言いたいことが歌えればいい、というだけのバンドなのだ。そして、そんなバンドははっきり言って業界から必要とされていない。タイマーズはいまのところ誰に対しても利益を生まないバンドである。業界が必要としているのは利益を生むバンドだから、他のロック・バンドはそれに応えていくためにどんどん自分の音楽を手段化していく。だからそうした人たちのインタヴューを読んでいると過剰に手段と化した音楽を正当化するための言い訳ばかりをしているような気がしてくる。タイマーズというバンドが徹底して偽悪ぶっているものだからかえって、誰もが正義になりたがっているように見えてくるのだ。こうした構造のなかでやはり1番バカを見てるんじゃないかと思うのは、聴いている人だ。金はとられ、夢は喰いものにされる。だけどタイマーズを聴くことで失うものはなにもない。なんか不思議な感じがしてくる。
タイマーズのボーカル・ゼリーはRCサクセションの忌野清志郎によく似ている。それはスタンスも、考え方も、声も、ということなんだが、タイマーズの結成のきっかけとなったRCの原盤返却事件のあと、キヨシローはレコード産業なんかとかかわらなくても歌は歌っていけるさと言っていた。そしてかかわること、そのことが矛盾であるということをわざわざ『コブラの悩み』を東芝EMIからリリースすることで訴えてみたりもした。いくつかのメディアが断定しているように、ゼリーはキヨシローなのかもしれない。そうであっても全然おかしくはない。あるいはそう思っている方がロックに未来は感じられる。あえて確かめようという気もないが、このふたりの一番似ているところをひとつあげろと言われたら、それは口ヒゲの形かな。※タイマーズは「ぴあ式インデックス」では捜せません。念の為。〈了〉