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左翼はなぜ勝てないのか(上)〜自己陶酔に映る弱者への「同情」 (大澤真幸 中日新聞 論壇時評 2008/7/29〜30)
http://www.asyura2.com/09/bd57/msg/522.html
投稿者 乃依 日時 2009 年 11 月 07 日 22:21:09: YTmYN2QYOSlOI
 

(回答先: 左翼の堕落 (池田信夫blog) 11月2日 投稿者 乃依 日時 2009 年 11 月 07 日 22:11:06)

左翼はなぜ勝てないのか(上)〜自己陶酔に映る弱者への「同情」

大澤真幸(おおさわまさち)=社会学者、京都大大学院教授

 秋葉原で17人を殺傷したKが派遣社員であったことから、若手労働市場における非典型労働者
(アルバイト、契約社員等の非正社員)や無業者の過酷な状況に、あらためて社会的注目が集ま
った。日本では、非典型労働者は、1990年代中盤より増え始め、不況を脱したとされる2000年代
に入っても一向に減らず、むしろ増加の傾向にある。

 本田由紀は『軋む社会』(双風舎)で、非典型労働者が増大する社会的・経済的背景には、グロ
ーバル化にともなう大規模な産業構造の転換がある、と述べている。先進諸国の多国籍企業は、
生産拠点を労賃の安い後発諸国に移してきた。その結果、先進国では対人サービス職の比重が
重くなる。繁閑の変動が著しいサービス業にとっては、短期間に集中的に労働力を投入できる雇
用形態、つまりは非典型労働力へのニーズが高まる。また、製造ラインを頻繁に拡縮させる多品種
少量生産にとっても、出し入れが簡単な非典型労働力が都合がよい。
 本田由紀が特に重要視しているのは、非典型労働者が労働市場で冷遇されているだけではな
く、言説の水準でも否定的に意味づけられているということである。「フリーター」「ニート」「パラサイ
トシングル」等の非典型労働者・無業者を指す語には、負の含みがある。これらの語を用いた言説
は、しばしば、若者が非典型労働者化した原因を、「甘え」「わがまま」等の若者の心理的傾向や
態度に帰着させ、彼らの周辺的地位を「自己責任」化してきた、というわけである。
 逆に言えば、非典型労働者の排除や周辺化の「責任」は、トータルな社会構造にある。とすれば
ここにひとつの疑問が生ずる。非典型労働者の増大は、なぜ、左翼勢力の拡大につながらないの
か? 労働者の味方であるはずの左翼が、なぜ、この機に、支持を拡大させられないのか?なる
ほど、この1ー2年、「プレカリアート」の運動が生まれたり、「蟹工船」などプロレタリア文学の古典が
ベストセラーになったりと、左翼への期待は若干高まりつつあるが、しかし、ネット等に現れる若者
たちの言動の圧倒的な主流の中では、広義の右翼的なものが蔓延しており、左翼は揶揄や嘲笑
の対象である。秋葉原事件と関連させれば、疑問を次のように言い換えることもできる。なぜ、犯
人の恨みは、彼の雇用者や為政者に向かわず、「誰でもよい」という形で焦点を拡散させてしまう
のか、と。
 この問いに正面から取り組んでいるのが、「超左翼マガジン」を謳う『ロスジェネ』の創刊号であ
る。「ロスジェネ(ロストジェネレーション)」とは、就職氷河期と言われた90年代に学校を卒業した、
現在20代・30代の層、つまりフリーターやニートを大量に生んでいる世代である。この雑誌は、この
世代の代弁者たらんとしている。
 編集委員の一人でもある大澤信亮は、端的に「左翼のどこが間違っているのか?」と題する短編
小説の中で、答えを模索する。主人公「ぼく」は、ブログの中で、左翼の「ナルシスティックな自己
欺瞞」を非難する。左翼の「『弱者好き』はほとんど病気」だと。どういうことか?

