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【蟻と日本21世紀日常、異化と異変】 土方巽の「虫の歩行」はやればやるほど味わいが増してくる奥深さを持っている
http://www.asyura2.com/09/bd55/msg/221.html
投稿者 愚民党 日時 2009 年 2 月 08 日 21:26:32: ogcGl0q1DMbpk
 

(回答先: 加藤周一の死とともに、日本近代は終焉した  【水村美苗さんによる加藤周一への哀悼文を図書館で読んだ】 投稿者 愚民党 日時 2009 年 2 月 08 日 19:07:25)

虫の歩行

土方巽の「虫の歩行」はやればやるほど味わいが増してくる奥深さを持っている。
そこには土方の衰弱体への変成技法の精髄(エッセンス)が凝縮されて詰まっている。


「虫の歩行」

1.右手の甲に一匹の虫
2.左首筋からうしろへ降りる二匹目の虫
3.右の内ももから上がってくる三匹目の虫
4.左肩から胸を降りる四匹目の虫
5.五匹目 自分で知覚
6.あっちも こっちもかゆい その場にいられない かゆさに押し出される
7.あごの下 耳のうしろ ひじのうしろ 膝のうしろ ベルトのところ に
五百匹の虫
8.目のまわり 口のまわり 耳の中 指の間 すべての粘膜に五千匹の虫
9.髪の毛に虫
10.毛穴という毛穴に虫
11.その毛穴から 内臓に虫が喰う 三万匹
12.さらに侵食し 毛穴を通って外に出る虫 身体のまわり 空間を虫が喰う
13.さらに空間の虫を喰う虫
14.その状態に虫が喰う
15.(樹木に五億匹の虫――中身がなくなる)
16.ご臨終です (意志即虫/物質感)」

(三上賀代 『器としての身体』より)

順を追ってここに秘められた変成技法の精髄を解きほぐしていこう。

[精髄1] 押し出されて出てくる動き


1.右手の甲に一匹の虫
2.左首筋からうしろへ降りる二匹目の虫
3.右の内ももから上がってくる三匹目の虫
4.左肩から胸を降りる四匹目の虫
5.五匹目 自分で知覚
6.あっちも こっちもかゆい その場にいられない かゆさに押し出される

舞踏は自分が踊りたいから踊るのではない。
間違っても近代西洋の自己表現だの、
身体表現だのという考えを適用してはならない。
それではモダンダンスになる。
この根本的なところを分かっていない人が多い。
自己だの自我だのを消したからだで
やむにやまれずうごめくのが舞踏だ。
ここではその場からかゆさに押し出されるという
誰にも分かりやすいかたちでそれが示されている。
ほんとうはもっと切羽詰ったクオリアによって突き動かされるのだが、
このテキストは初心者にも分かるかゆさを選んでいる。
(土方自身の「静かな家 ソロ 覚書き」を読めば、
実際に土方がどんな複雑怪奇かつ超多次元重層的なクオリアによって
突き動かされていたかがよく分かる。
興味のある方は「土方巽全集 第二巻」を参照ください。
いずれ、このサイトでも掲載解説する予定ですが、
解読には並大抵の想像力では追いつけない。)
ともあれ、自分ではなく何かによって動かされる。
その契機をつかむのが肝心だ。
意識を止め、意識と下意識が等価につりあってゆらゆら揺れる
透明覚状態になると、時や空間を越え、自己と他者、心とからだの境界を越え
て命が共振している無数のクオリアが感じ取れるようになる。
それらにのりうつられて動くのが舞踏だ。
だから死者にも人間以外の生き物にも無生物にも成りこむことができる。
そのからだに変成するのが衰弱体技法の本質だ。

[精髄2] リゾーミング


7.あごの下 耳のうしろ ひじのうしろ 膝のうしろ ベルトのところ に
五百匹の虫
8.目のまわり 口のまわり 耳の中 指の間 すべての粘膜に五千匹の虫

舞踏は西洋のダンスや日常体のように手を前に出し、
足を上に上げてというような
頭でコントロールできる粗大な動きからはじめない。
極微細なクオリアがからだの一部にしみこみ、
それがからだのあちこちに伝染してついにからだ全体が
人間ではないなにものかに変成するに任せていく。
リゾーミングとはその技法を理論化したものだが
この「虫の歩行」ではその変成原理が、
虫の数が増殖していくという分かりやすい形で示されている。

[精髄3] 秘密関節、秘密体腔、秘密皮膜


9.髪の毛に虫
10.毛穴という毛穴に虫
11.その毛穴から 内臓に虫が喰う 三万匹
12.さらに侵食し 毛穴を通って外に出る虫 身体のまわり 空間を虫が喰う

からだを侵食してくるクオリアに感応して動くのは
ただの物質的なからだばかりではない。
日常意識にとって無意識下に追いやられている
忘れ去られた秘密関節や秘密体腔で起こっている微細な変化を
感知し、感応する微細覚を総動員して動く。
ここでは、さらに体のまわりの空間にさえ変成が起こっている。
その不可視の変化に感応するのが秘密皮膜だ。
物質的な外クオリアだけではなく、からだ中の細胞の命に
保存されている内クオリアが共振して蠢きだす。
やむにやまれぬ動きになるのは、自我や自己ではない
生命が蠢きだすからだ。
自己意識などによっては捉えることもコントロールすることもできない
命のクオリアが蠢きだすのを透明に見すかし
それにしたがって動けるようになるのが透明覚であり透明体だ。
ここには初心者向けのテキストとはいえ、
舞踏にとって最高度の課題さえ、さりげなく織り込まれている。

[精髄4] 異次元開畳


13.さらに空間の虫を喰う虫
14.その状態に虫が喰う
15.(樹木に五億匹の虫――中身がなくなる)
16.ご臨終です (意志即虫/物質感)


さらに空間そのものが変容していく。
そこに折りたたまれていた不可視の異次元が開く。
舞踏とはその異次元にからだごと乗り込み、
異界の生物に転生することだ。
自我や自己を明け渡し、空洞のまま突っ立つ樹木に変成するという
分かりやすいイメージでそれが示されている。
「ご臨終です」
そうだ。きみの舞踏が始まるのはこの地点からなのだ。
リゾームになれ!
たったひとつの秘密となれ!
というのはこのことだ。

わたしは、この「虫の歩行」をからだで解読していく中で
これまでわたし独自の発見だと思っていた2,3,4の変成技法が
土方のこのシンプルなテキストの中にすっかり織り込まれていたのを
発見して飛び上がるほど驚いた。
そうだ。
千里を駆けてきたつもりの孫悟空が釈迦の掌で飛び上がったのと同じだ。
これまでは増長した私の目の不透明さによって
それを透明に読み取ることができなかった。
あらためて土方の偉大さに感服させられた。

http://www.subbody.com/J03tomeiron/Practiceguide/practiceguide5-2-2-musi-no-hokou.html



 

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