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「外資凋落」 最強外資 ゴールドマン・サックスの本性
ジャーナリスト 菊池雅志 週刊文春 9月21日号(P40−44)
バブル崩壊後、日本の不良債権を買い漁ってはポロ儲けし「ハゲタカ」と称された外資系金融機関がいま大きな転機を迎えているという。「最強外資」といわれたゴールドマン・サックスの「凋落」すら市場で囁かれている。外資に何が起きているのか。(文中一部敬称略)
長野新幹線の軽井沢駅から旧軽井沢方面に車で約10分。人目を避けるように、車道から20メートルほど奥まった場所に、真っ白な漆喰とベージュのレンガで彩られた二階建て瓦葺の瀟洒なな別荘が建っている。
この地は、かつて旧華族の徳川家、細川家、そして田中角栄元首相などが別荘を構えたことで知られ、「軽井沢の中でも最上級の一帯で、坪単価4、50万円」(地元の不動産業者)と言われている。
別荘の門扉にはローマ字で「MOCHIDA」と書かれている。別荘の持ち主は、これまで日本における「最強外資」の名をほしいままにしてきた、ゴールドマン・サックス証券(GS)の社長、持田昌典である。平成13年に新築されたこの別荘では、週末になるとゴルフ接待を兼ねた「宴」が催されている。
今年8月12日、この別荘に20人ほどのビジネスマンとその家族が集まり、酒宴が開かれていた。持田がオーナーの西麻布のフランス料理店「コット」のシェフがバーベキューを焼き、GSの社員数名が食事や酒を振舞う。持田は、独特の甲高い声で延々と喋り続け、大声で笑いながら招待客を隅々まで見回し、誰もが楽しめるように気を配る。
そして、持田が座るテーブルには二人の意外な人物が席を並べていた。前三井住友銀行頭取で現在は日本郵政社長の西川善文、やはり三井住友銀行出身で楽天副社長の國重惇史である。大物が陣取ったテーブルからは近寄りがたい空気が漂っていたが、三人が大声で話す冗談は、部屋中に響き渡っていた。
持田が「昨年は村上(世彰)も別荘に呼んだが、今回は呼べねえな」と言うと、國重が「マスコミの連中が家に来て、『検察に事情聴取されたそうですが』とか言ってくる。バカバカしい」と応える。西川は「三井住友はGSに救ってもらった」と言い、高級ワインを持参していた……。
バブル崩壊後、外資系投資銀行や投資ファンドの成功は、「ハゲタカ」と批判を受ける一方、その手法を真似ただけの「ヒルズ族」なる虚業家も生み出した。しかし、今年に入り、ライブドアや村上ファンドが摘発され、「儲かれば何をしてもいい」という外資の思想は否定されようとしている。
景気が回復しつつある日本では、ようやく嫉妬や羨望を排して「外資」を公平に評価することが出来るようになった。あらためて外資のいまを追うと、最強と言われたGSにすら「凋落」の兆しが訪れているのだ。
GSが、日本で圧倒的な存在感を誇示したのは、平成11年、国有化された日本長期信用銀行をリップルウッドに売却する際に政府側のアドバイザーになってからだ。その後、NTTドコモの海外投資、三井住友銀行の総額四1,500億円の増資などのメガディールを手掛け、経営破綻したゴルフ場を買収して日本最大のゴルフ場オーナーになり、「最強外資と言われるようになった。
株主を軽視したJALの増資
そして、GS社長で投資銀行部門(IBD)のトップに君臨する持田は、これまでの「ピンストライプの高級スーツに身を包んだ外資のパンカー」というイメージを打ち破る、型破りの男として成功していた。持田は、飲食、ゴルフなどの接待営業を通じて企業トップに食い込み、孫正義、西川善文、立川敬二(NTTドコモ)などのワンマン経営者を”落とし”て、巨額ディールを手にしていた。
わけても、西川と持田との親密さは常軌を逸していた。平成14年12月、西川が来日中だった米GSのヘンリー・ポールソン会長と竹中平蔵(当時は金融・経済財政政策担当大臣)を引き合わせ「三者会談」を行い、翌年1月に三井住友銀行の1500億円の優先株をGSが引き受けた。
さらに2月には、西川の”独断”で、他の証券会社と進めていたディールをキャンセルし、3千億円もの増資の主幹事を持田が率いる東京のGSに与えた。ワンマンで知られる西川と持田が、ゴルフや飲食などを頻繁に繰り返す姿は、三井住友銀行内でも怪訝な目で見られていたほどだ。