 左翼は、「戦争被害者、在日外国人、女性、フリーター・・・・」といった弱者を次々と見つけ出し、
それら弱者に同情し、同時に弱者差別を批判する。問題は、こうした弱者への同情が、常に「安全
な場所」からのみ発せられているということである。自分自身は弱者の渦中にはいない限りで、つ
まり弱者に真に近づかない限りで、弱者の味方になろう、というわけである。「同情」が、むしろ、
弱者との間の安全な距離を保障している。左翼は、弱者を「応援」することで、自分自身の善き心、
麗しい魂を確認し、ナルシスティックに陶酔しているように見えるのだ。

左翼はなぜ勝てないのか(下)〜資本主義に勝る普遍性を示せず

 大澤信亮の小説の主人公が嫌悪を覚えるような左翼的なナルシシズムの典型例を、3月に勃発
したチベット騒乱をめぐる海外メディアの報道の中に見ることができる。弱く善良なるチベット人を
中国政府が弾圧している、と。だが、そう批判する者のほとんどが、チベットと中国の間の長い関
係の歴史を知らない。1949年に中国に占領される前のチベットのことを知らない。なぜ、僧侶が主
に中国に抗議するのかわかってはいない。
 孫歌が、「『総合社会』中国に向き合うために」(『現代思想』7月臨時増刊号)で、善玉と悪玉の
闘争という図式で中国社会を見るべきではないと論じているときに問題にしているのも、このこと
である。この論考の中で、孫歌は、Tashi Tsering というチベットの伝記を紹介している。彼はチベ
ットの田舎の出身だが、偶然の経緯からアメリカに留学し、西洋史を勉強した。その結果、一方で
は中国共産党への不信感をもちつつも、他方で、党がチベットで行った土地改革・政治改革の意
義をも理解し、帰国後、文革による挫折を経験したりもしたが、共産党による改革を完成させるべ
く、チベットでの学校建設に努力した。
 だから中国が善でチベットが悪だ、と言っているのではない。中国政府の対応にも問題があるの
だが、どちらの陣営が一方的に善で他方が悪だという色分けは、中国社会の複雑性・総合性を隠
蔽することにしかならない、と孫歌は主張するのだ。
 西洋や日本の多くの人々がチベットに同情するのは、チベットに特別な宗教性や精神性を感じる
からではないだろうか。つまり、そこには「資本主義の物質文明を超える精神性」という幻想が投
影されているのだ。こうしてわれわれは資本主義という問題に行き着く。
 非典型労働者が増大するこの機に、なぜ左翼が支持を拡張できないのか、が疑問であった。左
翼を特徴づけるのは、普遍性への愛着である。だが、事態を複雑なものにしているのは、普遍性を
真に社会的に実効的なものにした動因は、資本主義にこそある、という事実である。資本主義的な
市場では、すべての事物が、使用価値としての多様性を超えて、貨幣で表現できるような抽象的
な価値をもつ。同様に、すべての人が、具体的な個性を超えて、抽象的な労働力の主体としては
同一である。こうした現実を背景にしてこそ、すべての個人は、抽象的な人権の主体としては平等
だという普遍的な理念も説得力をもつ。
 今日、フリーターやニートの自尊心を傷つけているいるのは、彼らが、いつでも、誰とでも交換可
能な小さな部品に過ぎない、という扱いを受けるからである。だが、これは、資本主義的な普遍化
の作用のきわめて素直な実現にほかならない。左翼を困難に陥れている究極の原因は、結局、
資本主義を上回る実効的な普遍性を提起できていないからである。
 資本主義のこうした容赦ない力を実感するためには、もう一度、中国に目を向けるのがよい。た
とえば、阿古智子は「腐敗と格差の根元は何か」(『ラチオ』5号)で、中国社会における、きわめて
不公正な司法制度の実態を、自身の調査をもとに具体的に報告している。普通、資本主義という
経済は、民主的な体制とともにあるときだけ、自然で整合的に機能すると考えられてきた。しかし、
中国の現状が教えることは、資本主義は、権威主義的な権力と結合しても問題なく動く機械だとい
うことだ。資本主義の普遍性は民主主義のそれを凌駕しているのである。この不気味な現実に、
どう対抗したらよいのか。 
中日新聞 論壇時評 2008/07/29〜30



★派遣労働拡大の原点 「95年日経連報告書」

★辺見 庸=「東風は西風を圧倒したか」

★大澤真幸=「資本主義を超える普遍性を求めて」

★大澤真幸=「神的暴力」とは何か 死刑存置国で問うぎりぎり孤独な闘い


------------引用以上

http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/adagio/sayoku.htm
より

引用元も転載文

大澤真幸の言説の一例として引用した。
 

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