ところが今年になって、他の投資銀行のパンカーから「最近のGSは何かおかしい--」という声が挙がっている。その舞台となったのが、「近年稀に見る最悪のドッグディール(大量の売れ残りが出た引受業務)」と言われた、日本航空の巨額公募増資である。
6月28日、相次ぐ安全トラプルと内紛、巨額赤字を計上した末、株主総会後に西松遥が日航の新社長に就任した。ところが、その2日後、日航は突如、発行済み株数の約37%にあたる7億株もの巨額増資を発表する。明らかに株主を軽視した資金調達に、東京証券取引所の西室泰三社長、日本証券業協会の安東俊夫会長、さらに社外監査役の西村正雄(元日本興業銀行頭取、8月1日に死去)までが、「不透明」「株主への説明不足」と厳しく批判した。
この増資の主幹事として中心的に資金調達に動いたのが、国内はみずほ証券、海外はGSだった。しかし、国内では予定通りの株数を売ることが出来ず、途中から5千5百万株を海外向けに変更。一方のGSは、ヘッジファンドなどを中心に4億株以上を”売り捌く”ことに成功した。
日航の西松遥社長を自宅で直撃すると、ほろ酔い加減でこう持田を絶賛した。「今日も持田さんと飲んでたんだ。知ってるでしょ、持田さん。レバノン情勢で油の値段も上がって、色々と風当たりも厳しい中で、よくやり遂げた。互いの健闘を称えたんです」
GSの圧倒的な資金調達能力、持田のエクセキューション(実行)能力は、高く評価するべきだろう。しかし、「GSが主幹事として儲けた仕組み」を解明すると、手放しで褒め称えることは出来ない。
そもそもGSと日航は、一千億円規模の巨題アィールを手掛けるほど親しい間柄ではなかった。GSのカンパニーエアラインは全日空で、出張で日航を使うこともない。
「日航は伝統的に、旧日本興業銀行と親しかった。また、西松さんの長男がみずほ銀行、娘さんがUBS証券に在籍していて、『国内みずほ』『海外UBS』のペアが多かった」(大手証券幹部)
ところが、UBS証券で日航を担当していたマネージングディレクター(MD)の安渕聖司が、今年、GEコマーシャルファイナンスのアジア統括の副社長に転職していた。
「安渕さんは、三菱商事からリップルウッドをへて、UBSでは運輸セクターと民営化部門のヘッドとして
数多くのディールを手掛けた実力バンカーです。安渕さんの退社で、日航どUBSの間に一時的に空白が出来てしまった」(外資系投資銀行のパンカー)
この間隙にGSが入り込んだという。持田は周到に用兵したようだ。
GSのIBDには、飲食接待などの“肉体労働”と司令官を兼務する社長の持田の下に、”頭脳労働”を担当する三奉行がいる。三井住友の増資を手掛けた小野種紀、楽天によるTBS嫌買収などのM&Aのヘッドを務める矢野佳彦、金融部門以外を統括する小高功嗣の三人のMDだ。
まず、三奉行の一人の小野を、FIG(金融機関担当)からGIG(一般産業担当)に変えた。実は、小野と日航の資金部長の河原畑敏幸が友人同士だったのだ。もっともこれだけで日航の主幹事を奪ったわけではない。河原畑本人もこう答える。
「小野さんとは、彼が弁護士をしている頃からの付き合いです。もちろん一緒に食事にいったこともありますが、(主幹事決定とは)関係ないです。飽くまでもビジネスとしての判断で、GSの条件が良かったということです」
河原畑が言う「GSの条件」とは何か。ある外資系投資銀行の幹部は、「GSが演じたのは”10%”ゲーム"だ」と表現する。
公募増資などの新株発行では、通常、特定の日付の株価から2〜4パーセントを割り引いた価格で募集が行われる。ところが、日航の増資では、4〜6パーセントという破格の割引率が提示された。
「前代未聞の数字です。それほど日航株の信用がないという証拠。GSは、『4パーセントで売れたら手数料は6パーセント、6パーセントなら4パーセントの手数料を貰う』という提案をしたようです。つまり、日航は実質的には10パーセントの割引率で新株を発行したことになる。
これではMSCB(転換社償)と同じ割引率ですが、西松社長は、MSCBを発行して、レスキューファイナンス(非常時の資金調達)だと思われたくなかったのでしょう」(外資系投資銀行幹部)
http://blogs.yahoo.co.jp/thetreasureship/1164953.html
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